最初に
この話は、シンプルな少女小説です。最初から言っていたことですが…主題
終了してみて納得がいってもらえたのではないかと思います。
これは普通の少年と普通の少女たちの織り成す、普通の…いや、かなり陳腐なストーリー。
筋はまったく単純。偶然出会った男女が、お互いに惹かれ合う…でも、実は二人には、過去の因縁があって。
それに、二人の事を横から想う人々がからんできて…
ここで『過去の因縁』を、『実は二人は実の兄妹で…』とか『実は彼/彼女の苦難は、相手の父親が原因で…』と言うと、
誰でも最低2つか3つは、ドラマやマンガの題名が思い浮かぶと思います(笑)
…つい最近も、そんな話をテレビでみて苦笑しちゃいました(爆)
そう。この話はそんな、とっても陳腐なワンパターンな話を、全くひねらずに書いた、それだけのお話です。
筋がそのように陳腐でも、主題がよければ名作…ということもあったかもしれないですけど(苦笑)始まり
この話の主題は、簡単に一言で言えます。
『だって、好きだからしょうがない』
…はい。わたしがほぼ全てのKanonのSSにおいて主題にしてきた、ただそれだけの主題です。
人間とは、とか本当の愛とは、なんていう大層な主題など、全然ありません。
目指したのは、『風の音・鈴の音』…これは形式が同じなのでよくわかると思います…
そして、『夢の頃・夢の季節』…それと、『わたしがあなたに出会うまで』。
そう、どれも典型的な少女小説らしい、『好き』が主題のお話。
それ以外の要素はあっても、結局それは副題…主題は、一つだったのです。
とはいえ、だったらSSで書く必要のない、単にオリジナルで書けばいいじゃないか…月宮あゆ
はい。ある意味、これはKanonでなくってもいい、オリジナルで十分の話…そうなのです。
でもやっぱり、KanonのSSとして書きたい…わたしはそう思い、それなりの努力をしてみました。
ひとつは…全体のストーリー。
あゆシナリオをもう一度よく見ていただけると分かりますが、『夢の降り積もる街で』(以下『夢の街』)の日程進行は、
あゆシナリオの日程とほぼ合わせてあります。
1月6日に始まり、1月31日に終わる…それだけではなく、舞踏会などの行事、二人が真実を知る日(少しずれましたが)
最後に夜を明かすところ…はては天候も極力、原作に合わせました。
そして、もう一つは…香奈美さんと香里の交代劇。(これに関しては、後に詳しく語ります)
そのように、オリジナル性を極力小さくし、Kanonらしさを最大限残すべく、努力はしたつもりです。
…とはいえ、結局はLOTH流少女小説でしかないわけですけど…まあ、そんな感じで、ともかく書き始めた…そんな話でした。
そして…ここからは、各キャラについて語りましょう。
それが一番、ふさわしいと思うから…
わたしが一番、書きたかった少女。水瀬名雪
わたしはこの少女の泣き顔ばかり書いてきました。
『Dream/Real』(D/R)『Forget me, Forgive me/Fantasy』(F,F/FT)『F,F / Original Side』(F,F/OS)そして『白い雪・白い翼』(W.W)…
どれもこの少女が主人公の一人でありながら、みんな…泣いているこの少女ばかりを、わたしは書いてきました。
それは…わたしは、Kanonのあゆシナリオは好きです。
だから、名雪、栞シナリオは嫌いです。
なぜって、そこではあゆは奇跡の象徴として、好きな人のために自分を犠牲にして他人を救う天使のように書かれているから。
あくまで前向きに、でも勘違いした少女…自分を前向きに犠牲にしてしまう、本当に哀れな少女…あゆ。
わたしはそんなあゆが、悲しくって、哀れで…
だから、あれらのシナリオは嫌いです。だから、それを書き換えるべく、上記の作品を書いて…でも、あゆは笑ってはくれなかった。
だって、しょせんはそれは名雪シナリオであり、栞シナリオで…
だから、そこできちんとあゆを書いてやっても、あゆは…笑ってはくれなかった。いつも泣いて…笑ってはくれなかった。
わたしは…この少女の笑い顔が、本当に見たくて書いたのに…なのに…だから、W.Wを書き終えた時、わたしは思いました。
『もう十分だ。ほかのシナリオできちんとあゆを書いてやること…結局、そうやっても、あゆは笑ってくれないけれど…
泣かせるために書いたわけじゃないけれど…でも、やったじゃないか。十分過ぎるほど書いたじゃないか。
もう十分だ。ほかのシナリオなんてどうでもいいじゃないか。今度は…自分の納得できる、あゆシナリオを書こう。』と。わたしの納得できるあゆシナリオ。
それはもう、最初から決まっていました。
あゆシナリオから、奇跡を排除して。あゆは奇跡など起こせない、普通の少女として書いてやる。
