香里SS。強烈に栞ネタバレ。
ていうか、香里&栞属性のかけらでもある方は読まない方が無難です。不快ですから…

でも、このSSを夢見草さんに捧げます。
…って、ホントにそんなことして…いいんだろうか(汗)

では、どうぞ。

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かおりんの日記 黎明編

 

 

1月 7日 木曜日

 明日から3学期。
 この容姿端麗、品行方正、成績優秀な美坂香里様の姿を、また下人共の前に見せつけてやるのね。下人共があたしを崇める姿が目に浮かぶわ。
 栞の部屋を覗いたら、あの子、変な物をたくさん買い込んでいた。また男に振られたのね。あの子、振られると、ヤケでコンビニのはしご買いするんだから。
 夕食の時、栞は何も食べないで、熱があるからと部屋に行った。どうやら、明日休む気らしい。親は心配していたけど、どうせコンビニのお菓子を食べているに決まっている。まったく、この容姿端麗、品行方正、成績優秀なあたしを見習いなさい。あの子があたしに勝てるものなんてないんだから。まあ、ロリコンには人気があるかもしれないけど、栞も。
 

1月 8日 金曜日

 今朝、あたしの下僕第一号の名雪に会ったら、従兄弟という男がオマケに付いていた。電話で名雪が言ってたらしいけど、いちいちそんなの覚えてないわよ。まあ、適当に調子は合わせておいたけど。するとどう?同じクラスに転入してきたわ、その男。まさか、あたしのこの端麗な容姿に惹かれてきたんじゃないでしょうね。全く、あたしの美しさも罪ね。
 HRも終わって、あたしの支配下の学校を散歩していたら、その男に会った。もちろん、名前くらい覚えてたわよ。相沢祐一。つまらない名前ね。
 間抜けにもそいつ、校舎で迷ったらしい。3才児以下の頭ね。犬でも迷わないわよ、まったく。このあたしに手間を掛けさせるなんて、下人のくせに身の程知らずな。
 まあ、優しいあたしは声をかけてやって、案内してやったけど。そういう優しさが、あたしの高貴さの証しというものよ。ふふん。
 帰って、栞の部屋を覗いたら、あの子、またコンビニのはしご買いをしていた。ズル休みしたと思ったら、またお菓子ばかり。そんなだから、胸も育たないのよ、まったく。
 でも、栞の顔を見たら、妙に浮かれた顔だった。またカモ、じゃない、男を見つけたらしい。あの子のえげつないやり方じゃ、相手の男も可哀想に、またころっと騙されるでしょうね。まあ、下人共のことだから知らないけど。
 

1月 9日 土曜日

 今朝も登校してすぐあの男、相沢に会った。昨日のことを思い出して、隣にいた名雪を、一応、締めておいたけど、あの子、鈍感だから全然効かない。まあ、死んでも困るから適当にしておいたわ。
 相沢は間抜けなことに教科書も持ってないらしく、あたしの下僕2号の北川に見せてもらっていた。余計なことだと思うけど、まあ、下僕が良いことをしたら誉めてあげないといけないわね。今度、北川にあたしの靴でもなめさせてやろう。
 授業中、何か相沢と北川の様子がおかしいので、窓の外を見たら栞がいた。また何か企んでいるらしい。とっておきのロリ好みの恰好だった。昼休みになって、見ていると、相沢が栞に近寄って、何か話していた。栞は例のとっておきのロリィスマイルで、相沢を誘惑していた。
 しかし、栞も見る目がない。あんなので手を打とうっていうんだから。でも、幼児体形のあの子じゃ、あの程度がお似合いね。まあ、お手並み拝見といこうかしら。
 帰ると、栞がもう帰っていた。あたしを見ると寄ってきて、自分のことを知らないと言ってほしいと言う。妹なんていない、一人っ子だってシラを切ってくれ、だって。なんであたしが、栞が男を騙すのを手伝わなきゃならないのよ。
 でも、面白そうだから手を貸すことにした。
 

