『遠い処から還ってきた少女』
第ニ部 〜World of Chance〜(後編―OUT SIDE―)
決めたっ。
あたしはあの森の中、大きな切り株のある場所へ戻ってみることにした。
もしかしたら祐衣と一弥――クソガキの方――が居るかもしれない。
そしたら、ちょっと安心できる。
そうじゃなくても、あの場所に戻れば何か分かるような気がする。
……何となくだけど。
とにかく、もうワケが分からないのはたくさんっ!
クソガキ一弥が病院の一弥で、祐衣のお父さんが祐一で……
あぅーーーっ!!!
誰が誰だか分かんないのは、もうイヤっ!!
何処にいるんだか分かんないのも、もうイヤっ!!
祐一に会えないのは、もうイヤなのよぅーーーっ!!!!
…………心の中で叫んでみたら、ちょっとだけ気が楽になった。
だって……本当は…怖いから。
このまま戻って……お家がなかったら……祐一がいなかったら……。
考えたくない。
だから、あの場所へ戻ってみる。
何かが、きっとあるような気がするから。
何故だかは分からないけど……。
「……さん………真琴さん」
あぅ?
「………真琴さん」
気が付くと、一弥――クソガキじゃない方――が袖を引っ張りながら、あたしの名前を呼んでいた。あぅ……あたし、また自分の世界に入っちゃってた?
「ご、ごめんねっ。ちょっと考え事してたから、気が付かなかったわっ」
あたしは心配そうにこちらを見つめる一弥に微笑みかけながら、言葉をかけた。
「……真琴さん、すごく悲しそうな顔してた」
「あぅ……そ、そんなコトないわよぅ」
……きっと、また泣きそうな顔してたのね………。というか最近子どもに慰められてばかりね、あたし……。
ちょっぴり情けない気持ちになったけど、心配してもらえるのは悪くない気分だった。
だからあたしは、元気よく一弥に別れの挨拶をする。
「ねえ一弥っ! あたしちょっと行くトコがあるのよっ。だから、もう行かなくちゃ。ごめんねっ、また遊びに来るからっ」
「………………………」
予想してたコトだけど、思いっきり泣きそうな顔になってしまった一弥を見て、あたしの胸はズキズキと痛んだ。
一弥がどのくらい病院暮らしをしてるのかは知らなかったけど、いくらお菓子がいっぱいあったって、こんななんいもない処にずーっと居るのはつまらないに決まってる。というかあたしならゼッタイ3日も我慢できないわ……。
「…………一緒に……」
「あぅ?」
……いつの間にか一弥が真剣な顔つきであたしを見つめている。なんだろ?
「……一緒に、行っちゃ……ダメ?」
「え、ええっ!? な、何言ってんのよぅ、ダメに決まってるじゃないっ」
いきなりのとんでもない申し出にあたしは慌てる。
「だ、だいたい、あんたさっき廊下でふらふらだったじゃないっ。あたしの行くところは山の中で、もうすっごく険しい道をいっぱい歩かなくちゃならないんだから、絶対ムリよぅ……」
「…大丈夫……がんばるから」
……ヤバイわ…この子本気みたい。
がんばれば大丈夫って問題じゃないような気がするし、もし途中で倒れちゃったら、あたしにはどうすることもできない。どう考えたって連れてなんかいけないわよぅ。
「…………お姉ちゃん」
「…あぅ?」
「……お姉ちゃんが……泣いてるの…」
あぅー、いきなりお姉ちゃんが泣いてるって言われても……いきなりなんなのっ?
「……泣いてるから……僕がなんとかしなくちゃ……だから……」
「ち、ちょっと待ってよっ。お姉ちゃんが泣いてるのとあたしについて来るのと何の関係があるのよっ」
一弥はますます思いつめたような目で、あたしの顔を真っ直ぐに見つめてくる。なんだか迫力負けしそうな勢い。あぅ〜、でも………やっぱダメよぅ。
「真琴さんの……行くところが見えたんだ」
「……へ?」
「森の中に……切り株があって……すごく静かで……」
「……………………………………」
な、な、な、なによぅ、この子っ。なんでそんなコト分かるのっ!?
