A Boy meets A Girl (夢の降り積もる街で-1)


あゆSS。
完全なアナザーシナリオにつき、このページだけで連載。

では、どうぞ。

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   雪が降っていた。

   暗い空から白い雪が

   雪が降っていた。

   白い雪の降り積もる街で

   夢の降り積もる街で

   オレは一人の少女と出会った
 

A Boy meets A Girl (夢の降り積もる街で-1)
 

1月 6日 水曜日
 

雪が降っていた。
重く曇った空から、真っ白な雪がゆらゆらと舞い降りていた。
「…はあ。」
オレは湿ったベンチに深く沈めた体を起こして、一つため息をついた。
屋根まで真っ白に雪で覆われた駅。
出入口からは、人がまばらに出入りしているのが見える。
オレはぼんやりと駅前の広場に時計を見上げた。
…2時半。
待ち合わせは1時…その少し前から待っているから…
「…はあ。」
ため息まで白い。
辺り一面の雪景色。
風が雪混じりに顔に吹きつけて、冷たいというよりも痛い。
オレは思わず顔をこすって、空を見上げた。
灰色の空。
その灰色をバックに、白い綿のような雪が、風に揺れるように…
「………」
雪と同じ白い
白い蝶のような…
「……?」
頭に白いリボンの少女がオレを見つめていた。
ベージュのダッフルコートに、黒い鞄。
紙袋を抱えて、ちょっと首を傾げていた。
「…ね、大丈夫?」
「…お、おう。」
何が大丈夫か知らないが、ともかく頷いておく。
ひょっとしたら、オレを心配してくれているのかもしれない。
「…待ち合わせ?」
「…のつもりだけど。」
「…つもりって?」
「多分…相手は忘れてるんじゃないかな…」
「わぁ…可哀想だねっ」
…そうはっきり言われると、悲しかった。
「…でも、多分、来ると思うが…」
「どうして?」
「…来ないと、オレが困るから。」
「困る?」
少女は首を傾げた。
その拍子に、少女の頭に積もりかけた雪が、小さく音をたてて落ちた。
「ああ。」
オレは少女の顔を見た。
座っているオレの目線と、ほとんど同じ少女の顔。
目の前を横切る雪。
「来てくれないと…今日、寝るところがない。」
「家…帰れないの?」
「だから…来ないと、家に帰れない。」
「………」
少女はオレの顔を、まじまじと見た。
「…迷子?」
「んなわけ、あるかっ!」
「わっ、そうだったんだ〜」
「違うって言ってるだろうがっ!名雪が来ないと…もう7年も来てないんだから、家に行けないんだっ!」
「…7年?」
「そうだっ!7年ぶりだからな…」
「へえ〜」
少女はオレの顔を見ながら、うんうんと頷いて
「それは大変だね〜」
「…ああ。」
「………」
少女はオレの顔と、持っている紙袋を交互に見ると、
「…えっと…」
「……?」
「…じゃあ、あげようか…」
「……?」
「うぐぅ…うーん…」
「…おい…」
「…これ。」
少女は紙袋に手を突っ込むと、何かを取り出してオレにさしだした。
「…これ…」
「たい焼きっ。おいしいよっ!」
少女のての上に、たい焼きが載っていた。
暖かい湯気が上がって、甘い匂いがして…
「…いや、オレは…」
甘いものはそんなに好きじゃない…
そう言おうとしたが、少女の顔が…
「…無理にくれなくてもいいんだぞ。」
「…うぐぅ」
少女はいかにも惜しそうに、たい焼きを見つめていた。
「そ、そんなことないよっ」
「…本当に、惜しくないのかっ」
「…うぐぅ」
口癖だろうか。妙な口調で言葉に詰まる。
「…じゃあ、もらうかな。」
「…うん。」
オレは手を伸ばすと、たい焼きを手に取った。
まだ暖かいたい焼きを、オレは二つに割ると、片一方をかじる。
「…うまい。」
「うん!たい焼きは焼きたてに限るからねっ」
言うと、少女は自分でも紙袋からたい焼きを取り出すと、頭から頬張る。
「…うぐ、うぐ」
「………」
幸せそうにたい焼きを頬張る。
本当に、幸せそうに…
「うまかった。」
オレはたい焼きを食べ終わると、手をはたいて
「ありがとう、えっと…」
「…あ、ボク、あゆ。月宮あゆだよ。」
「そうか…ありがとう。あゆ。」
「うん!」
「じゃあ、気をつけて帰れよ。小学生が、あんまりうろうろしてるんじゃないぞ。」
「…うぐぅ」
少女、あゆはたい焼きを咥えたまま、恨めしそうにオレを見た。
「…ボク、小学生じゃないよっ」