1月10日 日曜日

 とりあえず、学校が休みなので、一日眠っていた。睡眠は肌にいいのよ。
 

1月11日 月曜日

 寝過ぎて髪がストレートになりかけていたので、あわててウエーヴを掛けた。天然ということになってるんだから、マズイじゃないの。この髪型が容姿端麗、高貴なあたしにふさわしいんだから、死守しなきゃ。
 登校したら、また相沢に会った。身の程というものを知らないのかしら。まったく、名雪の教育が足りないわね。
 今日は日直の日。もちろん、あたしはそんな下人のするような仕事をするわけがない。一応、下僕の北川と分担しているフリはしたけど、黒板消しだろうが日誌書きだろうが、するのは全部、北川よ。まあ、後で北川には足のかかとでも舐めさせてやるわ。
 今日は学食に下僕二人と相沢と行くことになった。下僕共はいいとして、相沢の無知には困ったものね。しょうがないから、優しいあたしが学食での戦い方を教えてやった。でも、もちろん、戦うのは相沢。あたしがそんなことするわけないじゃない。まったく。
 その後、見ていると相沢はまた中庭にいそいそと行った。もちろん、中庭には栞が。例によって、ロリィ全開な顔で相沢を騙していた。騙されてる相沢の顔、なかなか見物ね。しばらく楽しめそうだわ。
 昼休みが終わって、中庭から帰ってきた相沢はあたしに何か聞きたそうだったけど、軽くシカトした。まだまだ、あたしも楽しませてもらわないとね。
 家に帰って、一応、栞と打ち合わせ。病気で長期休学中、そう言ってあるらしい。何でそんなのに騙されるのかしら。あんなスカートで雪の中、立ってられるだけでも元気だってのが分かりそうなもんじゃない。相沢ってホントにマヌケ。でも、あたしも楽しめそうだから、一応、栞の希望通りのセリフ、言ってやろう。
『あたしに妹なんていないわ』
 …なんか、嘘っぽいわね。まあ、栞の考えることだからしょうがないけど。
 

1月12日 火曜日

 今日は朝から気分がよかった。相沢のバカが名雪のおかげで走って登校してきたので、もちろん、優しいあたしは1時間目が体育だって教えてやった。相沢の顔が見物だったわよ。いい気味ね。
 今日も栞は中庭にいた。どうでもいいけど、あの子、あの恰好でどうして風邪ひかないのかしら。本当なのね、バカは風邪ひかないって。じゃあ、相沢もひかないわね。あたしは気をつけないと。
 今日は栞、アイスクリームを食べていた。中庭の、雪の中で…命懸けね、あそこまでいくと、あの子の騙しも。ていうか、何でそんな演技に引っかかるのか、相沢の頭を疑うわよ。知能指数、ないんじゃないの?縄につるしたバナナも取れないんじゃない?そしたらチンパンジー以下ってことね。まあ、比較されたらチンパンジーが可哀想だけど。
 家に帰ったら、案の定、栞はお腹を壊してトイレに籠っていた。まあ…確かに命懸けね、あの子も。クリスマスにやった、あなたの寿命はいつまでですかゲーム、案外本当かもね。あの子、『今度の誕生日まで』とか出て、あたし、思い切り、笑っちゃったのよね。
 真っ青になってトイレから出て来た栞の顔見たから、今日はぐっすり眠れそう。ふふふ。
 

1月13日 水曜日

 今朝は朝から名雪と相沢に会った。二人でため息をついているから、面白そうだから聞いてみたら…例のジャムの話。あれは…ジャムと呼ぶのが間違ってるわよ。拷問道具よね。そのうち、下僕が反抗的になったら思い切り食べさせてやろうかしら。今度、秋子さんにもらって来よう。
 それから、仕方がないので一緒に登校したら、名雪と相沢が奇跡なんて話をしてた。ふん。馬鹿らしい。あなたたち下人に奇跡なんてないわよ。あたしのような高貴な存在、それこそがもう奇跡ってものよ。あんまり馬鹿らしいから『奇跡ってね、そんな簡単に起こるものじゃないのよ』って言ってやったけど、愚か者共には分からなかったみたい。ま、だから下人なのよね。分をわきまえなさいっての。
 今日も昼休みまで何事もないと思っていたら、相沢が無礼にもあたしに話しかけて、栞を知っているかって。もちろん、あたしは打ち合わせどおりの言葉、言ってやったわよ。『知らないわ、あたしはひとりっ子よ』
 …相沢の顔が見物だったわ。栞もたまには楽しませてくれるわね。とりあえず、妹にしといてあげてもいいかしら。
 昼休み、やっぱり相沢は中庭へ。驚いたことに、栞と一緒になってアイスを食べている…ちなみに、外の温度は−3℃。太陽が当たっているとはいえ、本気で命懸けね。命をかけた恋…栞が考えそうなネタだわ。引っかかる相沢もバカだけど、栞も毎回、芸がない。前の時は確か…夏の猛暑の最中、日光が当たると死ぬ病気っていう設定で、大きな日除けの帽子に長袖にロングスカート、サングラスに手袋までして騙してたのはいいけど、熱射病でマジで救急車に乗ったの忘れたのかしら…懲りないわね。今度は救急車なんて呼ばないで、そのまま凍死してもらった方が手間が省けるってものよ。ぜひ、そうしてもらいたいものだわ。
 帰ったら、栞は自分の部屋で、ファンヒーター効かせて電気毛布かぶって真っ青な顔で眠っていた。優しいあたしは栞が起きないように、すべて消しておいてあげたわ。眠っている時は、周りの温度は下げた方が深く眠れるってテレビで言ってたし。あたしってなんて妹思いの姉なんでしょう。
 

