LOTHさんへのお返しSS。
 …こんなコトやってんのも私くらいかも(苦笑)
 

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   かすれてた。
   あなたを呼ぶ声も、
   私を、
   私じゃない私を呼ぶ声も。
 
 

        『ひだまり』
 
 
 
 

   夜はいつも私じゃない。
   本当の私を守るように、私じゃない私が体を覆って、
   戦って、戦って、
   いつのまにか、いつも私を包んでた。
 
 

「……なんだ舞、まだ寝てなかったのか?」
 窓の外を眺めながらお茶を飲んでいた私に、あの人の声が響く。
「まったく、いつになったら夜行性が治るんだか」
「…私は虫じゃない」
 そんな私の言葉も、あの人は笑って聞き流すだけで。
「わかったわかった。とりあえず寝ようぜ? 明日学校行けなくなっちまう」
「……佐祐理は?」
「とっくに」
 そう言って肩をすくめる。その仕草が少しオーバーで、思わず笑みがこぼれた。
 
 

   今の私は私。
   でも、その私が、私を守るために造られた私だとしたら。
   あの日あなたと出会った私は、もうここにいないかもしれないのに。 
   それでも、あなたは……
 
 

「…寝ないのか?」
「…もう、少し」
 私は肩をすくめて見せた。
 それは、ほんとうにわずかだったけど。
 それでも、あの人は笑ってくれた。
「わかった。じゃあ……」
「…おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 
 

   夜の私は一人きり。
   音もない、冷たい世界で、
   一人ぼっちで、
   何を……待ってたんだろう?
 
 

 あなたのいなくなったドアを見ていた。
 もう少し、一緒にいてほしかったのかもしれない。
 でも、遅い時間だっていうのもほんとだし。
 無理強いもできないし。
「……はぁ」
 私はカップを置いて、静かにソファに腰掛けた。
 電気を消してみようかな。
 ふとそんなことを思って、立ち上がってスイッチを切りにいった。
 
 

   暗闇に包まれて、
   その中に溶け込むように。
   …ううん、溶け込みたかった。
   自分の存在を消してしまいたかった。
   なぜだかわからない。
   そう、思ってた。
 
 

 誰もいない部屋。
 ついさっきまで、明るくて賑やかで、
 でも、いなくなるんだ。
 私はすぐに一人になる。
 時には望んで。
 何故、そんなことを望むのかはわからない。
 ストーブの低い静かな音。
 私はやわらかい感触に身を委ねるように、目を閉じた。

 この部屋は、まだ暖かい。
 
 
 
 

 本当は、あなたの声をずっと聞いていたかった。
 私が眠りにつくまで、ずっと聞いていたかった。
 あなたがそこにいることを、
 私がここにいることを、

 子供みたいに。
 
 

 ストーブの低い唸り声が、ずっと遠くに聞こえた。
 私の寝息が、すぐ近くで聞こえた。
 
 
 
 
 
 

 ……暖かい。
 …この部屋はまだ、暖かい…
 頬をなでていく優しい風が……
 …風……
 
 

「……あっ、起こしちゃったか」
 そんな声が、すぐ近くで聞こえた。
 重いまぶたを、ゆっくりと開く。
「……わふ…」
 でもすぐに、眩しくて閉じてしまった。

 ……眩しい…?
 
 

「…まったくもう。舞ったらあのまんま寝ちまうんだもんなあ」
 優しい風はそのままに、あの人のあきれたような声。
「…? わたし…」
「なんだよ、憶えてないのか。お前昨日あのままソファで寝ちまってたんだよ。俺が寝る前に様子見にいっ
てみたらもう……」
 言葉とともに、隣の感触がかすかに動く。
 私の目は、まだ開かない。
 優しい風も、まだ止まない。

 私の頬をなでる、あなたの大きな手のひら。
 
 
 
 

「舞ーっ、ごはんできたよーっ」

 佐祐理の声とともに、私はソファを飛び出した。
 いつの間にかかけられてた毛布も跳ね飛ばして、パジャマ姿のあの人を面食らわせて。
「うおっ! こら舞…っ!」
「あははーっ、祐一さんおかしーっ!」
 毛布と格闘している祐一を横目で見ながら、私は火照った頬を冷ますように細く窓を開けた。
 吹き込んでくる朝の光と、冬の風。
「こらっ! 寒いぞっ!」
「…毛布にでも入れば」
 顔を背けたままの私の言葉に、祐一は
「ああ、入ってやるともっ! 佐祐理さんもどうだ?」
「じゃあ、佐祐理もお邪魔しまーす」
 ソファの上でかすかな音。
 私がチラッとそっちを見ると、
「あったかいぞー」
「舞も、ほらーっ」
 こっちを見て、ニヤけてる二つの顔。
 
 

   もし今の私が、あの頃の私じゃなかったとしても、
   これから先、あなたと一緒に歩いてゆくのなら、
   あなたの膝の上で丸くなる猫のように、
   ひだまりの中を生きてゆけるのなら。
 
 

「こらっ! そんなに場所とるなっ!」
「……祐一の図体が大きいから」
「後から入ってきたのはお前だろーがっ!」
「あははーっ、二人とも仲がいいですねえ」
「…って、佐祐理さんがちゃっかり一番毛布取ってるなっ!」
「あははーっ」
 
 

 優しい風が吹くところには、冬でも花は咲くのだから。
 一人きりの夜が来ても、静かに眠りにつく時でも、
 あなたと一緒の道を進んでいると信じているから。
 私は、私として笑っていけるだろう。
 
 

「佐祐理さん、一限は?」
「佐祐理は今日は休講です」
「じゃ、俺も休講」
「…私も」
 
 

 目が覚めた時、冬の日のひだまりのように、
 あなたが頬をなでてくれているから。
 
 
 

 Fin.
 

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 『あかねいろしたみかづきに』という、LOTHさんに記念に頂いたSSのお返しSS(苦笑)です。
 私にはLOTHさんのような淡い風景は描けず、どうしてもこんなジャンル不定モノになってしまうので
すが(汗)
 …まあ、LOTHさんとは本掲示板で一時期狂気系を引っ張っていた(爆)こともあったり、
 HPには私のSSを多数置かせて頂いたり(激爆)と…
 ……なんかさっぱりわかんないやって感じですが(苦笑)
 実際、公私ともどもお世話になっております。
 なんてったって、人生における大先輩ですし。(「第1000敗」って変換されましたが(苦笑))
 結婚する時にはイロイロ聞こうかなぁ、などと…(爆)

 とりあえず、お互いまだこの修羅の道を脱しきれないようなので(苦笑)
 せめて、体だけは大事にしていきたいですね…
 …最近の私が言えたコトじゃないですけど(苦笑)
 あとLOTHさんは、パパさんとしても(爆)

 それでは、今度ともよろしくお願いいたしますう〜
「…語尾のあたりに真剣味が感じられませんね」
 照れ隠しってヤツです(笑)
 

 2000.3.1. 詐欺師ねむ(korie)
 

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