『TRUE LIES』−2nd
 

 こんにちわ。詐欺師です。
 あゆの話です。No.19695の続きです。
 それでは…と、短いな(笑)
 

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     『TRUE LIES』−2nd
 
 

 沈みゆく夕日が、厚い雲に隠れる。
 遮られる赤。
 雲の端だけに、光は姿を残す。

 そして、刹那。

 幾筋も降り注ぐ赤い光の筋。
 雲の隙間から降り注ぐ光の梯子。
 それは、世界の果ての光景。
 この世の終わりのような光景。
 美しくて、哀しい夕暮れ。
 
 

 商店街を抜けて、人ごみを抜けて、辿り着いた場所。
 街外れの大きな森。
 枯れ木の中にもかすかな緑が混じる、どこか不思議な感じのする森。
 不気味、ともとれるその雰囲気は、好奇心旺盛な子供たちにとって絶好の遊び場だろう。
 あゆは…この中に…
 直接この目で見たわけではなかった。「こっちの方へ走っていった」という、ただそれ
だけのこと。
 でも何故か、そんな気がした。

「……あ!」

 そして、予感は確信に変わる。 
 背の低い藪の中に見つけた、小さな小さな穴。
 子供なら…通りぬけられそうだな…
 あゆの小柄な体が頭に浮かぶ。
 ……行くか。
 それしかなかった。俺は体をかがめて、その小さな穴に無理やり押し込んだ。
 
 

 窮屈な小径を、ゆっくりと歩く。
 かがめた膝が痛くなり、途中何度か立ち止まりながら。
 それでも、俺は前へと進んだ。
 まるで何かに憑かれたように。
 ゆっくりと、ゆっくりと、前へ進む。
 制服は雪で汚れて。
 膝と裾は泥にまみれて。
 それでも、枝をかきわけて、かきわけて。
 そして、辿り着いた場所――
 
 
 
 

 そこは、さながら一つの広場だった。
 今までの狭さが嘘のように、開けた空間。
 その真ん中に、大きな切り株があった。
 信じられないくらい大きな、たった一つの切り株。
 きっと周りの養分を全て吸って、そして、切り倒されてしまったのだろう。
 俺はゆっくりと中心にまで歩み寄った。
 大きな大きな切り株。その表面はしっとりと湿っていた。
 まるで根の部分から凍り付いているかのように、ただ冷たい――
「…………」
 俺は静かに、そこに腰を下ろした。
 冷たさが体中を伝わる。それでもよかった。
 影も形も見えないあゆの笑顔が、不意に頭によぎって――

「……どうして」

 その声は、俺の来た方から聞こえた。
 小枝の藪を抜けた、この広場の入り口。
 そこに、あゆが立っていた。
 手袋をはめた両手で、ギュッと何かを握りしめて。

「…あゆ…」

 そんな俺の声にすら、つらそうな顔をして。

「……どうして…」

 もう一度、繰り返す。
 同じ言葉。
 でもその目は、立ちあがった俺を見てはいなかった。
 そして、戸惑うようだったその声は――

「……どうして…追っかけてきたの…?」

 責めるような口調。俯く顔から、もれる。

「ばいばいって言ったじゃない! ボク、ばいばいって言ったじゃないっ!」

 血を吐くように、あゆは叫んだ。
 勝手に追いかけてきた俺に怒っているように。 
 俺は答えることができなかった。
 ただ呆然と、その場に立ち尽くして――

「それなのに…どうして…?」 

 同じように立ち尽くすあゆを、見つめることしかできなかった。
 震える肩を。
 握りしめられた両手を。

「……あゆ…」

 届かない声で、その名を呼ぶ。
 その時、俺は気づいた。
 さっきの態度。
 あれは、だだをこねている子供に似ていた。
 泣きじゃくりながら、それでも何かを伝えたい、小さな子供に。
 
 
 
 

「……落ち着いたか?」
 こくり。
 俺の問いに、あゆは無言で答える。
 あの大きな切り株の上。  
 さっきまで一人だった場所に、俺とあゆは並んで座っていた。
「……ごめんな」
「……謝らないでよ」
 硬い声で、あゆがはっきりと返す。
「祐一君が…謝らないでよ…」
 そして、また俯く。
 …はぁっ…
 白い息。
 風に乗って、飛んでいく。
「…どうして…追っかけてきたの…?」
 俺のほうは見ないまま、口を開く。
 さっきと同じ質問。でも今度は落ち着いた口調。
「…じゃあ、どうして逃げたんだよ」
「聞いているのはボクだよ」
「順番で言えば俺が先だ」
 くすっ、とあゆが笑う。
 声には出さないものの。
「祐一君らしいね」
「何がだ?」
「そういうとこ」
 そう言って、ぴょこっと立ちあがる。
 懐かしそうに周りを見渡しながらゆっくりと歩くあゆを、俺はじっと見つめていた。

「…ねえ、祐一君」

 あゆが言う。
 俺に背を向けたまま。

「この場所…憶えてる?」

 そして、振り返る。
 その目は、じっと俺を見ていた。
 俺の瞳を。
 まるでその中から、何かを探そうとするように。
 でも、俺は…

「…そうだよね」

 そう言って、あゆが寂しそうに笑う。
 結局俺は、そこから何も読み取ることができなかった。
 あゆが俺にどんな答えを期待していたのか、さえも。  
 

                     <つづく>
 

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 あらためまして。詐欺師です。
 T.Rの第二話…
 …なんか、このシリーズ一話が短いような…
(…そのせいで、全四話になったような…)(笑)
 笑い事じゃあありません。ごめんなさいm(__)m

 とゆーわけで、あと二回は続きます。よろしければお付き合い下さい。
 ではいざ、新天地へ…
 

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