1月14日 木曜日

 今朝は登校直後に相沢に会った。名雪の姿が見えないから、おかしいと思っていたらやってきた。どうやら、猫に会ったらしい。名雪も下僕のくせに、どうして連れて来るくらいの気をきかせないのかしら。そしたら、猫畜生を思い切りいたぶって、川に沈められたのに。本当に残念だわ。今度、きちんとその辺を教育しとかないといけないわね。
 今日も相沢は中庭へ。二人仲良くアイスクリームを食べていた。栞の奴、昨日、あんな状態で寝たのに…人間って死なないものね。というか、下人の生命力はゴキブリ並みってことなのね、きっと。ちなみに、今日も気温は−4℃。日に日に寒くなっていく…そのうち、二人の氷の像ができるわね、きっと。そしたら叩き壊してやるのに。一気に寒波でもこないかしら。
 今日は栞、あの子の唯一の持ち芸の四次元ポケットネタを披露していたけど、あんまり寒くて相沢、頭がぼーっとしてたのか、反応がなかったみたい。まあ、あんなバレバレの芸だもの、驚く方がおかしいわよ。栞、タネは教えてくれないけど、栞のない胸をごまかすためのブラのパッド代わりに薬を詰め込んでるってことくらい、あたしにはお見通し。自分の欠点をタネにするなんて、栞もやるわね…と言いたいところだけど、著作権違反になる可能性があることに気付かないのが、あの子の間抜けなところよ。そのせいでKeyが藤○・F・不二雄先生に訴えられたら、あの子、責任とれるのかしら?まったく、そういうことも考えられないから下人なのよね…あ、藤○・F・不二雄先生はもう亡くなってるわね…藤○プロに報告しとけばいいのかしら?まあ、高貴なあたしには関係ないけど。
 考えたら、明日は休日。帰ってから一応、明日、どうするのか栞に聞いてみたら、やっぱり行くという。相沢のバカならきっとのこのこと来るでしょうね…休みだっていうのに。下人は暇でいいわね。高貴なあたしは、この美貌を守るために忙しいったら…
 まあ、明日はあたしが何かすることもない。一応、下僕の名雪にはあたしの影のある演技を見せておいたから、きっと相沢も栞のことで悩んでいるに違いないし。全く、間抜けな栞のために、あたしがなんでここまでやってあげなきゃならないのかしら。
 でも、気晴らしにはなるからしばらく付き合ってやろう。
 

