ひざまくら
 

久々に投稿します(2週間以上あいてる(泣))。美汐SSです。
 
 
 
 
 

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 『ひざまくら』  
 
 
 
 
 

「それじゃ、またね、真琴。」
「うん、じゃあね、美汐。」
玄関先で天野を見送った真琴が戻ってきた。
「なあ、真琴。」
「なに?」
「今日の天野、なんか機嫌良くなかったか?」
「うん、なんだかいつもと違う感じだった。」
「なんでだろうな?」
「うーん…」
 
 
 
 
 
 
 

「ふあぁ…、やっと終わったか…」
俺はあくびをしながら、軽く体を伸ばした。
「まだお昼休みだよ。」
「午前中の授業は終わっただろう。」
「名雪、お昼はどうするの?」
香里が尋ねてくる。
「私は学食にするつもり。香里は?」
「私もだけど…。またAランチなの?」
「うん。」
にっこりと微笑む名雪と、呆れたようなため息をつく香里。
「俺も学食にするつもりだ。」
横から口を挟むどうでもいいサブキャラ一人。
「俺は北川だっ!」
「祐一はどうする?」
「ああ、俺も学食に…」
「…俺は北川だぁ…」

結局、いつも通りのメンバーで学食に行くことになった。
「じゃあ、とっとと行かないとな。」
そう言って俺が席を立とうとした時、
「ゆ・う・い・ち・さんっ!」
急に、誰かが俺のことを大声で呼んだ。
…なんか、聞き覚えのあるような声なんですけど…
とりあえず、声のした入り口の方を見てみる。
と、そこには…
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「祐一さんっ、一緒にお弁当にしましょっ(はあと)」
両手で大きめのバスケットを持ち、ニッコリと微笑む天野の姿があった…
 
 
 
 
 

「あ、天野、なんの真似だ…」
俺のこと名前で呼んでるし…
「ほら、美汐、祐一さんのために頑張って作ったんですよ〜。」
ぐあ…、自分の呼び方まで変わってる…
手にしたバスケットを見せるように胸元まで持ってきながら、
天野は教室の中にずかずかと入って来た。
「み、美汐ちゃん…」
さすがに名雪も戸惑っているようだ。当たり前だが。
呆然としている間に、天野は俺たちの前まで来ていた。
「久しぶりね、天野さん。」
「お久しぶりです、香里先輩っ」
相変わらず笑顔で天野が答える。

…ん?
「…って、お前ら知り合いだったのか?」
「…ええ、以前、私が狂気の淵に陥っていた時に、ちょっと、ね…」
「あの頃は大変でしたよね〜」
きょ、狂気って…(汗)
つっこもうかとも思ったが、なにか危険な予感がしたので止める事にする。
しかし…、普段の天野を知っているなら、なんで香里はああも平然としていられるんだ?
「で、ど、どうしたの、美汐ちゃん?」
戸惑いながら名雪が尋ねる。
こっちの反応が自然なはずだ。
「あはっ、美汐、祐一さんと一緒にお昼にしたくって…」
言いながら、ちょっと照れたように舌を出す。
…あ、なんかいいかも…
…違うっ!そうじゃない!
「天野、なんで俺なんだ?…いやそれよりなんで急に…」
「祐一さんの事が、好き、だからですよっ」
「………!」
な…
なんと…?
これには、さすがに香里も固まっている…
「ほらぁ、はやく行きましょっ。お昼休みは待ってくれませんよっ」
言いながら、天野は俺の腕をつかむ。
「…あんまり見せ付けないでよね…」
「香里っ、無責任な事を…」
皆まで言い終わらないうちに、俺は引きずられる様に教室を後にした…
………
「ちょっとっ!一体あの子どうしたのよっ!」
「わ、私だって知らないよ〜」
「…なんで…相沢ばっかり…」
 
 
 
 
 
 
 

俺は天野に引っ張られながら、中庭へとやって来た。
温かいこの時期、カップルや女の子同士のグループなど、中庭で昼食を取る生徒は結構多い。
ちなみに、俺たちがどう見られてるのかはさっぱり分からない。
…つーか、何で俺、ここにいるんだ?
「この辺りにしましょうか。」
そう言って、天野は小さめのビニールシートを芝生の上に敷く。
仕方なく、俺もその上に座る。
「ほら、祐一さんの好きそうな物、いろいろ作ってきたんですよ〜」
バスケットの中には、サンドイッチと、タッパーに詰められた色とりどりのおかず。
見事なまでに、俺の好物揃いだった。
何となく和風に見えそうな天野だが、意外と洋食よりのメニューだった。
しかし、どういうことなんだ、一体…
…とりあえず話題を振ってみる事にする。
「…そういや知ってるか?タッパーって発明者の名前からきてるんだぞ。」
「え、そうなんですかぁ?へー、祐一さんって物知りですね〜」
…反応が天野じゃ無い…
「そうかっ!お前偽者だなっ!天野の振りをして俺をだましに…」
なんのためにかはあえて考えない事にする。
「やぁだ、本物ですよ〜っ。おかしな祐一さんっ。」
あ、頭痛くなってきた…
 

