“また、明日”
 

これと、このあとにだす二本の美汐SSを、LOYHさんへ
いちおう返品可、ということで。

 
 
「それでは、相沢さん」
 そう言って、アイツはいつもの別れの言葉を口にする。
「さようなら」
 背中を向けて、遠ざかって行く。
 

『さようなら』
 
 
 

     “また、明日”
 
 
 

 天野は変わった。
 無愛想で無口なのは相変わらずだが、以前とは雰囲気が違う。
 何よりも、周囲との係わり合いを拒否しなくなった。
 以前は打っても響かなかったが、今は打てば返ってくる。
 いい方向に、いい方向に。
 ちょっとずつ、ちょっとずつ。
 なんだか、嬉しかった。
 
 
 
 

 昼休み。
 名雪たちと、学食に行くために歩いていた。
 俺と、名雪と、香里と、北川。
 美坂チームというやつだ。
 命名したのは北川だが。
 何故かリーダーは香里らしい。
 まあ、この四人のヒエラルキーの頂点に立っているのは間違い無く香里だろう。
 そんな訳で、いつものメンバーで学食に向かっている途中、見知った後姿を見つけた。
 ひとりで、歩いている。
 声をかけようとした俺を後ろから追い越した女の子が、その後姿に声をかける。
「天野さん、ひとり?」
 ゆっくりと振り向く天野美汐。
「……はい」
「じゃ、一緒にいこ」
「はい」
 俺は感動すら覚えていた。
 天野に屈託無く話かける女の子。
 それに無愛想ながらもちゃんとまともに応対している天野。
「……相沢君、どうしたの?」
 ちょっと前で、香里が振り返って俺を呼んだ。
「なんでも、ねぇよ」
 あからさまに不信そうな顔をする香里。でも、俺が歩き出したのでそれ以上は追求せずに、前を向いて歩き出した。
 名雪が、俺の横に並ぶ。
「さっきの女の子、誘わなくてよかったの?」
「いいんだよ」
 俺は笑って言った。
「先約があるみたいだったからな」
「そう」
 名雪も笑っていた。
 まるで、俺の心の中を見透かしたみたいに。
 
 
 
 

 放課後。
 昇降口。
 なんとなく、待っていた。
 天野を。
「相沢さん」
 顔を上げると、天野の顔があった。
 いつもの、無愛想な顔。
「よう」
「何を、しているのですか?」
「何してるように見える?」
「……人を、待っているように見えます」
「大当たり。それじゃあ行くぞ、天野」
「人を待っていたのではないのですか?」
「……おまえを待ってたんだよ」
 
 
 
 

「ひょっとしたら、初めてじゃないか?天野と商店街来るの」
「そうですか?」
 天野はちょっと考え込んでから、言った。
「……そうかもしれません」
「だろ?」
「はい」
 特に何をするでもなく、ただぶらぶらとしゃべりながら、歩く。
 俺はそんな時間を楽しいと思った。
 天野はどう思っているのかわからないが。
 
 
 
 

「そろそろ――帰ります」
「ああ」
「それでは」
 小さく頭を下げる。
「さようなら」
 そう言って、背を向ける。
 そして、歩き出す。
 俺は――
「ちょっと待った!天野!」
 そんな天野を呼びとめた。
「? なんですか?」
「さようなら、じゃない」
 その言葉は、相応しくない。
「また明日――だ」
 天野は、きょとん、とした顔になる。
 その後、ちょっとだけ、唇の端を上げて、微笑った。
「……はい、――また、明日」
 笑った天野は可愛い。
 素直にそう思った。
 天野の背中を見えなくなるまで見送ってから、俺も家路についた。
 
 
 

『――また、明日』
 
 

 家に向かう足取りは、いつもより軽かった。
 
 

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多くは語らず、次へ。
香「そうね」
それでは
香「次っていっても続いてるわけじゃないけど」
 

『晴れた日は、空を見上げて』へ

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