Forget me, Please

(栞ちゃん、ファイト!-4)


栞系SS。ブラックコメディ。

シリーズ:栞ちゃん、ファイト!

では、どうぞ

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Forget me, Please(栞ちゃん、ファイト!-4)
 

1月8日 金曜日
 

白い雪が輝いて
陽の光に輝いて
木漏れ日の下
わたしは歩いていた。

そうです。
今日こそは、わたし、死にますから。
もう死に方は、昨日から決めてます。

カッターです。
カッターナイフです。

やっぱり、カッターですよね。
女の子が手首を切るっていったら。
お姉ちゃんのムダ毛処理のカミソリなんてダメですっ!

新しいカッターナイフを買って…
部屋に戻って、落ちる夕日を眺めながら…
こう、真新しいカッターの刃を長く伸ばして…
手首をこうざっくりと切って
傷口から、止めどなく溢れる血に身を浸しながら…
次第に朦朧とする意識…

これですよね。
これこそ自殺の王道ですよね。
 

問題はカッターナイフを買うお金でした。
昨日、有り金全部、あのたい焼き屋さんに持っていかれて…

でも、大丈夫です。
お金はお姉ちゃんの貯金箱から取ってきました。
一応、その前に、お母さんにお金、借りようとしたんですけど…

『お母さん、来月のお小遣い…前借りさせてくれないかな?』

一応、そう言ったら、お母さん…
にっこり微笑んで
 

『あら、栞。あなた、来月まで生きてる気?』
 

言うんじゃなかった(号泣)

だから、わたし、お姉ちゃんの貯金箱からお金を…
カッターナイフを買えるだけのお金…

そしてっ!
今晩の夕食のお金も持ってきましたっ!
今夜こそ、まともにご飯が食べられますっ!!

…だから、夜には死んでるんですってば(涙)
もう、わたしはいったい…
 
 

「あ、あぶないっ!」
 
 

え?
 
 

バーン
 
 
 

…痛い(涙)
もろ、木に叩きつけられたんですけど…

だ、誰ですか、わたしにぶつかってきたのは…

わたしは涙目になりながら、振返ってみました。
 
 
 

…昨日のたい焼き少女。

ううっ
わたしはあなたのおかげで…
 

「…また、あなたですか…」

わたしは少女を見つめました。
少女はわたしの顔を見ました。

「あ、君は…昨日の…」
 

そして、頷くと
 
 

「…たい焼き食い逃げ女だね。」
 

…それはあなたですっ!(号泣)
おかげで、わたしは…わたしは…
 

「…どうした、あゆ。どうかしたのか?」
 

その時、男の人の声。
少女は声の方を見ました。

「どうした、じゃないよっ、祐一くん!」

少女は言うと、近寄ってきた男の人に食ってかかると

「祐一くんが避けるから…」
「悪い悪い、つい条件反射で…」
「…うぐぅ」

少女は言うと、男の人を見上げて

「…おかげで、こっちの人にぶつかったじゃないか。」
「…え?」
「……まあ、そのおかげでボクは木にぶつからずにすんだけどね。」

男の人はわたしを見た。
そして、少女に向き直った。
 
 

「じゃあ、よかったじゃないか。」
 
 

よくないですっ!(涙)
 
 

「でも…」

と、男の人はまたわたしを見て

「……大丈夫か?」
 
 

…ううっ
久しぶりに聞く、優しい言葉…
わたしは…
 
 
 
 

「…あゆ、それ、潰れなかったか?大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。」
 
 
 
 

そっちの心配だし(号泣)
わたしはどうでもいいんですね…
ううっ
ひどいです…
 

わたしはキッと顔を上げました。
そして、少女の手の中の紙袋を見ている二人に言ってやりました。
 

「…わたし、体が弱いんです…」

「…あ、今ので…めまいが…寒気が…」
 

二人はわたしの方を見ました。
そして、また顔を合わせました。

ふふっ
これで少しは罪悪感…
 

「…それは大変だねっ」
 

そうそう。
そんな感じで、気を使って…
 

「…そうだな。じゃあ…体、鍛えたほうがいいな。」
 
 

…え?
今…なんて?
 
 

「じゃ、これ…持って。」
 

…え?
わたし…
え?
 

