あかねいろしたみかづきに


詐欺師ねむ(Korie)さんSS100本おめでとう記念SS。
舞SS。

では、どうぞ。

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あかねいろしたみかづきに
 
 

夕焼けが空に広がっていく。
空がだんだん赤く染まる。
 

『あれは茜色というのですよ。』
 

そう言ったのは誰だろう。
あれは…

おかあさん?

そうだ
あれは病室で
おかあさんの隣
ベッドに腰かけながら
窓から外を見ていた。

いつもは寂しい夕暮れも
一人寂しく見ている空も
おかあさんと一緒なら
髪を撫でてくれるおかあさんの腕
おかあさんと一緒なら
好きでいられる。
だから
 

『これってあかねいろっていうんだよ。』

『ふーん、そうなんだ。』
 

だから
わたしはあなたに教えたの
風の渡る麦畑
鬼ごっこの最中

立ち止まり
振り返り
夕暮れの空を
わたしは見上げて
 

『きれいだと思わない?』

『…きれいだね…』
 

あなたの言葉
茜色に染まる
あなたの顔
あなたの瞳

そして
あなたの向こう
麦畑の向こう
かすかに見えた
細い三日月
 
 

あれから月はいつだって
わたしを見守っていた。
麦畑で
建設現場で
夜の校舎で
わたしを見守っていた。

冷たい銀の光
わたしを包んで

凍る銀の月
嘲笑っているような
 
 

だけど

本当はあの月は
あの時
あなたが言ったのは
 

『あ、みかづきだ。』
『みかづきもあかねいろに見えるね。』
 

わたしは黙っていた。
月は嫌いだったから。
いつも家でひとりぼっち
見上げていた月は
 

だけど

あなたは笑って
わたしに笑って
 

『これからだんだん、あの月は丸くなっていくんだよね。』
『このまま、あかねいろに光っていたら、本当にきれいだろうね。』
 

あたしを見て笑った
あなたの瞳もあかねいろ
向こうに見える月の色
細い三日月の色だった。
 

そうだったんだ。
本当はそうだったんだ。
わたしを見守っていた月は
あの銀の月は
本当は

あの時に見たあの三日月
茜色した三日月で

あれから何度も丸くなり
あれから何度も消えていき
春の夜も
夏の夜も
秋の夜も
冬の夜も
それでも変わらずわたしを
あなたを待ち続けたわたしを
見守ってくれた
あれはあの月で
茜色した三日月で
 

だから

おかあさんと見た茜色の空を
あなたと見た三日月を
こうして今
またあなたと並んで見れるのも
あの茜色した三日月に
見守られていたからだと

あなたの肩に触れながら
暖かさを感じながら
こうして縁側に並んで
黙って見つめているだけで
それだけで
わたしは
 

「…きれい…」
 

あなたは振り返って
茜色に染まった顔で
茜色した瞳で
 

「…きれいだな。」
 
 
 
 
 

ありがとう

お月さま
 
 

<END>

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これは最初に書いたように、詐欺師ねむ(Korie)さんのSS100本記念おめでとうSS。
…長い名前ですね(苦笑)
まだ余罪(爆)…いや、余名があるようですけど、それは置いといて(笑)

この方とわたしの本当の意味でのFirst Contactは、この方の『朝方』『手を振る朝』という栞SSをわたしが見て、
そしてその栞を勝手に自分の中で養うようになってからでした。
いわばわたしのそれ以降の栞の実父であるこの方とは、それ以降、何も示し合わせていないのに、
というか、示し合わせなかったからでしょう、なにかとかぶり合う仲で(苦笑)
本当のところ、その持つ表現方法も文体も、目指すSSも本来違うこの方と、でもわたしとは影響を与え合ったような、
時に頼りにされたり、でも本当はずっとわたしの方がどこかで頼ってきました。
SSを書くことは、物を書くことは、しょせんはひとりぼっちの孤独な行為なのに、そしてわたしのような
自分勝手で、落ち込んで、悩んで、一人暴走してしまうような、そんなバかなわたしのことを分かってくれる…
そんな人がいる…そんな安心感のためにこの方を利用している、そんな罪悪感さえ時には覚えてしまう方。
だけど、そんな勝手なわたしの思いに付き合ってくれて、そしていつも素晴らしいSSでわたしを刺激してくれる、
そんなこの方に感謝を込めて、このSSを贈ります。

100本おめでとうございます。
そしてできれば…これからもよろしくお願いいたします。

2000.2.28 LOTHより 本当に感謝を込めて

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