『卒業』について


あゆです。
これは詐欺師さんのあゆ。
美しい、天使のように、現実のものでないように美しいあゆ。

同じ頃、わたしは『Dream/Real』を書いていました。
こちらはあゆがかぶりました。
でも、わたしのあゆは泥臭い、泣き叫ぶあゆだった。
だけど、祐一は…やっぱり完璧にかぶりました。
わたしの、例によってしつこく、これでもかこれでもか、という描写に比べ、
簡潔にして行間に雰囲気漂う素晴らしい表現で書かれた祐一の心情。
…書いてみたいです…書けないけど…書けないからこそ…

この作品に書かれたあゆが、あまりにきれいだったので、わたしは危うく引っ張られました。
でも、わたしのあゆは泥臭いあゆとして書き切らなきゃならなかったから。
一生懸命、この作品を振り払いました。頭の中から締め出そうとした。

でも、できるはずはなかった。
結局、この話のあの美しいラストシーンが頭から離れず、わたしのちょうど同じ頃に書いていた
『天使の翼・指切りの指』という回、クライマックスというべきシーン、ここが…変化しました。
指切りは、最初は考えてなかったんです。
元々、この回の題名は『天使の翼・天使の涙』と仮に決めてあったんです。
あの天使の人形をメインのモチーフに使うつもりだったんです。
でも…もっと美しいシーンで、書かなきゃならない、そんな気になって。
そして、最後の願い…それを…指切りにしました。
それしか考えつかなかった。

その意味で、このシリーズがあったからこそ、『Dream/Real』はある意味で書き切れました。
あそこでは、やはりあの指切りは必要だったから。
書いてみて、それは痛切に感じました。

でも、あれはわたしにはあまりに美しく、悲しいシーンでした。
わたしは書きながら、泣いていました。
あの『わたしがあなたに出会うまで』の『夢の跡』の回のように、泣いていました。
消えてしまう、わたしが消しているあゆを思って、わたしは泣きながら書いていました。
だから…

それ以降は、『Dream/Real』の解説をご覧ください。
わたしは平衡を失った。それだけ言っておきます。

そのくらい、この作品のわたしへの影響は大きかったのです。

そして、同時にこの作品の美しいあゆ、これが…あの『Forget me, Forgive me/Fairy Tale』のエゴイスティックな、
でも現実味のない美しさを持った小さな羽を持った天使を、あゆを産み出しました。
少なくとも、そのオマージュのような気持ちで書きました。
『Dream/Real』で泣き叫んだあゆへのオマージュ。
そして、この美しくも悲しい『卒業』のあゆへのオマージュ。
同時に、同じく詐欺師さんがわたしに捧げてくれた『TRUE LIES』の、泥臭いあゆへの。
醜い栞への、そしてこれらのオマージュとしてのあゆへのファンタジーの花束。それが…あの作品でした。

でもね、詐欺師さん。
あなたはあのあゆが、この作品のあゆへのオマージュになっているって言ってくれたけど、
でも、わたしにはこのあゆにはもうオマージュは必要ないと思います。
この作品のあゆは…あなたのあゆは…天使のように美しかった。わたしが嫉妬するほどに。
だから…このあゆのオマージュという言葉は…わたしの一時預かりということにしておきますね。
いつか、必要だと感じるなら、あなたの手でオマージュを書いてあげてください。
わたしのあのF.F/FTでは…とうていオマージュたりえないと思うんですよ。あなたのあゆにはね。
そう思ってくださるのは、本当にうれしいけど…
わたしでは、無理だと思うんです。わたしの『Dream/Real』のあゆのオマージュとしてはともかく。
その上、あの頃のわたしの平衡を失った心で書いたあの作品では…
本当にうれしいけど、でも…そうなんですよ。多分。
だから…一時預かりしておきます。
でも、預かるだけでも光栄な、そんな作品です。
 

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