First Love


名雪SS。

では、どうぞ。

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    ねえ、見て
    月があんなにきれいだよ
    まぶしいくらいに光って
    雪もこんなに輝いて

    思い出の月
    思い出の雪
    ずっとずっと前の
    ずっとずっと前から
    わたしはあなたを

    ねえ、祐一…
 

First Love
 

見上げると、きれいな月。
わたしはベランダの手すりを持って、思い切り伸びをする。
明日のテストは…古文と日本史。
もう…どうして嫌いな学科ばっかりなのかな…
…好きな学科があるわけじゃないけど。
そんなこと思いながら、わたしは月を見上げる。
半月よりちょっとだけ、円い月…
きれいな月。
雪が光って…庭が一面、明るくて。
だから…月は好き。
そして…雪も。
 

『…祐一…雪…嫌いなんだよね…』
 

あの思い出も
あの雪も
降っていた
降り積もっていた
わたしの上に積もった雪も
今は好きだから

だって…
 

「…休憩か、名雪?」

振り返る。
その声。
そして、わたしを見ている…

「…うん…祐一も?」
「ああ。」

笑って頷く祐一。
わたしが大好きな顔。
わたしを見てくれる
見ていてくれる顔。

「きれいな月だな。」
「うん。」

見上げる祐一。
月の光に光る横顔。
ぼんやりと月を見て
ちょっと寒そうに立っている。

…こんなこと
確か昔、あったよね…
 
 

『…あれ、祐一?』
『…遅いぞ、名雪。』
寒そうにポケットに手を入れて、わたしを見た顔。
『どうして…』
『…秋子さんに頼まれたから。』
お母さんに頼まれて、お遣いの帰り。
冬の早い日が落ちて、もうすっかり暗い道。
『こんな暗いのに?』
『…だから、頼まれたんだ。オレだって、嫌だったけど、居候の身だからな。』
『祐一…小学生らしくないよ…』
『…さあ、帰るぞ。』
うるさそうに振り向いて、歩きだそうとする祐一。
月明りに見えた顔。
『でも、お母さん…そんなこと、祐一に頼むかな…』
『………』
『ホントに、お母さんが頼んだの?』
『……疑うなら、一人で帰る。』
急に早足になって。
わたし、あわてて追いかけて
『待ってよ〜』
『………』
追いつくと祐一、足を緩めてくれて。
祐一、本当は心配してきてくれたんだ。
わたし…分かったよ。
『……ありがと』
『……何のことだよ』
うるさそうに言いながら、祐一、空を見上げて。
月が光ってた。
半月よりちょっと円い月が光っていた。

祐一
わたしはね
あの時にはもう、祐一のこと…

ううん。
本当は
初めて会った時から
そうだったんじゃないかって

だって
いつから好きだったのかって
思い出せないくらい
本当に前からずっと
ずっと好きだったんだよ。

だけど…
 
 

「なに考えてるんだ?」
「え?」

見たら、祐一、わたしを見ていた。
ちょっと不思議そうな顔。

「…うん。」

わたしは月を見上げる。
あの時と同じ月。
あの冬からずっと
一人で見ていた月。

電話も
手紙も
年賀状さえ届かなかった

寂しくて
悲しくて
一人月を見ていた
一人雪を見ていた
このベランダ

だけど…

だけど
今は…
 
 

「あっ」
 
 

…だから

好きだよ。
この月も
この雪も

だって

抱きしめてくれる
あなたの腕
あなたの唇

そして
 

「…ずっと、一緒にいるよ。」
 

目を開けると

わたしを見つめる祐一。
真剣な顔
すぐそばに

瞳に映っていた。
月が映っていた。
白く輝く月が
月が映っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「愛してる…」
 
 
 
 
 
 
 

月が輝いていた。
雪が輝いていた。
銀に輝いていた。

<END>
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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…これは5000HIT記念の粗品として、おくばせながら山のトマト屋さんに送ったもので…一応、属性の名雪に合わせて書いたもの。
「W.W以来、あなたの名雪さんはこんな感じですね…」
…まあ…ね。ていうか、これは昔書いた"ピアノ曲"という連作の第2作『Clair de Lune(月の光)』の名雪視点って感じで書いたんだけど。できれば、そっちと見比べてほしいなあ、なんて…
「というか、ネタが尽きたので昔のネタを焼き直していると、はっきり言ったらどうなんですか?」
…あぅ…いや、そこまではないけど…頭が回ってないのは確かかな(涙)うう…いい体調と時間がほしいです… inserted by FC2 system