どっちの料理ショー(違)
 …ではなくて(^^;
 私に知られちゃあおしまいってことです(笑)

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 立ち止まって、空を見上げる。
 スクランブル交差点の真ん中。
 私の前後左右を行き交う、知らない人たち。
 ビルに切り取られた四角い空の中で、白い雲が泳いでいた。
 それに向かって、私は少しだけ……
「……ほら」
 不意にぽんと頭を叩かれて、私は振り返る。
 あきれたような微笑をたたえる瞳が、私をじっと見つめている。
「…どした?」
「……別に」
 私はわずかに視線をそらす。そんな仕草に改めて笑って、
「お、ちょっと走るぞ」
「…わかった」
 点滅し始めた青信号に向かって、私の前に立って走り出す。
 
 
 
 

        『笑わせてあげる』
 
 
 

「……何か見えたのか?」
「…え?」
「さっき、さ。あんなとこでいきなり立ち止まったりして」
 適当に入った喫茶店。窓際の席に向かい合って座って、私たちはコーヒーを飲んでいた。
「どうした? 飛行機でも飛んでたか?」
「……そんなことでいちいち立ち止まらない」
「じゃあ、何が見えたんだ?」
 何が?
 私はコーヒーを一口飲む。
「……あれは…」
 カップを手に持ったまま、少し思い出してみる。窓の外。
 四角い空。
 白い雲。
 あのとき、私の目には何が映って、
 何に、届きたかったのか。
 カチャ、と小さな音を立てて、カップはソーサーに包まれる。
「……忘れた」
「…あのな」
 無愛想な私の返事にも、あなたの声は変わらない。
 どうしてなんだろう?
 確かに、悲しい声は聞きたくないけど。
 あなたの泣き顔は、
 あなたの涙は、
「……祐一」
「ん?」
「ぬいぐるみが見たい」
 そんな私の、小さなわがまま。
 見えない何かを確かめたくて、
「…ああ、じゃ、行くか」
 私は、あなたの笑顔を待っている。
 
 
 
 

「……なあ、舞」
「………?」
「お前がぬいぐるみ好きなのはわかるけどな」
 帰り道。
 しかさんのぬいぐるみを抱える祐一と、夕暮れの道を私は歩く。
「少しはサイズってもんを考えた方がいいと思うんだが…」
「…そう?」
「そう」
「……そう」
 かわいかったから。
 理由なんてそれで充分なはずなのに、祐一は納得がいかないらしい。
「だいいちこんなの買って、置く場所あるのか?」
 祐一の問いに、私は少し考えて、
「……ベッドの上」
「…それじゃお前が寝れないだろうが」
「………」
「…はぁ」
 再び考え込む私に、祐一はため息をついてしかさんを抱え直す。
 
 

 笑わせてあげたい。
 私の不器用さでそれができるのなら。
 毎日背伸びをしても届かない、
 確かめたいのはそんなこと。
 私が届かないところから、
 あなたが手を差し伸べてくれていること。

 だから
 
 

「……貸して」
「ん?」
 すっと手を差し出す私に、祐一は不思議そうに私の顔とその手を交互に見る。
「…私が持つから」
「なんだ、いいよ別に」
 祐一は楽しそうに軽く笑って、もう一度しかさんを抱え直す。
「慣れりゃあ、ま、楽なもんだ」
 そう言って、少し意地悪な笑みを浮かべる。
「舞よりは軽いしな」
 ぽかっ。
「はっはっは」
 ぽかぽか。
 
 

 あなたの泣き顔を見てみたいと少し思った。
 支えられてばかりいる自分が小さく思えて。
 でも、やっぱり
 
 

「……なあ、舞」
「……?」
 不意に真面目な顔になって、あなたが私を覗きこむ。
 私は思わず動きを止める。
 歩いていた足も、
 叩いていた手も、
 逸らせない瞳。
 心だけが動いている。
「…引っ越そうか」
「………え?」
 遊びに行こうか、くらいに軽いあなたの言葉。
 私は一瞬自分の耳を疑った。
「このぬいぐるみ置けるくらいの部屋見つけてさ、そこで暮らそうや」
 
 

 それでも、私はあなたの笑顔を見ていたい。
 それはあなたへの優しさじゃなくて、
 もしかしたら私のためで、
 だからきっと、あなたのために。
 
 

 動かない瞳から、ひとしずく涙が零れた。
 同じように足を止めていたあなたは、急に真剣な、怖いくらい真剣な顔をして、
 でも、すぐに表情を和らげて、
 私の涙を拭ってくれる。
「イヤ……だったか?」
 いつもより少し低い声。
 何も言えずに首を振る、そんな私は幼く、
 あなたにはきっと、子供のように見えただろう。
 片腕に抱えられたしかさんが、私を見て笑っていた。
 私はもう一度首を振る。髪が濡れた頬にくっついた。
 あなたの背が、私より高いことを思い出した。

 片腕で遠慮がちに抱きしめられて
 
 

「……今すぐじゃなくても、いいんだ」
「もうちょっと、余裕できたらさ」
「舞の家に置いてあるぬいぐるみも全部持ってきて…」
「……日当たりのいい部屋でさ」
「夕日の綺麗な部屋見つけて……」

 あなたの、きっと平凡な言葉の一つ一つが、
 こんなにも胸に満ちていくから

 いつも包まれてばかりの私を、強く抱きしめてくれて、
 
 

 あなたはいつも、私を笑わせてくれるから

 だから
 
 

「……うん」

 笑わせてあげる。
 あなたは四角い空の向こうじゃなくて、私の隣にいてくれる。

「うん……」

 自分の涙声が、あきれるくらい次の涙を誘っても。それでもあなたは。
 安心したような吐息がその口からもれて、
 回した腕に力を込めてくれる。

「……帰って、メシにするか」
「……うん」
「涙、ちゃんとふいてからな」
「……うん」
 
 
 
 
 
 

 笑わせてあげる。
 不器用な私にもそれができるのなら、
 私はきっと、幸せだろう。
 
 
 

 <Fin.>
 

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 四捨五入ってスバラシイ(爆)
 などと失礼な物言いで始まるあとがき(^^;
 でも、いくつになっても誕生日というのはおめでたいものです。
 とにもかくにも、ハッピーバースデー♪
 ……遅れちゃったけど(^^;
 

 2000.4.20. korie(ねむ)より、少し高くなった空に。

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ささやかなコメント by LOTH

誕生日記念ということで、korie(ねむ)さんからいただきました。
…なんか、いっぱいいただいてばかりで申し訳ないです…

SSは…舞ですね。
わたしが書く舞は、いつも決まって少女です。例外と言えるのは…Eine2&1/2の舞たちくらいでしょうか。
それ以外のわたしの舞…少女の舞は、どこか揺れている…弱くて、もろい…でも、けなげで…強い。そんな感じの舞。
それをいつもわたしは、淡い情景の中に書いていく。
わたしの書く情景は、書くうちに…読むうちに…だんだんとキャラクターの中に入っていくような感じで。
描写が抜けていって…語る人の内側に入ってく…音も光も淡く薄れていく…そんな感じになってしまう気がします。

同じ淡い情景でも、korie(ねむ)さんの書く情景はしっかりとあって…そちらに語る人の内側が映っていく…
入り込むというよりも、映し出されていく…そんな感じで…そんな舞。
ちょっと涙もろくて、でも前向きな…わたしが好きな舞の姿が、目の前に見えるようで。
そして…幸せになっていく舞の姿。もちろん、わたしは大好きです。そのためにシリーズ一つ書いたくらいですし(苦笑)
そんな…うれしい贈り物です。本当に。 inserted by FC2 system