いつか、笑える日
 

この話は真琴の話です。
名雪シナリオ後、真琴が帰ってきて、7年後の話という設定です。
真琴は水瀬家の養子になっています。
長い文章ですが最後までお付き合い頂けると幸いです。
 

駄文ではありますが、このSSをLOTH様にささげさせて頂きます。
 
 
 
 
 
 

「ただいま〜」

自分でも情けないほどの声をだして
私は玄関の戸を開けた。

「あらあら・・・お帰りなさい。お疲れさまね」
お母さんがいつもの微笑みを見せながら
私を暖かく迎えてくれる。
「今日も一日ご苦労様」
そう言って靴を脱いでいる間、
お気に入りの小さなバックを持っていてくれる。

私とお母さんとの間で、
いつのまにか当然になったやり取り。

キッチンからは良い匂いがしてきた。
 
 
 
 

「お帰り、真琴。今日も一日お疲れ様だよ」
キッチンへ入った私をお義姉ちゃんも笑顔で迎えてくれる。
「うん、ただいまぁ・・・」
私は返事をしながら自分の席へとへたれ込んだ。
もし目の前に食器が並べられてなければ、
そのままテーブルに伏して眠りたいぐらいだった。

「おかえり、真琴」
不意にキッチンの奥から聞こえてきた。
「あれ?今日は祐一の方が早かったんだね」
珍しい事だった。
いつもは私が祐一を待つ側なのに。

「うん・・・実は・・・発表・・・というか報告する事があってな・・・」
どこか照れくさそうにそう言った後、テーブルに座っているお義姉ちゃんの方をちらっと見る。
そしたらさり気なくこっちを見ていたお義姉ちゃんと完全に目が合って、
2人ともちょっと顔を赤くしてた。
 
 
 

(・・・ああ、とうとうなんだね)
 
 

私は祐一に聞こえない様に、小さく小さくそう呟いた
 
 
 
 
 

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「・・・・・・・俺達・・・・・・・・・結婚します!」

祐一からの発表は思った通りのもの。

「・・・お母さん」
お義姉ちゃんが不安そうな顔でお母さんを見ている。

大丈夫だよ、そんな顔しなくても。
お母さんの答えは決まってるんだから・・・

「くすっ・・・もちろん、了承ですよ」

ほらね、思った通りの答え。

「・・・あ、ありがとうございます!秋子さん!」
「お母さん、ありがとう〜!」

2人とも大喜びしてる・・・当然だよね
でも、私はこうなる事は分かってたんだよ、だから・・・

「あのね・・・今までだって一緒に暮らして、一緒に御飯を食べて、お弁当まで作ってもらって・・・
ほとんど結婚してたようなもんじゃない」
 

だから、私も前から用意しておいた言葉をおくるよ・・・
 

「それなのに今更そんなに緊張しなくても良いじゃない」
 

私と祐一の、いつも通りのやりとりの様な。そんな憎まれ口を。
 

「うるさいっ!だから逆にあらたまって言うのは勇気がいるんだ!」
「あはは、祐一の顔真っ赤だよ!」
 

だって、そうでもしないと・・・
 

「真琴!これから『お兄ちゃん』になる男にむかって〜!」
「ふん!私、祐一のこと絶対にお兄ちゃんなんて呼ばないよ〜!」
 

私・・・笑顔でいれなくなりそうだから・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ねえ、祐一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

本当は悲しかったけど、
 

私が悲しい顔をすると、
 

祐一も悲しい顔をするから、
 

だから、私は笑う事にするよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

泣きたい時でも笑えるようになったよ
 

悲しい時でも笑えるようになったよ
 

これって『真琴』が
 

大人になったっていう事なのかな・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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2人の結婚が決まっても私の日常は変わらない。

今日も私は保育園へ行く

7年前は迷惑ばかりかけていた私も

今では頼る立場から頼られる立場になっていた。
 
 
 
 

