『あなたへの月 〜Moon for You〜 』

 
LOTHさん一万HITおめでとう記念SS(^^;
 別に私が踏んだワケでもないのに(笑)
 

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 “月が遠くで泣いている”

 “暗闇の中、泣いている”
 
 

       『あなたへの月 〜Moon for You〜 』 
 
 

 月の光が垂れる夜
 静かに病みが笑う夜
 闇が
 私をあざ笑う
 

 怖いくらいに澄んだ夜。
 私は一人ひざを抱え、ベッドの上に座っていた。
 電気は点けていない、真っ暗な部屋。
 真っ暗なはずの部屋は、でも何故か明るくて。
 運命に従って巡る星の光。
 溶ける寸残の輝きを伝える雪の光。
 もし雪の代わりに、星が積もっていたらどうなるんでしょう。
 やっぱり溶けるさだめだと、黙って消えていくのでしょうか。
 

 そう、死ぬんです。
 何億年も輝く星でも。
 一冬すらも越せない雪でも。
 セミだって、カゲロウだって。
 人間だって、みんなみんな死んでいくんです。
 

 死にたくない。
 そんなことすら思わなくなってから、しばらくたちました。
 あなたに会って少しだけ、そのことを思い出しました。
 ううん、いっぱいいっぱい、思い出しました。
 死にたくない。
 そう、思いました。あなたはそう思わせてくれた。
 私に、思い出させてくれました。
 それがただの一瞬でも。
 私はもう、そうは思いません。
 もう、いいんです。
 死にましょう。
 これ以上思わないうちに。
 死にましょう。
 これ以上、思われないうちに。
 死にたくないと、私がまた思ってしまう前に。
 
 

 今夜の月は綺麗でした。
 夜空を見上げることさえ、最近はなかった気がします。
 あなたに会ってから。そんなことを考える隙間はなかった。
 でも今も私の中は、からっぽなんかじゃありません。
 今まで以上に、あなたのことで満ち満ちていて。
 だから、夜空を見上げることができるんです。
 月を、見つめることができるんです。
 
 

 見つめることは、見つめられることに同義で
 月に見つめられた私の
 私の瞳に宿った月が
 うたう
 
 
 
 

 私はひざに顔を埋めた。
 見つめる月から目を逸らすように。
 その言葉から顔を背けるように。

 『残酷な』

 美しい思い出が

 『身勝手な』

 あの人の思いが

 『悪魔のような』

 私の思いが

「違う!」

 私の言葉は声にならない。
 喉の奥深くで消え去って。
 私の耳に届いたのは幻聴。
 きっと月にも届かない。
 あなたにも決して。

 『違わない』

「……ちが…う…」

 『違わない』

 繰り返す、繰り返し。
 ただ私を説得するような。
 私に思い出させるような。
 罪の意識を。

 『本当の思いを』

 それは私が消したモノ。

 『美しい思い出を』

 それだけを残したいと。

 『あなたの思いを』

 永遠に。

 『私の思いを』

 憶えていて欲しいと。

 『永遠に私のことを』

 焼きつけたい。
 私が生きた証。
 私が生きていた証。
 それはあなたへの思い。
 それはあなたの思い。
 そして重み。
 思い出という名前の、消えない足枷。
 私はその鍵を飲み込んだまま、永久に眠る。
 

 私はひどい女。
 
 
 
 

 愛憎、というものがあるのなら
 そんなものがもしもあるのなら
 絶え間なく流れ去る言葉の川の中で
 小枝のようにあなたの心にひっかかり続けたいと
 そんなことを望んでいたのでしょうか
 そんな残酷なことを
 ずっと望んで
 ずっと
 ずっと
 
 
 
 

 あなたを悲しませることで、私の心は安らぐのでしょうか。
 わかっているのはその逆だけ。
 私の心が安らいだ時、きっとあなたは悲しんでいるでしょう。
 それは仕方のないことなんでしょうか。
 愛しているのに、悲しんで欲しい。
 愛しているから悲しんで欲しい。
 そんな矛盾した心しかない、私の小さな胸では。
 
 

 私はどうすればいいのでしょう。
 つかの間の自分の安らぎと、放たれることのないあなたの足枷。
 天秤にかけると、釣り合ってしまうのです。
 私の迷いの分だけ揺れて、でも最後には釣り合ってしまうのです。
 だから。
 

 出会うべきではなかった。
 出会ってしまってはいけなかったんです。
 一度は凍らせた私の心を、暖めて溶かしてしまうあなたに。

 私はあなたに感謝しています。
 私はあなたを恨んでいます。
 あなたを。
 この世界でただ一人、あなただけを。

 だから――
 
 
 
 

 私は月になりますね。
 あなたを悲しませないように。
 私の心が満たされるように。
 弱い、弱い私の心が。
 包み込むことのできなかった矛盾を、微笑みながら抱きしめるために。
 私は月になりますね。
 私の瞳に浮かんだ月が。
 一晩だけと、そう囁くから。
 
 

 これから生きていくあなたのために。

 これから死んでいく私のために。

 私は、月になりますね。

 それは一晩だけの夢。

 あなたを見つめて、微笑みながら消えていく。

 そんな、壊れかけた、不器用な月に。
 
 

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 BGM:Cocco『あなたへの月』

 このSS(?)は、以前LOTHさんに贈っていただいた「月が私を呼んでいる」へのアンサーソングです。
 『朝方』『手を振る朝』なんて…まあ、LOTHさんのHPに置いて頂いているので、知っている方は知っている
(当然)かと思いますが…
 このSSは、『朝』前後編の蛇足です。
 ちなみに当初はこれのプロトタイプを発表しようとは思っていたのですが…なにしろ奇奇怪怪でして(苦笑)
 タイトル『裸体』(爆)
 実際に書いてはいませんが、錯綜した世界でした。これもまあ、大きなことは言えないデキですが(苦笑)
 …なんて、捧げたのにこんなことを言ってはイケナイ(爆)

 LOTHさんのF,F、といえば知ってる方も多い(というかみんな知ってる(笑))のではないでしょうか。
 いろいろな意味をこめて、このSSはLOTHさんを通してF,Fの全ての栞に捧げたいと思います。
 「突如失踪した父親からの養育費」とか、そんなようなモノです(苦笑)

 そんなワケで、これは『朝』とF,Fの両方を意識しながら書いてしまったために…
 時間軸がよくわかりません(T-T)
 っていうかこれ一月の何日?(爆)
 …まあ、そんなあまりにもアバウトな捧げ物でしたが、置いてくださると非常にうれしいです <メイン(笑)

 ちなみに私は、結局この話しの続き、もしくは別のエンドなどは書けなくて…
 そして、F,Fを見ています。
 私がこんな栞を書くのは、これが最後でしょう。
 これから書くとしたら…ほのぼのか…もしくは「ぽっぷ」(爆)
 私の「ぽっぷ」は幅が広いですからねえ(笑)それでもダークにだけはならない、と決めてはいるのですが。

 それでは…と、後書きがなんか無意味に長いな(苦笑)
 改めまして、LOTHさん、一万HITおめでとうございます(拍手)
 あとは、私は、静かにF,F/Sの行方を見守ります。
 義務とか責任ではなく…一人の読者として。陰ながら(笑)応援していきたいと思っています。
 本当に長々と…いま一度感謝と謝罪を。
 そして偶然手にとって頂いた方々。本当にありがとうございました。

                                       korie
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