1月15日 金曜日

 もちろん、あたしの美貌の維持のために一日寝ていたわよ。下人や下僕共が何してようが、高貴なあたしには関係ないしね。
 

1月16日 土曜日

 今朝も取れかけたウエーヴを直していたら、後ろを栞が通りかかった。あたしは別に聞きたくないけど、あんまり栞が聞いてほしいって顔がミエミエだったので、不本意ながら昨日の首尾を聞いてみた。そしたら、栞、待ってましたって感じで、にこにこしながら一部始終を話してくれた。っていうか、途中からあたしは退屈でしょうがなかったんだけど、栞が離しやしない。下人のくせに生意気よ。自分はどうせまた学校をずる休みするからいいだろうけど、品行方正なあたしは遅刻なんてするわけにはいかないんだから。いい加減で無視して支度をしたけど、追いかけて最後まで話していたわ。ほとんど聞いてなかったけど、要は今日、デートの約束をしたってこと。ほら、要点は3秒で終わるじゃない。それをうだうだ言ってるのは時間の無駄ね。そんなことであたしの時間を無駄にさせるなんてこと、ものすごい冒涜行為だってことが分からないのかしら、栞も。全く…まあ、下人にそんなことを言っても分からないんでしょうけど。
 しかし、相沢もホントにバカにもほどがあるわよ…栞が真っ白な顔だからって、病気だと決め付けてるみたいだけど、あれは鈴木そ○子直伝のメイクなんだから。下からスポットが当たってるくらい、なんで見て分からないのかしら。画面の効果に騙されてるのよね…って、何を言ってるのかしら、あたしも。とにかく、いつもながら猫畜生以下の相沢の頭には恐れ入るわ。まあ、栞にはお似合いのおつむの程度ってことだけど。
 とりあえず、まだ話し足りないらしい栞はほっといて学校へ。全く、危うく遅刻するところだったわよ。本当に遅刻したら、栞を下僕共に下げ渡してきちんと躾をつけるところだったわ。でも、その方が胸も大きくなるかもしれないし、栞のためにはなるかも…って、あの子のためになること、なんであたしがしてやらなきゃならないのよ?馬鹿らしい…やめておこう。
 授業が終わった帰りに、昇降口で相沢と会った。なんでこう相沢と出会うのかしら。いくらご都合主義だからって、嘘臭いわよね、全く。まあ、その分あたしの出番が増えていいけど…って、いい加減、シナリオライターに楯突くのはやめておかなきゃね。ところで、シナリオライターって…何の話をしているのかしら、あたしは?まあ、いいわ。
 それにしても相沢のバカ、『今から帰るところか?』だって…バカじゃないの、ホントに。放課後、コート着て外履きで昇降口にいるのに、帰る以外のどういうことがあると思ってるのかしら。一応、相槌はうったけど…いつまでこんなバカを相手に演技しなきゃならないのか、さすがに本気でちょっと疲れたわ。はあ。うんざりする。
 家に帰って気晴らしに髪と肌の手入れをしていたら、栞が帰ってきて、首尾を聞きたいかという。別に聞きたくないけど、あんまりうるさく聞くから、とりあえず頷いてやったら、例によってまた栞、延々と語って…あんまり語るから、このまま朝になるんじゃないかと思ったわよ。まあ、もしもそんなことになったら、栞はやっぱり、下僕共に下げ渡しだけど。
 それにしても、栞の話は意味不明。どこに行ったのかもよく分からない…モグラを殴っただの、羽つき少女に会っただの…動物園にでも行ったのかしら?この街には動物園はなかったはずだけど…まあ、うちの学校なんて下人共の動物園みたいなもんだけど…そのことじゃないみたいだし。まあ、どうでもいいんだけど。
 結局、話は要点は、来週の火曜日にデートするってこと。ほら、やっぱり3秒で要点は終わるじゃない。なのに、延々と高貴なあたしの貴重な時間を無駄に使って…その上、うれしそうに笑ってるなんて…下人のくせに、気に入らない。
 あんまりムカムカしたので、栞が眠ったのを待って部屋の窓を全開にしておいた。これでやっとすっきりした気分で眠れる。
 

1月17日 日曜日

 当然ながら、あたしは一日睡眠。
 でも、びっくりしたわ。栞、風邪をひいていた。あんなことぐらいで…下人でも風邪をひくものなのね。一つ覚えたわ。
『バカでも下人でも風邪くらいはひく』
 きっと、来年の現代用語の基礎知識に載るわね。
 

