乙女な七瀬は好きですか? (前編)

- 朝っぱらから七瀬な騒動 Situation.1-前編

ONE SS。
七瀬留美。

いわゆるフツーのラブコメ…を書くはずだったのに、何でこんなことに(苦笑)

1回読み切り系シリーズ:朝っぱらから七瀬な騒動

では、どうぞ
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乙女な七瀬は好きですか?
- 朝っぱらから七瀬な騒動 Situation.1-
 

「長森、時間は?」
「はい」
オレは走りながら、横を走る長森の腕の時計をちらっと見た。
「…この分だと、なんとか間に合いそうだな。」
「……はあ。なんとか、ね…」
走りながら、ため息をつく長森。
なかなか器用な奴だ。
「もうちょっと早く起きてくれたら、走らなくてもいいんだよ?」
「起きないところがオレのチャームポイントだ。」
「そんなチャームポイントなんてないよ…」
また長森はため息をつくと
「やっぱり、七瀬さんに起こしてもらうべきだよ、浩平。」
「…却下。」
「どうして?彼女なのに。」
…彼女…
七瀬が彼女…うーん…
まあ、確かにそうなのだが…
考えてみれば、不思議な感じがする。
オレがあの…えいえんに旅立つ少し前、七瀬はうちの高校に転校して、オレの前の席になった。
思えば…結構、豪快ないたずらをしたけど…髪を眠気センサーに使ったり、枝毛を処理すると称して切ってしまったり…
だけど、クラスの女子人気投票で共に優勝に向けてタッグを組んだり(オレは賞金を手に入れた)…七瀬に嫌がらせする奴を一緒に探したり(この淫乱娘がっ)…
…何でだろうな。いつの間にか、オレと七瀬は…七瀬はオレがあいつを乙女にしてくれたって…オレは七瀬のためにえいえんから戻ってくるって…思うようになったのは。
いくつもの分岐があったはずだ。そのどれかで違う選択をしたら、オレと七瀬の関係は違っていたかもしれない。
あるいは、ほんの偶然のような出来事で…
だからこそ、こんなふうに感慨深く思ってしまったりするのかもしれない…
「浩平、前!」
なんて…
って、なんでオレが『浩平、前!』なんて考える?
…ん?なんか、前にもこんなことがあったような…
…前?
「きゃ!」
「うおっ」
ズドーーーーーーーーーーーンッ!!
衝突。
だが、オレはとっさにとりあえず、ひじ鉄を相手の鳩尾に入れつつ、最近覚えた合気道の型で相手を投げ飛ばしておいた。
ずしゃーーーーっ!
ごろごろごろーっ
…しかし、見事な飛びっぷりだ。オレって合気道の素質、あるかも…
「よし、逃げるか」
あれだけ見事に決まれば、相手もおいそれとは追って来れまい。
オレは長森に振り返った。
「…浩平」
なぜか長森はあきれた顔をしていた。
「…また、七瀬さんにあんなこと…」
「え?七瀬?」
オレは転がっている死体…じゃない、相手を見た。
ツインテールの髪…いまだに前の学校の制服…
「…あれ、七瀬?」
「あれ、じゃないよ、浩平…今のはちょっと…」
「…まあ、大丈夫だろ。七瀬だから。」
「どういう意味だよ…」
「………」
と、七瀬が黙ったまま、うつぶせだった顔を上げた。
そして、オレたちを見て…

「…おはようございます、折原くん、瑞佳さん。」

「……へ?七瀬…」
「……あれ?七瀬さん…だよね?」

七瀬はにっこり笑うと、立ち上がって制服の埃を払いながら

「…もちろんです。わたし、七瀬留美ですもの。」

「………」
「………」

オレと長森はそのまま、しばらく七瀬の顔を見つめていた…
 
 

