<秋に走ろう>

 

 
 
 
 
 
 

・・・食欲の秋
 
 

・・・読書の秋
 
 

・・・芸術の秋
 
 

そして・・・
「・・・はめられた」

・・・運動の秋である
 

やっと涼しくなって来たある日の夕方
「祐一、秋だよ」
「なに!もう秋なのか!」
「そうだよ祐一」
水瀬家のリビングのいつもの光景、しかしなにか嫌な予感が・・・
「秋といえば何だと思う」
あまりにもにこにこしていた、ふたりきりのときとは違ういたずらを思いついたこどものような笑顔
このとき俺は逃げるべきだったかもしれない・・・
「花見の季節だな」
「ちがうよ祐一」
「なに!じゃあクリスマスか」
「・・・ちがう」
「じゃあ・・」
「ねえ祐一、一緒にでよう」
そういって名雪が見せたのはマラソン大会のチラシだった
「却下」
「うー、いじわる・・・ね、運動の秋だし一緒にっでようよ」
ちょっと潤んだ瞳に上目遣いでみつめられる、おもわず頷いてしまいそうになるが嫌な予感は消えない
「俺達は毎日のように走ってるから大丈夫だ」
「・・・わっかた、じゃあ祐一はこれから毎日ごはん全部ジャムだよ、おみそ汁もおかずもお茶もぜんぶお母
 さんのお気に入りのあのジャムだよ」
「・・・・・・・・・・・・・わかった、一緒にでる」
いやだった、紅しょうがやたくあんとはくらべものにならないくらいいやだった
それに町内の大会だしそんなに走らなくていいだろうし、名雪と一緒ならまあいいかとも思ってたし
 
 

・・・甘かった
次の日の放課後からマラソン大会に向け練習を開始したのだが
名雪は恐ろしいことをさらっと言ってのけた
「ねえ祐一、フルマラソン走ったことある?」
「帰る」
「わっ、ダメだよ祐一練習しなきゃ」
「フルマラソンなんぞ走れるか!」
「・・・ずっと一緒にいてくれるんじゃなかったの?」
胸元には白い目覚まし時計があった
「おう、マラソンなんぞ楽勝だ」
脅迫だった、いまにも目覚ましのメッセージを流しそうだった
「じゃあ、スタートだよ」
 

「・・・はめられた」
「祐一、人聞きが悪いよ」
「はぁ、はぁ、・・・っほんとのことだろうが!」
「ちょっとまってて、飲み物買ってくるね」
名雪の後ろ姿を見ながら汗だくの俺は芝生に横になる・・・やっと涼しくなったと思ったのにこの有様だ
ちなみに近所の公園のジョギングコース全長10キロを二周半したところにいる
ただ自分でもびっくりしているこんなに走れるとは思っていなかった
毎日の積み重ね(登校時のダッシュ)だろうか
名雪の方はというと、さすがに疲れてはいるががまだいけそうだった、引退してもさすが陸上部・・・。
受験のための勉強の時間が多くなってきて、名雪も陸上部を引退して勉強に打ち込んでいた
名雪は走るのが好きだといっていた、きっと走りたかったんだろうと思う
そして俺と一緒に走りたいと思ってくれているのだろう。かわいいと思うし、うれしいと思う
ただ・・・嫌な予感的中である。死ぬほど疲れた・・・はぁ、それにやり方が強引でだ、名雪らしいといえば
名雪らしいけどな
 

「はい、祐一」
「サンキュー名雪」
祐一がスポーツドリンクを受け取る
ちょっと強引にさそったかもしれないけど祐一は一緒に走ってくれる
祐一はほんとに嫌だったら嫌だって言うし、すぐやめちゃう
でもそうしないってことは・・・愛を感じるよ、うー自分で赤面だよ
「ねえ、祐一休みたくなったらいつでも言ってね」
「おう、だから休んでるぞ」
「そうだね、で祐一の目標は」
「なんのだ」
「もちろんマラソン大会の、だよ」
「完投」
「それは野球だよ」
「じゃあ完封」
「うー、それは完投の上位だよ」
「なら、完全試合だ」
「・・・祐一〜」
「嘘だ、とりあえず完走かな」
「そっか、でもね祐一、他の人と同じ目標じゃなくてもいいんだよ。区切りなんてそれぞれなんだから休み
 たくなったら休めばいいし、でも休んだあとにまた走れれば、わたしも一緒に休んで待ってるからねわた
 しは祐一祐一と一緒に走りたいから」
「・・・ああ、それでも目標は完走だ、ただ凄くおそいかもしれないぞ。それでも一緒に走るんだぞ、誘った
 責任者だからな」
「うん」
もちろんだよ。わたしは祐一と走っていきたいから、ううん、走らなくてもいい。一緒に進んで行ければいいんだから

「さあ、もうちょっと走るか」
「うん、もうちょっと走ったら家に帰って晩ご飯だね」
やるからには全力で、名雪と一緒に走るために・・・なんかマジになってきたかも
日も短くなってきてもうすぐ日が暮れる、マラソン大会の日まで完走できるようになろう

そして二つの影は走り出す・・・ふたり一緒に
 


 
 
 
 

<あとがき>
初SSなのでつたないかもしれませんが
100000ヒット記念にお送りします
秋らしいもの(まだ暑いですが)を書いてみましたがどうでしょう
これからも頑張って下さいでは!

                        2000.9.17  月影 雷徒

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ささやかなコメント by LOTH

100000hit記念に月影 雷徒さんに戴きました。

初めてのSSだそうで…わたしの初めてのSSが一発ネタだったことを思うと、はっきり言ってすごいです…
…いや、今でもコメディーはその続きみたいなもんなので、別に卑下する気はないんですけど…

SSは…名雪ですね。
名雪といえば、ラブラブ(笑)
そして…走る。

名雪の可愛さというのは、実はわたしは最近になってそれを知ったような感じでして(苦笑)
その強さと…ひたむきさと…自分を抑えるところを知っていて、でも女の子らしくもろい部分もあって…
そして…どこかストレート。
そんな名雪の可愛さが、よく出ていると思います。
確かに、初めてというせいか、少し気になる点もありますが…
そんな事は馴れればどうにでもなるものです。
それよりも、好きなキャラクターを可愛く書く…それも、特徴を掴んで書ければ、それでいいと思います。
それがなによりも、ほのぼのらしいと思うから…

そういう意味で、とても好きです。こういう話は。
…わたしには、ちょっと書けないですしね。こういうラブラブなのは(笑)

月影 雷徒さん、どうもありがとうございます。

2000.9.18 LOTH inserted by FC2 system