「はい、どうぞ。」
水筒から麦茶を注ぎ、俺に手渡して来る。
はぁ…、とりあえず食うか…
鳥のから揚げをフォークで刺し、口にしてみる。
………
……

「うまいぃっ!」
思わず立ち上がって叫んでしまった。
叫びたくもなる。
ニンニクの効いたカリッとした衣、醤油味を染み込ませたジューシーな肉…
正に俺の理想っ!『秋子さん級』と言っても差し支えない位なんだから…
俺が感涙にむせんでいるのを見て、天野はほっとした様に微笑んだ。
「良かった…。祐一さんのお口に合うかどうか不安だったんですよ。」
すっかり上機嫌になった俺は、そのままハイペースで食べていった。
どの料理も俺好みの味付けで、この上なくおいしい。
「…ん、天野ももっと食えよ。」
見ていると、天野は俺のほうを見るばかりで、ほとんど弁当に手をつけていない。
「美汐は、おいしそうにお弁当を食べてくれる祐一さんを見ていたいんですよ。」
そういって天野は優しく微笑んだ。
………
 
 
 
 
 

「ふぅーっ、うまかったぞ」
「はい、どうぞ。」
俺の差し出した紙コップに、美汐が麦茶を注ぐ。
ゴクッ、ゴクッ…
「…ふぅ。」
…平和だ…
…って、そうじゃないっ!
「天野、今日はほんとにどうしたんだ?」
思い切って聞いて見る。
「秘密です。」
天野は人差し指を口元に当てながら、いたずらっぽく微笑んだ。
…なかなか可愛いんだが、どこかで見たことあるような…
「…うーん」
どうも納得いかないが、俺は追及をあきらめて麦茶を飲むことにする。
「祐一さん…」
不意に天野が静かな声になる。
「ん?」
「愛してます。」
ぶはぁっ!
俺は思いっきり麦茶を吹き出した。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
天野は慌てて俺の背中をさする。
「い、いきなり何言い出すんだ…」
「断ってからの方が良かったですか?」
「そういう問題じゃ無い…」
俺はため息をついた。
 

「ふあぁ…」
俺は大きくあくびをした。
ぽかぽかした春の陽気と、昼食後ということでなんだか眠くなってくる。
「祐一さん、少し横になったらどうですか?」
「そうだな…」
辺りを見ると、あちこちに昼寝を楽しむ生徒がいる。
「結構、ひざ枕してる奴多いな…」
何となく口にしてみた。
「あっ、美汐もやりますよ〜っ」
そう言うと天野はいきなり俺を引き寄せ、自分のひざの上に頭を押し付けた。
「お、おいっ!」
なんとか逃げようとするが、頭を押さえられてるせいで動けない。
さっきも言った通り、ひざ枕をしている人は多いのであまり目立たないはずだが、
やはり恥ずかしい事に変わりは無い。
「………」
周りの視線が気になるのと、スカート越しに伝わる柔らかい感触に、
俺の心臓は馬鹿みたいに高鳴っていた。
「気持ちいいですか〜?」
「聞くな…」
「?」
実際、半端じゃないくらい気持ち良いのだが、それを口に出来るような神経を俺は持っていない。
………
昼下がりの柔らかな時間が、ゆっくりと流れて行く。
天野が俺の髪をそっと撫でながら、
「大好きですよ〜…」
そっとささやいた。
 
 
 
 
 
 
 

放課後。
俺は妙に疲れながら、名雪と一緒に教室を後にする。
そして、昇降口を出た時…
「ゆーういーちさーんーっ」
ぐあ…
手をぶんぶん振りながら天野が駆けよって来る。
「あ、祐一、私先に帰るねっ。」
妙な気を効かせるんじゃない…
「あ、いいですよ。時間は取らせませんから。」
そう言ってくれると助かる…、って、時間?
「おい天野、時間って…」
俺がそう聞こうとした時、
「あー、祐一〜、美汐〜」
校門の辺りにいた真琴が俺たちを見つけ、こちらに歩いて来る。
「おー、真琴〜」
俺は真琴の方に軽く手を振って答える。
しかし天野はちらっ、と見ただけで、再び顔を俺のほうに向ける。
「…祐一さん、明日も一緒にお弁当、食べましょうね。」
「え、あ、ああ。」
急に言われ、慌てた俺は思わず頷いてしまう。
 

それを見て美汐はくすっと笑うと、
「祐一さん、襟が曲がってますよ。直しますね。」
そう言って、俺に顔を近づけて来て、
 

ちゅっ。
俺の唇に柔らかな感触が伝わった。
「………!」
えーと…
「え、あ、ちょっ、二人ともっ…」
名雪の声がなんだか遠くに聞こえる。
甘い香りが鼻腔をくすぐる。
天野ってこんないい匂いなんだ…
…しかし天野…、上手いぞ、なんか…
あ、いかん、なんかぼーっとして…
………
…くちゅっ。
「だぁぁっ!舌をいれるなぁぁっ!」
思わず天野の肩をつかんで引き離す。
天野は一瞬驚いた表情をみせたが、すぐに笑顔に戻り、
「…それじゃ、また明日。」
そういって校門の方へ走っていく。
そして、体ごとくるん、とこちらを振り返り、俺に向かって大きく手を振ると、
再び駆け出していった…
その直後、
「…ゆ、祐一、舌って何!?」
「祐一〜、なんで美汐とキスしてるのよ〜っ!」
我に返った二人が駆け寄ってきた…
 
