Midnight Drive!

(にんぎょひめの娘たち-10)


真琴系SS。実感ほのコメ

シリーズ:にんぎょひめの娘たち

では、どうぞっ

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前置き

この物語はフィクションです。
Kanonの登場人物以外の名前、および物語内の出来事に関して
現実の何かに似ている、あるいは髣髴とさせる事物があったとしても
それは偶然の一致です。
ええ、そうですともっ(涙)

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Midnight Drive! (にんぎょひめの娘たち-10)
 

「よし、行くぞっ!」
オレは言って、アクセルを踏み込んだ。
すぐに走り出す、窓の外の街並。
深夜の街は人影もなく、オレの車の音だけが響く。
「…でも、久しぶりよね…」
助手席の真琴のしみじみした声。
オレも思わず頷きながら
「だよな…まあ、真美が赤ちゃんの頃は…何度、こんな夜中のドライブに出かけたっけ?」
「…ただのドライブだったらいいけどさぁ…」
「なに?あたしとドライブ?」
後部座席の真美が、イスの間からひょこっと顔を出す。
「こらっ、真美!ちゃんとシートに座ってろっ!」
「だって、パパとママが…」
「いいから、座ってないと…外、出して、置いてっちゃうわよっ!」
「…あぅーーー」
オレと真琴の言葉に、真美はしぶしぶといった感じでジュニアシートに腰かけた。
でも、すぐに身を乗り出してきて
「で、なに…真美がどうかした?」
「…あのなあ、真美…」
オレは真琴と顔を合わせて…思わず、苦笑した。
「…真美が赤ん坊の頃は…こいつ、ちょっと体調が悪くなると、よく吐いたよな…」
「そうそう。でさ、最初に夜中、走ったのは…久しぶり、今日は良く飲むなーって喜んですやすや寝ちゃったから安心して…」
「…ああ、そうだよな…」
そうだった。あの日は、仕事があるから別室で寝ていたオレが、なんか呼ぶ声がした気がして、目を開けたら…
「…お前、台所で泣きそうな顔でタオル洗ってたよな…」
「あぅー…泣きそうじゃなくって、泣いてたわよっ!だって…真美、自分のふとんどころか、あたしの布団までミルク、吐いちゃって…タオル、足らないくらい だったんだもん…祐一は起きないしさぁ…」
「いや…良く寝てたから、オレ。」
「……あぅーーー」
上目づかいにオレを睨んだ真琴。
…でも、あの頃はオレも安月給で、だから残業とかよくしてたし…
「…まあ、あの時は、それから真美抱えてやっぱりこんな風に車で夜間救急病院に走ってさ…」
「そうよねっ。でも、お医者さんに見せたら、一言…『風邪ですね』って。」
「…吐き気止めと熱冷ましの薬もらって、帰ったよな…」
…なんかあの時は、大騒ぎしてきたオレたちのこと、先生も看護婦もニコニコしながら見てたよな…きっと、新米パパママの典型に見えたんだろうな…まあ、そ うだったんだけど。
「え?なになに?あたし、風邪だったの?」
と、そこでまた真美が後部座席から乗り出して顔を出してきた。
「ああ、そう…お前、良く風邪ひいたよ。それも、夜ばっかりな。」
「ふーーん」
「そうよっ!そのたびに、こうして夜中、車で夜間救急に走ってさあ…」
…おかげで、あの頃は夜間救急病院までの道は、目をつぶってでも走れるような気がしてたもんだ。4回…5回かな、それからこうして走ったのは…
「…そういえば、あれはちょっと傑作だったよな。」
オレはその内の1回のことを思いだして、真琴をちらっと見た。
「あの時は、昼から真美、風邪で…だから、医者に行って熱冷ましとかもらってきてたんだけど…夜中に熱、下がるどころかどんどん上がって…39℃以上に なっちゃって。こりゃダメだって、あわててやっぱりこうやって病院に行ってさ…」
「あ、あれは…」
「…それで、急いで先生に見せたら…医者に『お母さん、熱冷ましの薬、ちゃんと入れました?』って言われてさ…」
「あ、あぅー」
