ハッピーエンドじゃ終わらない  −名雪−
 

(注1) 名雪END後の話です。

(注2) あゆ、名雪のネタばれあります。

(注3) No.16440 『ハッピーエンドじゃ終わらない  −あゆ−』を、まず読んで下さい。
     後々のために(謎)

===================================
 

『俺は名雪のことが本当に好きみたいだから』
 
 

さっきまで、お母さんの事を考えていて流れていた、悲しい涙が
 
 
 

いつのまにか、嬉し涙に代わっていた。
 
 
 

私の目の前に小さな私が雪ウサギを持って立っている。
 
 
 

『祐一待ってるよ、あの場所で。早く行ってあげてね』
 
 
 

小さな私は、雪ウサギを私に渡すと、スッと消えた。
 
 
 

私は、着替えてあの場所へと向かった。
 
 
 

7年前は私が・・・そして今は祐一が待っているあの場所へ
 
 
 
 
 

************************************
 
 

あれから数ヶ月が経った。
もうすぐ夏休み。
珍しく、歩いて学校へと向かう私と祐一。
 
 

「今日も暑いな〜」
「うん。今日の最高気温、33度だって」
「げ、ここは北国じゃなかったのか?」
「北国でも暑い時は暑いよ」
「詐欺だ。誇大広告だ」
「祐一、人聞きの悪いこと言わないでよ〜」
「というわけで、今日の百花屋は名雪のおごりな!」
「というわけで、じゃないよ」
「じゃあ、『じょ』」
「まったく関係無いよ〜」
 
 
 

祐一と付き合うようになったと言っても、実際は以前と同じ、こんな感じだった。

でも、いざというとき、祐一は優しい事を知っているし、
何も無い平穏な日常こそ、何より大切だという事が、お母さんが事故にあった時
分かったから…今の私は幸せだった。
 
 
 
 
 

だから、思い出さなくてもよかったんだ…
 
 
 
 
 
 

昔の悲しい出来事なんて…
 
 
 
 
 
 
 
 

************************************
 

「で、どこに行く?」
「百花屋」
 ぺちっ
「いたいよ〜祐一〜」
「夏休みに海に行くときの水着を買いに行くんだろ?百花屋に行ってどうする」
「ほんの冗談なのに〜」
「目がマジだったぞ…」

夏休み前、最後の日曜日、私と祐一は水着を買うために家を出たところだ。

「この辺はあまりいいのが売ってないから、隣町のデパートに行かない?」
「まあ、いいけど」
「じゃあ、いこ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

駅に向かう途中、『あの場所』を通る。
どちらからともなくベンチに腰掛ける。
黙ったまま座っている二人。
その表情は、嬉しそうな…恥ずかしそうな…懐かしそうな…悲しそうな……
 
 
 
 
 
 
 

沈黙を破ったのは名雪だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ねえ祐一…」
「ん?」
「一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「7年前…祐一って何で落ち込んでたの?
 お母さんに聞いてもずっと教えてくれなかったし…」
「え?…」
 

そのまま祐一は固まってしまった。
まるで、思い出しては行けない何かを思い出してしまったかのように…
そして…
 ダッ!
今二人が歩いてきた道を走って戻っていった。
 
 
 

「祐一!?」

私は祐一を追いかけた。
 

全力で走っているのに…
 
 

祐一との差がだんだん開いていく…
 
 
 

祐一の背中がだんだん小さくなっていく…
 
 
 
 

************************************
 
 

祐一を追いかけて、着いた所は…私達の家。
玄関のドアは開けっぱなし。
祐一…どうしちゃったの……
 
 
 

家に入ると、祐一の声がする。
 

「秋子さんっ!あゆは…あゆは生きてるんですかっ?」
 

あゆちゃん?
 

「……思い出したんですか?」
「ええ…さっき…名雪に七年前の事を聞かれて…」
「そう…あの子には話しておくべきだったのかもね…」
「それより、あゆは…」
「……着いてきてください、祐一さん。……名雪も…」
 

お母さんの言葉で私の方を振りかえる祐一。
 
 
 
 

でも、その目は私を見ていなかったように見えた…
 
 

************************************
 

お母さんに連れてこられたところは…病院。

冬に、お母さんが事故で入院していた病院。

その病院の、ある一室…

部屋の前には名札がかかっていた
 
 

 『月宮あゆ』
 
 
 

「あゆちゃん?」
「あゆ…」

ベッドで寝ているあゆちゃんを見て、私と祐一は同時に呟いていた。
 
 

「あゆちゃんは…眠り続けているの…7年前のあの時から…」
「え?だって、あゆちゃん、冬に…」
 
 
 

「あゆーっ!起きろっ!なに寝てんだよっ!」

突然、祐一があゆちゃんの肩をつかんで叫びだした。

「あゆっ!あゆっ!俺はまだプレゼントを渡してないんだぞっ!
 ……頼むから…起きてくれよ………」
「祐一さん、落ち着いてください」
「あゆ………」
 

私は、泣き崩れる祐一をただ見つめることしか出来なかった。
 

まるで、7年前のあのときのように…
 
 
 

祐一が落ち着いた後、お母さんから全てを聞いた。

7年前のあの冬、いつも祐一が一人で出かけて行ったのは、あゆちゃんと遊ぶため。
祐一が帰る日に、あゆちゃんが木から落ちた事。
祐一が落ち込んだのは、あゆちゃんが死んだと思っていたから。
あゆちゃんは、木から落ちた日以来、ずっと眠り続けていた事。