1月18日 月曜日

 今朝もやっぱり取れかけたウエーヴを直していたら、栞が起き出してきた。そのまま死ぬかと思ったのに…世の中、あたしの思い通りにならないこともあるのね。それだけでもう、万死に値するわね、栞は。というわけで、あたしは無視して学校に行こうとした。栞、何か言いたそうだったけど、そうそうこの高貴なあたしの貴重な時間を下人ごときに無駄にされてなるもんですか。
 なのに、栞、蒼い顔であたしの服を掴んで、何やらもごもご言うじゃないの。普通の制服に一応見せている高貴なあたしの特注の服が汚れるから、しょうがないから栞の戯言を聞いてやることにした。
 栞の言うことには…例によって延々と無駄に話しそうだからあたしが要点だけ言わせたところによると、今日の芝居のために誰か、栞のクラスメート役が必要だという。だったら自分でクラスメートに頼めばいいじゃないの。そうあたしも思ったけど、考えて見たら栞のような間抜けに友達なんているわけもなし、しょうがないのでこのあたしが下僕の一人にやらせることにした。
 でも、考えてみたら、なんでそのためにこのあたしが、この高貴なあたしが、この容姿端麗、品行方正、成績優秀な美坂香里様が、あんな下人の栞と、猫畜生以下の相沢のためにそんな手配をしてやらなきゃならないのかしら。まったく…栞の奴も、あたしの高貴な寛容さにちょっと付け上がり過ぎ。それに、相沢の間抜けさには…
 そんなことを考えていたら、相沢のマヌケがそんなあたしの高貴な顔を見て、この愁いに満ちた顔を見て、言ったセリフがこうよ。
『何か面白いものでも見えるのか?』
 …この高貴な美坂香里様の愁いに満ちた顔と、ただ外を見ているだけの顔との区別すらつかない節穴の目…思わず、その腐った目をくり貫いてやろうかと思ったけど、考えてみたらあたしが自分で手を下すなんて、そんなことをするのは相沢風情にはもったいないと思って何も言わなかった。だけど、さすがに…いつまでこんなバカの相手してなきゃならないのかって、本気で悩んだわよ。でも、このあたしを悩ませるなんて…この罪、いつか償う事になる。だって、天が赦すわけがないんですもの、そんな冒涜を。そう思うと、ちょっとだけ楽しい気分になった。
 そのまま昼になって、例によって相沢は栞と中庭で昼食。ちなみに、あたしは下僕共と顔を合わせる気にならなくて、一人、前もって下僕に買ってこさせておいたパンを学校のあたしの特別室、生徒会長の部屋でゆっくり食べた。この学校はあたしの支配下だもの、当然、生徒会長なんてあたしの下僕だから。
 特別室の窓からは、例の中庭が見える。別に見たくもないけど、暇だから眺めていたら、今日も栞と相沢の間抜け共が命がけのコメディーをしてた。でも、あんまり面白くないわね。今日は気温-4℃に加えて強風…普通、死ぬんだけど、バカは死なないからしょうがない。その上、栞はスカートなんか押さえてるし…誰があんな貧弱女のスカートの中なんて覗きたいと思うかしら?あたしのスカートなら…でも、そんなことをする愚か者がもしいたとしたら、即刻、死刑。あたり前じゃない?この高貴なあたしを汚すような行為、死をもって償う以外に方法なんてあるわけがないんだから。
 結局、風が強いせいか、今日は栞と相沢はすぐに解散した。全く、面白くない。栞も、あの黒いストールで風に飛ばされてしまう、くらいのギャグができないものかしら。4次元ポケットネタだけしか取り柄がないんだから…でも、栞にそんなものを期待するのは、蛆虫に空を飛ぶことを期待するより無駄なことだから、まあしょうがない、我慢してやった。
 あたしが見たかったのは、その先。あたしの下僕が、戻る相沢に話しかけるのが見えた。やっぱり、あたしの下僕ね。栞の100万倍は演技ができるわよ。まったく、今からあの下僕と栞の役を取り替えたら100万倍面白くなるのに…そう思ったら、また栞の間抜けにちょっと腹が立ってきた。今日も部屋の窓、全開にしておこうかしら。いえ、それだけじゃなく、ドライアイスに埋めこんでやりたいくらい。でも、まあ栞みたいな下等生物は頑丈だから、それくらいで死ぬわけもないけど。
 なんだか憂鬱なまま帰ったら栞がうれしそうにあたしのところに寄ってきて、首尾を聞きたいかと聞く。もちろん、聞きたくないけど、栞があまりにしつこいから一応、頷いてやった。そうしたら、例によって栞はまた要領を得ない話…多分、自分でも理解できてないんでしょうね。まあ、栞みたいな下人には、理解なんて言葉すら理解不能なのは、あたしにも分かってる。その点、あたしは栞の言いたい事なんて、1秒で言えるわよ。結局、栞は相沢と明日のデートを確認した。ほら、1秒。この辺が、栞のような下人とあたしのような高貴な人間の差よ。まったく…
 あたしはまだ話している栞をほっといて、さっさと眠った。なんたって、お肌のために睡眠時間は死守しなきゃならないから。その辺がどうしたって美しくなどなれるはずもない栞なんぞには理解できないようだけど…ていうか、できないから下人。ただそれだけね。ふふん。
 

