It's a Wonderful day, isn't it?

(栞ちゃん、ファイト!-3)


栞系SS。ブラックコメディ。

シリーズ:栞ちゃん、ファイト!

では、どうぞ

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It's a Wonderful day, isn't it? (栞ちゃん、ファイト!-3)
 

1月7日 木曜日
 

白い雪が積もる道
光る川沿いの道
誰も足音もない道を
わたしは歩いていた
足取りも軽く
 

わたしは気分がよかった。
目標があるとないとでは
こんなに違うものだろうか。
 

だって…
 

思いついたんです。
やっぱり…
 
 

カミソリですよね。
女の子がかっこよく死ぬって。

こう、手首を切って…
その手を浴槽につけて…
浴槽の水が真っ赤に染まって…

いかにもドラマみたいですよね。
きっと、家族も帰って、そんなわたしを見たら…
お母さんなら…

『栞…』
 
 
 

『この後、誰がお風呂の掃除すると思ってるのよ…』
 
 
 

え、えっと…

そ、そうです、きっと、お姉ちゃんなら…
 
 
 

『栞…』
 
 

『だから、冷蔵庫でって言ったでしょ?全く、最後まで迷惑なんだから、あんたは…』
 
 
 
 
 
 
 
 

死ぬのやめようかな(涙)
 

い、いえっ
決めたんですからっ
そんな、想像ぐらいじゃ、くじけませんからっ
 
 

…多分、想像じゃなくて事実なんですけど(号泣)
はあ…やっぱり、今日は…
 
 

で、でもっ
わたしは絶対、今日…
 
 

ばこっ
 
 
 

「きゃっ」
 
 
 

…だ、誰よぉ…

突き飛ばされたわたしは、川に転げ落ちそうになって、あわてて手すりに掴まった。
足下に光る川。
凍って…
 

危ないところでした。
落ちたら、きっと心臓麻痺で死んじゃうところでした。
ホントに、危ないったら…
 
 

…そういえば、死ぬんだっけ。

あ、でも、そういう死に方だと、美しくないです…
それに、やっぱり初心は全うしないと…
立派な大人になれないですからっ!!
 
 
 

…だから、死ぬんだってば(涙)
もう…わたしは一体…
 

「…はあ。」

わたしは何とか手すりをはい上がると、息をついた。
そして、いったい何がぶつかったのか、あたりを見回した。

そこに誰かが立っていた。
見知らぬ少女…
頭には赤いカチューシャ。
ダッフルコートに茶色の手袋。
背中の黒い鞄に、白い羽。
手には紙袋…
 

「…ちょっと、そこのキミっ!」

「…え?」

少女がわたしを…

…睨んでるんですけど。
いったい…

「キミだろっ!さっき、ぶつかってきたのはっ」
 

…ていうか、ぶつかられたんですけど…
 

「もう…おかげで、たい焼きが潰れちゃったじゃないかっ!弁償してよっ!!」
 
 

…はい?

わたしは少女の手にした紙袋を見た。

「…空っぽですけど。」
「あたり前だろっ!」
 

少女はわたしを睨んだまま、大きく頷いた。
 
 

「潰れたって、もったいないじゃないか。だから、食べたよ。」
「だったら…」

「でも、潰れなかったらもっとおいしかったはずだよっ。だから…弁償してよっ!」
 
 

…ひょっとして…
これって、当たり屋…
 
 

「じゃあ、来てっ」
「え?」
 

少女はいつの間にか、わたしの手を掴んで
そして…
 

「キミのせいだからねっ!」
「え?え?」
「ほら、こっちっ!」
 

「え〜〜〜〜〜」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

目の前が…

すごい勢いで…
 
 
 
 
 
 
 
 

ううっ
気持ち悪い…
目の前がちかちか…
何か、赤いものが…
心臓が…
 

…死ぬかと思った(涙)
手を引いたまま、この少女と来たら、全速力で走るし…

わたし、病弱なんですからっ
走ったことなんて…
体育の授業だって、ず〜〜〜〜っとサボって…

い、いや…
休んできたんですから…

ううっ
吐きそう…

わたしは電信柱に掴まって、なんとか顔を上げた。
わたしを引っ張っていた少女は、手を離すと…

「おじさん、たいやき3つ!」
「はいよっ」
 

…だから、気持ち悪いんですってば(涙)
特に、この甘い匂い…
本気で、吐きそう…
 

「…おえっ」

わたしは思わず、口に手を当てた。
少女は振り返ると、わたしを見た。
そして…
 

「そうか、キミも食べたいんだねっ!」
 

…言ってないです(涙)
吐きそうなんですってば…
 

「じゃあ、しょうがない…一個だけだよっ!」
 

…要らないんですってば(号泣)

口も聞けない…迂闊に口を開くと吐きそうで黙っているわたしに、少女は手のたい焼きをわたしの手に握らせました。

…甘い匂い…
腐った眼差しのたい焼きの顔…

うっぷ…
もう、吐きそう…
 

「わ、わたしは…」

食べるのを断ろうとわたしは口を開いた。
その時、少女が
 

「さ、どうぞっ」
 
 
 
 
 
 

