"Hello, Again"について


最初に例によって、題名の元ネタを。
最初の2話に関しては、元ネタはKanon…そしてオリジナルなもの。
第3話の後半…『Recordare』から『Kyrie』『Deus Irae』『Lacrimosa』までは、
モーツアルトMozartの『レクイエム ニ短調 K.626』から取りました。
そして、『Eine Kleine Naght Musik』…もちろん、同じくモーツアルトの同名の曲です。
なぜそのような選曲になったのか…それは…

『Hello, Again』は『Eine Kleine Naght Musik3』(以下、Eine3)の無期限停止の後を受けて始めました。
題名といい、始まりといい、全く違う話として書かれているかのように見えたかもしれませんが…
途中でEine3を読んだことのあるほとんどの人が分かったでしょう。
そうです。これはEine3です。Eine3の仕切り直しバージョンだったのです。

舞の死から始まる、悲惨な夜の物語…Eine3。
その話をわたしは、でもわたしのなけなしの優しさと希望を持って、見切り発車で始めました。
『Eine Kline Naght Musik S』という、出来損ないの話を膨らませて…
必死で、優しいエンドを求めて走り出しました。

それはF.I.D.とわたしが呼んでいる話を書かないためでした。
F.I.D.…Fire in Darkness
離れていこうとする舞を己が手で刺し、その手を、顔を、全身をその血に浸して、自分で火をつけた家を焼く炎に包まれながら
静かに舞い踊る佐祐理さん…その姿は、やがて燃え落ちる家の炎にかき消える…そんなSS。
わたしが書きたくない、佐祐理さんのDeadEND。
でも、佐祐理さんを救う方法を考えない限り、わたしはその話をいつか書いてしまう…
今まで、どんなに悲惨なものであっても、持ってしまったイメージ、構成を…わたしは結局書いてきたから。
代わりとなる、優しい物語が浮かばない限り…わたしは書いてしまうのは分かっていたから。
だから…

でも、わたしは挫折した。
そして、それは当たり前だったのです。

というのは、わたし自身が既に書いていたからです。
佐祐理さんを救う光…それは舞だと。
詐欺師さんの『ぶらんこ降りたら』にわたし自身が付けたコメントで…わたしは書いていたのです。
そして、それがわたしの佐祐理さん観で…佐祐理さんをわたしが救う、それが唯一の方法だったのです。

佐祐理さんの思い…舞をしあわせにして、自分も一緒にしあわせになる。
『ひとは、ひとを幸せにして、幸せになれる』
そう、それは…真実。
だけど、佐祐理さんにとっては、それは間違いだと思うのです。
何が間違いかというと…

佐祐理さんが幸せになるには、舞が幸せにならなきゃならない。
でも、佐祐理さんは…舞を幸せにできるのか?
佐祐理さんシナリオは、舞と祐一と佐祐理さんがお昼を食べながら…そして終わります。
そこで終わるなら、それでいいかもしれない。
しかし、その後で…舞シナリオが進み、祐一が舞を思い出し、そして、互いを救ったら…
それは佐祐理さんが幸せにしたって言えるのか?
それで佐祐理さんは幸せに…なれるんだろうか?
そしてなによりも…そんな思いを持った佐祐理さんは、人を幸せにできるんだろうか?

わたしの最も愛する作家、P.K.ディックの自伝的色彩の強い小説『ヴァリス』の冒頭にこんな文章があります。
『他人を助けられるというのが、長年ファット(注:主人公)にとりつく妄想だった。かかりつけの精神科医が、よくなるためにはふたつのことをやめなければならない、とファットに告げたことがある。麻薬をやめ(ファットは麻薬をやめたことがなかった)、他人を助けようとすることをやめなければならない、と。』
…別に佐祐理さんにぴったり当てはまるというわけではありませんが…わたしもそう思いました。
佐祐理さんは、舞を幸せにしようとすることではなく、一緒に幸せになるということ、それだけを考えるべきだと思うのです。
舞シナリオでの佐祐理さんが、もっぱらそうであるように。
佐祐理さんシナリオでも…そう信じればいいのです。そうでないと…
舞も佐祐理さんも、幸せになれない。だって…
『ひとは、ひとを幸せにして、幸せになれる』
それは舞にも当てはまる言葉だから。舞から見て、佐祐理さんに対して当てはまるべき言葉だから。
だから…

そう。だから、この話では、舞が佐祐理さんを救い…
同時に、舞が救われる。
いや、というよりも舞を救うことにわたしは重点を置きました。
佐祐理さんと祐一が恋に落ちても…舞の10年が、無駄ではないって。
そう…思えること。そう思うことで、舞も…佐祐理さんも救われることになる。

はっきり言って、この話での佐祐理さんの救いは、全く唐突で不十分です。
佐祐理さんを愛する人たちは、きっと納得がいかないことでしょう。
分かっているのです。
分かっていて…こう書いたのです。
ここから先…真の佐祐理さんの救い、それを見たい方は他の方のSSをご覧ください。
わたしは佐祐理さんを救う、その手だてをわたしの中で見つけるためにこれを書きました。
わたしが言うところのシリアス系SS…Kanonの枠内で、Kanonにオリジナルな何かを足すことをぎりぎりまでやめて
勝手な設定、キャラを足すことをしないで、最小限のドラマで…Kanonの中のドラマと呼べるドラマで、キャラを救う。
そんな…幻燈で、でも、佐祐理さんを…救おうとしたのです。

