『心が壊れた日』について


心が壊れる。
それはどういう状態でしょうか。
そしてその時、人は何を感じ、感じなくなり、そして…それからどうなるのでしょう…
その問いに本気で立ち向かうこと、それは自分の心も壊すことになりかねない。
でも…その問いは、常にわたしたちの隣に転がっている。
普通は目を逸らしているだけで、常にそこにある。
そして…この作品はその問いに対する、一つの挑戦だと思いました。

この作品をわたしが初めて見たのは、わたしがちょうどあの『Forget me, Forgive me』(以下、F,F)を書いてる頃でした。
その頃、わたし自身が心が壊れそうになっていました。
自分が書きたい、物書きとして書いてみたいという思いと、Kanonが、キャラたちが好きだから書くんだ、それを表現したいんだという思い。
この二つをどう両立させればいいのか分からず、半ば心壊れ、ヤケのように『Eine Kleine Naght Musik 2』(以下、Eine...2)とF,Fという、酷い話を書き始めていました。
書きたいと思うこと、それだけを追求してやろう。それを読む人がどう取ろうと、そんなことは知ったことか!
書きたいだけ書いて、最後まで書いて…そして…その先に何かがあったらいい。何もなく、書き終えたという満足感しかなかったら…
その時は、わたしはSSを書くのをやめるべきだ。自分の思いを書けない、書きたいという欲求を満たしたいだけの人間は、SSを書くべきじゃない。そう思って、書き始めました。
そして…Eine...2で何人かの人たちにコメントで救われて、読者不在ではあったけれど優しい、わたしのKanonへの、舞への愛をともかく表現できました。
少しだけ、光が見えた気がしたのです…
でも、わたしはF,Fを書かなければ、最後まで書かなければなりませんでした。
最後まで書かなければ…わたしが書き始めた栞への、愛し始めた栞への愛をまっとうできないと思いました。
そして、最後まで書いてこそ…その後に、優しい物語でその栞を救える。救えるはずだって…思いたかった。
書くのをやめて、F,Fをなかったことにする、その選択もあったのかもしれません。だけど…
だけど、わたしは書く方を選びました。一つのエンドを、そしてそこから始まる優しい話が書けるはずだと、信じたくて…信じ切れなかったけれど、信じたくて…

わたしがこの作品にであったのは、ちょうどその頃でした。
夢見草さんという方は、わたしは知っていました。
いくつも小ネタ集を発表され、わたしもよく笑わせていただき、その発想に感心していた方でした。
わたしがこの作品を読もうと思ったのは、そんな辛い自分の状態を癒したくて、だから名前にひかれて読んだように思います。でも…

出会えて、よかった。この作品に。
読んで、わたしは思いました。

祐一の狂気としてKanonを描く。実は当時、Kanonの全てをキャラの夢であるとか、狂気であるとして書いた話はいくつかあったのです。
でも…それでおしまい。悲しい、痛い…でも、それだけの物語。みんな死んで、みんな悲しい。それだけ。そんな話が流行していたのです。
そして…悲しいことに、その流行の先がけとなったのが、わたしのF,Fでした。わたしはそんな流行が死ぬほど嫌だったけど…わたしがきっかけの一人だった。
でも、わたしは…そんなものを書きたくてF,Fを書いたのではなくて…書き続けているのではなくて…なのに…

でも、この作品は、そんな祐一を、優しさに満ちて書いている。そして、消えるあゆを…優しく描いてくれている。ぎりぎりの狂気の物語でありながら…でも、視点は優しく、そして優しいエンドを、優しい物語が書ける。それを見せてもらった気がしました。
だから、わたしはF,Fを最後まで書いていいのだと…最後まで書いて、書き切ってこそ優しい話が書けるのだと…書けると信じていいのだと…思わせてもらいました。
そう信じさせてくれたこの作品に、夢見草さんに感謝しました。

その当時、そのようないわゆる猟奇系が流行っていたため、この作品はわたしと…あとどなたかコメントを下さったか…そういう状態でした。
でも…わたしはコメントすべきだったし、してよかったと思いました。
というのは…

その時に見たこの作品は、まだVer1.0でした。
その時は、視点は祐一サイドだけでした。名雪の…あるいは現実のというべきでしょうか、そちら側の描写はほとんどなされていませんでした。
それでも、十分に辛い、悲しい…狂気を見据える物語になっていました。
だから、夢見草さん自身が、現実サイド、祐一の狂気の現実を書くべきかどうか迷っておられたのですが…わたしは、それを止まらせるようなコメントをしました。
なぜなら、わたしには…できないと思ったから。それをすることは…狂気と真っ正面と立ち向かうことは…自分の心を壊す行為だと思ったからです。辛くて…辛すぎるから。だから…

でも、夢見草さんは挑戦しました。
そして、書き切られました。最後まで、書き切られました。
祐一の狂気を。それを見つめる名雪を。そして…その祐一を救うあゆを。
夢見草さん自身も語るように、それは辛い作業だったはずです。心を壊す行為だったはずです。でも…
夢見草さんはやり遂げられました。辛くて…でも素晴らしい話を、最後まで書き切られました。
これは素晴らしい、辛い…優しい話。
そして、わたしにF,Fを最後まで、F,F/FTを最後まで書き切らせてくれたお話です。
わたしは、大好きです。 inserted by FC2 system