卒業 -My Graduation-

名雪SS。
あさぎりさん競作企画参加作品。

では、どうぞ

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卒業 -My Graduation-
 

    げば尊し   我が師の恩
 

静かな体育館
先生の名前を呼ぶ声だけが
静かに流れる体育館。

わたしは窓の外
春の陽射しの中を
まるで雨のように舞う
桜の花を見つめながら

先生が読み上げる
あなたの名前を聞いた。
 
 
 

『相沢祐一』

『はい』
 
 
 

    教えの庭にも  はや幾年
 
 
 

立ち上がって歩いていく
あなたの後ろ姿
制服姿も今日
これで見ることもない。

通学路を一緒に走る姿
授業を受けている姿

卒業証書を受け取って
帰るあなたの顔

真剣な顔
笑った顔

毎日あたり前のように
見ていたあなたの姿

本当にいつまでも
見られると思っていたのに
 

そして読み上げられる
わたしの名前
 
 
 

『水瀬名雪』

『はい』
 
 
 

    思えば愛おし  この年月
 
 
 

友達の中を歩いていく。
北川くん
香里
みんなそれぞれに別の道
ばらばらになっていくんだね。

だけど
おしゃべりをしたり
遊んだり
勉強をしたり
時には喧嘩もした
そんな思い出たち
わたしたちは一緒に
ここで一緒にいたこと

卒業アルバムよりも
ずっと重い思い出
ずっとずっと愛おしい
わたしたちの思い出

抱きしめて
ずっと抱きしめていたい
そんなわたしの思い出たち

そんな思い出のページ
今は一つの区切り
きっとそれがわたしたちの
卒業なんだね。

だから
 

先生の声が響く。
 
 
 

『卒業生退場』
 
 
 

    今こそ別れ目
 
 

だから

明るい春の陽射し
舞い散る桜の花
まるで雨のように舞う
桜の花びらの中

在校生たちの列を抜け
校門に立って

校舎を振り返る
あなたに

わたしの思い出の年月
7年前の雪の夜
悲しくて
会いたくて
時々泣きながら過ごした年月の
わたしの思い出の

たとえ
答えは分かっていても
あなたの答えは決まっていても
ずっと前から分かっていた
悲しい答えでも

これがわたしの区切り
わたしの卒業式
 
 
 

『祐一』

『わたし、祐一のこと…好きだったんだよ。』
 
 
 

わたしの卒業式
わたしの思い出たちの
 
 
 

『…オレは…』
 
 
 

    いざ さらば
 
 

明るい春の陽射し
舞い散る桜の花
まるで雨のように舞う
桜の花びらの中

わたしは立ち止まり
あなたの背中を見つめながら
立ち去っていくあなたの後ろ姿
わたしは見つめながら
 
 
 

    いざ さらば
 
 
 

さようなら

わたしの初恋
 
 
 

わたしの目の前を
桜の雨が舞った。
わたしの卒業式に
花の雨が舞っていた。
 

    仰げば尊し   我が師の恩

    教えの庭にも  はや幾年

    思えば愛おし  この年月

    今こそ別れ目

    いざ さらば

    いざ さらば

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