18回目の夏に少年に見えたものと見えなくなったもの

lost graduation−2

 

 

< はじめに >

○この製品は

  [ 5.25型電波メルヘン音楽形連作ショートストーリー、 「 lost graduation 」 ]

 です。本製品は一般ショートストーリー(以下"SS"へ略)に属しますが、使用上のご注意などをご確認の上、細心の注意をはらってご
 使用ください。
 

< お願い >

○この度はお買いあげ(??)いただき誠にありがとうございます。本製品については万全を期しておりますが、万一、品質、パッケージ  
 に不都合、不快な点がありましたら、恐れ入りますが、ご自分で対処するようお願いいたします。
 

< 動作環境 >

○四畳半の和室または縁側推奨(緑茶付き)
○20分以上の空き時間(気持ちが不安定なときは、1時間以上推奨)
 

< 成分表示[ 第2話(約9KB)当たり]>
 

主成分   含有量

Kanon 1コ

世界    1コ

部屋    1コ

水瀬名雪  1人

相沢祐一  1人

シリアス  少量

らぶらぶ  微量(当社比はおよそ1.2倍)

夏     1コ(想像力により状態は多少変化)

予感    測定不能

詩     作者の精神状態による(只今、少々不安定)

作者    作者の精神状態による(只今、少々不安定)
 

< 使用上のご注意 >

○警告表示の意味

「 < 警告 > 」 ○この表示の注意事項を守らないと感電破裂等により死亡などの人身事故が生じます。

「 < 注意 > 」 ○この表示の注意事項を守らないと感電その他によりけがをしたり、損害を与えたりします。
 

< 警告 >

○分解や改造をしない。電波発生の原因になります。

○内部に水や汚物をいれない。爆発する可能性があります。

○強力な電波を発生することが稀にあります。老人、妊婦はご使用を控えて下さい。

○万一、異常が起きたら、変な音、においがしたら、煙が出たら、誠に申し訳ありませんがご自分で対処して下さい。
 

< 注意 >

○安全のため注意事項を守る。

○定期的に点検する。(1日1度は)

○小児の手の届かないところに保管すること。お子様がマネをすると大変危険です。

○本製品の使用により、悪心、嘔吐、眩暈等の症状が現れた場合はもう一度、使用上の注意などをよく読み、最初から改めて使用を開始し
 てください。
 

< 故障かな?と思ったら >

○他人のせいにしないで、まず自分を疑ってください。
 

< 最後に >

○あなたの健康を損なうおそれがありますのでSSの読みすぎに注意しましょう。

○SSマナーを守りましょう。

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 僕は今、君で一体何人目だったろう、なんて、そんなことを思い出している

 1…2…3…4…………18、そう、君で確か18人目
 栗色の髪をした " 1人目の君 " のこと、もう、声も仕草も、良く思い出せない、こんなことを忘れてゆくのは本当に簡単な事で
 " 君 " も " 次の君 " も " その次の君 " も、今となってはその存在意義ですら、僕の内側では不明瞭になっている

 きっと、本当は誰も愛してなんていないよ、だって、ほら、僕はこんなにも君を嫌いになれるもの
 誰も彼も君も僕も、上手い演技で代用の心に素早く浸透できる、君のとても可愛い微笑みはあのとき夢見たすべての理想の形に近いよ
 
 

 きっと、" 神さま(あなた)" にさえ愛せないでしょう?? " 神さま(あなた)" はこんなにも " 君 " のこと、嫌いになれるもの
 
 

 今、隣にいる " 18人目の君 " へ
 もうすぐ、その " 利用価値 " の差で、君の未来は壊れるから、君の " 役目 " は終わるから、だから、もうすぐ、おやすみなさい

 
 そして、次の " 19人目の君 " を求めて、次の " 新しい傷跡 " を求めて、僕は再び " 夢 " を見る
 

 
 ……だけど、僕は待っている、" 終わること " を待っている、そして、同時に " おしまい " は来ることを……知っている……  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【 18回目の夏に少年に見えたものと見えなくなったもの / lost graduation−2 】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 ベットの中で俺は嚔と共に目を覚ました
 目を開くと、そこには闇しかないように思えた
 なんとなく、今は何時頃だろう、と思って、手探りで枕元にあるはずの時計を探す
 それを雑に掴むと視界の中へと持っていく
 薄く、淡く光る文字盤はもうすぐ午前3時頃になることを示していた
 