「…これからどうする気、浩平?」
「…うーむ」
オレはうなりながら、ベッドの七瀬を見つめた。
とりあえず、七瀬を学校の保健室までエスコートしてきてはみたものの…
「ていうか、浩平…あれって、拉致だよ。」
「何がだ?」
「七瀬さん、後ろから羽交い締めにして、引きずってきたじゃない。」
「…お前が足を持たないから、引きずるしかなかったんだろ!」
「…そういうこと、言ってるんじゃないんだよ…」
「うるさいっ、だよだよ星人っ!」
「だよだよ星人じゃないもん。」
「じゃあ、だよもん星人だろっ」
「…うー」
にらんでいる長森は無視して、オレはベッドの七瀬を見る。
ベッドに足を伸ばしていた七瀬は、オレを見てにっこり笑うと
「…本当に、乱暴な方ですね、折原くんは。」
「………」
……はぅ
こんなの七瀬じゃない…
いつもの七瀬なら、オレがこいつの腕をとって羽交い締めにしようものなら、
『何すんのよっ』
という間もあらばこそ、そのままの体勢でオレを持ち上げて、そばのロープに投げつけるや、跳ね返ったところをスリーパーホールドを掛けて
『ナメないでよっ!あたし…七瀬なのよっ!』
と、意識朦朧になったオレに高笑いして…
「…そんな人、いないって。浩平…」
「そんなことないぞ、七瀬なら…って?」
オレ…考えただけなのに…なぜ?
オレは長森の顔を見た。
「…はあ。」
長森は、大きなため息を一つ。
そして、ベッドの七瀬は、オレを見ながらにこにこと
「…口に出していましたから、折原くん。」
…ぐはっ…悪い癖だ…
ていうか、オレってそんな癖あったっけ?
(この作者の場合、主人公は自爆癖があるのがデフォルトですっ!)
…なに、今のは?
とりあえず、オレは七瀬の顔を見た。
七瀬はいつの間にか、縛っていた髪をおろしていた。
そう、あの時の…踊りに行った時の髪型。
あの時以来、七瀬はいつも髪を縛ってるから、久々に見た七瀬の髪をおろした姿。
オレは…
「…やっぱり目を覚ませっ!七瀬っ!」
腕を振り上げると、とりあえず七瀬の頭に一発っ
バキッ
「ぐあっ!」
…吹き飛んだのは…オレ。
「だ、誰だっ」
「何やってるんだ、お前はっ!」
何とか立ち上がって振り返ると、そこには学生服の男が立っていた。
「…お前、誰?」
「ふざけるなっ!俺は住井だ。」
「…住井?知らん。」
「お前な…男のサブキャラで唯一絵のある俺を忘れてどうするんだよ。」
「そんなこと言ったら、南の立場はどうなるんだ?」
「…しくしく。」
気がつくと、住井の後ろには男子生徒たちが、保健室の入り口だけではなく窓からも顔を出してオレたちの方を見ていた。その数…数十名。
中で泣いてる奴が南…なのだが、やっぱり埋もれていて顔が分かりゃしない。
「…不憫だな、南。」
「お前が言うなっ!」
「って、住井、お前が言うのもよけい傷つくと思うぞ…」
「…あ…」
「…しくしくしく…」
やっぱり声だけの南。
「…そんなことはどうでもいいっ」
住井はとりあえずそんな南を無視して、オレに詰め寄ると
「何で七瀬さんが保健室で寝てるんだよっ!」
「いや…起きてるけど。」
「………」
…住井他数十名の無言のプレッシャー。
オレは思わず、つばを飲みこんで
「…あ、いや…今朝、七瀬が登校途中で転んでな…」
「…よく言うよ、浩平…浩平がぶつかって…」
「ば、ばかっ!長森!」
オレはあわてて長森の口をふさいだ…
…が、既に遅い。
「……」
きら〜〜〜〜〜ん
住井の目が、まるで獲物を見つけた鷲のように輝いた。
「…お前…七瀬さんとぶつかったのか…」
「い、いや…単に出会い頭の、アクシデントだ。」
「そうなんです、住井さん。」
七瀬がにっこり頷くと
「ただ、折原くんはわたしのために、みぞおちに突きを入れて、それから投げ飛ばしてくれたんです。」
「……突き…投げ…」
「お、おい…七瀬…」
オレは七瀬の口をふさごうとしたが、その前に七瀬は
「そして、わたしをここまで羽交い締めにして連れてきて下さったんです。」
「羽交い締め…」
「…ええ。」
にっこり微笑む七瀬。
…悪気…あるとしか思えんが…
オレを見ている七瀬の顔は、まるで邪気のない…
「…折原ぁぁぁぁぁぁぁ」
オレは恐る恐る振り返った…
…オレを見つめる数十の厳しい目が、そこにあった。
「…あ、あのな…」
「折原…」
住井が詰め寄ったかと思うと、オレの襟を掴んで
「き、貴様…貴様が七瀬さんの恋人だというデマだけでも許せんのに…お天道様が認めても、この『七瀬留美ファンクラブ』会長であるオレが許さんっ!!」
「同じく!!」
窓から叫ぶ数十人。
あっけにとられている…オレと長森。
「…何なんだ、そのファンクラブって?」
オレが言うと、住井は襟を取る腕の力はそのまま、フッと笑うと
「以前、クラス内女子人気投票をやっただろう?」
「ああ…七瀬が一位になった…」
「そう。その後、各クラスの人気投票の結果を待ち、最終的に学年内女子人気グランプリの投票が行われたのだっ!」
…いつそんなことしたんだよ…
「そして、そこで…七瀬さんが堂々の一位になったのだっ!」
「…なんで七瀬が?」
「何でとは…この、愚かものっ!!」
住井はオレの襟をぐっと締めつけた。
「それまでも人気、実力共にトップクラスだった七瀬さんだが…2年の終わり頃から、髪をおろし、愁いに満ちた表情を見せるようになって…」
…オレがえいえんに行ってる頃だな。その間、七瀬は髪を下ろしてたって言ってたなあ…
「そう、今の髪型です。やっぱり、七瀬さんにはその髪型がよく似会う。」
七瀬を見つめて住井が言うと、七瀬はにっこり笑ってみせて
「…ありがとうございます、住井さん。」
「…七瀬さんっ」
感激の表情の住井…
…こいつ…こんなやつだったっけ?何か…違うような…
「…そして、その美少女ぶりから、当然ながら圧倒的多数の支持を受け、七瀬さんがグランプリに輝いたのだっ!そして、その受賞と同時に、七瀬留美ファンクラブが極秘裏に結成されたのだっ!!」
「まあ…知りませんでした…」
口に手を当てて、驚きの表情の七瀬。
…ていうか、何か嘘臭い…
「で、住井。」
「何だよ。」
「その人気グランプリの主催者は…誰だったんだ?」
「…俺だけど。」
「で…ファンクラブの会長がお前…会費は?」
「入会金5000円、年会費5000円。」
「主な活動内容は?」
「七瀬さんの一日の行動のチェック…会報の発行、ブロマイド販売。」
「…そのブロマイドはいくらだ?」
「一枚、500円。」
「……会計は誰がしてるんだ?」
「……俺。」
…絶対、こいつ、横領してる…
俺は住井の顔をじっと見つめた。
住井は…目をそらすと、
「と、ともかく、お前のその行動は許しがたい!!お天道様が許しても、このファンクラブ会長と、そして親衛隊が許さないのだっ!!」
「そうだ、そうだっ!」
窓から覗いている奴らが声を揃えて叫んだ。
こいつらが親衛隊…
………
…七瀬が可哀想な気がした。
「あの…」
と、そこへ当の七瀬が、ベッドから降りようと足をおろしながら
「わたし…折原くんに謝ってもらうなんて、そんなこと…してもらわなくてもいいんですよ。」
「なにを言ってるんですか、七瀬さん!」
「そんな…許すとか、そんなこと…いいんですよ。だって…」
七瀬はそこで言葉を切ると、オレの顔をちらっと見て
「…わたしと折原くんは、恋人なんですもの」
ポッ
七瀬の顔が真っ赤になった。
…ぐはっ
なに言ってるんだ、七瀬…
この場でそのセリフ…火に油を注ぐようなもの…
オレは振り返って親衛隊の連中を見た。
…既にその目には炎が燃えたぎっていた。
ヤバイ…
こ、ここは一つ、七瀬に謝るフリをしてでも、この場を納めよう。
オレはベッドから降り立った七瀬に向き直ると、とりあえず謝るようなセリフを探した。
…オレの頭に、選択肢が浮かんだ。

