Kill me softly, with Your... (栞ちゃん、ファイト!-5)


栞系SS。ブラックコメディ。

シリーズ:栞ちゃん、ファイト!

では、どうぞ

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Kill me softly, with Your... (栞ちゃん、ファイト!-5)
 

1月9日 土曜日
 

玄関から外に出る。
外は…まぶしいくらいの陽射し。
真っ白な景色の中を、冬の風が吹きつける。
今のわたしにぴったりの風。
雪を舞い落として
わたしを
 

びゅおうっ
 

…びっくりした…
と、飛ばされるかと思いました。
もう…気をつけないと。
だってわたし…まともにご飯食べてないから、もう…
 
 

わたしが目が覚めたのは、少し前のことでした。
…お腹が空き過ぎて、目が覚めたんです(涙)

当たり前ですよね。
ここ何日も…まともにご飯なんて食べてないんですから。
食べたのはせいぜい…

ビタミン剤に…

『緑の○ヌキ』に…

カンパンに…

…キャットフード…

………

何か、だんだん…ひどくなる気がするんですけど(涙)
ていうか、ひどくなってますよね…
とすると、今日はいったい……

………

…やめよう、考えるの。
だって…
やっぱり、人間、前向きじゃなきゃダメですよねっ!
そうですっ
人間、前向き前向きっ!
やっぱり、それが長生きの秘訣ですよねっ!
 

…だから、わたしは死ぬだってば(号泣)
何を言ってるの、もう…

ともかく、わたしはダイニングに行きました。
そして、そこにいたお母さんに言いかけたんです。

『お母さん、あの…』
 

そしたら、お母さんがわたしの顔を見て
 
 

『……あら、栞。今日もまだ生きてるのね。』
 
 

……これくらいは、ただの朝のあいさつですっ
く、くじけないもんっ
 

わたしはそれでもお母さんに、言ったんです。

『お母さん、その…朝ご飯は?』

そしたら、お母さんはわたしの顔をまじまじと見て
 
 

『……もうすぐ死ぬくせに、まだ食べるの?』
 
 

…死んでやるわよっ!

で、でも…餓死はちょっと嫌です…
 

『……でも…』

『………』

黙って見ていると、お母さんはちょっと考えているようでした。

『……栞。』
『……はい』
 

『……起きるの遅過ぎたから、何もないのよ。』
 
 

……ううっ…やっぱり…
 

『…でも…』
 

と、お母さん、わたしにの顔を見てにっこり笑いました。
 
 
 
 

『…大丈夫。お仏前にはお供えしてあげるわね。』
 
 
 
 
 

…それで、わたしは黙って、家を出たんです…
 

ううっ
足がふらつく…
お腹が減って満足に歩けないです…

でも…もう、お金もないですし。
お姉ちゃんはもう貯金箱をどこかに隠しちゃったし…
このままじゃ、わたし…

いえ、死ぬんですっ
わたし、必ず死にますからっ

…死ぬんですけど…

……餓死は嫌ですっ
やっぱり、死ぬなら…カミソリですっ
睡眠薬でもいいですけどっ
そう、できればこう、睡眠薬を飲んで…カミソリで手首を切って…湯船に漬かって…
…暖かいお風呂に漬かって…たらふくおいしいものを食べて…そして……
いいですよね、温泉って…

…って、なんでそんなこと考えてるんでしょう、わたしは(涙)
だから、温泉じゃなくって…自殺ですっ!
そう、美しく自殺するために、わたしはっっ!!
 

グ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 

…ともかく、何か食べないと…

わたしは思いながら、周りを見回して…
 

………
 

きら〜〜〜〜〜〜〜ん

あれはっ!
 

道の少し前に、雪に半分埋もれている…でも、あれは…

間違いないですぅ
あれは…
 
 

財布ですっ
間違いなく、あれは財布です。
それも…中身が入ってます。
わたしには分かりました。
だって…匂いがするんですからっ

…って、そんな匂いが分かる自分がちょっと…悲しいかも(涙)
 

そ、そんなことどうでもいいですっ
ともかく、あれを拾って…

もちろん、警察になんて届けません。
そのまま、そのお金で…ご飯を食べるんですっ
そして、お腹がいっぱいになったら…
 

…うふふふふ
そうですぅ…
その足で、学校に行ってやります。
そう、学校に行って…
 

もちろん、学校に入ったりはしないです。
だって、わたし…ず〜っと学校をサボってますから、ちょっと…

じゃなくて…病気で長期療養中なんですっ
でも、だからですね…
中庭に立ってやるんです。
黙って、ず〜〜〜っと立っててやるんです。
そう、あの春にはみんながお弁当をひろげてる、あの中庭で、です…