「……くしゅっ」
 

 ……さむ……

 時計を置いて、上半身を起こす
 部屋に設置されている冷房のあたりを、目を凝らして見る
 作動していることを示す赤いランプの光
 タイマーの予約を示す黄色いランプの光
 それらは闇の中にすこし不気味にぼぉっと浮かんで見えた

 ……タイマー、セットしてたはずなのに……

 午前2時にセットしたはずの切タイマーは何故か作動していないらしい
 時計の隣にあるはずの冷房のリモコンを手探りで探し当て、原因を確かめようとする
 しかし、当然部屋は暗くて、光る機能を持たないリモコンの液晶は良く見えなかった
 仕方なく、その疑問は忘れることにして、冷房の電源を落とした
 

「……ん」
 

 不意に隣でかすかな声ともとれないような声の音で、俺は冷房のリモコンを適当に置くと、隣で寝息をたてる少女へ視線を向けた
 幸い、徐々に俺の目は暗闇に慣れてきていて、少女のシルエットを微かに見ることができた
 

「……にゅ」
 

 相変わらず、意味不明な言葉(??)をもごもごと言いながら、幸せそうに寝ている名雪の寝顔を見て
 俺は刹那的に心臓を握り潰されるような圧迫感を感じた

 
 ……こころの、痛み……

 
 そんな言葉をまだ上手く働かない頭で思い描いていた
 まあ、その痛みも一瞬のことで、すぐになくなってしまったけれど

 起きていてもしょうがないので、ぼーっとした浮遊感の中、俺は再び睡魔に襲われる時をただ、ぼーーっと待っていた

 その時、あることに気付く
 

 ……しまった…俺……裸のままじゃないか……

 どうやら、あの後でそのままぼーっとしている内に寝てしまったようだった

 ……道理で……寒いわけだよ……

 いくら、もうすぐ暦の上で、夏と言っても夜中に冷房を稼働させて、裸で寝るということはちょっと無謀である

 ……確か、男性のオルガスムスは一気に急降下するから……

 などとくだらないことを考えながら、ふとあることに思い当たる

 ひょっとして…名雪も……??