「あっ、真琴おねえちゃん、おはよう!」
「おはよう、るみちゃん。るみちゃんはいつも元気だね」
「うん!真琴おねえちゃんが元気でいれば楽しいって教えてくれたから!
いやなことがあっても元気でいればまたすぐ楽しいことくるって教えてくれたから!
だからるみはいつでも元気なの!」
「えらいね。るみちゃんは」
「えへへ・・・」
 
 

―――子供たちは好き

無邪気な笑顔につられて私も笑顔になれるから
知らないうちに私に人の温もりを与えてくれるから
一緒にいて暖かい気持ちになれるから
 
 

「くらえっ、必殺こんにゃく攻撃!」
「きゃあぁぁ!」
「へへん、引っかかったぁ!」
「こら!こう君!待ちなさいっ!」
 
 

―――でも、子供たちは苦手。

7年前の自分を思い出してしまうから
まだ私が子供だった頃の自分を思い出してしまうから
まだ私が祐一に思いっきり甘えていられた頃の自分を思い出してしまうから・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ねえ、祐一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

・・・・・・いつからだろうね
 

私が自分のことを『真琴』って呼ばなくなったのは
 

私が自分のことを『私』って表現するようになったのは
 
 
 
 
 
 
 
 

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「ただいま〜」

今日も私はへとへとになって玄関の戸を開けた。
どんなに長く働いても、やっぱり子供たちの相手は疲れてしまうものだ。
 

「お帰りなさい。」
お母さんがいつもの微笑みを見せながら迎えてくれて。
「今日も一日ご苦労様」
いつも通りに靴を脱ぐ間、小さなバックを持っていてくれる。

このやりとり、自分でもちょっとお母さんに甘えてるんだなって感じる事がある。
でも、やっぱり止めたくない。
私とお母さんとのいつものやりとり。
 

今日もキッチンからは良い匂いがしていた。
 
 
 
 

「お帰り、真琴。今日も一日お疲れ様だよ」
お義姉ちゃんも今日もいつも通りの笑顔で私を迎えてくれる。
ううん、いつも以上に幸せそうな笑顔で・・・・・・

「お義姉ちゃん、すっごい幸せそうだね」
私がそう言うと・・・
「わっ、私やっぱりそんな顔してるのかな?」
恥ずかしそうに下を向いて・・・
「さっきお母さんにも言われたんだよ〜」
でも、そんな様子もやっぱりどこか幸せそうで・・・・・・
 
 

当たり前・・・だよね
 
 

幸せじゃなかったら・・・・・・許せないよ
 
 
 
 

「えっと・・・あ、お鍋見てこなきゃ」
恥ずかしさを紛らわすように、お義姉ちゃんがあわてて席を立つ。

そんなお義姉ちゃんの様子は七年前から少しも変わってない様に感じられて。

それで私はふと馬鹿なことを考えてしまう。

『もし、あの7年前の春を私が祐一の隣でむかえられたのなら、『私』は『真琴』のままでいられたのかな』

・・・なんて、そんな馬鹿なことを。
 
 
 
 
 
 
 

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祐一が帰ってきて今日も晩御飯が始まる。

祐一と名雪が結婚してもこの景色は変わらないだろう。
2人は結婚してもこの家で暮らし続けるらしいから。

その事を聞いた時、私は正直・・・・・・嬉しかった
お母さんの事は大好きだけど・・・私とお母さんの2人だけじゃこの家は広すぎるから
朝起きた時に、夜寝る前に、祐一に会えなくなるのは寂しいから
だから私は・・・・・・嬉しかった
 
 
 
 
 
 

「それで会場の方はもう決まったの」
「いえ、まだ正式には決まってないんですけど、
俺の知り合いでそういう関係のところに努めてる奴がいるから、そいつに相談してみようかと思いまして・・・」

当然の様に夕食の会話は結婚式の話。
その事を話している祐一はとっても嬉しそうで・・・
それを聞いているお母さんも幸せそうで・・・
お義姉ちゃんもいつも以上に笑顔で・・・
私は・・・・・・
 

