- 7番目の花の雨 -


NAOYAさん100本おめでとう記念SS。
あゆSS。

では、どうぞ。

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    1番目の雨をボクは見られなかった

    2番目の雨はボクを通り過ぎた

    3番目の雨をボクは見上げていた

    4番目の雨にボクは泣いていた

    5番目の雨がボクの上に積もった

    6番目の雨はボクに吹きつけていた
 
 

    だけど…
 
 

- 7番目の花の雨 -
 
 

振り返るあゆの大きな瞳の中、花の雨が降っていた。
 

こんな近くにこんな桜並木があるとは知らなかった。
商店街へ行く途中、近道でも探そうと、
いつもの角の手前を曲がった、ただそれだけだったのに。

「きれいだねっ」

先にこの並木を見つけて駆けていったあゆが、
後から歩いてきたオレに振り返って笑った。

「そうだな。」
「うんっ!ボク、桜は大好きだよっ!」

あゆはにこにこして言うと、桜の花を見上げた。
桜並木は満開で、春の陽にピンクに輝いていた。
枝を揺らす春の風に、花びらが舞い落ちていた。

「…お前の場合は、花よりダンゴだろ。」

オレはあゆの手の中の、秋子さん特製のたい焼きの袋を指差した。

「…うぐぅ」

あゆは言うと、ちょっと顔を赤らめながらオレを見上げた。

「…でも、ホントだもん。ボク…桜、好きだもん。」
「じゃあ、桜餅」
「違うっ」
「じゃあ…」
「…もういいよっ」

あゆは真っ赤になってぷいっと振り向くと、駆け出そうとした。
その足元、桜の根にあゆは足を引っかけて…

「…あっ」

…転けようとするところ、オレはなんとかその手を掴む。

「…うぐぅ」

あゆはすんでのところで倒れずに、何とか体勢を立て直した。
そして、手を掴んでいるオレを見上げた。

「どうしてそう、お前は転けるかな。」
「…うぐぅ」

あゆは赤い顔のまま、ちょっと目を落す。
と、顔を上げると

「…ありがと、祐一くん。」

恥ずかしそうに笑って、また桜を見あげた。

「…ねえ、祐一くん。」
「…ん?」
「…この桜…あのベンチまで飛んで来るかな?」
「…え?」

オレはあゆの顔を思わず見つめた。
あゆはぼんやり桜の花を、その舞い散る花びらを見上げていた。

「…さあな。オレには、分からないけど…」
「…そう…」

あゆはつぶやくと、大きな瞳を一回、瞬かせて

「…この桜かって思った…」
「…何が?」
「……あの…桜の花は…」
「……?」

オレはわけが分からずあゆの顔を見つめていた。

「…春になると…花がね、降ってたんだよ。あのベンチの上に…毎年、毎年春になると…いつも降ってたんだよ。」

あゆは舞い落ちる桜を見つめながら言った。
その大きな目を春の陽射しにちょっと細めた。

「だけど、ボク…ずっとあのベンチで、ずっと…あそこに座ってただけで。待ってたから…待つことしかできなかったから…」

あゆはぼんやりと花の雨を見上げていた。
短く切ったその髪に、花びらが積もっていた。

「…なあ、あゆ…」

オレは左手を伸ばすと、あゆの髪の花を軽くはたいた。
花びらはあゆの頭から、風に揺れながら舞い落ちた。

「この桜の花が、その花かどうかオレには分からないけど…」
「…うん?」

あゆはオレを見上げた。
その大きな瞳に、花の雨が映って…

「…もうあそこでずっと…待ってなくてもいいから。」

あゆは黙ってオレを見上げていた。
ちょっと赤らんだその顔に、ピンクの花が舞い落ちた。

やがてあゆはちょっと目を瞬かせた。
そしていたずらっぽく笑うと、オレの腕を払った。

「…でも、今日みたいに祐一くん、よく寝坊するからねっ」
「…なんだと?」
「あははっ」

あゆは笑いながらオレの伸ばした手をくぐり、桜並木を駆け出した。

「…待て、あゆっ」
「待たないよっ!」

言いながら、あゆはオレに振り返った。
春の風に背中の羽が揺れた。
ざわざわと桜の枝が揺れ、いっそう花が舞い落ちた。
 

振り返るあゆの大きな瞳の中、花の雨が降っていた。
そしてその瞳に、オレが映って揺れていた。
微笑んだあゆの瞳は、オレを見つめて揺れていた。
 

    7番目の雨をボクはキミと見ているね

    そしてきっと8番目も

    ずっとずっとその先も

<End>

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これはNAOYAさんSS100本おめでとうSS。
人様のおめでとうSSというと、ご本人の希望がないとぽえみ〜になるというのが
最近のわたしの定番なんですけど(苦笑)
やっぱり…今の状況では、あゆのぽえみ〜は某長編に引っ張られるので書けなかったので(苦笑)
まあ…こんな他愛もないほのぼのになりました。
…って、人様に差し上げるのに、けなしてどうするかな(爆)

んで…えっと、まあいつもの語りなんですけど(苦笑)
NAOYAさんとの出会いとか、それからのことは…まあ、わたしのページで既に語ってしまったので、置いといて。
わたしがNAOYAさんの話を好きなのは、言霊とか、文体とか、そんなことじゃない気がします。
いわゆる、いつも言う優しい視線…
優しい設定とか、優しい文章とか、そういうものは、まあ意識すれば誰でも、ある意味では書ける。
でも、その目線は…その人のものだとわたしは思うのです。
痛い話を書こうとも…辛い話を書こうとも…その人の目線の優しさは、読めば分かる気がします。
NAOYAさんの優しい目線…わたしはそれが大好きです。

あと…実はその優しい視線で、でも感情が暴走していくようなSSが好きだったりして(苦笑)
多分、ご本人は自分の作品では、均衡の取れた最近の作品の方がお好きだと思うんですけど…
わたしのように溺れ系の(苦笑)書き手からみると、思わず感情に溺れて暴走していく感じ…
そんな感じの作品の方が、とっても大好きだったりして。
…迷惑なファンだな、我ながら(苦笑)

まあ、そんなわけで作品を預からせてもらったりしているわけですけど、
実際には目指すものは違っている…
というか、わたしの方に目指すものなんてないっていう方が正しいんですけど(爆)
それでも、いつも読むと、その優しい視線に刺激を受ける…
自分にももうちょっと優しさがあったら…酷い話を書くたびに、NAOYAさんの作品を読んではそう思ってしまう…
そんな、何かわたしの良心のうずきのような(苦笑)そんな方が、NAOYAさん。

どうか、これからも『SSやめたい周期』を乗り越えつつ(笑)
ご同郷のよしみで、よろしくお付き合いさせてほしいなと。
そう…思います。

NAOYAさん、本当に100本おめでとうございます。

2000.4.7 LOTHより 感謝とお祝いを込めて

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