それだけです。そして、そんなあゆを…幸せにしてやること。それだけが…わたしに書けることでした。ゆえに、あゆの事故の設定は変わらざるを得ませんでした。なぜなら、あゆに奇跡は起こせないから。
眠りながら街を駆け回るなどという奇跡など…彼女には起こせない。
彼女は普通に生き、普通に高校に通い、友達と遊び…街を駆け回っている少女。
原作のようにけなげな、でも他人のために自分を犠牲になんてできないかもしれない…普通の少女。
だから笑い、だから泣き、だから…祐一を好きになる。でも、7年前の事故をなくすことはできませんでした。だって、それは…Kanonの根幹にかかわる事件だから。
それを失くしてしまったら、もうそれはKanonじゃない…そして、Kanonじゃない世界であゆを幸せにしても、そんなことは
わたしにとっては、意味はないこと。
だから…あゆは事故に遭って、祐一を忘れる。祐一も、あゆを忘れる。
そして、二人は…7年後に出会う。忘れたまま…でも、お互いを好きになって…
その筋は、変えることはできなかったから。
そして、最後に二人は思い出して、でもやっぱり…
好きだから。今、お互いが好きなんだから。昔の思い出ではなく…今、目の前にいる人が好きなんだから。
そんな…陳腐な結論で、でも、確かな結論に達すること。それを目標に書いて…そして、書けた気がします。今は。
だから…あゆが本当に笑ってくれている。そんな気がしています。見える気がします。
多分、ただの自己満足だとしても…そんな気が、します。
『約束…だよ』美坂香里
原作における、あゆのキャッチフレーズのようなセリフ。
でも、それは…あの事故の内容が変わらざるをえなかった以上、約束も変わらざるを得ませんでした。
だけど、約束というフレーズ…それは『思い出に還る物語』というKanonの主題からしても、無くすわけにはいかないから。
だから…約束の相手は、名雪に変わりました。
というよりも、ある意味では約束の意味が原作とは全く逆になった…そういった方が正しいかもしれません。
原作では、約束は過去へと祐一とあゆを引き戻す、魔法の言葉…
でも、この話では、約束は名雪と祐一の出発点であり、また終着点でもある。原作の名雪と祐一の約束は、はっきり言って名雪の勝手に投げた一方的な言葉でしかない。
祐一には聞こえていなかっただけで、約束は成立していない。
だから、祐一は謝る必要もないのであり、名雪が待っていたのは勝手でしかない。
論理的に言ったらそうであり、また…それゆえに名雪シナリオの秋子さんの事故という展開が必要になったのだと思います。
舞と祐一の約束と比べてすら、名雪と祐一の『約束』は、あまりに軽い…軽すぎる。一方的過ぎる。
だから、名雪を絶望に落とすほどの展開を、最後にいれなければ終われなかった…
そんな、中途半端な感じが、わたしは名雪には感じていたのです。だから、この話では約束に意味を持たせました。そして、祐一に実際に名雪と約束させました。
だから…名雪が待っていたことには意味がある。勝手なことでは、ある意味なくなって。
だからこそ、祐一は真摯にその『約束』と向き合い…そして、名雪と決着をつけなければならない。
あの冬の夜の、幼い日々との…本当の意味での結論を。だからこそ、名雪はその約束に、思い出にすがり…原作よりもストレートに、思ったことを出す少女になりました。
だって、祐一は確かに約束したのだから。名雪の勝手ではなく、約束したのですから。
だからこそ、祐一に思い出すように迫り、忘れて近づいてきたかつての少女、あゆに怒り、思いをぶつける…
そんな、ある意味では原作よりも弱い少女に…変えました。
その方が、わたしは愛せると思ったから。
わたしは、人間の弱さを信じる人だから。弱い人間を、その弱さゆえに愛したいと思う人だから。
名雪の原作における強さは、実際には弱さを持つ人間の強さだと…そう思うから。だから…名雪は最後に、強さを見せてくれます。そう…信じて書いて…
最後に、名雪は泣きながら笑っていたと思います。そう信じ…ます。わたしの勝手ですけど…そう思うのです。
一番活躍したサブキャラ。時にはメインキャラのように魅力的な顔を見せたこの少女…美坂栞
実は、もともとわたしはこの少女のことを、ほとんど出す気はありませんでした。
もともとの彼女の役割は、落ち込んだ名雪のフォロー専門…それも裏で動いているだけで、祐一の前には出てこない…
そんな姿を考え、そしてその程度にしか性格づけをしていなかったのです。
それよりも、わたしは香奈美嬢をメインのサブキャラ…祐一とあゆの両方のアドバイザーとして作り出したオリジナルキャラを
そのメインに考えて、そうプロットを考えていたのです。