「おい、真琴」
「えっ、何・・・?」
「どうしたんだ?なんか不機嫌そうな顔して」

私は・・・・・・やっぱり笑えてなかったんだね

「なんでもないよ」
「そうか?」
そうだよ、なんでもないよ
「強いて言えば祐一達の幸せぶりにお腹がいっぱいになってたってとこかな」
「まあ、お前みたいな鐘や太鼓で探しても一生結婚相手が見当たりそうに無い奴には辛い光景だったか」

祐一・・・その言葉、いつもの冗談なのは分かってるけど・・・ちょっと酷いよ

「そんな事・・・ないよ」
「無理するな。どうせ告白されたことだってないんだろ」
「・・・あるよっ!」

・・・あ・・・・・・しまった

「へぇ、そうだったのか」
「・・・・・・あぅ・・・その・・・」
「それは実に興味深い発言を聞いてしまったな」
祐一・・・興味津々な顔してる・・・

「私も初めて聞いたよ」
お義姉ちゃんまで・・・

「・・・・・・」
お母さんは・・・私の方を見てる

・・・・・・気のせい?
お母さん・・・・・・なんだかちょっと元気のない笑顔に見える
 
 

「それで、お前に告白してきた物好きはどんな奴なのか聞かせてもらおうか」
「・・・・・・」
「・・・祐一、あんまり無理に聞いちゃ悪いよ」
「だったら名雪は聞きたくないのか」
「・・・それは・・・・・・少しは興味はあるけど・・・でも・・・・・・」
「いいよ、お義姉ちゃん」
「え?」

本当は2人に話す気はなかったけど・・・・・・逆に良い機会なのかもね・・・・・・・

「話すよ、別に隠すほどのことでもないし」
「・・・・・・そう?」

隠すほどのことでもないよ・・・

ただ、あんまり話したくなかっただけ・・・

「・・・・・・同じ保育園の保父さんだよ・・・」
「へぇ・・・」
「どんな奴だったんだ」
「・・・優しい人だったよ、祐一なんかよりも・・・全然」
「祐一意地悪だもんね」
「・・・うるさい」
「子供達からも人気あるし、保母の人たちの間でも結構人気ある人だったんだよ
真琴にも優しかったし・・・・・・一緒にいると楽しい人なんだよ」
「へぇ、良い人から告白されたんだね」
「じゃあ付き合ってるのか、そいつと」
「・・・・・・え・・・」
「好きだって言われたんだろ?つきあってるのか?」
「・・・ううん」
「断ったのか」
「・・・・・・うん」
「・・・そうなんだ」
「なんでそんなもったいない事をしたんだ?いい奴だったんだろ」
「うん・・・・・いい人だったよ・・・とっても」
「だったら・・・」
「でも断っちゃったんだ・・・・・・もう・・・」
「だからなんで・・・・・・」
「・・・祐一さん、もういいじゃありませんか」
「あ・・・はい」
「さ、私の事より今はお義姉ちゃんと祐一のことでしょ」
「あ、ああ・・・そうだな・・・・・・」

そうだよ

私の事は・・・いいんだよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あのね、祐一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

私のことを好きだっていてくれた人は
 

とっても優しくて・・・
 

一緒にいると楽しくて・・・
 

私の事を本当に好きでいてくれるみたいだけど・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

でもね、祐一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

その人は祐一じゃないんだよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

真琴が誰よりも好きな
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

祐一じゃないんだよ・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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2人の結婚式はいよいよ明日。

けれどやっぱり私の日常は変わらない。

今日も私は保育園へ行く
 
 

「真琴おねえちゃん、明日休みなの〜?」
るみちゃんが不満そうな顔で私の袖を引っ張る。

「ごめんね、でも明後日にはまた会えるからね」
「う〜」
「ほら!るみちゃんはいつも元気な子でしょ」
「・・・うん!るみはいっつも元気なの!」
「いい子だね・・・。じゃあ、約束しよっか」
「やくそく?」
「そう、明後日会う時も2人とも元気で会おうね」
「うん、約束!」
「じゃあ、指切りしよっか」
「うん!ゆ〜び〜き〜り げんまん ・・・」
「「うそついたら はりせんぼん の〜ます ゆびきった!!」」
「えへへ・・・約束!」
 