1月19日 火曜日

 今日は舞踏会の準備で学校は半日でおしまい。一応言っておくけど、あたしは生徒会主催の舞踏会なんて参加するわけがない。下人共が踊っている中で、高貴なあたしが踊る…そんなことをするのは、高貴なあたしへの冒涜というものね。あたしの舞台は世界、社交界の舞踏会だけよ。
 ただ、下僕共はともかく、間抜けな相沢の顔を半日しか見なくていい、それだけでもうれしいことだわ。
 そう思いながら、部屋で髪と肌の手入れをしていたら、栞が帰って来た。どうせまたうるさく、話を聞いてくれっていうものと思っていたら…何か、ため息をつきながら部屋に行ってしまった。やっと自分が今までして来たことが、このあたしへの冒涜だってことが分かったのかしら…まさかね。それが分からないから下人なんだから。じゃあ…
 …いや、それは…あの子ならあり得るわね。前の夏の時もそうだったもの。
 でも、だとすると…今度は学校の、それもあたしの同級生なんだから、これは…考えないといけないわね。変な噂が立つと…このあたしの汚点にされかねない。なんたって、あの下人の栞も、一応、戸籍上はあたしの妹ってことになってるんだから…なんでそんな理不尽なことになっているのか、一度本気で調査したほうがいいと思うんだけど。きっと、陰謀に違いないわ…多分、あたしの美貌と権力に嫉妬した者のしわざね。CIAじゃなきゃいいんだけど…
 まあ、それはともかく、善後策について検討を始めることにする。まったく、下人はどうしようもないわね…はっきり聞きたいとこだけど、どうせ例によって栞じゃ何を言ってるか自分でも分からない間抜けだし…はあ。しょうがない。それもこれも、高貴な たしの、その高貴さの義務ってものでしょうからね。
 

