ヴィラヴィドダーリン / lost graduation-3
 

< はじめに >

○この製品は

  [ 5.25型電波メルヘン音楽形連載ショートストーリー、 「 lost graduation 」 ]

 です。本製品は一般ショートストーリー(以下"SS"へ略)に属しますが、使用上のご注意などをご確認の上、細心の注意をはらってご
 使用ください。
 

< お願い >

○この度はお買いあげ(??)いただき誠にありがとうございます。本製品については万全を期しておりますが、万一、品質、パッケージ  
 に不都合、不快な点がありましたら、恐れ入りますが、ご自分で対処するようお願いいたします。
 

< 動作環境 >

○四畳半の和室または縁側推奨(緑茶付き)
○20分以上の空き時間(気持ちが不安定なときは、1時間以上推奨)
 

< 成分表示[ 第3話(約8KB)当たり]>
 

主成分    含有量

Kanon  1コ

世界     1コ

美坂栞    1人

相沢祐一   1人

美坂香里   1人

商店街の人々 多数

シリアス   少量

雨      霧雨〜微弱(個人差有り)

詩      作者の精神状態による(ぼちぼち)

作者     作者の精神状態による(ぼちぼち)
 

< 使用上のご注意 >

○警告表示の意味

「 < 警告 > 」 ○この表示の注意事項を守らないと感電破裂等により死亡などの人身事故が生じます。

「 < 注意 > 」 ○この表示の注意事項を守らないと感電その他によりけがをしたり、損害を与えたりします。
 

< 警告 >

○分解や改造をしない。電波発生の原因になります。

○内部に水や汚物をいれない。爆発する可能性があります。

○強力な電波を発生することが稀にあります。老人、妊婦はご使用を控えて下さい。

○万一、異常が起きたら、変な音、においがしたら、煙が出たら、誠に申し訳ありませんがご自分で対処して下さい。
 

< 注意 >

○安全のため注意事項を守る。

○定期的に点検する。(1日1度は)

○小児の手の届かないところに保管すること。お子様がマネをすると大変危険です。

○本製品の使用により、悪心、嘔吐、眩暈等の症状が現れた場合はもう一度、使用上の注意などをよく読み、最初から改めて使用を開始し
 てください。
 

< 故障かな?と思ったら >

○他人のせいにしないで、まず自分を疑ってください。
 

< 最後に >

○あなたの健康を損なうおそれがありますのでSSの読みすぎに注意しましょう。

○SSマナーを守りましょう。

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 どこにいても、どんな世界にいても、祈りの言葉は吸い込まれてゆく
 悲しまない明日を願ったあの子供の頃の僕は今でもそこに立ちつくしている
 

 世界は鋭く、昨日よりも深い " 青 " に塗り替えられてゆく
 

 今、僕の世界は飼育箱の中、" Schwein " の椅子の上で、" 彼 " は僕にこう囁く
 

   大切なものほど、大切な人ほど、儚くて、すぐに消えてしまうんだよ

   何を言っても、また同じ事を繰り返すだけで
   " 想い " を " 愛 " を、オマエがどう解釈しようとも、それらはすべて " 嘘 " になる

   言われるがままにしか生きられないオマエに
   これからもずっと変わらずに大切なものを守りきれると本当に言えるのかい??

   誰かにまかせた安っぽいその歌で
   心の奥底にある何かを伝え切れているんだと、オマエは本当に言えるのかい??
 

 繰り返し、繰り返し、僕にその言葉を押しつける
 弱すぎる僕はただ " おしまい " を感じて、泣きだして 
 

 そして、鳥籠の中、ゆっくりと、ゆっくりと、僕は " 素敵 " に衰弱してゆく
 

 今の僕はただ、ずっと、もし生まれ変われるなら、限りなく、限りなく食用のブタになりたい、とあの子供の頃に見た空へ祈った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【   ヴィラヴィドダーリン / lost graduation−3   】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 ある日曜日の午後
 今日は残念ながら、朝から雨が降ったり止んだりして妙な天気で
 それでも、俺たちは

 今日は出掛けるの、中止にしようか??

