Eine Kleine Naght Musik 2&1/2


舞SS。
このSSをウイッツさんに捧げます。
…お好きな例の舞でも、雨でもないですけどね。

そして、Eine Kleine Naght Musik2を見てしまった人に…詐欺師さんのまねー
というか、名前からしてまねー(苦笑)

では、どうぞ

-----

    『あはははーっ、舞、鼻の頭にクリームが付いてますよー』

    『…お前じゃない、そっちの舞だっ!』

    『あはははーっ、いい加減、覚えて下さい、祐一さん。
     こっちが舞で、そっちは舞ですよー』

    『…どこが違うの、佐祐理さん?』

    『……違う。』

    『……そう。』

    『…どこがだよ…』

    『あはははーっ、いいじゃないですか、祐一さん。クリスマスですからー』

    『…何の関係があるんですか、佐祐理さん…』

    『あはははーっ』
 
 

    『…クリスマス…』
 
 

Eine Kleine Naght Musik 2&1/2
 

雪の積もった街並。
クリスマスも終わって、商店街は新年支度。

佐祐理の家からの帰り道。
商店街の街灯。
白く光る雪。
次第に暗くなってくる街並。

暗い空。
月明り。
満月の輝き。

満月。
月の光を浴びて銀に輝く雪明かり。
わたしが幾つもさまよった世界でも
わたしを見つめていた月。

わたしは月を見上げた。
銀に輝く月を。

この月は
わたしが旅立った世界に繋がっている。
この世界
この街
祐一と
佐祐理と
そして

もう一人のわたし。

この世界は暖かい。
雪に覆われたこの街は
暖かいところだ。
さまよっていたわたしを
わたしを殺そうとしたわたしを
暖かく受け入れた
ここは暖かい世界。

だから

わたしは目を落とした。
この世界を見回した。

この世界を
この街を

でも

街灯の中

わたしは立ち止まった。

わたしを待っている
わたしが待っていた

街灯の下に立っている

わたしは出会った。

「こんにちわ。」

長い髪の少女。
見上げる大きな瞳。
そして
頭のうさぎのカチューシャ。

「…こんにちわ。」

少女は笑って頷いた。
 
 
 
 

呼んでいる。
わたしを呼んでいる。

わたしは顔を上げた。
リビングの灯が見えた。
赤い光。
赤い
赤い夕日。

夕暮れの麦畑。
わたしが待っていた場所。
わたしがわたしを狩って
わたしを殺そうとした場所。

いえ
わたしが祐一と出会った思い出の場所。

呼んでいるのは

わたしは立ち上がった。
祐一を見た。
ソファに座ってテレビを見ている
祐一を見た。

「…祐一。」

祐一は顔を上げた。
わたしは祐一の顔を見た。
そして、部屋を飛びだした。
 
 
 
 