ちらっと見ると、真琴は困ったように顔を伏せていた。
オレはニヤニヤしながら
「…で、真琴…言ったんだよな。『はい、半分だけ…』」
「だ、だってぇ…赤ちゃんだから、薬、恐いからさぁ…」
「…でも、そしたら先生が、ちょっと呆れた感じでさ、『逆に熱が下がらないようだったら、2回でも入れてやってください。薬の副作用より、この熱の方が赤 ちゃんには悪いんですからね』って…ちょっと最後、怒ってたよな。」
「あぅーー」
真琴はますますしゅんとしたが、すぐにきっとオレを睨むと、
「で、でもっ!あの時、あの後…先生言ったじゃない!」
「…何をだよ。」
「…祐一、忘れたの?」
真琴はオレを見上げると、得意そうにオレの方を指差した。
「ほらっ、あの後、あたしが先生に『やっぱり、暖かくして汗かかせた方がいいんですか』って聞いて…」
…マズい。それは…
「あ、いや、真琴…」
「…そしたら、先生、やっぱりうんざりって感じで、『こんな熱があるんですから、逆に涼しくして、寝やすくして寝かせてあげてくださいね』って言って さぁ…『そんなことをしたら、余計、体に悪いですから』って…」
「………」
「でも、祐一、それまで熱がある真美に、なんか毛布出してまで着せちゃって…真美、熱くてけっちゃうから、あたしが一生懸命掛けなおししてたんだから ねっ!」
「……そ、そんなこともあったな。」
くぅ…人を呪わば、穴二つってか…
オレは真琴の目線に、思わず苦笑い。
「…そうかぁ…真美、熱で大変だったんだ…」
と、真美が席の間から、またも頷きながら顔を出して
「真美、覚えてないなぁ…」
「そりゃそうよっ!真美、赤ちゃんだったんだもん。」
「そうかぁ…」
…そうだな。真美は覚えてないだろうな…
でも、そうやって、新米の親も少しずつベテランになっていくんだよ…うんうん。
だからこそ、今はこうして落ち着いて、こうして夜間病院に向かっているわけで…
なんて思っているうちに、夜間救急の看板が向こうに見えだした。
「あ、あそこ!あそこだねっ!」
「そうよ、真美。あんたもお世話になった、あれが夜間救急病院。」
「そうなんだぁ…」
感心したように真美が言ったちょうどその時、車は夜間救急病院の玄関の駐車場に到着。
さすが、深夜だけのことはある…いつもの昼間なら15分はかかる道も、スピード違反しなくても5分で到着する。
さて、あとはいつものように、受け付けで申し込み手続きをするとして…
オレは車を止めて、ドアを開けようと手を伸ばし
「じゃあ、オレは真美と一緒に降りるから、真琴は…」
……真琴は…
…あれ?
ちょっと待て。
真琴は……

「…おい、真琴…」
「……ああっ!」
 
 

「肝心の紗梨、置いてきちゃった……」
 
 

×月×日
相沢祐一
相沢真琴
相沢真美
熱を出した紗梨を置いて、夜中のドライブと洒落込む
 

「なわけないだろっ!急いで…帰るぞっ!!」
「うんっ!!」
「…どうしたの、パパ、ママ?病院、入らないの?」
「いいから、帰るぞっ!!」
「あぅーーー…紗梨、きっと泣いてるぅ…」
「………?」
 
 

5分後、家にたどり着いて駆け込んでみると、紗梨は出す物を出してすっきりしたせいか、赤い顔ながらすやすやと寝息をたてていた…

<to be continued>

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…筆者です。
「サブアシスタントの相沢真美、10才ですっ!」
…まあ…さすがにこれはないでしょう(笑)
「…実話じゃないの?」
…違うわっ!何度も言うようだけど、これは『実感ほのコメ』であって、『実話ほのコメ』じゃないんだよぅ…
「…でも、みんな言ってるよ?」
…なにをっ
「だから…『子育て日記』って。」
………
「…ね、ホントは…実話なんでしょ?」
………絶対、違います(涙)まあ、実話も交じってますけど…さすがに、オチは…ねえ…

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