“夜明け”
「よう」
後ろから、声が聞こえた。
「はい」
私は、その声に応える。
「何やってんだ?こんなところで」
振り返る。
そこには、相沢さんがいた。
「それは、お互い様でしょう?」
「……確かに、そうだな」
そうして、相沢さんは私の隣に腰を下ろす。
そのまま、草の上に寝転がる。
「相沢さんは、どうしてここへ?」
相沢さんは意外そうな顔をする。
「何でそんなこと聴くんだ?」
「いえ、別に……」
「なんとなく、だよ」
「そう、ですか」
「天野こそ、どうしてここへ?」
「なんとなく、です」
その言葉に、相沢さんは弾かれたように笑い出した。
「はははは、そうか、なんとなくか」
「ええ、なんとなく、です」
何故笑っているのかわからなかったが、何だか私も楽しくなって一緒に笑った。
風の音と、二人の笑い声が辺りに響いた。
空は、綺麗なグラデーションを描いていた。
その空を、ただ二人で眺めながら時間が過ぎる。
穏やかな風が丘を流れていた。
その風にただ身を任せて、私は瞳を閉じた。
「相沢さん」
呼びかけてみる。
返事はない。
「相沢さん?」
もう一度、呼んでみる。
やっぱり返事は無かった。
顔を近づけると、すーすーという寝息が聞こえてくる。
私は、苦笑する。
「こんなところで寝ると、風邪を引きますよ」
そう言って、相沢さんの顔を覗き込む。
子供みたいな寝顔。
無邪気な、そして無防備な。
いつも見せている表情とは全然違う。
そっ、と相沢さんの頬に触れる。
暖かい。
「ん……」
わずかに相沢さんが身じろぎする。
そんな様子に私は、くすり、と微笑んだ。
ふと、辺りを見回す。
誰もいない。
当たり前だ。
思わずまわりを見回してしまった自分に苦笑する。
と、同時に自分が何をしようとしているのか、ということにも。
「ごめんなさい、真琴……」
そう呟いて、相沢さんの隣に寝転がる。
相沢さんの体に額を押し当てる。
――今だけ、今だけだから――
暖かい、そして懐かしいぬくもりを感じながら、
私は、瞳を閉じた。
音が聞こえる。
吹き抜ける風。
ざわめく木々。
相沢さんの――鼓動。
様々なものに宿る音が、ハーモニーを奏でて私の心に染み込んでいく。
悲しいわけじゃない。
なのに――頬が熱かった。
悲しくなんか、ないのに。
私は、落ちていく
優しい、優しい眠りの中へ。
目を覚ますと、辺りは暗かった。
相沢さんは、まだ眠っている。
そろそろ起こした方がいいだろう。
そう思って、声をかけようとしたとき――
「まこ、と……」
声が聞こえた。
小さく、か細い声が。
流れ落ちるひとすじの涙。
私は、不意に悟った。
この人も、私と同じなんだ。
私の瞳からも、涙がこぼれた。
相沢さんの瞳が開く。
私に焦点があわさる。
「みし、お……?」
私は、相沢さんを抱きしめて、その額にキスをした。
私の腕の中で、相沢さんは瞳を閉じ、力を抜いた。
言葉はいらない。
そのまま、私たちはそこにいた。
夜明けまで、ずっと。
そして――
太陽が昇り、私たちに――
光の粒が、舞い降りる。
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どうも、美汐SS「夜明け」でした。
香里「タイトルがいまいちね……」
ぐっ、気にしていることを……
香里「ところで「名雪失恋シリーズ(仮)」は?」
……まだ、全然。
香里「とっとと書くっ、それでは」
また。
香里「しーゆー♪」