「……そこに行けば……お姉ちゃんが笑ってくれるような気がするんだ……」
……この子ヤバイわっ。なんだかわかんないけど、とにかく尋常じゃないわよっ。
あたしは無意識にドアの方へと後ずさり始めていた。目の前のちっちゃな一弥が、なにかお化けみたいに思えてきた。
でも…………。
「わ、わかったわよぅ。一緒に連れてってあげるから」
「ほ、ほんとっ?」
…………アレ?
さっきまでの思いつめた顔から打って変わって、満面の笑顔になった一弥を見つめながら、あたしは自分自身の言葉に驚いていた。こんなに冷や汗が出るほどビビってるのに、なんで一緒に連れてくなんて言っちゃうのよっ!!
「その代わり、疲れた、なんて言っても置いてくからね。あたしには時間が無いんだから」
「う、うんっ。僕がんばるからっ」
一生懸命に頷く一弥。そこから痛いほどの真剣な思いを感じて、あたしの心は、ゆっくりと自分の発した言葉を理解し始めていた。
………あたしも、この子が一緒に行ったほうがいいと感じている……。
理由はない。でもそれが正しいことのように思えた。
あのクソガキと同じ名前の男の子が、あたしを祐一の元へと連れて行ってくれる……。勝手な思い込み、あたしも一弥と変わんないみたい。
それでも、心はすでに決まっていた。
もし後で病院の人に怒られたら、祐一と一緒に謝ればいいし……それにこんな辛気臭い病院の中にずっといるより、外の空気を吸ったほうが一弥にとってもいいはずよっ。
心の中でいくつかの言い訳を用意してから、あたしはニッコリと笑って一弥に声をかける。
「さあ! そうと決まったらさっさと行くわよっ、一弥っ! 暗くならないうちに帰ってこなくちゃいけないんだからっ」
最初に出会った時よりも、随分と元気そうになった一弥も、笑みを返してくる。
「うんっ。ありがとう、真琴さんっ」
あたしたちは、白い病室を抜け出した。
1階の正面玄関まで来た時、あたしは何か重大なコトを忘れてるような気がして足を止めた。怪しまれないようにパジャマから私服に着替えた一弥が、問いかけるような視線を向けてくる。
「……どうしたの?」
「あぅー、な〜んか忘れてる気がするのよね。……なんだろ?」
「……忘れ物?」
「え〜っと………まあいいわっ。思い出せないんだから、きっと大した事ないのよっ」
「………うん」
「さあ、急いで行くわよ一弥っ。看護婦さんなんかにバレないようにしなさいよっ」
「…うん、わかったっ」
正面玄関の自動ドアが開いて、あたしたちはようやく外に出られた。一弥にとっては、たぶん久しぶりの外なんだろう………って、
「………さ、寒いっ!!」
ムチャクチャ寒かった。ココに来る時には全然感じなかったのに……急に気温が下がったのかな?
あたしの隣りに立っている一弥は、厚手のセーターを着込んでいるせいか全然寒くはない様子で、久しぶりの空の下に戸惑うかのようにキョロキョロと辺りを見回している。
そんな一弥をうらやましそうに見ながら、あたしは両腕で身体をかき抱いて………自分が上着を着てないことに気が付いた。
あぅ? あたし上着どうしたんだっけ? さっきまで着てたような……って、あーーーーーーっ!!!
