晴れた日、ぼくはあの丘で


真琴SS…なのかな。ネタバレあり。
SS100本記念。
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晴れた日、ぼくはあの丘で

×月×日 快晴
ぼくは丘でケガをした狐と出会った。
 

「こらっ!動くな!薬、塗れないだろ!」
じたばた
「…ほら、へんなとこまでベタベタ…動くなってば!」
じたばた
「…ほら、今度は包帯だから。動くと、体縛っちゃうぞ。!
ばた
「……言葉、分かるのか、お前?……そんなはずないか。さ、出来上がり。」
くんくん
「……なんだよ、不満なのか。しょうがないだろ、やったことないんだから。ほどけなきゃ、いいんだよ、こんなの。」
くんくん
「…だから、気にするなってば。」

「……お前、ひょっとして、お腹空いてる?」

「……狐って、何食べるのかな。やっぱり肉かな。」

「……お小遣い、いっぱいもらってあるから、買ってやれないことないけど……ちょっと、冷蔵庫見てくるな。」
すたすた
「…ついてくると、困るんだよ…この段ボール箱に入ってろ。すぐに戻ってくるから。」
どさっ
「……すぐに戻ってくるからさ。鳴くなよ。バレたら困るんだからさ。」
…くぅん
「だから、鳴くなって。すぐ帰るから。いいな?」
バタン
 

「……なにしてるんですか、祐一さん?」
「え?あ……」
「…おやつなら、テーブルの上ですよ。」
「えっと、そうじゃなくて…」
「ジュースなら、出してあげますから。」
「…えっと…そうじゃないんだけど…」
「……祐一さん?」
「…秋子さん…お肉、ある?」
「肉、ですか?今晩のシチューのためのがありますけど。」
「……ちょっと、もらっていい?」
「…どうするんですか?」
「えっ?………あの……近くの犬にあげようかと思って。」
「勝手にやっては駄目ですよ。」
「……うん。じゃあ、いい。」
「あら、おやつはいいんですか?」
「……後で。あ、牛乳だけ、もらっていい?」
「いいですよ。」
「ありがと。」
どたどたどた
「………?」
 

「…やっぱ、今すぐは無理だったよ。後で買ってくるからさ。今はこれで我慢しろ。」
くんくん
「…牛乳だから。毒じゃないぞ。ほら、飲め。」
ぺちゃぺちゃ
「……やっぱり、お腹減ってるんだろ。うーん…肉かな…ドッグフードやキャットフードじゃダメかな…」
ぺちゃぺちゃ
「…買ってきて、やってみれば分かるか。」
ぺちゃ
「…あ、無くなったか。もっと飲むか?」
とくとく
「……よし、やるから飲め。」
ぺちゃぺちゃ
 
 

「…お母さん。」
「なあに、名雪。」
「なんか…最近、祐一、変じゃないかな。」
「どうして?」
「だって…あんまり遊びに行かないんだよ。部屋にばっかり。」
「本を読んでるんじゃないの?」
「祐一の部屋に本なんてないもの。」
「…ふうん。どうしたのかしらね。」
「……お母さんも分からない?」
「ええ。」
「…じゃあ、お母さん。調べて。」
「名雪、心配?」
「……えっと……」
「……ふふっ。分かったわ。」
「…うん。」
 

「…しかし、ひどい話だろ?自分の子供を親戚に置いて、自分たちは二人で出張だとか言って……なあ?」
ぺろぺろ
「あはは、舐めるなって。お前に言っても分かんないか。」
ぺろぺろ
「あはは…お前、だいぶケガ、直ったな。」
ぺろっ
「そういえば、お前の名前、つけてなかったよな。」

「……お前、メスだよな。」
ざざざ
「…逃げるなよ。分かったから。」
そろそろ
「……真琴………なんてな。」

「……ははっ、なに言ってんだろ。」

「…前も話した…よな。沢渡…真琴って……ぼくの、好きな子、なんだけど。」

「……まあ、あっちはぼくのことなんて、全然知らないんだけど。」
…くうん
「…ま、いいか。どうせ…もうすぐお前とも…」

「…もうすぐ、帰らなきゃならないし…」
…くうん
 

ちりんちりーん
「…さあ、買い物に行かなくちゃ。」
ちりんちりーん
「………」
とたとたとた
「……きゃっ!」
とたっ
「……き、狐?」
ちりんちりーん
「…鈴?」
ちりーん
「……あなた、鈴が好きなの?」
ちりーん
「…あらあら。困ったわね。」
ちりーん
「……ふふっ。祐一さんね。こんな可愛い子、隠してたのね。」
ちりーんちりん
「…でも、困ったわね。これじゃあ、買い物に行けないわ。」
ちりーん
「……困ったわね。」
ちりーん
 

「………」
ぺろぺろ
「……明日…お別れだ。」
ぺろ
「……明後日、帰らなきゃ。」

「……お前の傷も治ったし。お前にも、親、いるだろ。帰らなきゃな。」
…くうん
「…うれしいだろ。こんなとこに閉じ込められてるよりさ。な?」
…ぺろぺろ
「あはは、やめろって。」
ぺろぺろ
「……今夜、一緒にベッドで寝るか?」
ぺろぺろ
「…ばか、やめろって。お前、分かってるのか?」
ぺろぺろ
「………お前…分かってるのかよ………」
ぺろぺろ
 
 

ざざーー
「…このへんでいいか。」

「……ここでお別れだ。さあ。」
すたっ
「……じゃあな。」

「…どっか行けよ。」
…くうん
「…早く行けったら。」

「…お前が行かないんなら…ぼくが行くぞ。」
ざっざっざっ
「……見るなよ。」

「……見てないで、どっか行けよっ!」

「……どっか行けったらっ!!」

「……行けったらっ!!このバカ狐!!」
………くうん…
「……行けよっ!!お前なんか、どっか行っちまえ!!どこへでも…どこでも行っちまえっ!!!行っちまえっ!!!」
ざざざざーー
 
 

ぱたん
「………」

「………」

「………」

「…帰る用意、しないと。」

「……この箱、片づけないとな。」
がさがさ
「………」
がさ
「………」
ぽつん
「……っう…」
ぽつん
「………っくっ…」
…ごしごし
「…………」
…ぽつん
「………っくう…」
…ぽつん…ぽつん…
 
 

×月×日 快晴
ぼくは丘で狐とお別れをした。
あいつは最後まで
最後までぼくを見ていた。
ぼくを見ていた。
 

そして、たくさんの時が流れた。

そうして、オレは、またあいつと出会う。
この街で。
あの丘で。

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わたしがこの子に惚れ込まなければ
わたしがこのシナリオに惚れ込まなければ
わたしがこんなにSSを書く事はなかった。
だから、これを書きました。
原作、壊してるかもしれないけど。

数本は過去ログの中、1本は消去・封印して、
でもこの掲示板に90数本のわたしのSSがある。
全部足してもたったの500KB余り。
多いようで少ないようで。

なんでわたしはSSを書いてきたのだろう。
なんでわたしはSSをこれからも書くのだろう。
わたしにもよくわかりません。
だけど……
……わたしはまた、101本目を書いてしまうでしょう。

これからも、どうかよろしくお願いいたします。

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