 
 
 
 
 
 

約束・・・きっと守るからね

明後日の私はまたいつもの元気な『真琴おねえちゃん』でいるからね

きっと・・・元気な私でいるからね

そうすればまたすぐに楽しいこと・・・きっとくるよね
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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結婚式の前の最後の晩御飯。

いつも通りのお母さんのつくった晩御飯。

いつも通りだけど、特別。

お母さんの本気
 
 
 
 

最後の晩御飯は

会話もつまりがちで

2人とも笑顔がどこか堅くて

私がちょっとからかうとすぐに耳まで真っ赤にして・・・

2人ともとってもぎこちなかったけど

でもそれは

決して悪くないぎこちなさだった

2人ともとっても幸せそうだから

見ていて微笑ましい光景だったから

だから私も今日は笑顔でいられたと思う・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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「・・・ふぅ・・・・・・」

暗い部屋の中、見慣れた天井を眺めてため息をつく。
 

・・・眠れなかった。
 

私が最後に二階に上がる時、お義姉ちゃんとお母さんが2人っきりでリビングで話をしているのが見えた。
お義姉ちゃんは泣いているみたいだった。

迷ったけど、結局私はお義姉ちゃんに一声もかけずに2階にあがってしまった。

我ながら酷い妹だと思った
 
 

私は廊下へ出てみる。
廊下には私の部屋以外からは光りは漏れていなかった。
あの2人はもう寝たのに自分はこうして起きてるかと思うとなんだか自分が可笑かった。
 
 
 
 

私は暗いままの階段を足音を立てない様にして下まで降りる。

キッチンで水を一杯飲む。
妙にのどが渇いていた。
もう半分飲む
流しでコップを洗う。
そのまま部屋に戻ろうかと思ったけど、なんとなくテーブルについた。
 

無人のキッチン
光の消えたキッチン
普段なら寂しい光景
でも今は妙に居心地がいい
 

足音が聞こえた。
一瞬、隠れようか迷って苦笑する。
別に悪いことしてる訳じゃないのに。

「・・・真琴、起きてたの」

お母さんだった。
「うん・・・お母さんも起きてたの?」
「ええ・・・なんだか眠れないみたいで・・・」
そう言いながらお母さんもテーブルにつく。

「ふふ、可笑しいわね。花嫁でも花婿でもない私達2人の方がこうして起きてくるなんて」
「うん」

本当に可笑しな事
あの2人は今ごろどんな夢をみているんだろうか

「明日・・・楽しみだね」
私はわざとはしゃいだ調子で話しかける。
こんな所に一人でいたのを見れらたのが照れくさかったから。
「・・・そう・・・ね」
でも、お母さんからの答えを思ってたより素っ気無いものだった。
素っ気無いっていうより・・・なにか別のこと考えてるみたい
「きっと凄く綺麗だろうね。お義姉ちゃんの花嫁姿・・・・・・」
「・・・そうね」
「祐一はきっとそれを見て、照れくさそうにするんだろうね」
「そう・・・ね」
「・・・・・・お母さんなんだかさっきからそればっかりだね」
「・・・・・・そう・・・・・・ね・・・・・・」

・・・お母さん、どうしたんだろう
花嫁の母親の心境で緊張してるのかな?
 

でも緊張してるっていうより・・・・・・悲しそうに見えるのは・・・私の気のせい?
 
 

「・・・あのね、真琴」
 

お母さんが私の方を凄く真っ直ぐな眼で見た。

「・・・悲しい時には、無理して笑わなくてもいいのよ」

「えっ・・・」
 

・・・・・・どういうこと?
 

