...and She sings...

- Hello, Again - Epilogue


佐祐理さんSS。

シリーズ:Hello, Again

では、どうぞ

-----

暗い空から雨が降っていた。
しきりに雨が降りつづいていた。

何もかも流してしまうかのように降り続く雨。
立ち尽くす人々の上
黒い服に身を包んだ人々の上に

雨が降っていた。
雨が降り続いていた。

降り続く雨の中を
4人の人々に担がれて
白い
大きな白い
白木でできた棺桶の上にも
雨が降っていた
降り続いていた。

雨の中を
雨に濡れながら
立ち尽くす人の中
黒い服の人々の中

見つめる少女の顔
雨に濡れる少女の顔が

濡れて

濡れて
 

濡れて
 
 
 

抱きついた少女は

隣に立つ少女に

抱きかかえられた少女は

雨に濡れながら

雨の中

降り続く雨の中
 

瞳に降る雨の中

肩を震わせて…
 
 

    ...and She sings...  - Hello, Again - Epilogue
 
 
 

「……ぐすっ」

あたりが明るくなっても、まだ泣いている少女。

…どうでもいいけど、泣いているのは…こいつ一人だぞ…

「…ホントに、舞は泣き虫ですねー」

やれやれと言った風に、オレに振り返る佐祐理さん。

今日はオレと佐祐理さんと舞の3人で映画を見にきた。
ちょっと古い、いわゆる感動モノなのだが…聞いていたほどにはたいしたことはなくて。
だから、オレも佐祐理さんも、一緒に見ていた少ない観客も、泣いているものはいなかったのだが…

「……ぐすっ…ぐすっ…」

目を真っ赤にしながら、泣いている舞。

あの晩以来、舞は少し変わった。
表情が出てきて…それだけじゃなく、少しのことで泣くことがある。
知らない人たちは、大けがで死に掛けた、その後遺症ではないかと思っているらしい。
でも…

オレと佐祐理さんだけは、知っている。
舞は…まいと一緒になって、だから少し少女になったのだと。
そして…幸せになっていくのだと…
 

でも
オレが舞のそんな変化を知ったのは、あの夜からしばらくしてからだった。
死にそうだった舞が元気になって、病院の医師たちを驚かしていた時
オレは…

オレは生死の境をさまよっていたのだ。
でも、そのことを知ったのさえ、目を覚ましてからだった。
目を覚ました時…
 

目を覚ました時
ベッドの横に座って
オレを見つめて
その大きな瞳に涙を浮かべて
ぽろぽろとその涙をこぼしながら
抱きついてきた佐祐理さんに…

『よかった…』

泣いて抱きついてきた佐祐理さん…
 
 
 

「…さて、これからどうしましょうか?」

「……え?」

気がつくと、オレたちは映画館を出ていた。
外はすっきりと青空が広がっていた。
もう夏の気配が街を覆いつくしていた。
吹く風さえも、わずかに暑い季節を含んで…

オレは青空を見あげて伸びをした。
そして、まだ目をこすっているまいと佐祐理さんに向き直って

「…そうですね。佐祐理さんは…どこに行きたいですか?」

「え?わたしですか?」

佐祐理さんは首を少し傾げると、右手を頬にやって

「…そうですね、わたしは…」

真剣に考える佐祐理さん。
オレはそんな佐祐理さんの顔をちょっと笑って見ていた。
 
 

ねえ、佐祐理さん
あの夜以来
佐祐理さんは二度と自分のことを『佐祐理』と呼ばなくなったね。
それはオレはいいことだと思う。
きっと、いいことなんだって思うんだ。
でも…
 

『…でも、オレのこと…まだ『祐一くん』とは呼んでくれないんだな。』

オレが言った時
佐祐理さんの言葉は
あれはいったい…
 

『……あははー、一生、呼ばないかもしれませんよ。』
 

ねえ、佐祐理さん
あれは…
 
 
 
 
 
 
 
 

どうしましょうか。

わたしは考えながら、祐一さんの顔を見ました。
祐一さんはちょっと笑いながら、わたしの顔を見ていました。

ひょっとしたら祐一さんは、あのことを考えているのでしょう。
この間、わたしが『祐一くん』と呼ばないでいること…
そして、一生呼ばないかもって言ったことを。

だって
まだまだなんですから。
わたしはまだまだこれから
舞と
祐一さんと
幸せになって
幸せにする
一緒に幸せになる
まだまだその途中なんですから。
だから…
 

でも

でもね、祐一さん…
 
 

「…お腹、減った。」

舞がわたしと祐一さんを見ながら言いました。
祐一さんは、まいを見るとため息をついて

「…はあ。舞、お前な…女の子なんだから、もうちょっと言い方があるだろ…」

「…お腹と言った。腹といわなかっただけ、まし。」

「…お前が言うな、お前がっ!」

ポカッ

「…痛い」

「あははーっ」

いつもの光景。
いつものわたしたち。

わたしたちはまだまだこれからなんですから。
だから、まだまだ、わたしは『祐一さん』って呼ばせてもらいますね。
 
 

でも
 
 

それだけじゃなくて
本当は

いつか
いつかわたしは…
 
 

「……祐一、佐祐理…ご飯」

「……舞、お前は…」

「…祐一、行こう」

祐一さんの服を持って歩きだす舞。
祐一さんは苦笑しながら、わたしを振り返って
 
 

これが今のわたしたち。
でもいつか

いつかわたしたちは
いつかあなたと
いつかわたしは
 
 

その時はきっと
 

わたしはあなたのことをこう呼ぶと思うから。

きっとその時は
 
 
 
 
 
 
 

    ねえ

    祐一…
 

<END>

-----
個人的謝辞
詐欺師さまへ
これがわたしの『ぶらんこ降りたら』です。やっぱり、わたしにはあのレベルは無理でした…

NAOYAさま、飛鳥夢路さま
佐祐理さんの解説で人様を挑発して、でも自分で書いてみて、とどの詰まりがこの程度でした。ごめんなさい…

-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…さて…オレのラストシリアスシリーズ、なんとか終わったね。
「終わった…としか言いようのないエンドですね。いつもながら唐突で、ご都合主義なエンドで。」
……最後くらい、誉めてくれてもいいのにぃ…しくしく…
「…まあ、ご苦労様です…でも、まだいくつか、シリアスシリーズは残っているのでは?」
…あれはね…残ってるのは、超プライベートな物で…それも半年以上、持ちこしの物ばっかりだし。あれらはぼちぼちと…人目をはばかるように、書いて終わろうと思うのよ。もうすぐ、Airが出ることだし…あははは。
「…まあ、これで全キャラメインのシリアスと呼ばれる物を…シリーズで一度は完結しましたし。まあ…よしとしましょう。内容はともあれ。」
…ひどい(涙)最後なのにぃ…
「それが信用できないんです。前にも一度、もうシリアスはごめんだとか何とか…」
…うっ…でも、今度こそ、本当だから。単発ではあるかもしんないけど…もう、シリーズはないよ。うん。
「……まあ、いいでしょう。ともあれ、では…」
…おう。これでほのぼの書きに専念だな…
「…コメディも、でしょう?」
…あぅー

<Back< 元のページ

inserted by FC2 system