 とは決して言わなかった
 

「栞…もっと寄らないと濡れるぞ」
 

「……祐一さん……その言葉に他意はないですよね……??」
 

「……おい」
 

 ……一応 " 病み上がり " なんだからな……

 しょうがなく、俺は傘を栞の方へ傾ける
 栞はすこし困ったような顔をして、ありがとうございます、と軽くお辞儀して言った
 

 粒のように降る雨の中、二人で一本の傘をさして歩く
 別に傘が一本しかなかった訳じゃなくて
 まあ、窮屈といえば窮屈だし、実際に歩きにくい
 それでも、今の二人はこの " 不自由さ " が好きなんだと思う

 ……理解できないかもしれないけれど……
 

「なあ、栞…どこ行こうか? どっか行きたい所あるか?」
 

「…うーん、そうですね……でも、この雨ですから……」
 

 雨はさっきよりもすこしだけ、強くなったように感じられる
 この雨では行動にも制限が加えられてしまう
 

「とりあえず、商店街でも行くか」
 

 店に入れば雨宿りもできるし、距離的にもここからさほど遠くない
 まあ、この天気なら妥当な所だろう
 栞も了承して、俺たちは商店街へと足を運んだ

 
 不思議と心地よい雨の音とその匂いに包まれて、俺たちはすこしだけゆっくりと歩いた
 二人とも、なんとなく黙って、その世界を楽しんでいる、二人とも、きっと、その静寂は嫌いじゃなかった
 栞はどこか機嫌良く嬉しそうにどこかで聞いたことのあるような歌をハミングで歌っている
 

「…その歌…なんて歌だっけ?」
 

「…あ、聞こえてました……?? …ん…と……確か " シンギング イン ザ レイン " だったと思います」
 

 栞はちょっと恥ずかしそうにそう言った
 
 

 
 

 しばらく歩いて、商店街に到着する
 良く晴れた日なら、きっと商店街は賑わっていたのだろうけど
 今日は商店街全体が憂鬱で包まれたように独特のざわめきを放っていた
 

 とりあえず、何の計画も無しに商店街を歩く
 気になった店に入って、この本は面白いだとか、このお菓子は美味しいだとか、そんな話をしながら
 雨が降っていても、晴れていても、特に何も変わらなくて、ただ、楽しくて
 
 

 二人が側にいるだけで、君が隣にいるだけで、それだけで良かった
 
 

「…あ」
 

「ん、どうした??」
 

 栞が急に短い声をあげたので、気になって聞いてみる
 栞の視線はさっき右側の文房具店から出てきた一人の少女に向けられている

 どこかで見たことがある、あのシルエットは……
 

「……お姉ちゃんです」
 

「…ああ、そうだな」
 

 ……声、かけてみるか……
 

「おーい、香里ーっ」
 

 傘を差して俺と栞とは反対方向へ向かおうとする香里を呼び止める
 

「……??」
 

 その声を聞いて、こちら側を向く香里

 俺と栞は香里の側へと向かう
 

「よお、香里」
 

「……ごきげんよう」
 

「何だよ、その他人行儀な挨拶は」
 

「他人よ」
 

 ……なんとなく……機嫌悪いし……

 そんな俺と香里のやりとりを、俺の後ろで栞は隠れるようにして微笑っていた
 

「……なに笑ってるのよ、栞」
 

「……え、えっ!? 別に何でもないよ、お姉ちゃんっ」
 

 香里に指摘されて栞はぎこちなく笑った

 ……この二人の仲はどうなのだろう……

 そんなことを思う
 

「……お姉ちゃんは買い物にでも来たの??」
 

「ええ、ちょっと」
 

「…雨なのに…」
 

「大丈夫よ、あたし、雨は嫌いじゃないの」
 

「へーっ、はじめて聞くけど??」
 

「栞が忘れっぽいだけよ」
 

「お姉ちゃん、ひどいっ、姉妹だからおんなじだよっ」
 

「あんたはあたしと違って変な子だから」
 

「……う゛ーっ」
 

 ……あはは……

 俺は黙ってその光景を見ていた
 あの時からどのくらい時間は経っているのだろうか
 実際のところ、時間的にはそんなに経ってはいないのだけど、ここまで来るのにはとても長かったように思えた
 本当にあんな出来事はあったのだろうか、と思うくらいに

