『TRUE LIES』−4th
 

 詐欺師、です。
 このシリーズもいよいよ最終章…
 一応、前後編…かな(^^;

 でも、あゆファンにはちょっとつらいかも…です。
 それでは、どうぞ。
 

  ――――――――‐―――――――――――――――――‐――――――――
 
 
 

     『TRUE LIES』‐4th
 
 

 

 忘れていたこと。
 忘れたかったこと。
 知らなかったこと。
 知りたくなかったこと。
 悲しいこと。
 つらいこと。
 好きだったことも。
 楽しかったことも。
 全部、知らずにいたら…
 もし、そうだったら…

 …どんなに…
 
 
 
 

 体が震えていた。
 心が震えていた。
 蘇る記憶。
 蘇る大木。
 天使の人形。
 三つの願い。
 二人だけの学校。
 そして、最後の日――
 
 
 
 

「……思い出しちゃったんだ」

 抑揚のない声で、あゆが告げる。
 
「……俺…おれは…」

 答えることができなかった。
 現実。
 真実。
 急に俺にのしかかってきた重りは、容易く俺をつぶしてしまいそうで…
 ただ、支えているのが精一杯で…
 払いのけることなど、とても…

「……ごめん、ね…」

 謝るその顔が見えない。
 目の中に膜がはってしまったように、見えない。
 ただ、赤だけが…

「…でも、すぐにまた忘れるよ」

 あゆの声。
 俺の好きだった、助けてやれなかった、少女の…

「…ボクはすぐに、いなくなるから」
 
 

 頭の先からつま先まで、一気に何かが走った。
 背中の重みを忘れさせてしまうほどに。
 
 

「…それって、どういう…」
「どうもこうもないよ」

 俺の問いに、あゆは笑って答える。

「ボクは…もといたところに還るんだよ」
「…もといたところ…?」
「…おかあさんのところ」
 

『…祐一君』
 

 オレンジ色に染まる少女。
 

『目の前で、大切な人を失ったこと…』
 

 あの時の瞳。
 あゆの瞳。

 俺は…あった。

 でも、その時は…
 

 …でも、今は…
 
 

「……おかしいよね」

 あゆが笑う。
 それは、自嘲的な笑み。
 
「今さらこんなこと言ったって…無駄だってわかってるのに…」

「ボクはどうせ…もうすぐ消えちゃうのに…」

「…バカみたい、だよね…」

「最後の最後まで、本当に…」

「…あゆ…」
 
 

 俺は、忘れていた。
 ずっとずっと長い間。
 俺が好きだった女の子を。
 思い出を。
 大事な、大事な…

 その子がまた泣いていた。
 初めて逢った時のように。
 だから、俺は…
 
 

「…祐一、君…」

 俺の腕の中で、あゆが声を上げる。
 小さな声。
 でも、それも…

「…離して…っ」

「離してよ…っ!」

 その中から逃げるように、あゆは激しく身をよじる。
 でも、俺は離さない。
 ごまかしだってことはわかってる。
 こんなことをしても、あゆにとては何の慰めにもならないことを。

 もしかしたら、この行為は…
 俺への…慰めだったのかもしれない…

「離してったら…っ!」

「もういいんだよ…っ!」

「こんなことされたって、どうしようも…」
 

 あゆはもう、泣いていた。
 泣きながら、だだっこのように叫んでいた。
 その言葉の一つ一つが、俺の胸に刺さる。
 ひとりぼっちだったあゆの、七年間の思いが…
 

「もうやめてよ…っ!」

「祐一君には…祐一君には名雪さんがいるじゃないっ!!」
 
 

 ……あ…
 

 俺は、真っ白になった。
 その言葉を聞いて…
 あゆのその思いを…

 …でも…
 ……それでも…
 
 

「もう…もうボクのいる意味なんてないんだよっ!」 

「意味なんかいるかよっ!」
 
 

 それでも、俺は叫んでいた。
 あゆの動きが止まる。
 

「…いいだろ、意味なんか…どうでも…」

「……あ…う、ううっ…」
 

 叫び声が、すすり泣きに変わった。
 
 
 

 …いつからだろうな…
 いろんなモノに、意味を求めるようになってしまったのは…
 それこそ、自分にさえも…
 意味ばかり求めていたら、疲れてしまうのに…
 
 

「…あゆ…」

 だから俺は、言うんだ。
 それでたとえあゆを傷つけたとしても。
 俺には、こうすることしかできないから。
 それが、ただの自己満足だったとしても。

「俺は、あゆのことが、好きだった…」

「…祐一君…」

「本当に…好きだったんだ…」

「ゆういち…くん…」
 
 

「…ほんとうに…」
 
 
 
 

 日は既に暮れていた。
 残光だけが照らす学校で――

 別れのときが、確かに近づいていた。
 

                                <終幕へ>
 

  ――――――――‐――――――――――――――――――‐―――――――

 あらためまして。詐欺師です。
 では、終幕へ…って、それこそ意味ないなぁ。ここ。
 

<Back< 元のページ   >Next>

inserted by FC2 system