1月20日 水曜日

 今朝は驚くべき事実が判明した。朝、体重計に乗ってみたら…なんと、500gも体重が増えていた。栞の間抜けな学芸会に付き合っていたせいかしら…多分そうね。全く、栞…そしてあの間抜けの相沢には、怒りを通り越してあきれるわ。この高貴なあたしのプロポーションに影響を与えるなんて…
 はあ。今日からお昼はなしにしましょう。この現在の理想的体形を死守すること、それが高貴さの代償といえるわたしの義務だものね。こういうことが、真の貴族性というものよ。下人共には分からないでしょうけどね。
 そんなわけで昼食を取らずに教室で考えていたら、相沢があたしが窓の外を見てると思って何やら話かけてきた。面倒だけど…まあ、今後のために一応、聞いてみたわよ。
『その子のこと、好きなの?』
 …相沢の答えは、こう。
『たぶん、好きなんだと思う』
 思わず、吹き出さないようにするのが大変だったわよ。それから、なんとか笑いを堪えて『そう』って一言だけ…それを言うだけでも苦労したわ。なんでここまで間抜けなのかって…どうしてあの程度の演技で、そこまで騙されるのかしら。こういうのをダボハゼって言うのね。相沢ならきっと、3才児にでも、猿にでも、いいえ、猫畜生にだって騙されるわよ、きっと。その程度の間抜けだってことね。まったく。
 それから相沢は、いそいそと中庭へ。例によって栞の学芸会。なんだか分からないけど、栞、真っ赤になって何か抗議している…ひょっとして、身長や胸のことかしら。あの子、まだ諦めてなかったのね…あれでも栞、中学くらいが一番の成長期で…それでもあの程度にしかならなくて、それで高校に入る頃にはピタッと成長が止まって。だから、一生あのままにしかならないわよ。そんなに胸を大きくしたいなら、あたしが下僕に下げ渡して、しっかり調教してもらうしかないと思うけど…栞にはそれすらもったいないわ。第一、あんなロリ娘じゃ、下僕の方が願い下げだろうけどね。
 それから二人で、スケッチブックを広げてる…栞、まさかあれ、自分のあの便所の落書きを見せてるんじゃないでしょうね?あれを絵と呼ぶのは、絵に対する冒涜よね。絵画というものは、あたしのような真に才能のある高貴な人間だけが描き、かつ愛でることを許されている高貴な芸術なのに。あの下人の栞が描いたって、それはもともと落書き以下よ。まあ、顔も抽象絵画な栞には、あの程度の絵が似つかわしいってことはあるけどね、ふふん。
 その辺でチャイムが鳴って、学芸会は終了。あたしはもちろん、それから授業が終わったらさっさと帰って、お肌の手入れ。かかさぬお手入れこそが、この高貴なあたしの玉の肌を死守する術だもの。
 そしたら、栞が帰ってきて、あたしのところへやって来た。何か、あたしに相談があるという。この高貴なあたしが下人の栞の相談なんて聞いてやる義理は1ppmもないけど、今日は気分がいいから寛容なあたしは聞いてやることにした。
 そしたら、最初の一言がこうよ。
『お姉ちゃん、わたし…あの男、飽きちゃった。』
 …そんなことじゃないかと思ったわ。前の夏の、例の熱射病で病院に運ばれた『命をかけた恋』にしたって、その病院でいきなり飽きたって言いだして、そのまま避暑地をトンズラしたのよね、栞は。その後、捨てられた男が栞を追って、揚げ句の果てに崖から飛び降りたとか何とか…まあ、下人がどうなろうとあたしの知ったことじゃないから、そんなのどうでもいいんだけど。
 でも、今回は…同じクラスってことになると、変な切れ方されると、同じ美坂ってことであたしの名に傷がつきかねない。だいたい、相沢にあたしが栞の、戸籍上とはいえ姉だってことを知られちゃってるし…まずいわ。栞に任せておくと、ろくなことにならないのは見えてる。だって、下人なんですもの。しょうがない。これからはあたしが脚本を書いて、後腐れなく相沢に切れてもらうことにしましょう。
 そう思って、一応、昨日今日、何を話したかを事細かに聞いてみる…どうでもいいけど、例によって栞の話は意味不明なのが困ったものよ、全く。
 その上、栞の筋書きったら…ドラマツルギーも、センスのかけらもない。昨日は学校に行って、病気で一日しか学校へ行かなかったって話…お涙頂載の、ありふれた話。しかも、
『お姉ちゃんと同じ学校へ通うこと…』
『でも、そんな些細な夢さえ、私は叶えることができなかったんです』
 …栞、それは実話じゃないの。何であたしがあんたみたいな下人と一緒に学校へ行かなきゃならないのよ?だから、絶対に行かないって、言い聞かせたでしょうに…下人は愚かで困るわ。そういう実話を交ぜるんじゃないわよ。
 その上、今日は…雪の公園の噴水のそばに、二人で座って…
『今の私たちって、ドラマでよくありそうなシチュエーションですよね?』
 …今時、そんなベタなシチュエーション、お昼の奥様向けのメロドラマでだってないわよ、まったく。
 その上…その上、よ。
『だって…お話の中でくらい、ハッピーエンドが見たいじゃないですか』
 下人にハッピーエンドなんて、贅沢というものよ。高貴なあたしのために奉仕する、それが下人の幸福でしょうが、まったく。本気で一度、教育し直してもらわないといけないわね、栞は。
 でも、そんな栞の間抜けなシナリオに、相沢が言ったセリフときたら
『これから、何日経っても、何ヶ月経っても、何年経っても…』
『栞のすぐ側で立っている人が、俺でありたいと思う』
 …ハーレク○ンロマンスでも、ここまでベタなセリフは出てこないわよ。恥ずかしくないのかしら、こんな100年ほどズレたセリフを真面目に口にするなんて…あたしなら、口が腐ってるわよ。
 いいえ、あたしがその場にいなくてよかったわ。もしもあたしがいたら…きっとその場で相沢のそんなことを言える腐った頭、かち割ってるとこよ。まったく…
 ああ、何でこのあたしが、この高貴なあたしが、こんな間抜けな頭の腐った男相手に、下人の栞の書いたシナリオに沿って筋書きを考えなきゃいけないのかしら。ホントに、最初に栞が協力してくれって言いだした時にきっぱり拒絶するんだった。あたしの優しさが…うらめしい。高貴さってやっぱり、罪なのね。はあ。
 まあ、本当に仕方がない。この償いは栞に、後で液体ヘリウムの海に沈めてでも完全に殺して償わせるとして、ともかく明日からは栞にあたしの言うとおりに演技させるわよ…はあ。キャストチェンジしたいわ…100万倍面白くなるのに…栞じゃあ、ねえ…
 ため息をつきながら、でも、睡眠時間は死守するために就寝。明日から、忙しくなるわね…

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