「…じゃあ、中学生?」
「高校生だよっ!」
「えっ!」
マジで驚いた。どう見ても、せいぜいで中学生…
「…嘘だろ?」
「うぐぅ…本当だもん…高校1年だもん…」
「マジかよ…」
「…うぐぅ」
あゆは悲しそうに顔を伏せた。
「どうせ、ボクは…」
「…祐一、何してるの?」
後ろからの間延びした声に、オレは振り返った。
「…えっと…」
「…ナンパ?」
「するかっ!」
オレは目の前の少女に思わず怒鳴る。
少女は長い髪を揺らして首を振ると、
「…でも、そう見えたもの。」
「…どういう目してるんだ、名雪…」
「…あっ」
少女、名雪は大きく目を開くと、オレの顔を見た。
「…名前、覚えてたんだ…」
「…忘れるかよ。ったく…遅いぞ。」
ちらっと時計を見上げると…3時。
「2時間も遅れるなよ…」
「2時間?」
名雪も時計を見上げると、
「わ…びっくり。まだ2時くらいだと思ってた…」
「…2時でも1時間の遅刻だ。」
「…そうだね。」
まったく人ごとのような口調。
昔からそうだったっけ…
オレは思い出そうとした。でも…
「…えっと…」
と、あゆがオレの服の裾を引っ張って
「…待ってた人?」
「…あ、ああ。」
オレは立ち上がると、あゆに向き直った。
「これで今夜、寝られるよ。」
「よかったね〜」
うんうんと頷くあゆ。
たい焼きは食べてしまったのか、紙袋はもう手に持っていない。
「…たい焼き、ありがとうな。」
「あ、そんなの、気にしなくていいよっ」
あゆは頷くと
「じゃあ、ボク、行くねっ!」
手を振って、去ろうとした。
「あ、あゆっ」
「…え?」
振り返ったあゆに、オレは笑って
「今度、お返しするから。」
「…いいよっ」
「いや…今度会った時、必ずな。」
「…うん!」
あゆは大きく頷くと、振り返って駆けだした。
舞い落ちる白い雪。
今まで気がつかなかった、鞄についた白い羽。
パタパタと風に舞って…
「…知り合い?」
名雪が近寄って、走り去るあゆを見ながら
「知らなかった…」
「…違うって。初めて会ったよ。」
「…ふうん。」
「…お前は、あいつ、知ってる?」
「…顔くらいは。でも…」
名雪が言った時。
「…あっ」
大きな声と共に、あゆが振り返った。
「…キミっ」
白い雪の中で、振り返ったあゆの顔。
白いリボンが揺れて…
「名前、なんて言うのっ?」
オレは口に手を当てると、あゆに向かって
「相沢祐一!」
「…祐一くんだねっ!分かったよ!」
あゆはにっこり笑うと、手を大きく振って
「じゃあ、またね、祐一くん!」
「ああ、またな」
あゆは手を振ると、振り返って駆けだした。
パタパタと小さな羽を揺らして、白い雪の降る町を駆けていく小さな姿。
時々、倒けそうになるその姿が消えるまで、オレは見送っていた。
雪の降り積もる街。
灰色の空から落ちてくる雪が、次第に濃くなろうとして…
「…そろそろ行かないと、埋もれちまうな。」
「…え?」
振り返った名雪に、オレは頷くと
「…行こうか、名雪。」
「…うん。」
オレは雪の中を、名雪の後を歩きだした。
7年前には覚えていた、でも今はほとんど覚えのない街を、白い雪の中を、ゆっくりと歩きだした。

<to be continued>
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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…シリーズ開始、だね。
「どういうシリーズなんでしょうか。どうして掲示板には投稿しないのですか?」
…これは…Kanonの世界、Kanonのキャラを借りた、でもKanonではない話。
「…オリジナルということですか?」
…オリジナルでもないけど…Kanonのシナリオには従わない、まったくアナザーな、パラレルな話。だから、掲示板には出せない。『夢の頃・夢の季節』や『あなたと…』よりもアナザーなお話。
「…でも、これはKanonのオープニング…」
…だけど、あゆが出ていて…それに、あゆも微妙に違うだろ。だから、アナザーシナリオ。だけど、だから書きたいこと、書けるかもしれないかな…って。
「あなたが書きたいこと…まあ、見守らせてもらいます。」
…そうしてよ。で、時々、突っつけよ。また未完のシリーズ、増やさないように(苦笑)

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