 まずい
 それはまずい
 秋子さんにでも見つかったら言い訳もできない

 ……いや、一緒に寝ている時点でもう言い訳もできないけど

 まさか、流石の秋子さんでもこればかりは了承しないよな……

 ……あの人なら、すこしは、ありうるけど……
 

 そんなことを考えながら一応確かめてみると、名雪はちゃんとぱじゃまを着て寝ていた
 

 ……ほっとしたような……残念なような……
 

 妙な気分になりながらも俺は床に散らばっていた服を集める
 

「……くしゅっ……くしゅっ……」
 

 さて、着るか、と思ったところに名雪のくしゃみ
 すると名雪はベッドの中から手を放り出すと、ごそごそとなにかを探しはじめる
 

 数秒後
 

 部屋は灯りで照らされる
 どうやら、名雪は枕元の電灯を付けたようだ
 
 そして

 ぼーっとした瞳で、こちらを見る
 

「……」
 

 当然俺はまだ、トランクス一枚のまま
 

「……」
 

 部屋は妙な雰囲気で満たされる
 

「……」
 

「……」

 
「……」
 

「……」
 

 名雪は自分のほっぺたを抓る
 

「……わ、夢じゃない……」
 

「……反応遅すぎだろ」
 

 名雪の妙な間のおかげで俺の羞恥心はサッパリと消えていた

 まあ、それでもこのままでいるわけにはいかない
 そそくさと服を着ると、俺は再びベッドの中に潜る

 まだ、包まれるようなあたたかさが残っていた 
 

「……聞いて良いのかもわからないけど……祐一、何してたの……??」
 

「……何も聞くな」
 

「……うん」
 

「それと、すべて忘れろ」
 

「……わかったよ」
 

 ……無意味に疲れた……それも異常に……
 

「くしゅっ……」
 

 名雪が再びくしゃみをする
 

「……寒いのか?」
 

「うん、ちょっと……」
 

「冷房の調子、何か悪いみたいなんだよな」
 

 不意にさっき確認しのがした冷房のリモコンのタイマーを手にとって見てみる
 きちんと午前2時にセットされていた
 

「おかしいな……故障してるのか……??」
 

 良く見てみるとリモコンの体内時計は今の時間を午後で表示している
 設定した時間はちょうど12時間ほどずれていた

 ……新手のいじめ……じゃないよな……

 この部屋の冷房は俺しか使わないのだから、犯人は俺に決まっている
 俺は諦めて、リモコンを雑に放り投げた
 

「くしゅっ……」
 

 また、名雪のくしゃみ
 

「……おい、大丈夫かよ」
 

「……だいじょ……くしゅっ……」
 

 ……なんとなく……ダメそうだな……

 俺はすこしでも名雪の身体を暖めようと、そっと抱き締めた
 

「……ゆういち」
 

「……なんだよ?」
 

「……はずかしい……」
 

「今更言うな」
 

 ……それなら、さっきのほうがもっと恥ずかしかったはずだろ、名雪……
 

「嫌なら、止めるけど……」
 

「……別に嫌じゃないよ」
 

 俺はなんとなく落ち着かなくなって、名雪の髪を撫でていた
 名雪の髪はさらさらして、いい匂いで、不思議に心地よかった
 

「……名雪の髪って綺麗だよな……」
 

 無意識に言葉になって出てしまう
 

「……そんなこと、ないよ……」
 

 名雪は何故かすこし俯いて、俺に見えないように顔をうずめていた
 もしかしたら、恥ずかしさで顔が赤くなっていて、それを俺に見られたくないのかもしれない
 

「名雪ってなんのシャンプー使ってるんだ?」
 

 なんとなく、聞いてみる
 

「……確か、MA CAERIE(マシェリ)っていうシャンプーだったと思うけど、リンスもおなじはずだよ」
 

「……ふーん……そんなにいいシャンプーなのか……こんなにいい髪になるんだもんな……」
 

「一緒に住んでるんだから、祐一も、わたしとおなじシャンプー、使ってるよ??」
 

「……ぐあっ……嘘だろ……」
 

 俺の髪は絶対にこんないい匂いはしないはずだ
 ……大体俺の髪がこんなに綺麗だったら……想像しただけで、気持ち悪い……
 

「……別にシャンプーは関係ないんだな……名雪は女の子だからあたりまえだよな……」
 

 男はなんとなくそんなイメージを持っているような気がする
 

「そんなことないと思うけど……それに男の子でも綺麗な人はいるよ〜」
 

「……まあ、そうだけど、な」
 

 ……まあ、そんなことはどーでもいい……
 

「……ふぁ……もう寝よ……な……」
 

 俺は欠伸をしてから、手探りで枕元の電灯を切る
 部屋は再び闇
 さっきよりも深く感じた

「……なあ、名雪……?」
 

 名雪の名前を呼ぶと、すぅーっと寝息の音
 名雪は俺に抱き締められたまま、もう、眠ってしまったらしい

 ……寝付きだけは早いんだな……

 また、朝に名雪を起こすと思うと、気は滅入る
 といっても、最近はすこし寝起きは良くなっているように思う

 ……あくまでも、" すこし " だけど……
 
 
 

 することもないので、俺はぼーっとしながら、睡魔に襲われる時を待っていた
 
 
 

 闇は相変わらず闇のまま

 そんな変わらない景色を見ていると、不意に怖くなる

 腕の中の感触を確かめるようにすこしだけ強く、抱き締めてみる
 
 
 

   抱き締めたい 本当に愛しているの? 心の隙間をただ埋めたいの?
 
 
 

 どこかで聞いた名前も知らない曲の一節を何気なく思い出す、俺には否定も肯定もできない
 
 

 今も " 予感 " はしている
 
 
 

 見たくもないのに、高く澄んだ、夏の空が今もはっきりと見える
 高い空も、蝉の悲鳴も、俺自身も、好きじゃなくて
 
 

 とても近すぎる二人の距離で俺には大切なものが見えなくなっている
 

 別に特別なことはなにもなくて、こうしているだけで、側にいるだけで、俺は強くなれたような気になっていた
 

 ……この傷跡は癒されて、強くなれると思いこんでいた……

 
 
 

 何かを振り切るように考えることを止める
 

 そのうちにだんだんと意識は薄れて、俺は無理矢理にでも瞳を閉じた 
 
 
 
 
 
 

 白い雪の中ではしゃいでいる、楽しそうで、苦しそうな、二人の子供が、夏の太陽に照らされて、溶けて、消えて逝く夢を見ていた
 
 

                                          【  to be continude......  】
  
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