かぽっ
 
 
 
 
 

ごくっ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「姉ちゃん、目、覚ましなっ!」
 

「……え?」
 

気がつくと、わたしは道に寝転がっていた。
白い雪の上に…

そして、わたしを見下ろして、さきほどのたい焼き屋のおじさんが

「…まったく、こんなところで寝てられると、商売の邪魔なんだよな。」
 

…気を失ってたんですってば(涙)
 

わたしはなんとか立ちあがった。
見ると、手の中に…
…見るのも嫌で、それは捨てました。
ううっ、二度とたい焼きなんて…
 

「じゃあ、お姉ちゃん…代金払ってくれよな。」

「……え?」

「え、じゃないよ。たい焼きの代金。」

「…はい?」

わたしはあわてて見回しました。
…あの少女の姿は、影も形もありませんでした。
 

…逃げましたね(涙)
 

わたしはとりあえず、おじさんに

「で、でも、わたしはあの子とは、今日会ったばっかりだし……」
「…今日会おうが、10年前に会おうが、払うものは払ってもらわないと。」
「で、でも…」
「…あんたも食べただろ。」
 

…食べさせられたんですってば(号泣)

はあ…
仕方ないですね。
野良犬に噛まれたと思って…
 

「…分かりました。払います。」
「おう。まいどありっ!」

途端に愛想よくなるおじさん。
現金なものですね…

「…で、何百円ですか?」
「えっと…」
 
 
 

「3万4千と、跳んで72円。消費税込みね。」
「……はい?」
「34072円。」
「ですから…」
「さんまんよんせんななじゅうにえんだよ、お姉ちゃん。」
 
 
 

…ぼったくりたい焼き屋?
 

「…どうしてそんな額に?」

わたしが聞くと、おじさんは怪訝そうな顔をしました。
そして、きっぱりと
 
 

「そりゃ、あの子の今までの食い逃げ代も入ってるから。」
 

なぜ(涙)
 

「でも…」
 

「あんたも食べただろ。立派な共犯だ。だから…」
 
 

…共犯って…そんな…
 
 

「…払ってもらえないなら…警察、呼ぶよ。」

おじさんはわたしを見ながら、肩をすくめた。
 

警察…
一度だけ、偶然、学校をサボってゲームセンターにいた時…
…いえ、病気で休んでいる時に…
補導されて…
『保護者が迎えに来るまでいろ』って言われて…
 

…三日たっても、誰も来てくれなくて(涙)
警察の人が何度電話しても

『人違いです』

って…

偶然、4日目にお父さんが運転免許の書き換えで来たのをわたしが見つけなかったら、きっとわたしは今でも…
 
 
 
 

「…払います。」

「おう。まいどありっ」

「…でも、これだけしかないので…これでなんとか……」

「……ま、今回はこれだけもらっておく。また今度来たとき、残り、払ってもらうからな。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

二度と…行くわけないですっ(涙)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

日も落ちた暗い景色
真っ暗な家
誰も似ない真っ暗な家の玄関を開けて

…今日もみんな、遊びに行ってるし(涙)
 

はあ…
カミソリを買うお金も残らなかった…

でも、お姉ちゃんのムダ毛処理用のカミソリは…嫌(涙)

仕方ないです…
明日、学校の帰りにカッターナイフでも…
 
 

トゥルルルルルルル
 
 

かちゃ

「はい、美坂ですが。」

「もしもし?わたくし、栞さんの高校の担任の教師をしております…」

あ、担任の先生。
なんか…わたしだって分かってないみたいです。

…まあ、サボりで…じゃない、病気であんまり学校行ってないですから…
だから、きっと明日からの新学期、わたしがちゃんと来るか、確認なんですね…
 

「それで、ですね…栞さんのことなんですが…」
 

ほら、やっぱり。
 

「先学期まではよく休まれていたわけですけど…」
 
 

でも、ともかく、明日は…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「その方が鬱陶しくなくてクラスのみんなもせいせいしますので、今学期も来させないでください。では。」
 
 
 

ぶちっ
 
 
 

ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ
 
 
 
 
 
 
 
 
 

外は一面の雪
月の光を浴びて

白く輝く庭
白く輝く屋根
白く輝く窓
わたしは眺めながら

家中かき回してやっと見つけた
2000年対策用品の残りのカンパンをかじりながら
わたしは
 

思っていた。
 
 
 
 
 

死んでやる!

絶対、死んでやる!!

死んで…葬式の祭壇の上から笑ってやるっ!

笑ってやるんだからっ!!
 
 

その時になって…後悔しても知らないんだからっ!!

きっと…吠え面かかせてやるからっ!!!
 
 

    『今日はいい日でした』
    『本当に…』

    『死にたいほどいい日だったわよっ(号泣)』
 

        栞悲願の日まで、あと24日

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…ね?あゆも、く〜る(笑)
「…というか…」
…このまま、全員と出会うことになるんだな、この栞は…でも、とりあえず、明日(1月8日)は…ふふふふふ
「…はあ。こんなの書いてないで、本気で…」
…連作ですか?
「…『夢の街』です!」
…ううっ…現実逃避してるのにぃ… inserted by FC2 system