全キャラ系コメディ

なお、この話は芥さまの『第一回ヒロイン争奪戦』『第二回ヒロイン争奪戦』を読み終えていることが必須です。
ぜひ、そちらをお読み下さってからこちらをお読み下さいますよう…

では、どうぞ

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・・・・・・永遠なんて無かったんだ・・・・・・
 

あの時
真実を知ったオレは
再び記憶を閉ざして
絶対あの街の事を
忘れさってやろうと
決心した・・・・・・
 

・・・・・・永遠なんてありはしない・・・・・・
・・・・・・それでいいんだ・・・・・・
 

そして
オレはあの街を離れ
元の街に戻って
元のように暮らし始めて・・・・・・
 
 

全ては
終わった
 
 

はずだった
 

永遠に・・・・・・
 
 
 

   第一回ヒロイン入れ換え戦−前哨戦

 

 
 
 
 
 

オレがあの街を去ってから、いくつもの季節が過ぎた。
この街も…季節はもう…

「……暑い…」

初夏。
まぶしい陽射しがあたりを照らしている。
オレは長袖をまくりながら、照りつける陽を見上げてつぶやいた。

オレはこの街が好きだ。
ビルの間を吹く熱い風も
どんよりと濁った空も
無言で行き過ぎる人ごみも
何も起こらない平穏な時間も

オレは好きだ。

あの街に比べれば
 

あの街で起こった
一通の手紙で始まった事件に比べれば…
 
 
 

「…やっと見つけた…」
 

誰かの声が聞こえた気がした。
オレは…
 

…いや、振り返るまい。

すごく嫌な予感がした。
本当に、嫌な予感が…
 

「やっと…見つけたよっ…」
 

確かな声だった。
でも、オレはやっぱり無視した。

「無視しないでよっ、祐一くん…」

「………」

「……うぐぅ」

「………」

「……えっと…」

あまりにしつこいので、一応、オレは振り返ってみた。

…誰もいなかった。

「いるよっ」

見渡すかぎり、誰も見えなかった

「ここにいるよっ、祐一くんったらっ」

…どうやら幻聴が聞こえるらしい。
疲れてるのかな…

「ここにいるってばっ!」
「…いてて…引っ張るな、バカっ」

オレは幻聴に引っ張られて、思わず下を向いた。

「幻聴じゃないよっ!ボクだよっ!」
「…ふう。今日は暑いな…」
「…うぐぅ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……うぐぅ」

…見知らぬ少女がオレを見上げていた。
あくまでも見知らぬ少女がオレを見上げていた。
絶対に見知らぬ少女がオレを見上げていた。
天地神明に誓って…

「しつこいよ、祐一くん!」
「…誰、お前。」
「月宮あゆっ!」
「………新種の魚?」
「違うよっ」
「……じゃあ、鳥か…」
「……うぐぅ」

少女は悔しそうに下を向いた。

だって、こんな季節だというのに、羽つきバッグ背負って…

「…ていうか、お前…この暑いのに、なんでダッフルコート着てるんだよ。」
「だって…それしか絵がないんだもん。」

…律義な奴だった。
まあ、それは誉めてやるとして…

「じゃあな、見知らぬ少女。」
「…うぐぅ…ひどいよ、祐一くん…」
「…と言われてもな。」
「うぐぅ…せっかく、祐一くんのためにはるばる来たのに…」
「…オレのため?」

オレは一応、少女の話を聞いてやることにした。

「…何がオレのためなんだよ。」
「うん。それはね…」

少女はにっこり笑うと、オレの顔を見上げて

「…あ、あっちにたい焼き屋さんがっ」
「…さっさと帰れ、バカ野郎」
「…うぐぅ」
「……さて、そろそろ行かないと…」
「わっ、まっ、待ってよっ!」

少女はオレの服の裾を掴んだ。
オレはともかくその手を払って

「下らん話に付き合ってる暇、ないぞ、あゆ…」

あ、しまった。
名前を言ってしまった。

「…今の、なしな。忘れてくれ。じゃあな、見知らぬ少女。」
「…うぐぅ…祐一くん…」
「え〜い、離せっ」
「うぐぅ」

オレに振り回されながらも、しつこく裾を握ったままのあゆ。
…このままでは、服が伸びてしまう。

「…よし、言いたいことがあるなら、さっさと言え。その代わり、言ったらさっさと帰れよ。」
「…うぐぅ…」

オレはとりあえず振り回すのをやめて、あゆの顔を見下ろした。
あゆはふらふらしながら、オレを見上げると

「…目が回るよぉ…」
「…いいから、さっさとオレのためとやらの話を言えよ。」
「…うぐぅ…くるくる…」
「………」
「………」

あゆはやっと真面目な顔でオレを見上げた。

「えっと…メインヒロインが入れ換えになるんだよ。」
「…そうか、それはよかったな。」

オレはさっさと振り返ると、歩きだそうとした。
しかし、オレの服の裾をまたあゆは握ると

「うぐぅ…まだ最後まで言ってない…」
「…オレは…知らん!関係ないからなっ」
「………でも……」
「…オレがあの後…どうやって逃げたと思ってるんだっ!ホントに、オレは…」