オレは舞を追いかけた。
突然部屋を飛びだした舞を。

舞の真剣な瞳
オレを見ていた瞳
揺れていた瞳の奥
オレの姿が揺れていた。

月明りに駆けていく
銀に輝く月の下
駆けていく舞が

幾つも角を曲がり
街灯の下を
明るく
暗く
街を駆けていく

オレは後を追った。
舞を追って駆けていた。
雪を踏みしめて
銀の雪を蹴って
駆ける舞の後ろ姿を
追いかけて走った。

街灯に輝く角
舞の姿が消えて
オレは曲がった
そしてそこに

暗い空を背に、街灯に浮き上がる建物。
昼は生徒たちの声で満たされる、コンクリートの固まり。
校舎。

舞は校門を抜けた。
オレは追いかけた。
校舎に消える舞の姿
オレは追いかけて
通用口を開けて

窓からさしこむ冷たい月の光。
白く輝くリノリウムの床。
かつてオレも通い慣れた
夜の校舎。
その廊下。

舞は立ち止まっていた。
オレはそばに駆け寄った。
月に銀に輝く廊下に
立ち止まっている舞に駆け寄った。

そして舞の目線
廊下の向こうに
月明りに
雪明かりに
銀に輝く廊下の向こう
オレは見つめた。

そこに

舞が立っていた。

「…舞。」

オレの声に、舞はオレを見た。
白く輝くリノリウムの床
銀に輝く月明りに
舞はオレを見つめていた。
その瞳が揺れていた。
揺れているのが見えた。

「…祐一。」

舞のオレを見る瞳が
オレを見つめる瞳が揺れて

銀に輝く月明り
黒く輝く長い髪
髪が揺れて
紺のリボンが揺れて

「…わたしは…」

揺れる瞳が
オレを見つめて揺れている
揺れる
濡れた
瞳が

「…帰るから。」

オレは舞を見つめた。
オレを見つめている舞を。

「…何を言ってるんだ?」

舞は小さく頷いた。
オレを見つめながら
舞の瞳が頷いた。

「…わたしの世界へ。」

「…舞?」

わけが分からなかった。
何を言っているのか。
舞の揺れる瞳しか
オレには分からなかった。

「あなたの世界?」

オレの隣で
舞がつぶやくように
舞に言った。

舞は微笑んだ。

「…さっき、出会ったから。」

「……誰に?」

「…わたしに。」

舞の微笑みが
月明りに浮かぶ
舞の揺れる瞳が

「だから、旅立つの。」

「……舞…」

「今しかないんだって。わたしの世界が隣にある、今しか。」

「ここがお前の世界だろ?」

オレの言葉に舞は微笑んだ。
揺れる瞳で微笑んだ。
舞の揺れる瞳
銀に輝いて

「ここはわたしの世界。でも、わたしの世界じゃない。」

「何を言ってるんだ?」

「わたしには分かる。そして…あなたにも分かる。でしょう?」

舞はオレから目を移して
舞に目をやった。
舞は黙っていた。
舞を見つめていた。
その瞳が
頷いた。

「ここはわたしの世界じゃない。わたしのいる世界じゃないから。」

微笑んでいる舞は
舞の揺れる瞳は
オレを見つめた。
微笑んでいた。

「…祐一。」

「…なんだよ。」

「…ありがとう。」

「…っかやろう!」
オレは駆け寄ろうとした。
舞に駆けよって
その腕を掴んで
しっかりと掴んで
舞の言っていることを
舞の言葉を

だけど

舞がオレの腕を掴んだ。
しっかりと掴んで
暖かい手で
だけどしっかり掴んでいた。

「…舞っ!」

「………」

オレは振り返った。
舞の顔を見た。

舞の瞳が
揺れながらオレを見た。
オレの瞳をのぞき込んで
そして小さく首を振った。

「…何でだよっ!」

「………」

舞は何も言わなかった。
黙ってオレを見ていた。
舞の瞳が揺れて
舞の瞳が濡れて
オレを見つめていた。

オレは振り返った。

「…舞っ!行くなっ!」

「…祐一。」

舞は微笑んでいた。
変わらず微笑んでいた。
だけど

「一緒に…一緒にいるって言っただろっ!オレと…」

「祐一…」

「佐祐理さんと…」

「祐一…」

「そして…」

「祐一…」

「…舞と…お前とっ!」

「祐一っ!」

舞が声をあげた。
叫ぶように言った。
微笑んだその顔が
その瞳が
その瞳から
揺れた瞳から
涙が
あふれて

「…ここはわたしの世界じゃないから。」

「そんなの、誰が決めたんだよ!」

「………」

オレの言葉に、舞は黙った。
黙ってオレを見ていた。
オレを見つめていた。
その目から涙が
あふれ出していた。

「誰が…誰が決めたんだよっ!」

オレの声は廊下に
月明りに輝く窓に
窓の外の雪に消えて

舞は黙っていた。
黙ってオレを見つめていた

オレの腕を掴んだまま
舞は黙り込んでいた。

本当は
オレにも分かっていた。
最初から分かっていた。

ここは舞の世界で
だけど
だから
舞の世界じゃないことは。
ここには舞がいて
だから
舞がいてはいけないことは。
だけど

「誰が…決めたんだよ!」

オレは叫んでいた。

舞は黙っていた。
黙ってオレを見つめていた。
黙ってオレの腕を掴んでいた。

「…楽しかった。」

舞は言った。
あふれる涙を拭きもせず
オレを見つめて言った。

涙が床に落ちた。
銀に輝いて
月明りに輝いて
床に落ちた。

オレの腕に落ちていた。

「わたしは…救われたから。」

舞の言葉
銀の光の中
微笑む舞の顔が

「だから…帰るから。」

「舞っ!」

オレは駆け寄ろうとした。
舞を止めようとした。
オレにはそれしか
それを

舞は離さなかった。
オレの腕を掴んだまま
舞はオレを離さなかった。
離してはくれなかった。

舞の腕は震えていた。
オレを掴んで震えていた。
掴んだオレの腕に
舞の涙が落ちていた。
銀色に輝いて
舞の涙が

「舞っ!」

オレは舞を見た。

舞は笑っていた。
オレを見つめて
涙を流しながら
あふれる涙が顔を
舞の顔を濡らして
でも

舞は笑っていた。

「…ありがとう…」

「舞っ!」

舞の姿が

銀に輝く廊下

月明りの中

雪明りの中

白く輝いて

舞の瞳が

揺れて

「…舞っ!」

オレは叫んだ。

「お前の…お前の世界のオレだって、お前を見捨てたわけじゃ…」

「…分かってるから。」

かすかに声が

舞の声が

舞の姿が

長い髪の

大きな瞳の

頭にうさぎのカチューシャ

オレが出会った。

あの夏の日に出会った

あの夏の日に遊んだ

少女の姿が
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「…ありがとう…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

消えた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

リノリウムの床
わずかに輝く窓ガラス
銀の月の光
銀の雪明り
銀色に輝く
ここは夜の校舎。

そして

オレと舞が出会った

オレと舞が遊んだ

思い出の麦畑。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

腕を掴んでいた
腕が離れた。

オレは振り返った。

そこに

舞がいた。
立ち尽くしていた。
夜の校舎で
銀色に輝く廊下で
月明りの中で

舞が立ち尽くしていた。
涙で顔を濡らして
涙がこぼれて落ちていた。
銀色に輝きながら
涙がこぼれ落ちていた。

オレは舞に手を伸ばした。
舞の顔に
消えてしまった舞と同じ
優しい瞳の
濡れた瞳の
舞に手を伸ばした。

そして

舞を抱きしめた。
舞の長い髪
オレがかつて出会った
あの麦畑で
オレがかつて遊んだ
ここでオレを待っていた
舞を抱きしめた。
舞を抱きしめていた。
 
 

    『舞…』

    『…?』

    『……あなたは…幸せ?』

    『………うん。』

    『………』

    『……あなたは?』

    『………』

    『………』

    『……わたしは、あなただから。』

    『………?』

    『………』

    『………』
 
 
 
 

    『……ありがとう…』
 
 
 
 

<END>

<Back< 元のページ

inserted by FC2 system