「おかあさん・・・?」

「・・・悲しいときには泣いたっていいの」

「私べつに悲しくなんて・・・・・・・ないよ・・・」

「・・・・・・」

お母さんは私の方をじっと見ていた。

・・・もしかして、お母さん・・・・・・

「・・・・・・お母さん、ひょっとして気づいてたの?私が・・・その・・・・・・」

無言のまま小さく頷く。
 

「そっか・・・でも、大丈夫だよ!
それは・・・私は祐一の事は好きだけど、名雪お義姉ちゃんのことも好きだし。
もちろん、お母さんの事も好きで・・・私は幸せだよ。
大好きなみんなと家族でいられるこの家が好きだよ。
祐一が結婚してもこの家は変わらないから・・・だから私は悲しくなんかないよ!」
 

そう。そう考えれば全然悲しくなんかないよ。

悲しむ理由なんかないよ。
 

「それに私の事なんかよりお母さんは明日のお義姉ちゃんの心配をしてなきゃ!」
 

そうだよ。お母さん、私なんかの心配してる場合じゃないよ

明日はお義姉ちゃんの一生に一度の晴れ舞台なんだから
 

「私は大丈夫だよ・・・私は・・・もう・・・大人なんだから・・・・・・」
 
 
 
 
 

「真琴」
 

お母さんが呼んだ私の名前が夜のキッチンに響き渡った
厳しさと優しさを同時に含んだような・・・そんなお母さんの声

「無理しなくてもいいの」
 

「ちがうよ・・・」

無理なんて・・・してないよ
 

「・・・・・・ならどうして泣いてるの」
 

「えっ・・・・・・」
 

私は頬を手で拭った。

手に暖かい感触があった。

「・・・あれ・・・私・・・・・・」

今度は左手で拭う。
やっぱり同じように暖かい感触が残った。

「・・・おかしいよね・・・私・・・・・・大人なのに・・・・・・」

「真琴」

涙を拭い続ける私をお母さんがもう一度呼んだ

私は顔をあげてお母さんの方を見た。

お母さんは微笑んでいた。優しい優しい目で。私の大好きなお母さんの笑顔で。
 

「今泣いたって、それは全然おかしいことじゃないのよ」
 
 

「・・・え・・・・・・」
 
 

「大人になるっていうのは、自分の気持ちを我慢することじゃないのよ」
 
 

「・・・・・・」
 
 

「自分の気持ちを抑えてばっかりいると・・・いつか心が壊れてしまうの」
 
 

「・・・おかあ・・・さん・・・・・・」
 
 

そう言ったお母さんの笑顔があまりに優しくて
 
 

「だから私の前でも『大人になろう』って頑張らなくてもいいのよ」
 
 

「・・・おか・・・あ・・・さ・・・・・・・」
 
 

お母さんの言葉があまりに優しくて
 
 

「・・・悲しい時は泣いてもいいの」
 
 

それは私の心に柔らかく響いて
 
 

「・・・辛い時は頼ってくれればいいの」
 
 

心に止めておいたはずの気持ちに響いて
 
 

「・・・真琴はいつまでも私の娘なんだから」
 
 

ずっと押さえ付けていた想いに響いて・・・・・・
 
 
 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 
 
 

・・・私は・・・泣いた
 
 

「本当はっ!・・・本当はずっと好きだったよ!祐一のことずっとずっと好きだったよ!」
 
 

・・・大きな声で
 
 

「でも!・・・でも祐一はお義姉ちゃんの事好きだから!だから・・・真琴は・・・・・・」
 
 

今まで気づかないふりをしていた本当の想いを
 
 

「真琴・・・・・・ほんとは・・・・・・・・結婚したかったよ!!」
 
 

7年間、心の一番深い場所に埋めたはずの想いを
 
 

「結婚・・・・・・したかったよ・・・・・・」
 
 

今、私は・・・・・・・打ち明けた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あのね、祐一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

真琴子供だったよ
 
 

真琴は大人なんかじゃななかったよ
 
 

好きな気持ちを抑えて、
 
 

自分が身を引いてる方が皆幸せなんだっていいきかせて、
 
 

辛い時でも笑顔を見せて、
 
 

そんな自分を自分で大人だって誉める
 
 