だから、香奈美嬢の性格づけをきっちりと、そして魅力的に書いていったのです…しかし、ある時、何人か、『香奈美さんがいいですね』という感想が目立ちだしました。
それを見ながら、わたしは…思ったのです。
これは…マズイじゃないかと。だって、わたしは…『あなたとめぐり逢うために』の解説で言いました。
『自分の言いたいことを語るために理想的なキャラを作るのは、わたしにとっては結構楽なことだから。
だから、そのキャラを全面におしたてることは、Kanonを離れて自分の話を書くようで、SSという物からはみ出そうで嫌です。』
…香奈美嬢は、完璧に上記の言葉に反しています。
まさに、オリジナルな理想的なキャラ…そのために作ったキャラ。そして、魅力的に全面に押したてて書いているキャラ…愕然としました。わたしは…自分の言ったことすら自分で守れない奴なのか?そうじゃ…ないだろ?じゃあ…
そこで、香奈美嬢には自然に退場してもらうことになりました。
(ちなみに、それはほぼバトンタッチという形でした…『Curiocity and a Cat』からですから。)
もう一人の美衣子ちゃんは、キーパーソンとして残ってもらう必要がありましたが…香奈美嬢の役割は他に移せましたから。
だから…その役割のほとんどを、香里に移しました。(残りは、秋子さんに移しました。)
そして、その時に性格設定も、香里に移されたのです。
だから、この二人はよくにている…それは当たり前のことなのです。だって、もともと一人だったのですから。しかし、香里はKanonのキャラで…Kanonの設定を引きずっているし、またそうでなければ…SSではなくなってしまいます。
そこで、栞シナリオが導入され…『夢の街』は3シナリオが融合した話になって…より長くなってしまったのです(苦笑)こうして生れた香里…香奈美さんの役目を受け継いだ香里をわたしはどう書けばいいのか…
少しは悩んだわたしでしたが、でも…その答えは、最初から出ていたのです。
そんな香里を、わたしは既に書いているのですから。それは…『F,F/Sunshine』(F,F/S)の香里です。
正確には、F,F/Sを終えた後の香里…
わたしのイメージでは、『夢の街』の香里は、そんな香里です。
もちろん、『夢の街』で語られる香里と栞の話は、F,F/Sとは全く違います。
でも…基本的にF,F/Sで二人が経る過程と、そしてその結論…残った香里の姿。それが…この香里でしたから。
だからこそ、香里は時にクールに祐一や名雪を責め、でも時には熱く…あるいは、泣きながら…友人たちに関っていく。
後悔と、希望と、強さと優しさを持った香里。それは、栞との過去が、育てた香里の姿だと……これでもう、F,F/Sを書かなくっていいかな、と言ったら…ダメですか(苦笑)
いや、その…ともかく、そんな、わたしの書いた香里の中でも最もわたしが愛せる香里…
そんな香里にわたしがこの香里を書いたのは…そんな小さなきっかけでした。ともあれ…ご苦労様、香里さん。そう言いたいですね。
彼女は結局、最後まで間接的に香里の言葉と…そしてほんのちょっとだけあゆの回想に出てくるだけです。水瀬秋子
でも、実際には上記香里の役割変更とともに、重要な…本当に重要なサブキャラになりました。あゆの病院時代の親友…そして、香里の強さの根源。
彼女がいなかったら、この話は全く違う結末を迎えていたかもしれない…そんな、キーパーソン。
そして…わたしが見たかった、わたしが書きたかった美坂栞。
強くって、いつも笑っていて、姉に気を使える…でも、最後には泣いて、死にたくないって叫ぶことができる、そんな少女。
原作での、あんな最後まで芝居がかった少女ではなく、生身の少女…
わたしはそんな姿が書きたくて、F,Fシリーズを書いたのだし、この話でも…それは同じでした。
そして、香里がF,F/Sの香里である以上、この栞も…そうです。
だから、この栞は死ぬ前に、本当に泣き叫んで…そして、香里を救って、死んでいく。
わたしは…そんな栞が見たかったから。そんな栞が…愛したかったから。
だから…ごめんよ、栞。そして…ご苦労様。それしか…言えないですね。まあ…死んでるわけだし(苦笑)
この人も、上記役割分担変更で前面に出てきたキャラです。飯並美衣子
でも、それがなくてもこの人は、現在の形程度には出てくることになったと思います。
だって…この秋子さんは、わたしは既に書きました。
そう。この秋子さんは、『愛に時間を』の秋子さん。
祐一とあゆと名雪の織り成す、7年前の悲しい物語を、黙って見ているしかない、弱い人…
でも、黙って見守って、ただ黙ってみんなを抱きしめて…お茶を用意して、待っていてあげる。
