それがハッピーバースデー


真琴SS。誕生日企画

では、どうぞ

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それがハッピーバースデー
 

「…思いつかん…」
オレは商店街のまん中で、あたりの店を見回しながら悩んでいた。
というのも…

事の始まりは、真琴のこんな一言だった。
 

『…あたしの誕生パーティーは、してくれないの?』
 

名雪の誕生パーティーの支度をしている時だった。
『今年は賑やかにやりましょう』
そういう秋子さんの言葉に、リビングを飾りつけてながら
なぜかふと、真琴が手を止めたと思うと、オレの顔を見ながら言った、その一言。

思わず、オレは手を止めて
「お前の誕生日って、いつなんだよ。」
「……えっと…」
真琴は頭を抱えると、オレをうらめしそうに見上げて
「…あぅー」
「…覚えてないんだろ?」
オレの言葉に、真琴はしょんぼり床に目を落とした。
その顔が
揺れていた瞳が
ちょっと濡れていて…

だから、こうして、オレはこんなところで、真琴へのプレゼントを考えているわけだが…
しかし、考えてみると、あいつの喜びそうなものなんて、たかが知れている。
マンガか、食い物だな…
「…肉まんかな…」

「そんなものをプレゼントする人は、人間として不出来だと思います。」

声にオレは振り返った。
でも、その声の主が誰なのかは分かっていた。
「…何で不出来なんだよ、天野。」
「そういう後に残らないものは、プレゼントとしてふさわしくありません。そのくらいは、人間ならば知っていて当然です。」
「…へいへい。」
オレは肩をすくめるしかなかった。

でも、こんな正月明け早々、プレゼントに悩む羽目になったのは、天野の一言のせいだろうが…
 

『真琴の誕生日は、真琴が相沢さんに会うために真琴としてこの街に現われた、その日しかないでしょう。』
 

正月、真琴と一緒に初詣に出た時だった。
天野と途中で待ち合わせて、近所の神社でお参りをした。
それから、真琴が占い籤を選んでいる間に、こっそり天野に相談した時に、オレの顔を見ながら言った、その一言。

オレは思わず、天野の顔を見返して
「…何でだよ」
「それしか考えられないでしょう。」
天野はいつもの無表情で、でもオレの目を真剣に見上げると
「真琴が今、ここにいる、それは相沢さんのためです。相沢さんのために、あの姿で現われたのですから。」
「…でも…」
「そして、また還ってきた。他の誰でもない、相沢さんのためですよ。」
「…そうは思わないぞ。」
オレはちょっと顔が赤らむのを感じた。
「…天野や、名雪や、秋子さんにまた会うためもあると思うぞ…」
「…それもあるでしょう。」
でも、天野はしれっと聞き飛ばすと
「しかし、やはり相沢さんのために、相沢さんがこの街に来たのと同じ日、真琴はこの街に現われたのですから。」
「…ホントか?」
オレは天野の目を見つめた。
天野はオレを見返すと、小さく頷いて見せた。
「はい。真琴に以前、初めてこの街に来たのがいつなのか、覚えているか、聞いてみたことがあります。」
「…で?」
「真琴が覚えているのは、相沢さんと出会う3日前のことまででした。」
「オレと会う3日前…」
…オレが真琴と出会ったのは…1月9日。例のスーパーでの襲撃だったな…
「…ということは…1月6日?」
「…はい。」
「1月6日…」
それはオレがこの街に来た日…
オレは真琴の方を見た。
真琴は籤を広げながら、オレたちの方へ急ぎ足で向かってきていた。
「祐一〜これ、なんて書いてあるのっ!」
オレに籤をふりながら、せっかくの晴れ着の裾が乱れるのも気にせずに、うれしそうに走ってくる真琴。
オレと天野は、苦笑しながらそんな真琴を見ていた…
 

「…じゃあ、何にすればいいと思う?」
オレは肩をすくめながら、寄ってきた天野に聞いた。
天野はオレの顔を見ると、ふとかすかに微笑んで
「…それを考えるのは、相沢さんの役目でしょう。」
「…何でだよ。」
「…さあ。」
オレは天野の顔を見た。
天野はオレから商店街へ目線をやった。
その顔は、やっぱりわずかに微笑んでいた。
…思えば、天野がこんな顔をするようになったのも、真琴と友達になってからだな…
オレは天野を見ながら
ふと、そんなことを思いながら
目をまた商店街へとやった。
「…じゃあ…何か、ファンシーグッズかな…」