そしたら、きっとお姉ちゃんや、それにクラスのみんなにも見えると思うんです。
そして、気になると思うんです。
あんな所でいったい、療養中のわたしが何をしているのかって…

そして、誰かがそれを確かめようときた時には、わたしの姿はないんです。
そしたらきっと…
 

わたしが死んだって聞いた時、きっとみんな、思い出しますよね。
あの時、そういえば、美坂栞があの中庭にって…
 

…うふふふ
そしたら、きっとみんな…わたしのずっと覚えてることになるんです。
そしてそのうち、わたしのことが学校の七不思議になって…
…永遠に残るんですよ、きっとわたしの話が…
 

うふふふふふ
うふふふふふ
うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……………
 
 

って、笑ってる場合じゃないですっ
ともかく、その野望の第一歩のために、あの財布をっ
 
 
 

ガンッ
 
 
 
 
 

「……痛いですぅ…」

「……あぅーーーーー」
 
 
 

な、何ですか、いったい…?
財布を取ろうと、手を伸ばしたら、いきなり何かが頭に…

頭をさすりながら、顔を上げると…
 

「……なんですか、あなたは…」
 

「…あんた、何よぅ…いったいっ」
 

目の前にいたのは、何か汚い格好の…女の子です。
多分、この女の子にぶつかったみたいです。
相手も自分の頭を撫でてますから…
 

「…あなたですか、わたしにぶつかったのは…」

「そっちこそ、あんたがぶつかってきたんじゃないのよぅ!」

「…それはわたしのセリフですぅ!わたしがわたしのお財布を拾おうとしたら、あなたがいきなり…」
 

わたしが言いかけると、その女の子はいきなり声を張り上げると
 

「なに言ってるのよぅ!あれはあたしの財布よっ!!」
 

……え?

わたしは相手の姿をマジマジと見ました。
女の子は…
 

…何か、汚い格好…
この寒いのに、ミニスカートはいてるし…
…あ、それはわたしもですけど…
それに…わたしより背が大きいし…
その上、わたしよりも胸が…
 

…で、でもっ
わたしの方が可愛いですっ
 

………多分
 
 
 

そんなこと、どうでもいいんですっ
ともかく、あの財布を持ってるような子には見えないですから。
だから…あれはっ
 

「…あの財布は、わたしの物ですっ」

「違うっ!あたしのなのっ!だって、あたしが先に見つけたのよぅ!」
 

ふっ
……語るに落ちましたね
やっぱり、この子の物じゃない…
 

…絶対、わたしの物ですっ
 

「……だったら、わたしの物ですっ!だって、わたしの方が先に見つけたんですからっ」

「あたしが先に見つけたのっ」

「わたしですっ」

「わたしっ」

「………証拠がありますか?」
 

「………あぅーーーー」
 

相手の子は困ったように何かうなってます。
ふっ
口では勝てる…
 

「……さあ…証拠を見せてください!さあっ!」

「……あぅ〜〜〜〜〜〜〜〜」
 

わたしが言うとその子は、すっかり頭を抱えてしまいました。

…勝った…
わたしは確信して、ゆっくりと財布の方に…
 

「………待ちなさいよぅっ!」

グイッ

「きゃっ」
 

いきなり、肩を掴まれて、わたしは振り返ると…
 

「……証拠なんて…」
 

「………え?」
 
 

「……ともかく、あれはあたしの物なんだからっっっ!!!!」
 
 
 

言うと、少女は拳を構えて…
 
 

マズイですぅ
口で勝てないと思って、腕力で勝負するつもりです…
腕力にはわたし…自信がないんです…
だって、小さい頃からわたし、体育の授業はずっとサボって…

じゃない、体が弱くて休んでましたから、全然体力が…
 
 

「…あ、あの…」
 
 

「……覚悟っ!!」
 
 
 

女の子の拳が…
 
 
 

………のろいです
思いっきりのろいです。
ハエが止まりそうなくらい、のろいです…

…ふっ
こんなパンチ、目をつぶっても、3才児でも避けられます…
 
 
 
 

バキッ
 
 

「………痛い…」
 
 

って、避けられないし(涙)
わたしって、目をつぶった3才児以下の反射神経…
 

ち、違いますっ
これは…

そう、お腹が減ってるからですっ
お腹が減って…

あの財布さえあればっ!!

わたし、暴力は嫌いです…
嫌いですけど…
 

背に腹はかえられないですっ!!
 

