互いにその欲求に気づきながら。
ふたりは永遠の誓いを交し合う。
共に愛惜を重ね続けるふたりに。
月は真実を見せ丘を照らし出す。
まるで精密に図ったような満月。
静寂の大地に降り注ぐ青白い光。
そこに並んで立つふたつの人影。
厳かに執り行われる誓いの儀式。
始めはお互いに姿を見つめ合い。
ただ何も無く時を過ごしてゆく。
数刻が過ぎようやく男が訊ねる。
「真琴。俺と結婚してくれるか」
怯えるように隣から目を逸らす。
答えを知っているにも関わらず。
何度も同じ問い掛けを繰り返す。
「真琴。俺と結婚してくれるか」
女は質問に僅かな頷きで答える。
しかしその仕草は男には判らず。
再び同じ言葉を繰り返し続ける。
「真琴。俺と結婚してくれるか」
女は男が見ていない事に気づく。
そして声を持って問いに答える。
「はい。『あたし』で良ければ」
微かに込められた自分への非難。
その想いを知らず男は先を急ぐ。
「それなら次は誓いの口づけだ」
ゆっくりと女の体を引き寄せる。
男のするがままに身を傍に置く。
そしてふたりは誓いを交し合う。
互いにその想いを成し遂げる為。
互いに心に空いた隙間を補う為。
ふたりだけの儀式は全て終わり。
今ここにふたりは繋がりを持ち。
月の祝福を受けとり夫婦となる。
愛し合う者たちに狂気の祝福を。
男はその瞳に過去の思いを写す。
今は姿無きただひとりの想い人。
夢幻に囚われ真実を撥ね退けて。
全ては自らが作り出した檻の中。
女は自らを偽の仮面で覆い隠す。
今は姿無きただひとりの心の友。
夢幻に映され真実を捻じ曲げて。
全ては自らが作り出した嘘の中。
互いにその虚構に気づきながら。
ふたりは永遠の誓いを交し合う。
共に偽りを重ね続けるふたりに。
月は狂気を孕む丘を照らし出す…
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ささやかなコメント
100000hit記念にばるきゅーれさまよりいただきました。
これは…詩ですね。きれいな…しかし、狂気に満ちた詩。
わたしに詩の素養も才能もないことは、『Lunatic』を読めばよく分かると思うのですけれど(苦笑)
ですから、そのようなわたしがコメントするのはどうかとは思いますが…
この詩の主人公たちは、いったい誰なのでしょう。
ただ読めば、真琴と祐一…二人であのものみの丘の上にいる情景のように思えます。
しかし…
では、なぜ男は女の顔を見てはいないのか?
互いの心の隙間とはなんなのか?
男の今は姿なき想い人とは誰なのか?
女の今は姿なき心の友とは誰なのか?
なぜ、二人は二人きりで月に照らされた丘の上で儀式を執り行わねばならないのか…
それを解釈していけば、今のわたしの頭に浮かぶ一つのキーワード、それは…『天野美汐』です。
それ以外にも、いくつかの解釈は浮かばないこともないのですけれど…でも…
…そこでわたしの思考は停止してしまいます。
そして…この美しくも冷たい月の下の情景を、ただ思い浮かべるのみになってしまいます。
それは、わたしがその3人の幸せを、少なくとも幸せと思える場面だけを書きたい、読みたいと思っているから。
それだけは、守りたいと…愚かだったわたしが思っているからでしょう。
月は真実を映し、しかしそれを求める心を凍らせる。
月は信実を隠し、しかしそれを求める心を優しく癒す。
この二つの側面をこめて、わたしは自分のP.Nを『Lunatic
on the Hill』と付けました。
Beetlesの物悲しくも優しい曲『Fool on the Hill』の愚か者は、丘の上に一人立って風に吹かれている…
その風を夜の月の光に変えて、その冷たくも優しい月の光を浴びて、一人月を見上げるその姿…
月は狂気に人を誘うと言います。それゆえ、狂気の別名をLunaticと呼ぶのでしょう。
そんな…でも、何かを求めようとすれば、真剣に求めようとすれば、それは狂気に至らざるを得ない。
『救いは自分で求めなければならない。狂うまで求めなければならない』とわたしが言ったように…
狂うまでに何かを追い求めてみたい。そして、狂う寸前の自分の手に入れた物を描きたい…
そんな思いが付けたP.N、それが…LOTHでした。
今もその思いは変わりません。変わりませんけれど…
そのために、かつて愚かなわたしは、一人のキャラクターを…利用してしまった。
そして、それを…ずっと後悔してきました。
その後悔、そしてその時の誓いは…今も心に刻みつけているから。だから…
優しくなかった自分を思い出しながら、その自分がなぜこのP.Nを付けたのだったか…
それを思い出しながら、読ませていただきました。
極めて個人的な、そんな思いをこめて…
この素晴らしい詩を下さったばるきゅーれさまに感謝を。
ありがとうございます。
2000.9.16 Lunatic on the Hill