1.「殺すぞ、てめぇ」
2.「この淫乱娘がっ」
3.「女房思いのいい奴だった…」

…何で他の選択肢がないんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オレはそのどれかを言った場合の状況を想像…
…しかけてやめた。
どれを選んだところで、後ろから感じる殺気から、結果は十分予想できる。
でも、このゲームシステムでは、例えば、『コワス カベ』とか『サガス ヘヤ』だとか自分で入力することはできないし…
…って、そんなの何に入力するんだ?
だいいち、そんなの入力できたところで、何の解決になるんだっ!
こうなったら…
オレは七瀬の顔をじっと見つめた。
「…七瀬…」
「…はい?」
「オレは……」
「………?」

「逃げるぞっ!」
オレは言うと、七瀬の腕を掴んで保健室を横切ると、窓から外へ飛び出した。
「あ、待ってよ!」
後から長森が付いて飛び出す。
虚をつかれたのか、住井と親衛隊たちは、まだ姿が見えなかった。
「ともかく…逃げるぞっ!」
「どこへ?」
「知るかっ!」
「…折原くん…どうして逃げる必要があるのですか?」
腕を引かれて走りながら、首を傾げている七瀬。
オレは思わず
「…誰のせいだと思うんだよっ!」
と、長森が一緒に走りながら
「…浩平のせいだと思うよ。」
「………」
今度ばかりは、何も言えなかった…

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…何でこんなになっちゃったんだろ。マジで、ただのラブコメを書くつもりだったのに…
「…どこがラブコメなんでしょうか?」
…分からない(涙)でも…久々にコメディを書いてるって感じでいいか…って。他のコメディシリーズ復活のため、リハビリってことで…
「…でも、面白くないと…」
…そっちの復活もないかもね(涙)また前後編だし…最近、マジで短く書く方法、忘れたみたい… inserted by FC2 system