「あうーーっ!! 栞よ、栞っ! すっかり忘れてたわっ!!」
「ま、真琴さん?」
いきなりの大声にびっくりして目を白黒させる一弥。
「か、一弥っ! 忘れ物思い出したから、ちょっと行ってくるわっ! 悪いけどここで待っててっ」
「う、うん……」
「病院の人に見つかんないように端っこの方に隠れてなさいよっ、いいわねっ!」
何がどうなっているのかわからずオロオロする一弥を置き去りにして、あたしは病院の中へと駆け戻っていった。
「ご、ごめんっ、栞っ! ……ま、待った……よね?」
息を切らせながら戻ってきたあたしを、恨めしそうな視線と膨らませた頬が出迎えてくれた。
「………真琴さん、ひどいです〜」
すっかり拗ねきった顔の栞が、あたしの上着を膝の上に載せて長椅子に座っていた。
「ご、ごめんねっ。ちょっと色々あって……わ、忘れて帰ろうとなんかゼッタイしてないからねっ」
「………忘れて帰ろうとしてたんですか?」
「あぅ……」
冷ややかな視線を思いっきり受けながら、あたしは自分の正直さを恨んだ。どうやら栞は完全にへそを曲げてるみたいだ。ここはとにかく謝り倒さないと。
「あぅ〜…ごめんっ、ホントにごめんっ。許してっ、ねっ?」
「……………………………………」
栞は頬を膨らませたまま、両手を合わせて拝み倒すあたしをしばらく睨み続けて、それからふぅっと息を吐いて、ようやくニッコリと微笑んでくれた。
「罰として……アイスクリームご馳走してくださいっ」
「うん、わかったっ! もうアイスでもなんでも奢ってあげるからっ」
「わ、嬉しいですぅ〜」
………な〜んか、うまいことやられた気がするのは気のせい?
釈然としない気もしたけど、それ以上に栞が笑ってくれたのがうれしかったから、あたしの心も浮き立った。
「じゃあ、帰りましょう、真琴さんっ。帰り道においしいアイスクリーム売ってるお店があるんです〜」
………あぅ〜、やっぱりうまいことやられてる…。
あたしはちょっぴり苦笑して、でもそんな栞がかわいく思えたから、そんな事はどうでもよくなって……、
「よぉーーしっ!! じゃあ、アイス食べに行くわよ、栞っ!!」
元気良く栞に向かって言葉をかけた。
「はいっ!」
栞の返事も、うれしくなるほど元気が良かった。
「……あ、真琴さん」
あたしと栞が両院から外に出ると、建物の陰から一弥が駆け寄ってきた。
「あぅ……一弥?」
しまったっ! 今度はこっちをすっかり忘れてたわっ!!
あたし、もしかして健忘症とかいう病気なんじゃ……。こ、今度祐一と一緒に診てもらいの来た方がいいかな……って今はそんな事言ってる場合じゃないわね。
あたしは右側にいる栞と左側にいる一弥をキョロキョロと見比べながら途方に暮れた。
「真琴さん……この人誰?」
「誰ですか? この男の子」
あぅー……どうしよう。早くあの森に行きたいし、栞も送ってかなくちゃならないし……。
「………真琴さん」
「真琴さん〜」
う〜ん、う〜ん、う〜ん………。
「えぅ〜、また固まっちゃってます〜」
「あぅっ?」
栞の困り果てたような声で、あたしは我に返った。
「し、栞……あのさ……」
「はい?」
「すっかり忘れてたんだけど……あたし、これから行かなくちゃいけないところがあるのよ……」
「…………え?」
栞には本当に悪いと思ったけど、一弥を長い間外に連れ出しているのはヤバイような気がした。
「ご、ごめんねっ。今度ゼッタイにアイス奢ってあげるから……」
「そ、そんな、ひどいです〜……」
心の底から残念そうな顔をした栞。あたしの胸がズキズキと痛む。
「ごめん、本当にごめんっ」
「………………どこに行くんですか?」
「へ?」
「どこに行かなくちゃならないんですか?」
さっきの拗ね顔に戻った栞が、恨みがましい声で問い詰めてくる。……ちょっとコワイ。
「え、えっと……あっちの方にある森に……ちょっと、ね」