「……やったわねっ!!」
 

わたしは思いっきり、力を込めて…
 
 

「………えいっ!!」
 
 

ううっ
お腹が減ってて、力が出ないです…
 
 
 
 

ばこっ
 
 

「あぅっ」
 
 

……当たった…

これは…
 
 

わたしは相手の子の顔を見ました。
相手の子も、わたしの顔を…
 
 

勝負は、互角。
あとは…
 
 
 

気合い
そう、気合いですっ
気合いはより多い方が勝ちですっ
わたしなんて…
 

わたしは相手の子の顔をにらみ返しました。
そして、両手にぐっと力を込めて
 

思いっきり
 
 
 
 
 
 
 

「……死んでやるわよっ!!」
 
 
 
 
 

「……あなただけは許さないからっ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

バコッ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

寒い…
 
 

とっても寒い夜でした。
特に、雪の中に転がっていたら…
 
 
 

………負けた(涙)
 
 

気がついたら、わたしは雪の中に転がっていて。
あまつさえ、ショーウインドウで気がついたんですけど…
…顔にくっきり、靴で踏まれた跡がついてました(号泣)
 

…はあ…
一瞬、勝てると思ったんですけど…
でも…
 

敗因はやっぱり…
わたしの方が胸が小さかったこと…

…じゃなくてっ
やっぱり…リーチが違っていたんです。
考えてみたら、相手の方が背も高いんですから、そんなのあたり前のことだったんです…
 

……はあ

わたしは殴られて、わたしは雪の中で夜まで眠ってました。
冷たい雪の中、ずっと転がってて…
 

ううっ
ともかく、家に帰って…
 
 

ガチャッ
 

「…ただいま…」
 

「あら…あなた、誰だっけ?」
 
 
 
 

……お姉ちゃん…
今日はそんなセリフには、もう反応する気にもなれないです…
 

わたしは取りあえず玄関を上がると、部屋へ歩きだしました。
どうせ、わたしの夕食なんて…
 

「……ちなみに、あんたの夕食、ないわよ。」
 

……だから、言わなくって結構ですっ(涙)

わたしはふらつきながら、部屋に…
 
 

「あら、ちょっと待ちなさいよ、栞。」
 

と、お姉ちゃんがわたしを呼びとめました。
わたしが振り返ると…

「…ほら、栞。これ、これ」

お母さんまで廊下に顔を出して、何か白いものをぴらぴらと…
 

「……なんですか、それ…」

立ち止まってわたしが聞くと、お母さんとお姉ちゃんは顔を見合わせて
 

「………それが、ねえ…」

「……学校のクラスの代表って子が、あなたに持ってきたんだけど…」
 
 
 

「………え?」
 

クラスの代表…
ひょっとして、長期療養休みを取っているわたしへの…みんなのお見舞いの手紙?
 

…ううっ
みんな、ごめんなさい…
みんがわたしのこと、そんなに心配してくれているなんて…
それなのに、わたしったら…学校の中庭に立つなんて嫌がらせしようとして…

ごめんなさい、みんな…

わたしは、みんなの顔を…思い出しながら…
 
 

「……それで…なんて?」
 
 

「……それがね、傑作なのよ。」
「そうそう。」
「あなたのクラスのみんなから、あなたへの手紙がきてるんだけどね…」
 
 
 
 

やっぱり…
みんな、ホントに…

わたしは、両手を合わせて…
 
 
 

「…それがね…傑作よ。なんたって、中身がね…」
「…一通が…」
 
 
 
 

「『もう二度と来るな。』ちなみに、先生からだけど。」
 
 
 
 

………先生…酷い…
 
 
 
 

「あと、もう一通…」
 
 
 

「『まだ生きてたんですか。』ちなみに、学級委員長ね。」
 
 
 

…………ううっ…
 
 
 

「……でも、安心しなさい、栞。」
 

お母さんがわたしを見て、にっこり笑いました。
 
 

「あと、残りは全部同じ文面だったわよ。」
「ええ…そうね。」
 
 

「……それは…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「『美坂栞って………誰?』」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……………」
 
 
 
 
 

ええ、そうでしょうともっ
みんな…励ましの手紙、ありがとうっ!!
わたしは…
 
 
 
 
 

「……あ、そうそう、あと、お見舞いも持ってきててたわよ。」
「ええ。きれいな花束…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「はい、どうぞ。」

「…きれいな菊の花束ねえ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

…死んでやるわよっ
 
 
 

    『悲しくて』
    『悔しくて』
    『自分がみじめでした』
    『だから、みんなを呪ってやる…そう思ったんです』
    『でも…』

    『菊の花はとてもおいしく食べられました』
    『ありがとう、みんな…』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

    『なんて、言わないわよっ(号泣)』
 

        栞の屈辱の日々は、あと22日続く予定です

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…いや…久々に書いたね、これ…
「そのせいか、ノリが…」
……ううっ…リハビリが…
「………」
…で、でもっ!これ、まだまだ続くよん!次回は…
「…次回は?」
……一日飛んで、月曜日。ふふふふ、またまた新キャラだねえ…
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