あの苦難の日を思い出して、オレは思わず身震いをした。
 

あの日…
『ヒロイン争奪戦』が『ヒロイン入れ換え戦』に変わった日…

一通の手紙がオレを不幸から幸福に、そして…不幸のどん底に落した日…
 

『拝啓 Kanon出演者様

先日お伝えしたコンシューマー移植の件ですが、
大変申し訳ありませんが一部変更をする事になりました。

実は、容量の関係でシナリオを増やす事が出来ない事が判明しました。
しかし、協議の結果、移植にあたり目新しさが必要という事で、『メインヒロインの交換』とさせて頂きます。
従って、現サブヒロインから一人、メインヒロインに上がって頂き、
現メインヒロインから一人、サブヒロインに『降格』して頂きます』
 

…そこから始まった地獄については、もう思い出したくもない。
全てのヒロインたちが、みんな敵同士で…
あの壮絶なバトル…
その中で意思には関係なく、オレは…
オレは…
 

そうさ…
オレはもう、あの日々のことなんて…

「…オレは降りたんだっ!お前らで勝手にやってろっ!」
「でも、判定は祐一くんと…」
「そんなもん、他の奴に代わってもらえばいいだろっ!北川とか、斎藤とか…」
「…一枚絵もない人はダメなんだって。」

オレはあゆの顔を見た。

「…それを言うなら、オレにもないぞ。」
「うぐぅ」
「…だったら、○NEの浩平にでも代わってもらえっ!SSじゃよくあることだろうが。それに…相沢浩平って名前にすればちょうど…」
「…祐一くん、今時、『軽井○シンドローム』なんて誰も知らないってば…」

…ていうか、知ってるお前って…何者?

「ともかく…」
「そうじゃないんだよっ!状況が…変わったんだよっ」
「………入れ換え戦がなしになったのか?」
「…そうじゃないけど、でも…手紙が、また手紙が…」

手紙がどうしたか知らないが、入れ換え戦がなしにならない限り、オレにとって何も変わりはない。
ともかく…あゆにはさっさとあの街にお引きとりを願って、平穏な日々に戻りたい…
何か…こいつをなんとかする方法はないものか…
 

「…これ。」

お、剣か。これであゆを一発、ぐさっと…

…って、オレは殺人罪になりたくないぞ…
 

「じゃあ、これなんかどうですか?」

おっ、睡眠薬か…

「他にも毒薬なんかもありますけど…」

それはいいけど、まあ、ともかく、ジュースにでも混ぜてあゆにこれを…

…って、この状況でそれは無理だろ…
 

「…はい。猿轡、だよっ」

よっしゃっ!
とりあえず、これであゆの口をふさいでっと。
 

「ゆ、祐一くん、何を…うぐっ」
 

とりあえず、これで静かにはなった。
さて、これから…
 

「…縄で縛るというのはどうでしょうか?」

それはグッドアイディア。いただきます。

「…了承。」

うんうん。
だがしかし、肝心の縄が…
 

「…はい、縄よ。」

よし、この太さといい、長さといい…ちょうどいいな。

「…ふっ。その手の物は、あたしに任せてちょうだい。」

別に任せる気はないが、とりあえずこの縄は使うとしよう。

こう…ぐるぐる巻きにして…
 

「………!!…………!!!」
 

これでもう動けまい。
さて、これから…
 

「そのまんま、川に沈めちゃえっ」

それはいい手だが、あいにくと川は近くにない…

「あぅー…残念。」

まあ、それは次の機会にするとして、じゃあ…
 

「あはははーっ、この段ボールに入れるというのはどうでしょうか?」

…了承。
じゃあ、箱に詰めて…
 

「………!!!………!!!!」
 

さて、この箱を…
 

「…そんなこともあろうかと、こちらに宅配のトラックを用意しておきました。」

お、気が利くな…

「いえ、人間ならば当然のことをしたまでです。」

そうか?そんなもんか?

…いや、ともかく今はこの箱入り娘をなんとかするのが先決だ。
じゃあ、トラックに載せて…っと。
で、宛て先を…

…あの街、なんて名前だ?
ていうか、住所…
 

…ま、いいや。

オレは箱に大きく『どなたか拾って下さい』と書いておいた。
まあ、これで誰か奇特な人か…あるいはロ○コンな人がなんとかしてくれるに違いない。

「じゃあな、あゆ。元気でな。」
「……!!!!……!!!!!」

ブルルルルル

タイミングよく、トラックのエンジンがかかった。
 

「……!!!!!……!!!!!!」
 

そして、あゆは元気に声もなく、オレの視界から消えていった。
ふっ、これでオレの平穏な日々が…
 

…あれっ?
誰か…あれ?
今まで…あれ?あれ?
 

思わず、オレは振り返ってあたりを見回し…
 

誰もいない。
おかしいな…なんか、今まで誰か、手伝ってくれたような気がするんだけど…
 

「…ま、いいか。」

深く考えることなく、オレはその場から歩きだした。

初夏の熱い風が街に吹いていた。
この街を…
この何事もない平穏な街を…
 
 
 
 
 

・・・・・・そう・・・・・・

・・・・・・オレは知らなかったんだ・・・・・・

・・・・・・壊れるのは一瞬なんだ・・・・・・

・・・・・・全ては・・・・・・

・・・・・・そう・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 

・・・・・・平穏なんて・・・・・・
 

     ないんだよっ
 

<to be continued>
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本戦へ続く

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