「……何しに行くんですか?」
「あぅ……なんとなく、ちょっと……」
あたしはしどろもどろになりながら答える。よく考えたらまともな理由なんてないじゃない。
「……この子も、一緒に行くんですか?」
栞がちらりと一弥の方に視線を向ける。一弥はオドオドしながらあたしと栞を見比べている。
「うん……なんとなく成り行きで……一緒に行くことになっちゃったから…」
「……………………………………」
栞は俯き加減で何事か考えてる様子。全身から発散される無言の圧力がコワイ……。
「……じゃあ、私も一緒に行きますっ」
「……へ?」
「だから、私もその森に行きますっ」
ニコニコとした笑顔になった栞が、とんでもないことを言い出した。
「そ、そ、そ、そんなのダメよっ。あそこは山の中で、もうすっごく険しい道をいっぱい歩かなくちゃならないんだから、絶対ムリよぅ……」
なんだかちょっと前に喋ったような台詞を繰り返すあたし。一弥だけでも不安なのに、栞も一緒なんてヤバ過ぎるわよっ。
「その子が行くんだったら、私も大丈夫ですよっ」
「あぅ……」
確かに一弥よりは栞の方がずっと元気そうに見える。……痛いトコ付いてくるわね…。
「…わ、わかったわよぅ。でも疲れたなんて言っても置いてくからねっ」
あたしは覚悟を決めた。こうなりゃ、もうひとりたってふたりだって変わらないわっ!
「はいっ、大丈夫ですっ。そしたら帰りにアイスクリーム食べられますねっ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ栞の姿を見ながら、あたしは小さく溜息を吐いた。
……なんでこうなっちゃったんだろ?
あたしは、再びあの森へと向かった。今度も男の子と女の子を1人ずつ連れて……。
「そう言えば……この子は?」
しばらく無言で歩いていた栞が口を開いた。
「あ、そういえば紹介がまだだったわね。この子は一弥。さっき病院で知り合ったの」
「一弥……くん。えと…私は栞っていうの。よろしくねっ」
あたしを挟んで反対側を歩く一弥に向かってニコッと微笑みかける栞。一弥もわずかに口元を緩めて、微笑み返す。なんだか、ちょっと疲れたような顔をしている。
「……けっこう歩いたけど、大丈夫? 一弥っ。疲れてない?」
「……うん、大丈夫」
「疲れたらちゃんと言うのよっ。……べ、別におぶってなんかあげないけどねっ」
「……うん、平気。……ありがとう、真琴さん」
「あ、あたしは何もしてないわよぅ……そ、それより一弥っ、あんたのお姉ちゃんってどんな人なのっ?」
「……え? ……お姉ちゃん?」
「そう。さっき泣いてるっていってたじゃない」
「……うん。お姉ちゃんは……僕の所為で……泣いてるの」
「へ? あんたがいると泣いちゃうの? …もしかしてあんた、お姉ちゃんをいじめてんのっ?」
「……違うよ。僕がいると……お姉ちゃんは悲しむんだ……」
「あぅー? なんのことだかさっぱりわかんないわよぅ」
「僕が元気じゃないから……お姉ちゃんは………いつも泣いてるんだ」
「あぁ、そういうことっ。それなら早く元気にならなくちゃダメじゃないっ」
「……………うん」
「それにしても、いつも泣いてるって……お姉ちゃん泣き虫なのねっ」
「……涙は出てないよ。でも……泣いてるの…」
「ふ〜ん。よくわかんないけど、とにかくあんたが元気になればいいんでしょ? だったら、もっとがんばらなくちゃっ」
「………うん、がんばるよ……」
「……あ、あの〜」
躊躇いがちな声が聞こえて、あたしは反対側に向き直った。そしたら、栞がものすごく不思議そうな顔をしてあたしを見つめていた。
「あぅ? どうしたの、栞?」
恐る恐るといった感じで、栞が口を開く。
「あの〜……真琴さん、さっきから誰と話してるんですか?」
……え? 何? 栞はいったい何が言いたいんだろう?