「真琴、それは喜ぶと思うけど…それ以上に喜ぶもの、あると思うけど?」

声に、オレは振り返った。
でも、その声の主が誰かは分かっていた。
「…何なんだよ、名雪、それは」
「…さあ。自分で考えればいいよ。」
オレは思わず、名雪の顔を見た。

でも、ヒントもなくプレゼントを考えなきゃならないのは、お前の一言のせいだろうが、名雪…
 

『真琴、びっくりさせてあげようよ。ね?』
 

正月明け。
真琴は挨拶に保育所に顔を出しに行った時。
ちょうど名雪が家にいたので、オレが相談した時に、名雪がにっこり笑っていった、その一言。

オレはびっくりして、名雪の顔を見ながら
「…て、どういう意味だよ。」
「だから、真琴に何も言わないで、こっそり準備するの。」
「…びっくりパーティってわけか?」
「うん!」
名雪はうれしそうにかぶりを振ると
「真琴は1月6日が誕生日だなんて、自分でも知らないわけでしょう?」
「…ああ。」
「だから、その日になって突然、祝ってもらえることになったら…真琴、すごく喜ぶと思うよ。」
「…というか、楽しいのはオレたちだけじゃないのか?」
「そんなことないよ。」
名雪はきっぱり言うと、オレにニッコリ笑って
「だから、祐一。プレゼントも、何を買うのか、真琴に知られないようにしなきゃ。」
「…え?」
「だから、『何かほしいものある?』とか、絶対に聞いちゃダメだよ。」
「え…」
「ダメだからね。」
言いながら、名雪はニコニコして…
 

「…ヒント、くれよ。」
「ダメだよ。」
名雪はまたもニッコリ笑って、オレに頷いた。
「…そうですね。」
天野もオレを見ると、わずかに微笑みながら頷いた。
…分かってるんだったら、教えろよ…
オレはため息をつきながら、商店街を眺めた。
雪に覆われた、白い街並み。
白い雪…

「…買ってくる。」
「行ってらっしゃい!」
「…もうすぐ始めますから、遅れないようにしてください。」
二人は頷くと、水瀬家へと歩きだした。
オレは商店街を、目的の店へと歩きだした。
 
 
 
 
 
 
 

「ただいまぁ…」
トントントン
「…誰もいないの…?」
ガチャッ

「ハッピーバースデー!!!!」
パンパンパン
「きゃっ!」
びっくりした真琴の顔。
飾りつけたリビングに、一歩足を踏み入れたまま、呆然と立ちすくんでいた。
「真琴、誕生日おめでとう!」
「…名雪?」
「今日があなたの誕生日だよ。」
「そうです、真琴。あなたがこの街に初めて来た日。沢渡真琴の…誕生日です。」
「…美汐…」
「誕生ケーキ、出来てますよ。それと…肉まんもね。」
「秋子さん…」
みんなを見つめつ真琴の顔が
その瞳が
みるみる涙に濡れて…
「………」
「…真琴?」
「…真琴?」
「…真琴ちゃん?」
「………」
涙が真琴の瞳から
その大きな瞳から
涙があふれて…

「…あぅ〜〜〜〜〜」

くしゃくしゃに泣きながら、真琴は3人に抱きついた。
一歩離れていたオレは
言葉をかけるタイミングを失って
でも、そんな4人の姿を
真琴だけではなく
目に涙を溜めている4人の姿を
後ろ手のプレゼントを握りしめながら
黙って見ていた。
…オレも、思わず、目に…
 

「…鈴かと思ったけどね。」
「…わたしもです。」
「…何か言った?名雪…美汐?」
「何でもないっ!ったく…」
「……?」
「…あー…真琴。」
「なに、祐一?」
「…ほら、これ…」

ふわり
真琴の頭に
白い
白いヴェール…
 

「ずっと、いっしょにいような」
 

「あ…あぅーっ…」
 

ちりん
真琴の腕の鈴がなった。

<END>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です」
…えっと…
「まったく…ここまで凝っては…筋も読めません。」
…だって…真琴だよ?オレの属性だもん…オレの持てるものを全部叩き込もうと…
「だからって、これでは…馴れない技巧に走るからです。」
…あぅー
「…真琴のセリフを取らないように。で、明日はあゆさんの誕生日ですが…」
…うぐぅ…2連続…Key様を恨む…
「自業自得でしょう。さあ、今度はシンプルに書きなさい。」
…はいぃ… inserted by FC2 system