Tragedy in Christmas Time

(栞ちゃん、ファイト!-1)


栞系SS。

シリーズ:栞ちゃん、ファイト!

では、どうぞ
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Tragedy in Christmas Time (栞ちゃん、ファイト!-1)
 

雪が降っていた。
クリスマスイヴ。
部屋の明かりで白くほのかに光る雪。
ゆっくりと、静かに降り積もる。
わたしはベッドに座って、窓の外を見ていた。
落ちる雪。
落ちてくる雪。
積もる雪。
静かに、静かに積もる雪…

…誰も呼びに来ない。
今日はクリスマスイヴなのに。
なんだか楽しそうな声が階下で響いているのに…
どうして誰も呼びにきてくれないんでしょう…

わたしはベッドから立ち上がった。
足がふらついた。
それでもわたしは立ち上がって部屋を出た。

部屋の外は暗い廊下。
階下へ続く階段。
ゆっくりとわたしは降りていく。
階下のリビングに白い光。
白い光と
賑やかな声。

わたしは歩いていく。
歩いて
そして
リビングのドアを…
 

ばーん
 

「………」

…痛い。
いきなり、リビングのドアが、わたしの顔を直撃…

「…あら、栞。」

ドアにぶつけた鼻を押さえながらわたしが目を開けると、そこにお姉ちゃんが立っていた。
立って、わたしを見ながら…

「…栞、あなた…まだ生きてたの?」

…いきなり(涙)

「香里、それを言うなら『まだいたの』だよ。」

言いながら、お姉ちゃんの肩を叩いた、髪の長い人…
お姉ちゃんの友達の、水瀬名雪さん。

名雪さんはわたしににっこり笑うと

「栞ちゃん、お邪魔してます。」
「…どうも。」
「久しぶりね、栞ちゃん。」
「はい。」
「うんうん。」

名雪さんはニコニコしながら頷いて

「栞ちゃん、いまでもやっぱり元気で病気してるの?」

「………」

そ、そういう言い方…
ようし、じゃあとっておきのセリフを…
 

「…この間、少し血を吐きました…」
 
 

「…ぷっ」
 

名雪さんが吹き出しながら

「うん、聞いたよ。何か…うぷぷ」

「…この間、栞ちゃん、血を吐いた、吐いたって大騒ぎしてたって…」

「でも、その血をよく見たら…」
 
 

「ケチャップだったんだってね?ピザに付いていた。」

「何か、寝てる間にピザの上に転がってって、顔から胸にかけてケチャップで真っ赤になっちゃって、で、目が覚めて大騒ぎしてたんだって?」
 

「そうなのよ。あの後、この子ったら気を失っちゃって…上着脱がして洗濯するの、苦労したわよ。」
 

ううっ
そんなこと言わなくていいじゃない…
ホントに、ホントにびっくりしたんだもん…
目が覚めたら口から胸まで真っ赤だったんだから…誰だってびっくりするでしょ?

わたしは何か言おうとしたけれど

「そうそう、そういえば、もっと傑作なのがね…」
「なになに、香里」
「この間、栞、お腹が痛いとか言いだしてさ…」
「…へえ…いつものやつ?」
「そうね。栞、例のよって『発作が…』とか言うからさ、まあ、あたしたちも放っておいたのよ。また栞のいつもの戯言が始まったって。そしたらね…」
「うんうん。」
「なんだか、すごく苦しみだして…でも、それもいつもの仮病だと思ったから、放っておいたのよ。そしたら…」
「…どうしたの?」
「栞ったら、泡吹いちゃって。さすがにしょうがないから病院連れていったのよ。そしたら…」
 
 
 

「盲腸だって。即、手術されちゃって。」

「もうちょっと遅れたら、腹膜炎になるところだったって。さすがに…」
 
 

「家族揃って大笑いしちゃったわよ。」
 
 

お姉ちゃんの言葉。
名雪さんはわたしの顔を見た。
そして
 
 

「…うんうん。香里、分かるよ、その気持ち。」
 
 

…ひどい(涙)
本気で気絶しそうなほど痛かったんですけど…

ていうか、気絶してたんですけど。

いたたまれなくなったわたしは、振り返りました。
そして、駆け出して…

「あ、栞…」

「え?」

わたしは走りながら、お姉ちゃんに振り返り…
 
 

ばーん
 
 

…痛い…

思い切り、何かに…
 

「だから言おうと思ったのに…」

「目の前に、クリスマスツリーがあるわよって…」
 

…遅いです(涙)
最初から言って下さい…お姉ちゃん…
 

「あ、そういえば、栞…」

「…はい。」

くらくらしながら、わたしがお姉ちゃんを見ると

「…残念だったわね、栞。」

「…え?」
 
 

「…あなたがまだ生きてるとは思わなくて、料理…みんなで全部食べちゃった。」
 
 

…朝から何も食べてないんですけど(涙)
誰もご飯だって言ってくれないし…
 
 

「…香里、それはひどいよ…」

名雪さんがお姉ちゃんのたしなめるように言った。
名雪さん…
やっぱり、あなただけは…
 

「それを言うなら、『まだいるとは思わなくて』だよ。」

「そんなの、どっちでもいいじゃない。それに、料理がないのは同じだし。」

「…それもそうだね。」
 
 

…ひどすぎる(涙)

わたしはまわりを見た。
お姉ちゃん…
お母さん…
お父さん…
 
 
 

…みんな、笑ってるし(涙)

ていうか…
お母さん、笑い過ぎ…涙流しながら笑ってるし…
お父さんも…
お姉ちゃん…

名雪さん…
 

「…そういえばさ、この間、一緒に見に行った映画、あれ…」

「…うんうん。あの主役の…えっと、何だっけ?あの俳優さあ…」
 
 
 
 
 

わたしは部屋を出て、二階へ上がった。
自分の部屋に入って、わたしは窓の外を見た。
落ちる雪。
落ちてくる雪。
積もる雪。
静かに、静かに積もる雪
静かに、静かに
 

…もう、お腹が減り過ぎて、動けないし(涙)

わたしはベッドに転がって
そして
 

遠く階下で響く声を聞きながら…
 

思った。
 
 
 

死んでやる…

今度の誕生日までに…絶対死んでやる!
本気で死ぬからっ!
今度こそ、本当に死ぬんだからっ!

今年の誕生日みたいな、嘘じゃないからっ!!
 

とりあえず、ポケットの中に入れているビタミン剤を飲みながら
階下から聞こえる声を聞きながら
わたしは思っていた。
思っていた。
 
 

絶対、死んでやる…
 
 
 

「あはははは…ホント、そうなのよ。栞ったら、ホントに傑作で。この間なんて…」
 
 
 

…誕生日を…見てなさいよぉ…
 
 
 

「あははははは」
 
 
 
 
 
 

    『神様…』
    『…いいクリスマスを…』
    『………ありがとう(涙)』
    『もう絶対、あなたなんて信じません(号泣)』
 

        栞消滅まで、あと38日

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…ふっふっふっ…実はこれは…わたしの書いた『Forget me, Forgive me』という話の…パロディだったりするので…読んだことのある方は、より楽しめるかも。
「読んでない方は?」
…超それなりに楽しめるかも…
「…これも時節ネタですね。」
…いいの。気にしない、気にしない〜〜〜どうせスランプだし〜〜〜〜 inserted by FC2 system