私を知らない雨が降る

ONE SS。
里村茜。

では、どうぞ
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私を知らない雨が降る
 

目が覚めたら、雨が降っていた。
窓の外を小さな雨粒が、まるで泣いているように降っていた。
まるであの日のように、雨が降っていた。
ひとりぼっちの私の部屋の窓を濡らしていた。
私は置き上がると、枕元を見た。
枕元に置いてある、後ろ向きの目覚まし時計。
雨に濡れて動かない時計。
あいつにプレゼントするはずだった時計。
 

でも、これは私です。
あの日から動かない、この時計は。
 

私は傘をさすと、家を出た。
雨は私の傘の上に、降りしきっていた。
この分だとあの場所は、きっとぬかるみの中。
だけど…
私には、待つしかないから。
そこで待つことしかできないから。
 

この場所で
この空き地で
あいつと別れた場所で
 

あの人を待っていたように
私はまた立っている。
雨でぬかるんだ空き地のこの場所で。
だけど私が待っているのは、あの人じゃなくて
あの人を待ち続けた私を救ってくれた
だけどまた私を置いていってしまった
あいつを待っている。
また、私はここで待っている。
 

だけど
一つだけちがうのは
あの人の時よりも
ずっとずっと涙が止まらなかったこと。
 

そして…
 

「クゥーン」

私は足下を見た。

足元に泥だらけのものがいた。
泥にまみれて、震えている小さな…犬。

子犬が私を見上げていた。
私を見あげて、もう一度鳴いた。

「クゥーン」

私はしゃがみこんだ。
子犬を抱き上げた。
泥だらけの子犬を抱き上げた。
冷たくなった体を抱きしめた。
 

お前も捨てられたの…?
 

子犬は私の顔をぺろぺろ舐めた。
くすぐったくて、暖かい感触。
雨ではない暖かさ。
脇に置いた傘に雨の当たる音。
私の顔に降る雨の冷たさ。

子犬の震えはおさまっていた。
私の手の中で丸くなっていた。
目を細めながら、私を見て鳴いた。

「クゥーン」

暖かい子犬の体。
私の上に降る雨。
名前も知らない子犬。
私を知らない雨。
私を振ったあの人
私を…

「ワン!」

子犬が一声鳴いた。
私の腕から飛び出した。
私の元から空き地を駆けて
道に出ていった。

そして

子犬を抱きしめる女の子。
声もなく抱きしめて
冷たい雨の中で
雨に濡れながら
子犬を抱きしめる
抱きしめている女の子。

抱きしめられて
顔を舐めている子犬。
 

あなたは捨てられたんじゃない。
あなたを探してくれる人が
あなたが待っている人が
いてくれるから
だから
 

遠ざかる女の子
遠ざかる子犬
私は振り返った。
傘を拾い上げた。
 

私はここで待っています。
あなたを待っています。
あの人を待ったのと同じ
あの人と別れた
あなたと別れた
この空き地で
この場所で
 

だけど
もう一つ
違うのは
 

私はあなたを忘れなかった。
 

あの人を忘れないために
私は必死でした。
あの人の顔
あの人の声
あの人のしぐさ
あの人との思い出
私は覚えていたかった
必死で覚えていようとした
 

そして
忘れなかったけど
 

だけど
あの人は帰ってこなかった。
 

私はあなたを忘れていません。
あなたの声も
あなたの顔も
あなたのしぐさも
あなたとの思い出も
薄れることもなく
かすれることもなく
まるで昨日のように
まるでついさっきのように
私は覚えています。
全部覚えています。

私は忘れなかった。
あの人のように
忘れていかなかったから
だから
 

私は待っています。
この場所で
あなたと別れた場所で
約束したから
信じて…いますから。

私は忘れなかったから。
あなたを忘れなかったから。
あなたを
わたしは
信じますから。
 

私を知らない雨の中で
私の忘れなかったあなたを
私は待っています。
待っています。
 

浩平
 

あなたを

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…ONEのSSなのに、何でお前が出てくるんだよ。
「…仕方ないでしょう。ONEのどなたも代わっていただけませんでしたので」
…だからって…
「まあ、どうせこれ一本で終りなのでしょう?だいたい、ONEのSSをほとんど読んでいないのに、最大激戦区の茜さん、それも一番ありがちな劇中モノローグ…もう、かぶりまくりですし、ブーイングが見えるようです。」
…はぅ…いや、これから一年間を、季節ごとにこんな感じでやろうかと…
「…やめておいた方がいいでしょう。全国1千万人の茜さんファンに殺されます。」
…わかったよう… inserted by FC2 system