LOTHさんへのおかえしSS

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 ―――今年初めての雪が、ゆっくりと揺れながら、降り注いでいた。
 

「雪……」

 視界をよぎる白いものに気が付いて、私―――天野美汐は、乳白色の空を見上げた。
 天気予報では夜からの雪と言っていたので、傘は持っていない。まだ、たいした降りじゃない。ひどくなる前に家には着くだろう。
 

 ―――と、思っていたのだけれど。
 
 
 
 
 
 
 
 

        “片腕をもがれた空”
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 季節の変わり目はいつもさりげなく、起き忘れた果物がゆっくりと腐っていくように、音もなくその姿を変えていく。
 秋から、冬へ。風が冷気と乾気を帯びてくる。
 はあ、とついたため息は白いもやとなって目の前に浮かび、すぐに大気に交じり合って消えていく。濡れて額に張りつく髪をかきあげると、いくつか手に雫が残る。
 降り出した雪はあっという間に吹雪になっていた。
 最初は走って帰ろうとも思ったのだが、もうどうでもよくなってしまった。これだけ濡れたらもう一緒だ。思いっきり濡れて帰ろう。
 ……風邪、ひくかも。
 ……それも、いいかな。

 ―――雨なら、よかったのに。

 激しい雨で、横殴りの雨で、私を打ち据えてくれたらいい。
 胸にわだかまる澱みを、全て洗い流してくれたらいい。

 駆け足気味だった歩調はだんだんと遅くなり、私は足を止めた。コートに張りついた雪を軽く払う。
 空を見上げると、雪が全て私に向かって降ってくるような気がした。
 

 ふと、わけもなく、泣きたくなる。
 

 立ち止まっている私のすぐ傍を、時間が足早に通り過ぎていく。
 その場に止まったままの、私を置いて。
 
 
 

 いつも、私はあなたを探している。
 
 
 

 ジーンズにパーカーというラフな格好に着替えて、濡れた髪をタオルでいいかげんに拭う。
 シャワーを浴びておかないと風邪をひくかもしれない。でも、それもなんだか面倒くさくって、私はそのまま部屋に戻った。
 自分の部屋に戻って、後ろ手にドアを閉める。
 ゆっくりと部屋を横切って、ベッドに倒れこむ。
 ……宿題、出てた……。
 一瞬、そんなことが頭をかすめるが、すぐに意識は泥の中に沈んでいく。
 眠りは楽だ。
 ―――なにも考えなくてすむから。
 
 
 
 

 あの夕日のように、
 あなたがゆっくりとしずんでいく。
 それは、哀しいことなのだろう。
 しずむ夕日は、美しい。
 
 
 

 もしも―――永遠に沈まない夕日があったとして、
 
 
 
 
 

 それは、美しいものなの?
 
 
 
 
 
 

 短いまどろみから、怠惰な覚醒が訪れる。喉が痛み、頭痛が頭を締め付ける。
 このまま、ずっと眠ってしまえたらいい。夢も見なくていい。ずっと―――。
 頭を振って、体を起こした。
 このまま消えてしまったら、誰かは悲しんでくれるだろうか?
 ……やたらとネガティブになっている。きっと頭痛のせいだ。
 
 
 
 

 あなたは、どうして私の前に現れたのですか?
 別れる為に誰かと出会うのだとしたら、こんなにも、残酷なことはない。
 そして、その残酷な事が美しいのだとしたら、こんなにも哀しいことはない。
 
 
 
 
 

「―――わかっては、いるのですけど」
 立ち上がり、窓を所まで歩み寄ってカーテンを開ける。
 黒い夜と、窓に反射る私と、その向こうに降り続ける雪。
 思い切って、窓を開けた。冷たい風が吹き込んで、身を竦ませる。
 雪が、やわらかく辺りの少ない光を掻き集めて、ぼんやりと白く、その存在を主張している。

 誰も、別れる為だとか、そんな理由で誰かと出会うわけではない。
 ―――そんなことは、わかっている。
 

 だけど、わかっていたからといって何になる?
 この行き場のない思いは、埋められるの?
 

 頬に止まった雪が、水滴となって落ちていく。
 滲む空から視線を離して、私は窓を閉めた。
 

 ため息をついた。部屋に残った冷気に、その嘆息が白い塊となって浮かぶ。
 

 今日はもう、寝よう。
 せめて、夢の中だけでもあなたに会える、

 ―――そんな事を、願いながら。
 
 
 
 

 夢の中だけでも構わない。
 あなたが、笑ってくれさえすれば。
 

 そうでないのなら―――夢なんて、見たくない。
 
 
 

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         片腕をもがれた
         空は傷口を開けたまま
         虫の音はかかとで 
         そっと真っ赤な息を吐いた
 

                ―――Cocco『夢路』
 
 

 コンセプトは『昔に還ってみよう』(苦笑)です。
 この美汐はきっと、いつかの美汐。
 ちゃんと考える事もなしに思いだけで書いていた頃の。
 でも……そうはなれなかった。やっぱり変わってしまったという事ですかねえ。

 Korieさんも言ってましたが、LOTHさんはやっぱり兄貴分な感じで。
 ……手のかかる弟分を抱え込ませてしまって申し訳ないです(笑)

 愚痴やらなんやら、また付き合ってくださると嬉しいです。
 誰よりも真摯で優しいと思うLOTHさんに、感謝を―――込めたわりには暗い話ですが(苦笑)
 

(ココロの声)
 ……ホントはあゆのほのぼので返したかったのになァ……。
 なんでこうなったんだろう……(苦笑)

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