 
 
 
 

「…と、いうわけなんだが…、なんか心当たり無いか?」
「無いわよ〜っ…。だいたい自分の事『美汐』って呼ぶのも聞いたことないんだし…」
「…まぁ俺も、語尾に(はあと)を付ける天野なんて想像もつかなかったしな…」
しかし…。
「真琴にも分からないんじゃなぁ…」
 

「あ、そういえば…」
名雪が突然、思い出したように呟く。
「な、なんか分かったのかっ!?」
「うん…、そういえば昨日、お母さんと台所で話してたな、って…」
「あ、そういえば…」
「そうだよっ、その後からなんか、美汐、機嫌良かったんだっ。」
真琴もそれに続く。
………
…『秋子さん』、…『台所』、…『まるで別人の様』…
…まさか…
俺の頭に、ある一つの単語が浮かんだ。
『ジャム』。
俺は二人の顔を見る。
二人とも俺の顔を見返す。
…考えてることは同じ様だった。
俺たちは無言で頷き合うと、家に向かって走り出した。
 
 
 
 
 
 
 

「秋子さん!」
俺たちは家に上がるとすぐ、リビングにいた秋子さんに詰め寄る。
「あら、おかえりなさい。…どうしたの?」
怪訝な顔で秋子さんが尋ねる。
…う、そういや、なんて聞けばいいんだ?
うかつにジャムの事を口にすれば、記憶が無くなるくらいじゃ済まないだろうし…
とりあえず、遠まわしに探ってみるか…
「えーと、昨日天野が…」
「お母さん!昨日美汐ちゃんにあのジャム食べさせた!?」
なぜか切羽詰ったような感じで名雪が尋ねる。
「…っておい!ストレートに聞くんじゃないっ!」
…ああ、もうだめだ…
きっと俺たちは、ジャムの原料かおでん種になって…
 

しかし秋子さんは一瞬きょとん、とした顔をして、
「え、違いますよ?」
あっさりと否定した。
「…え?じゃあどうして…」
呆気に取られてそう聞き返した俺を見て、秋子さんは軽く微笑む。
…な、なんなんだ…?
俺の方を見たまま、秋子さんは話し始める。
 

「昨日、美汐ちゃんが私の所へ来て聞いてきたんです。
『周りに素敵な子がいっぱいいて、好きな人に振り向いてもらえないんです。
いくらアプローチしてもぜんぜん…。どうしたらいいんでしょうか?』、って」
え、それって…、俺?
…今までアプローチなんてされてたっけ?
いや、そうじゃなくて…
「それで私は言ったんです。
『もっと積極的になってみて、まずは好きな気持ちを伝えてみたらどうかしら』、と。
そうしたら美汐ちゃん、祐一さんの好きな食べ物とか色々尋ねてきて…
美汐ちゃん、真剣な顔でメモまで取っていたんですよ。」
そう言って、秋子さんは思い出したようにクスッ、と笑った。
 

「…ジャムじゃ、無かったんですね…」
つまり、あれは『地』だと…
…しかし、天野が俺のことを…
確かにちょっとやり過ぎな所はあるけど…
…でも、いいかも。
 

俺の頭の中には既に、仕事から帰って来た俺をエプロン姿で玄関まで出迎える、
『若奥さま天野』の姿が完成していた。
「ところで祐一さん。」
あ、いや、結婚したなら『美汐』って呼ぶのか?
『美汐』に『あなた』で新婚生活…。
「祐一さん。」
やっぱりセオリー通り「御飯にします?お風呂にします?それとも…」とか聞いてくるのかっ?
な、なんか、たまらんぞっ!おいっ!
「祐一さん!」
「もちろんお前にするさっ!…って、なんですか、秋子さん?」
「さっきから呼んでいるんですけど、どうしたんですか?」
「あ、いえ、ちょっと…」
ふ、ちょっぴり浮かれていたようだ。
「で、何ですか?」
「いえ、たしかさっき祐一さん…」
「?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「『ジャム』がどうとか…」
「あ。」
しまったぁぁぁーーーーーーーーーっっっ!
驚きのあまり、すっかり忘れていたぞ…
「…あのジャムが、食べたいんですか?」
「あ、いや、その…」
「…食べたいんですね?」
や、やばい…なんとかしないと…
「…そ、そうだ!名雪と真琴は…」
「…もう、食べましたよ。」
秋子さんの指差す方を見てみる。
そこには…

テーブルに突っ伏して、ピクピクいってる二人の姿があった。
「あ、あああ…」
「さ、どうぞ、祐一さん(はあと)」
 
 
 
 
 
 
 
 

−Fin−
 
 

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一体どのジャンルになるんでしょーか、コレ…(汗)
感想待ってます〜っ
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