そして、きっと救えると…わたしは救えると思えましたから。
だから、ここから先は…わたしにとっては、書く意味がないのです。
そのために新しい話を作ることなど…わたしにとって、SSとして、書くべきものではないのですから。

だから、この話は佐祐理さんの話でありながら、真の主人公は、実は舞です。
『Dream/Real』が名雪シナリオをベースにしながら、結局主人公はあゆであったと同じように。
そう。これは佐祐理さん版『Dream/Real』だと、わたしが言ったとおりに。
そして…

そして、もう一つの必然から、この話はそうならざるをえなかったのです。
この話は…Eine3の仕切り直しであると同時に、『Eine Kleine Naght Musik』シリーズ群、
名前を挙げれば『Eine Kleine Naght Musik』から始まって、『Eine Kleine Naght Musik2』、同『2&1/2』、
そして『Eines Kleines Liebes』…原題は『Eine Kleine Naght Musik 1&1/2』であった話と…
書かれるはずだったEine3という、シリーズ群の総集編、そして完結編とでもいうべき話だからです。
それは第7話の副題が『Eine Kleine Naght Musik』だということからすぐに分かるでしょうし…
そして、そのまた前中後編の副題が"Eins","Zwei","Oder Zwei"であること…
そう、この回のエンドは、あのEine2で書く意味がないと否定した、あのエンド…"Oder Zwei"そのままなのです。
単に、救われた舞と救われなかった舞を…舞と佐祐理さんに置き換えただけの、そのままの話を、わたしはわざと書いたのです。
流用ではなく…ネタ切れでは絶対になく、わざと書いたのです。
(注:言っている意味が分からない方は雑文のページの『Eine Kleine Naght Musik2』の創作メモを見てください。)

Eineシリーズ群の主題…それは、舞を救うこと。
何よりも、舞の10年を…虚しい10年の時を救いたい。
最初のEineを書いてから、わたしの中にずっとあり続けた思い…
祐一と再会したところで舞は…舞のあの悲しい10年は、報われたっていえるのか?
そんなことで…10年の時を無駄に過ごした、そのことは…

そんな舞の10年を救うために、わたしはもう一つのシリーズ、『わたしがあなたに出会うまで』『あなたとめぐり逢うために』を書きました。
だから言ったのです。『Eine Kleine Naght Musik』の直系の子孫は『わたしが…』だと。
舞が違う10年を、幸せな、幸せと呼べる10年を過ごすことで救われる…それが『わたしが…』でした。

そうです。『わたしが…』のシリーズは、Eineシリーズ群と対をなす話なのです。いわば、表と裏のように。
そして、その表というべき話、『わたしが…』で、一度はわたしは舞を救ったと思いました。
少なくとも、書き終えた時はそのつもりでした。
だけど…

本編ラストの舞は、やっぱり10年の時を過ごした舞に見えます。
なによりも、そういう舞でない限り、佐祐理さんがそばにいるわけがないのですから。
その舞を…10年の時を過ごしてしまった舞を、その10年を救いたい。
その思いから、わたしはEine2を書こうとし…でも結局、自分の救いのために歪めてしまった。
そして、2&1/2、1&1/2を書いた…でも、やっぱりそれは中途半端なものでしかなかった。
だからもっと違う救いを求めて…その対象を佐祐理さんにしてEine Sを書き…そしてEine3を書こうとした。だけど…

だから、『Hello, Again』は、このような話になったのです。
そして…わたしは満足です。
これでもう、わたしは舞を…Eineシリーズ群を書かなくていいなって
もう佐祐理さんを…書かなくていいなって
わたしの好きな舞シナリオを…もうシリアスに書く必要ないなって、
書かなくてもいいなって…思えましたから。

わたしは最初から、Eineを書いた後、これを書くべきだったのかもしれない。
『わたしが…』と一緒に、あるいは『Dream/Real』と一緒にこれを書くべきだったのだと思います。
そう思いながら…

でも、当時、わたしはEineシリーズ群を書かずにはいられなかったし…
それはそれで書いてよかったなと…そう思い起こしもしています。
あの時のわたしには、それしかなかったんだなあと…

ともあれ、これで舞シナリオ関連でシリアスを書く事はなくなりました。
Eine4を書く事も…佐祐理さんの話をもう書くこともないでしょう。

そして、これでわたしのシリアスシリーズは、Kanonではもうないと思います。
あとは書きかけの幾つかのシリーズ…どれもわたしの超プライベートな思い入れの産物ばかり…
これらをぼちぼちと書くだけでしょう。
ひょっとしたら、単発で書く物があるかもしれないけれど…
もう、シリーズに関しては、ないと思います。ないと…思えます。

長かったけど…ともかく、シリアス系のシリーズを全部終えて…
ほっとしています。ええ。本当に、ほっとしています。わたしは。

思えば、Kanonが世に出てから1年…書き続けたわたしの1年でした。
だから…もうおしまい。あとは、ホントに楽しめる物だけを…書こうと思います。書けたらと思います。それだけです。

2000.6.16 LOTH

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