気がつくと、わたしは二人が持っていた紙袋を抱えていました。
そして、二人はあたりを見ると…
 
 

「じゃ、頑張って。」

「……え?」
 

「全力で走ったほうがいいよ。うん。」
「そうだな。」
 
 

「………え?」
 

「じゃあ、健闘を祈る。」
「頑張ってね。」
 
 

……はい?
これ…
……あれ?
いったい…
 
 
 
 

気がつくと、もう二人の姿はありませんでした。
わたし一人がそこに立っていました。
紙袋を抱えて…
 

…紙袋…
 

……見覚えのある紙袋…
覚えのある、甘い匂い…
これは…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「…やっと見つけたぞ、食い逃げ犯。」
 

「……え?」
 

大きな声に、わたしは振返りました。

…でも、振返らなくとも、もう分かってました。
そこに立っていたのは、もちろん…
 

「…さ、食い逃げ代、払ってもらおうか、姉ちゃん。」
 

「で、でも、たい焼き屋さん…」
 

「…今度こそ、警察行くか?」
 

「………払わせていただきますっ」
 

「…これっぽっちかよ。じゃあ、残りはまた、今度だな。」
 
 
 
 

…きっと、すぐに今度になるんですね。
ええ、そうでしょう、そうでしょうとも。
どうせ…そうなんですっ(号泣)
 
 
 
 
 
 
 
 
 

真っ暗なあたりを
街灯のない道を
わたしは歩いて帰って
そして、家のドアを開けて

どうせ、今日も誰も居ない…
 

「……あら、栞。まだ生きてたの?」

「知らなくて、ご飯、作ってないわよ。」
 

お姉ちゃん…
…もう、反応する気にもなれないです…

ていうか、慣れました(涙)
 

わたしは取りあえず玄関を上がると、部屋へ歩きだしました。

…あ、お金をとっていったこと、言っておかないと。
お姉ちゃん、そういうこと、細かいから…
 

「あ、お姉ちゃん…」

わたしは立ち止まってリビングを覗きました。
ソファに座ったお姉ちゃんは、わたしを見上げました。

「その…わたし、お姉ちゃんのお金…貯金箱から借りました…」
 

「………」
 

「えっと…それで…もうしばらく、返せないです…」
 

「………」
 
 

お姉ちゃんはわたしをじっと見上げました。
厳しい顔で…
 
 

でも、すぐに息をつくと、微笑みました。
 
 

「いいわよ、栞。わたしたち…姉妹じゃない。」
 
 
 

「お姉ちゃん…」
 
 
 
 
 
 
 
 

「おかげで、あなたの保険金が入るから、そこから引いとくわ。」
 
 
 
 
 
 
 

ひどい(涙)
 
 
 

「あ、でも、栞?」
 
 
 

「…なんですか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「自殺だけはしないでね。」
 

「………お姉ちゃん、わたし…」
 

「だって…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「保険金、おりないから。」
 
 
 
 
 
 
 

…そうでしょうともっ
どうせ、お姉ちゃんは…
 
 
 
 
 

「…冗談よ。」
 

と、お姉ちゃんはにっこり笑いました。
そして、立ち上がるとわたしの方を叩きました。
 

「そんなこと言うわけないでしょ。だって…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「自殺でもおりる保険にしてあるんですもの。安心して死になさい、栞。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

真っ暗な部屋
ベッドの陰に座って
わたしは窓の外を眺めながら

納屋の中をかき回して唯一見つけた
なぜかあったキャットフードを食べながら

思っていた。
 
 

死にたくないかも(涙)
死んで…あの人たちに保険金をあげるなんて…
 
 

でも…
死んでやるっ!
見てなさいよ…
わたしが死んで、保険金をもらったことさえ後悔させてやる…
させてやるんだからっ!

…どうしたらそうできるか、分からないけど(涙)
でも…死んでやるわよっ!!
 

    『悲しかったんです』
    『わたしは悲しかったんです』
    『それも、何より悲しかったのは』

    『……キャットフードを思ったよりおいしく食べてしまったことでした(号泣)』
 

        栞、予定日はあと23日

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…間を開けると、やっぱりテンションダウンは否めないね…
「…そうですね。コメディ、1週間書かなかったですからね…」
…またリハビリの日々かあ(涙)まあ、昇進試験関係も終わったし…頑張ろう…
「…ファイト!ですね。」
…なんか、その言葉…嫌(笑) inserted by FC2 system