Christmas Special
"Merry Christamas for You" 第5話

シリーズ:Dream/Real

では、どうぞ

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翼のない天使の見た夢は

 
 
夢。

夢を見ている。

白い雪。

降り続く雪。

雪の積もった街の中。

駆けていく。

駆けていくボク。

駆けていく名雪さん。

白い雪の街の中

買ったばかりのプレゼントを抱えて

駆けていく

駆けていく…
 

    『早く起きなさい、あゆちゃん。』
 

テーブルに座る。

目の前には丸いケーキ

白いクリーム

赤いイチゴ

黒いチョコレート

そしてたくさんのロウソク。

祐一くんがロウソクに火を

秋子さんが電灯を消して

揺れる炎

揺れる明かり

揺れる

揺れるみんなの顔

にこにこと

笑っている…
 

    『待ってるからな。オレも』
    『わたしも』
    『わたしもですよ』
 

「さあ、食うか。」

祐一くん。

「祐一、食べることばっかり。」

名雪さん。

「電気、つけましょう。」

秋子さん。

ボク。

テーブルの上

ロウソクの火

揺れている

笑っている

みんなの顔が

みんなの…
 

    『みんな、みんな待ってるから。みんな、あゆちゃんを待ってるよ。』
 

「プレゼント、交換しよう。」

ボクが言って

「そんなこと言って、お前、買ってあるのかよ?」

祐一くんが笑って

「わたしと買いに行ったんだよね。」

名雪さんが笑って

「じゃあ、わたしも出しますね。」

秋子さんが振り返って

そして…

    『だから、早く起きてこい。たい焼き、おごってやるからさ』
 

ボクの前

3つの箱

白くて

赤いリボンがかかった

白い箱。

「開けていい?」

「もちろん」

ボクは手を伸ばして

リボンをほどいて

どきどきしながら

わくわくしながら

白い箱

箱のフタを開けて…
 

    『だって、あゆちゃんのこと、みんな、みんな、好きなんだから。』
 

夢。

夢を見ていた…
 

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この話を書いたことで
あゆを消したことで
最終話を書いたことで
わたしは心の平衡を失いました。

この話はわたしの一つの夢でした。
わたしの目指すもの、
シナリオ補完、つまりあゆを名雪シナリオできちんと書いてやること、
それを美しく、痛く、悲しく…優しく描く。
わたしがシリアス系で目指していた全てを満たす物語でした。
そのはずでした。

でも、わたしは破綻した。
わたしには、美しく悲しい物語を、優しく書くことは…
あゆの悲しみを描きながら、そのあゆを消してしまうことは…
あまりにも負担でした。

もう一つのKanonを書くという野望など、本当はどうでもよかった。
わたしはあゆを幸せにしてやりたかった。
名雪シナリオで中途半端に書かれたあゆを、きちんと書く事で
本当はあゆを幸せにしてやりたかった。
そのはずだったのに…

結局、『天使の翼・指切りの指」というわたしにはあまりに悲しすぎる回を
自分で書いてしまっておきながら
わたしはそのことによって平衡を失いました。
そして、Forget me, Forgive meへ、Kanonの冒涜へと落ちていきました…

でも、平衡を取り戻した今…
このわたしの夢は、やっぱり夢でしたから。
一つの、本当に夢見たことだったから。
他の方にとって、この物語、あのエンドがどういう評価なのかは知りません。
ともかく、あのエンドは、あの頃、わたしが夢見た、愚かなわたしが平衡を失うだろうことを自分で予期しながらも、それでも夢見た夢でしたから。
だから、あのエンドを、わたしを破綻させたエンドを、わたしは認めます。
だから…

あのエンドの続きとして、この話を書きました。
これは…現実でしょうか。夢でしょうか。
それは…

1999.12.25 LOTH inserted by FC2 system