そして…

「実は、私が事故で意識不明だったとき…あゆちゃんの夢を見たんです。」
「夢?」
「ええ、あゆちゃんが、
 『秋子さんがこのまま起きないと、祐一君も名雪さんも悲しむから…これあげる!』
 って、小さな人形を渡してくれて…そのすぐ後に意識が回復したんです」
「人形…」
「その頃、あゆちゃんは、一時的に危険な状態になったそうですが…
 今は安定した状態だそうです」
「……人形って…天使の人形ですか?…」
「え?すみません、そこまでは覚えてなくて…」
「そうですか…」
「祐一、天使の人形って?」
「……」
 
 
 

祐一は何も答えてはくれなかった。

目の前の祐一が、凄く遠くにいるような気がした。
 
 
 
 

病室を出るとき、祐一が呟いた。

多分、私にしか聞こえなかっただろう…
 
 
 
 
 
 

「なんで、冬にあゆと会ったときに思い出さなかったんだ…」
 
 

************************************
 

あれから、学校が終わると、祐一は毎日病院に通っている。

「祐一、今日は私もあゆちゃんのお見舞いに行っていい?」
「…ああ」

一度だけ、私も一緒にお見舞いに行った。
祐一は、話し掛けも、体に触れもせず、ただ、ベッドの横ですわってあゆちゃんを見ていた。
面会時間ギリギリまで…
 
 
 
 
 

病室にいる間も、帰る途中も、祐一と一言も話す事が出来なかった。
 
 
 
 
 
 
 

************************************
 

今日から夏休み。

ちょっと前まではあんなに待ち遠しかったのに、今は来てほしくなかった。
 

祐一と会える時間が少なくなるから…
 
 
 
 
 
 
 

祐一は朝早くから病院に出かけてしまう。

またあの子と会うために…
 
 
 
 
 
 
 
 

祐一は覚えているのかな。

明日は、二人で海に行く約束をしている事…
 
 
 
 
 
 
 
 

祐一は知っているのかな。

私が今、あの時みたいにベッドの上で膝を抱えて泣いている事を…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「祐一、明日の事だけど…」
「ゴメン…今はそんな気分じゃないんだ…」
「……」
「…またいつかきっと予定立てるから……」
「いつか…っていつ?」
「え?」
「あゆちゃんが目覚めたら?
 そうしたら、私と二人で行ってくれるの?あゆちゃんを置いて。
 …それともあゆちゃんも一緒に行くの?」
「名雪…」
「祐一………私、あの目覚ましの言葉…信じていていいんだよね?」
「ああ…でもあゆのことは、俺の責任だから…放っておく事はできないから…」
「…うん……わかった。祐一の言葉を信じる」
「ありがとう…ごめんな…」
 
 
 
 
 

私…信じてるよ…祐一…
 
 
 
 
 
 
 

************************************
 
 

今日も俺は病院に来ている。

名雪を放っておいて…

もちろん、あの時目覚ましに吹き込んだ事は嘘ではない。

でも、今は、あゆのことが気になって…
 
 
 
 
 
 
 

「あゆ…起きろよ……また一緒に、たい焼き食べに行こうぜ…」

「………」
 
 
 

「そういえば…あの人形…俺も探したんだけど…どうしても見つからなかったよ…
 お前が探していたものって、やっぱりあの人形だったのか?」

「………」
 
 
 

「せっかく見つけたのに…秋子さんにあげちゃうなんて…お前らしいよな…」

「………」
 
 
 

「ありがとな…あゆのおかげで、俺達、今幸せだよ……」

「………」
 
 
 
 

「でもな、秋子さんを助けたのは、あの人形じゃないぞ…
 …あの人形は、俺が出来る事しか、叶えられないからな…」

「………」
 
 
 
 
 

「だから、あと一つ、願いは残っているんだよ…」

「………」
 
 
 
 
 

「俺じゃあ…あゆを目覚めさせる事は出来ないのか?……」

「………」
 
 
 
 
 
 

「あゆ…俺に出来る事なら…なんでも願いを叶えてやる…だから…起きてくれよ…」
 
 
 
 
 

「……ほんと?」
 
 
 
 

「…あゆ?」
 
 
 

「…祐一君…ほんとに何でもいいの?」
 
 
 

「あゆっ!」
 
 
 
 
 
 

俺は力の加減もせず、あゆを抱きしめていた。

「あゆっ!目が覚めたのかっ!」

「うん…祐一君の声が聞こえたから…」

「そうか…お前…寝過ぎだぞ…名雪じゃあるまいに…」

「名雪さん…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「祐一君…起きたんだから…願いを叶えてくれる?」

「ああ…何だ?」

「…ボクと…ずっと一緒に居て……」

「え?」

「ダメなの?」
 
 
 

「いや…そんなことはないぞ……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「うそつき…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

振り向くと、部屋の入り口に、名雪が立っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

< END >

===================================

どうも、と〜いです。

『ハッピーエンドじゃ終わらない』シリーズ 第3弾 名雪編です。
第2弾のあゆ編とそっくりだよ、というあなた、気のせいです
……と言いたいのですが、あえてそう書きました。

僕的に、名雪とあゆのシナリオは、別々に考えてはいけないような気がします。
どちらかの記憶を思い出したなら、もう片方も、思い出す可能性がある。
というか、とくに名雪シナリオでは、今回書いたように、『なぜ落ち込んでいたのか』
まで思い出す方が、普通じゃないか。と思うのですが…
 
 

そして、願わくば、LOTHさんの『覚めない夢・覚めた夢』と被ってませんように(笑)
 

<Back< 元のページ >コメントへ>

inserted by FC2 system