 俺達は今、きっと幸せなのだろう、そう信じていたかった
 

 ……傷跡は癒えたと、ただそれだけを、信じていたかった……
 

「そのへんにしとけって、まあ、俺に言わせれば二人とも変な奴だし……」
 
 
「相沢君だけには言われたくないわ」
 

「私も祐一さんには言われたくありませんっ!」
 

「…ぐあ」
 

 そんなくだらないことで微笑いあえる
 きっと、こんな日常を俺は望んでいたのだろうけど
 

「それじゃ、あたしは帰るから」
 

「……あ、祐一さん、私も今日は帰ります」
 

「ん、わかった」
 

 なんとなく、この姉妹を引き離したくはない、そんなことを思った
 

「…香里、栞と仲良くしろよ」
 

「あたしよりも相沢君がそうしなさいよ」
 

「……あのな」
 

「それじゃ、栞を泣かせたら許さないから、って言ったほうがいいかしら??」
 

「……はい、承知しました」
 

 ……本気で怖いぞ、香里……
 

「……まあ、こんなことを言う資格はあたしにはないのかもしれないけど」
 

 ……香里…… 
 

「……そんなこと、ないだろ……」
 

 俺はそんなことくらいしか言えなかった
 
 

 ……栞は俺にはよくわからない顔をしていた……
 
 
 

 俺は栞達とは逆の方向へ行くから、とここで別れることにした
 

 それはあたりまえみたいに
 
 
 

「祐一さんっ」
 

 すると、急に後ろから栞の声がして、俺は振り返る
 栞はこっちへ走りながら、手を振っていた
 さっき香里のさしていた傘を片手に持っていた
 

「どうした??」
 

「言い忘れていたことがありました」
 

「……??」
 

「お姉ちゃんはきっと祐一さんのことを好きなんですよ」
 

「……は?」
 

 急にそんなことを言われて、俺は間抜けな声で聞き返してしまう
 

「妹の勘です、けっこう当たるんですよ」
 

 栞はにこにこ笑顔でそう言った
 

「じゃあ、それだけですから、さようなら」
 

 そう言って栞は香里に追いつくために走っていってしまおうとする

 俺は慌てて栞の肩を掴んで
 

「……ちょ、ちょっと待てっ……ホ、ホントにそれだけなのかよ!?」
 

「……はい、そうですけど……??」
 

 俺は嫌な虚脱感に激しく襲われた
 

「……あ、あのな……栞……」
 

「あ、もうひとつだけ、言い忘れてました」
 

 栞は俺の言葉を遮って
 

「祐一さん、お姉ちゃんに襲われないように気を付けてください」
 

「……は!?」
 

「あ、大丈夫ですよ、心配しなくても、祐一さんは私が守りますからっ」
 

 呆然とする俺をそのままに栞は手を振りながら、さよーなら、と言って走っていってしまった
 

「……なんだったんだろう……今のは……」
 

 俺はしばらくその場に立ちつくして
 

「……帰るか……」
 

 家へ帰る道を歩きだした
 
 

 ふと、空を見上げる
 今頃になって、すこし明るくなってきていた
 

「……今更、良い天気になってもなぁ……」 

 
 それはあたかも俺を嘲笑っているように感じた
 
 

 あの頃よりも大人になったんだよ、おめでとう、と
 
 
 
 

                                               【 to be continude...... 】

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