素直さを失った・・・・・・子供のままだったよ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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昨日、結婚式が行なわれた。

祐一も名雪もとっても幸せそうだった。

お母さんも2人を暖かく見守っていた。

私も昨日はいい笑顔で祝福してあげられたと思う。
 
 

・・・そして、やっぱり私の日常は変わらない。

今日も私は保育園へ行く
 
 

「おはよう、真琴おねえちゃん!!」

「おはよう、るみちゃん。今日も元気だね」

「うん!るみはいつでも元気だよ!!」

「・・・ねえ、るみちゃん」

「なあに?」

「このあいだ言った事、ちょっと言い直していいかな」

「なに?」

「あのね、いやなことや悲しいことがあった時は、無理に元気でいなくてもいいんだよ」

「どうして?」

「泣きたいときには泣いてもいいの。悲しいときは落ちこんだっていいの。
無理に元気でいることなんかなかったんだよ」

「・・・でも元気じゃないと・・・楽しいこと来なくなるよ?」

「大丈夫。るみちゃんが元気じゃなくなったら、るみちゃんが元気になるまでお姉ちゃんが元気を分けてあげるから」

「うん!」

「そうしたら・・・きっと2人に楽しいことがくるからね」

「うん!わかった!」

「うん、るみちゃんはいい子だね」

「えへへ・・・でもね、るみはなるべく元気でいるよ!元気でいるの好きだもん!」

「・・・・・・そうだね、私もだよ!それじゃあ今日も、一日元気でいこっか!!」

「うん!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ねぇ、祐一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

私はいつか私の気持ちを祐一に言うよ
 
 

笑い話にできるぐらい
 
 

私が私の幸せを手に入れたときに
 
 

きっと私の想いを伝えるよ
 
 

だからそれまで・・・
 
 

末永くお幸せにね・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

真琴が一番好きな、祐一へ・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

−−−あとがき−−−
LOTH様、勝手にSSを捧げさせて頂きましたことを深くお詫びいたします。
このSSを書いた動機が、
LOTH様に触発されて真琴のシリアスなSSを書こうと思ったところからきています。
そのため、駄文、幼文ではありますが捧げさせて頂きました。
LOTH様にはこの場を借りてお礼とお詫びを申し上げます。

最後までお読み頂き誠にありがとうございました。

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ささやかなコメント by LOTH

コメディ系ではとても有名で才能のあるSS作家さんの芥さんが捧げて下さったものです。
捧げて下さった理由が、わたしの影響でこのシリアスな話を書く気になれたから、ということでした…
…なぜなんでしょう。本当のところ、どうしてそんなことを思われたのか、自分ではよく分かりません。
ちょうど、『あなたとめぐり逢うために』を終えて、『Dream/Real』書いた頃ですから…
わたしが一番優しい気持ちに近づいたSSを書くことができた頃、多分、それに影響を受けたように感じたのだろうか、
そんな風には思いますが…
あの後、わたしは『Eine Kleine Naght Musik2』とF,Fという酷いものを書いていたのですから、
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
また、このSSは真琴でシリアスだというのが掲示板で見えていたので、
真琴で悲しい話はちょっと読めないわたしは敬遠してしまい、捧げていただいたことに気づきませんでした。
ご本人からの連絡でやっと気付くという…非常に申し訳ないことを重ねてしまいました。
でも、真琴、です。本来のわたしの属性の…真琴です。悲しい、でも…わたしが大好きな真琴、です。
これを読んで、長らく遠ざかっていた真琴への気持ち、優しい気持ち、取り戻させてもらった気がしました。
久々に真琴の夢を見れそうな、本当にそんな気がしました。

芥さんにはお返しをせねばならないと思いながら、F,Fの迷路を抜けた頃には掲示板がなくなってしまい、
芥さんは仮掲示板にはいらっしゃらないのでお返しも出来ないでいましたが、先日、やっとお返しできました。
もちろん、わたしに真琴への想い、取り戻してくれたお礼をこめまして… inserted by FC2 system