全てが思い出にかわるまで。思い出を思い出に変えることができるまで…待ってあげられる強さを持つ秋子さん。上記作品を連載当時、わたしはあとがきで言いました。
『これを抱えたまま『夢の街』なんて…書けないよ。』『だから、最終回を早く書きたいんだ。』
そうです。その当時、既に夢の街を書いていたわたしは、そこに出てくる秋子さんという人を考えていて…
そこから出来たのが、ある意味で『愛に時間を』だったから。
だから、これから『夢の街』で秋子さんを書いていく上で、その前に『愛に時間を』を…書いてしまわなきゃいけなかった。
書き切って…そして、その姿を胸に、『夢の街』を書いて行こう…そう決めていたから。もちろん、『愛に時間を』はKanonであり…『夢の街』とは繋がりません。
でも、この秋子さんは『愛に時間を』の秋子さんで…
だからこそ強くて、だからこそ弱い。そんな秋子さんを…わたしは書いたつもりです。
全てを優しく見守る…でも、見守るしかできないと涙する人…秋子さんを。もうちょっと、秋子さんらしいボケと…ジャムを書いておくべきだったかなとは思いますけどね。
あと…一応、秋子さんの名誉のために言っておきますけど、牛は締めません。はい。(爆)
…ちびあゆ(笑)中瀬香奈美
いや、本当にそのコンセプトで考えたキャラです。
思い浮かべる時は、マジでちびあゆを思い浮かべてください。あゆと祐一が過去を思い出すキーパーソン。
そして、あゆの境遇の象徴。
この話のあゆが原作に比べて元気さと子供っぽさに若干欠けているので、その分を担う存在。
あゆと祐一の間を取り持つキューピッド…あるいは、小悪魔。
実際、この少女のおかげで動きだした話はいっぱいありますよね…この話の中でも。あゆが妹のように思う存在として、そしてそれゆえにあゆの反面教師になったり…支えになったりする存在。
やっぱりオリジナルなので、当初の予定よりも役割は減ったのですが…それでも多いですよね。
でも、なんとなく、ちびあゆを意識して書いていたせいか、気にはならなかった…
…まあ、実際に二人の仲を取り持つ役に立っていたことも少ないわけですけど(苦笑)
一つの作品のアクセント、そしてきっかけとしてずいぶん重宝しました。香奈美さんみたいに…なれたらいいね、美衣子ちゃん。
まあ、多分あゆだろうけどね…(笑)
というわけで…悲運のオリジナルキャラ(苦笑)その他
せっかく魅力的なキャラに作り、書いてあげていたのですが…
そんなわけで裏方に回りました。
それがかわいそうだったので、エピローグに唯一、祐一とあゆ以外で出してあげたんですけど(笑)香里よりも大人で、だからもっと気の効いたセリフも用意しておいたんですけどね…
ごめんなさい、香奈美さん。
いつか、オリジナルで復活してあげるね(苦笑)
話の形式は、『風の音・鈴の音』を意識して祐一とあゆの二人1人称にしました。
それも、同じくバトンタッチ式視点移動。時間軸は視点が動いても常に先へ一方向に進む形で…
まあ、フラッシュバックを多用しましたけど。
絵があったらいいなあ…この部分、フラッシュバックのイメージ画像にして〜よ〜と、何度思ったことか(涙)
おかげで、自分でもわけがわからなくなること、しばしでしたね。あははは。
絶対、わたしには同じシーンを多数視点で書いたりするとか、時間軸を行き来させて書くなんて、そういう技法は出来ませんね…
まあ、書きたいとも思いませんけれども。あと、いつもは最初に書く題名に関して書いて…終わりにしましょう。
『A boy meets A girl』『Girl meets Boy』
…いわゆるBoy meets Girlから。一人の少年と少女の初めての出会い…そして、少女と少年は、出会う。最後に…
『Strawberry Dream』…実は『Raspberry Dream』By Rebeccaだという(苦笑)意味はないんですけどね…
『ボクとボクの猫以外はみんな秘密を持っている』
…『ぼくとぼくの猿以外はみんな秘密を持っている』By Beatles。あゆの秘密に引っかけてつけました。
『Curiosity and a Cat』…Curiosity kills a Catという格言から。雉子も鳴かずば撃たれまい、ですね。
『ボクのうたはキミのうた』…『Your Song』(日本題 僕の歌は君の歌)By Elton Johnだったと思います。名曲です…
『Friends or Lovers』…By PSY・S。本当は『ファジィな痛み』あたりを使いたかったけど…いい曲ですよ、どちらも。以上、今回はあんまり曲名とかを使いませんでした…だから、何か変な題名ばっかりだったですね(苦笑)
ともかく…最大の課題は終わって…ホッとしています。はい。2000.12.1 LOTH