今日という日が終わる前に

今日という日が終わる前に
 

「…まだすねてんのか、舞」
「………」
「しょうがないだろ、佐祐理さんは。実家に呼ばれちゃ、断れないだろ。」
「………」
「クリスマスも正月も、ずっとこっちにいたんだからさ。佐祐理さんも、さすがに今度は断れないって。」
「………」
「まあ、今日は佐祐理さん、多分帰ってこれないよ。そこでオレが今日は特別に、舞にオレの独占権を…」
「……ぐすっ」
「…泣くなよ。冗談だって。佐祐理さん、遅くなっても今日は帰って来るって言ってたろうが。」
「……ぐすっ」
「ほら、鼻かめよ。せっかくの美人がだいなしだ。」
「………」

    …織り姫様…

「…今日は晴れてよかったな。」
「………」
「星がこんなにきれいにみえるし。ほら、舞。あれが織り姫だぞ。」
「……北極星」
「……そうとも言うかもな。ま、細かいことは気にするな。」
「………」
「そ、そういえば、七夕のお祝いに、ご馳走用意してるんだ。」
「……どこに」
「ふっふっふ、ほら、実はここに。」
「……ケーキ。」
「…そうとも言うな。」
「……駅前のケーキ屋さん」
「……いや、実は、これはただのケーキじゃないのだ。」
「………?」
「実は、舞のための、特製、納豆入りケーキなのだっ!クリームをはさんであると見せかけて、実はここに…」
ばきっ
「……ナイスつっこみだ、舞。だが、そのおもちゃの刀はどうしたんだ。つっこみは素手、武器厳禁って言っただろ。」
「……佐祐理が探してきてくれた。」
「…佐祐理さん。オレはあなたが、ときどき分からなくなるよ…」

    …彦星様…

「そういえば、お前、短冊になに書いた?」
「……お願い」
「そりゃ分かってるよ。どんな願い事書いたんだ。ちょっとオレに見せてくれ。」
「……ダメ」
「って言って見るもんね。」
「…人に見られると、かなわなくなる。」
「それは違う話だと思うぞ。どれどれ、ちょっと見せてみろ…」
「………」
「…『ぽんぽこタヌキさん』」
「………」
「…舞…何だこれ。」
「…お願い。」
「これ、どうやったらかなうんだよ。かなったら、どうなる願いなんだよ。」
「……お願い」
「……やっぱり、お前も分からんわ…」

    …お願い、どうか…

「……佐祐理さん、遅いな。」
「………」
「あ、いや、こうして舞が待ってるの、知ってるはずだから、もうすぐ来るさ。心配するな。」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…なあ、舞。」
「………」
「おれたち3人の暮し、いつまで続けられるのかな…」
「……流れ星」
「お、願い事しなきゃ。
って、聞いてなかったな、お前…」
「………」
「…ほんとにお願いしてるし…」

    …どうか、わたしに…

「なんか、遅くなっちゃったな。」
「………」
「…みんな寝ちゃったのかな。ずいぶん静かになったな。」
「………」
「風がちょっと出てきたな。」
「………」
「………」
「………」
「…なんか、こうして風に吹かれてると、あの日を思い出さないか。なあ、舞。おれたちが、初めて会った日のことをさ。」
「………」
「…なあ、舞。オレはあの日から…」
「………」
「…何だよ、急に寄りかかって。いったい…」
「………」
「…なんだ、寝ちゃったのか。しょうがない奴だな。こんなとこで寝たら風邪ひくぞ。」
………」
「仕方ない、ふとんまで持ってってやるから…」
「………」
「…オレの服、しっかり握ってるし。これじゃ、持っていけないぞ。まったく…」
「………」
「まあ、いいか。もうすぐ、佐祐理さんも来るだろうし。」
「………」
「…なあ、舞。」
「………」
「…舞、ほんとに寝てるのか?」
「………」
「………」
「………」
「………お前、眠ってる顔、ほんとに可愛いな。」
「………」
「……舞、今日が終っちゃうよ。つまらない七夕にしちゃったな。ごめんな。」

    …わたしに勇気を下さい。
    恥ずかしくてつぶったこの瞳をあけて
    あの人の顔を見れるように

    わたしがこの手に握りしめてる
    本当の願いを書いた短冊を
    つるすことができるように

    わたしの本当の願い事を
    あの人が見たその時の
    あの人の顔を見られる勇気をわたしに下さい

    織り姫様、彦星様
    どうか、どうかお願いします
    今日という日が終わる前に

<END>
----
……わたし、真琴属性ですけど。
でも、舞はわたしの初めてのシリアスSSの主人公だし。
シナリオとしては1番のお気に入りだしってことで。

…舞属性の方、どうかお許しを。 inserted by FC2 system