『あなたへの月 〜Moon for You〜 』について


これは本当なら、捧げていただいたSSとして置くべきものです。
でも、捧げていただいたSSには内容に関してコメントしづらいので、ご本人の了承を得てこちらに置きました。

これはご本人が書いておられるように、ご本人のお書きになった『朝方』『手を振る朝』の栞です。
そして、わたしがKorieさんに捧げた『月がわたしを呼んでいる』という、
読まれた方には言葉遊びに見えるような、SSと呼べないようなSSへのアンサーソング。

わたしは『朝方』『手を振る朝』(以下、『朝』)へのコメントに書いたように、この方のこの栞を胸に温めて、
そしてあの『Forget me. Forgive me』(以下、F,F)の栞を育てました。
だから、わたしは養父。
Korieさんは生みの親として、これを贈って下さいました。
あの醜い栞に、そしてまたそこから派生したF,F/Fairy Taleで天使のあゆに救われた栞に、
そしてF,F/Original Sideの、最後の瞬間にあゆと手を繋いで祈った栞に、
F,F/Sunshineのこれから書くつもりの、香里と共に癒されるはず(わたしに書き切れれば、ですが)の栞に、
それら全ての栞への贈り物です。何よりの贈り物です。

以前の『朝』へのわたしのコメントは、わたしの思い入れのみを語り過ぎました。
だから、ここでは全体への、この栞のどこにわたしが惹かれたのか、そんなことを語りたいと思います。

この栞はKanon本編の栞と同じく、願いました。
1週間の思い出を作る。それが栞にとって、最後の願いでした。
しかし、祐一にとっては最後ではない。彼はそれから生きていくのです。その一週間の思い出を抱えて。
それでも求めた。
しかし、拒絶された。
その時、栞の中に狂気が生まれる。
『わたしは壊れるんですよね』
笑いながら、祐一に微笑みながら、言う栞。
そういう、狂気。

わたしはそれを『月が呼んでいる』と呼びました。
そして『月を呼んでいる』とも。
それは、わたしがその前に書いていた『Lunatic』『Moonlight』という、香里の狂気を書いた時のイメージ。
月の光の中で、月を見あげて、微笑むイメージ。
月を見つめ、月に見つめられた銀色一色のイメージ。

狂気は狂気として存在する。
美しくも醜くも優しくも厳しくも悲しくもうれしくもない。
ただ、存在する。

栞は、狂気として存在する。

でも、栞が陥った狂気は、祐一のため、でした。
自分のためではなかった。自分の勝手ではなかった。

罪…祐一が栞を拒んだことは罪なのでしょうか。
罰…祐一が悲しみの底で狂気に陥りかけるのが罰なのでしょうか。

なぜ、栞は残された祐一のための狂気となれたのか。
彼女は聖女だから、なのでしょうか?
最後まで自分の愛した人のために尽くせる少女だったからでしょうか?

Kanonの世界では、それがありうる解釈なのでしょう。
でも、わたしは『朝』を見た時、そう思わなかった。

栞は自分がしようとしたその最後の願いが、祐一にさせようとしたそのことが、実は酷いことであることを知っていたのではないかと。
それを知っていたのに、栞はあえてそれを求めようとした。
だから…栞がしようとしたことは、罪なのかもしれない。
だから…栞が狂気に落ちたのは罰なのかもしれない。
人間、美坂栞の抱えた、それが罪と罰なのでは、と。

『朝』の祐一は、罰を受けたくて自分の罪を追った。
しかし、栞の狂気は祐一のためのものでした。
そして、その罪を、罰を、栞は背負って死んだ。
自分の罪を、罰を背負って。
それが祐一の罪を許すものでした。そう、彼に思えるものでした。
『死ぬんじゃないですよね』
『壊れるんですよね』
『だから、悲しくないですよね』
そう言って、笑う栞の狂気は。

でも、そのために、祐一は罪を追わねばならない。
何度も言うように、救いは自分から求めなければならない。
狂うところまで求めなければならない。
でも…この祐一は、狂う寸前で止まりました。栞に、救われました。栞の狂気に。
それとて、ある意味では狂気なのかもしれませんが…
狂気は存在するから。日常という狂気だって。
だから、救われた狂気、かもしれませんが…
でも、救われた。
だから…

『あなたへの月』で、Korieさんは栞の狂気、祐一のための狂気を月に例えました。
それがわたしが捧げた『月はわたしを呼んでいる』のイメージ、ということなのでしょう。

冷たい月。美しい月。でも、優しい月。癒す月。
それはわたしが追った香里の狂気のイメージ。
そして、この『朝』の栞のイメージ。

この栞の、自分の罪を知っている栞のイメージ。それが、F,Fの、そしてF,F/FTの栞に繋がりました。
そして、この栞の、部屋で泣いた栞のイメージ。それがF,F/OSの栞に繋がりました。
そして…この祐一を救った狂気の栞、このイメージを抱いて、わたしはF,F/Sの栞を描くことになるでしょう。
ただし、その狂気の相手は、祐一ではなく、『朝』では進行役になっていた、わたしの『Lonatic』『Moonlight』で月を呼んでいた香里。

そうです。わたしの栞は、この『朝』の栞から育った以上、祐一を救う、それはこの栞だけです。
わたしは、祐一を救わない。それは不要だからです。『朝』が…そして、今回の作品があるから。

ひょっとしたら、わたしはF,F/Sを書けたら、最後に栞、香里、祐一、そして…あゆを描くF,Fを書くかもしれません。
今のところ、何のイメージも構想もありません。
でも、もしも書いたとしたら、やっぱりそこに現れる栞はF,Fの栞、つまりこれらの作品から育った栞でしょう。
…本当にKorieさんがこの栞をもう書かないのなら、ですが。
書いてしまったら…やはり、養父は実の親には勝てないだろうなと思います(苦笑)
今回の『あなたへの月』を見れば、『月がわたしを呼んでいる』と比較すれば、それは誰にもおわかりでしょう。

でも、わたしはF,Fシリーズ群を、人間としての栞とその回りの人々を描いてきて、描くつもりです。
そして、その中で描かれた栞は、やはりこの栞が育ったものなのです。

もう1度、言います。
Korieさま、この栞を生んで下さって、ありがとうございます。 inserted by FC2 system