「一弥と話してるに決まってるじゃないっ。何おかしなこと言ってんのよぅ」
「…や、やっぱりそうですよね。……でも一弥くん何も喋ってないのに、真琴さんひとりでどんどん話しかけてるから……何か変な感じで……」
「何言ってんのよぅ。一弥だってちゃんと喋ってるじゃないっ。もしかして声が小さすぎて聞こえなかった?」
「そ、そうですねっ。あはは……聞こえなかっただけですよねっ」
納得したようなしないような複雑な表情の栞が曖昧に笑った。あたしはなんだかちょっと背筋が寒くなって、慌てて一弥の方に振り向いた。一弥が消えてそうな気がして怖かったから……。
一弥はさびしそうな笑顔で、それでも確かにそこに居た。
「い、急ぐわよっ、2人ともっ」
あたしは両手でふたりの手を掴んで、足を速めて歩き出した。
またしても、得体の知れない不安が、頭の中を渦巻いていたから……。
そうして、あたしたちは森の入り口にまでやって来た。
すでに日は高く、このままだと日が沈む前に帰って来れるかわからなかった。でも、ここまで来てあきらめるのはイヤだったから、あたしたちは急いで森の中へと入っていった。
「大丈夫、一弥っ?」
「……うん……平気…」
「栞は? 疲れたりしてない?」
「だ、大丈夫です〜……」
木々の生い茂る森の中を歩くのは、さすがに2人には辛いようだった。1人は入院中、1人は病院通いなんだから当たり前だった。
時間はどんどんと過ぎていく。このままだと確実に帰りは真っ暗になってるハズだ。
おまけに、なんだか霧が出てきたみたいで、ちょっと前の景色さえ、ぼやけて見えなくなってきた。
………あぅ〜、ヤバイわよぅ……。
それでもかなり森の奥まで入り込んでるから、今さら引き返しても仕方がなかった。
「も、もうちょっとだからねっ! 2人ともがんばってねっ!!」
2人を励ますために、そして自分自身の不安な気持ちを振り払うために、あたしは大声を張り上げた。
「………うん」
「はい……がんばります〜」
決して話されないように、繋いだ2人の手をしっかりと握りしめながら、あたしは前に――あの切り株のある場所へと進んでいく。
霧はどんどんと濃くなり、しばらくすると隣りにいるハズの栞や一弥でさえ、ぼやけて見えるようになってきた。
………あぅ〜、なんでこんなに霧が出てくるのよぅ…。
2人は疲れ果ててきたのか、口を開かなくなった。あたしも泣きそうだったから無言になって、ただ繋いだ手のぬくもりだけを支えに歩き続けた。
そして―――――
「あぅっ!!!!」
「きゃうっ!」
「あっ!……」
あたしは木の根っ子か何かにつまづいて、思いっきりに転んでしまった。
生き物のように絡みつく霧のせいで、足元すら全く見えなくなっていた。
「あぅ〜、痛い〜……って、栞っ!、一弥っ! 大丈夫っ!?」
しっかりと繋いでいた手は、転んだ時に離れてしまった。
真っ白な霧が、2人の姿を隠していた。
「栞ーーっ!! 一弥ーーっ!!!」
あたしは絶叫する。1人になるのは堪らなく怖かった。
「……真琴……さん」
「真琴さーんっ、何処ですかーーっ」
2人の声が聞こえた。すぐ近くにいると思っていたのに、かなり遠くからの声に感じられて、あたしの心の中の不安がどんどん広がっていく。
「栞っ!! 一弥っ!! 今行くからっ、そこでじっとしててっ!!!」
「真琴さん……怖いよ…」
「何も見えないですーーっ」
あたしは四つん這いのまま、這うように動いた。声のする方向に向かって、一心不乱に進んでいった。
でも…………
「真……と………さ〜……ん……」
「怖い………早く来て…………い〜」
声に向かって進んでいるハズなのに、
泣きながら、一生懸命近づこうとしているのに、
どんどん2人の声が遠ざかっていって………。
気が付いたら、あたしは真っ白な世界で、ひとりぼっちになっていた。