Eine Kleine Naght Musik 2…Eins


舞SS。

さ、悲惨な夜の開幕っ!

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Eine Kleine Naght Musik 2…Eins
 

足が震えている。
…いえ、震えているのは、足じゃない。

ここに来るつもりは、なかった。

夜。
彼の家からの帰り。
近道をしようと、佐祐理と別れて角をいくつか曲がった先。

震える理由なんてないはずだ。
でも

暗い空を背に、街灯に浮き上がる建物。
昼は生徒たちの声で満たされる、コンクリートの固まり。
校舎。
その校舎の奥で蠢く気配。
感じられる。
覚えのある気配。

そんなはずはない。
全ては終わったはずなのに。

でも
確かにそれはあの気配。
10年の間、わたしが狩った魔物。
それは、わたし。
もう一人のわたし。
あの夏の日に分離したわたしの力。
今はわたしの中にある力。
それなのに

わたしは校舎に入っていく。

通い慣れた夜の校舎。
窓からさしこむ冷たい月の光。
白く輝くリノリウムの床。
かつてわたしが立っていた
暗く長い廊下。
わたしの足音だけが響く。

気配は消えている。
わたしは暗い廊下を歩く。
窓からさし込む月の光が
廊下を淡く照らしている。
白く輝く月が。
冷たい月。
月。
月。

いる。
確かにいる。
わたしは振り返る。
魔物の気配を感じ取る。
わたしは剣を探す。
いつもわたしとともにあった、わたしの剣。

だけど
わたしは思い出す。
そうだ。
わたしは剣を捨てた。
剣はもう要らないからと
あの人と
佐祐理と
一緒に生きていくのだからと
わたしは剣を捨てたのだ。

初めて、恐怖がわいてくる。
剣を捨てたわたし。
魔物と戦うすべのない
魔物を狩ることを捨てたわたしが
魔物と戦う
わたしの力と戦うには

わたしの力。
使うことなどないと思っていたわたしの力。
わたしはわたしの力を感じる。
わたしの中の力で
わたしは魔物に立ち向かう。
魔物を押え込もうとする。
だけど

強い。
魔物は強い。
わたしの力を越えようとして
わたしに襲いかかろうとして
じりじりと迫ってくるのが分かる。
わたしの力を越えてくる。
汗が浮かぶのが分かる。
これは誰の力だろう。
わたしを越える力の持ち主。
わたしの力を越える力の…

「…ふふっ」

誰かの声。
冷たい笑い。
わたしは振り返ろうとして

痛みが走る。
右の太ももを貫く痛み。
流れ出す血。
赤く
赤く廊下に流れ
廊下を染めていく血。
刺さった剣。
剣。
わたしの持っていた剣に
わたしが戦っていた剣に
そっくりな剣。
わたしの剣。
わたしの剣がわたしの足に突き刺さって
血が流れ
痛みが走り
体を痛みが走り…

「…痛い?」

誰かの声。
わたしの前方からする声。
どこかで聞いたことのある
でも聞いたことのないような
懐かしいような
冷たい声。

「…ふふっ」

冷たい笑い。
聞いたことのある
聞きたくない笑い声。

わたしは顔を上げる。
月明りに人影が浮かぶ。
腰まで流れる黒髪。
髪を束ねた赤いリボン。
制服に身を包み
冷たい瞳で
凍るような瞳で
凍るような笑みを浮かべて
わたしを見おろしている
わたし。
わたし。

「あなたは…」

わたしの声に
もう一人のわたしは
彼女は冷たい瞳のまま
凍った笑みを浮かべたまま
ゆっくりと近づいて
剣に手をかけた。
そして剣を引き抜く。
痛みが走る。
血が流れる。
流れる血が剣を濡らしている。
剣を伝う血が彼女の手を濡らす。
彼女は赤く染まった剣を
赤く染まった手を見つめる。

「…わたしは…あなた。だけど…わたし。」

凍る笑みが
凍る瞳が光を増して
彼女は剣を振りかざす。
わたしを凍らせる。

誰か…
誰か来て

わたしの声は聞こえない。
声が封じられている。
口を開けても声は出ない。
出ない。
出ない。

誰か
わたしを
誰か
誰か…
祐一…
助けて…
祐一!
わたしを助けて!
助けて!

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…あはは。懐かしいね。Eine Kline...
「わたしは知りません。」
…お前が登場する前のSS。オレの初シリアス。今は過去ログの中にお眠りになってる…と思ったらなくなってるね。
「…また昔のネタを発掘して…」
…違うよ。その意味では「わたしが…」の方が直系の子孫。これは傍系かな。だから、読む必要もない。でも、この展開、意外だろ?
「…痛い話が書きたいんですか?」
…そうさ。結局、オレはそういう話が得意なんだ。だから書くんだ。それだけなんだよ。キャラへの愛なんて…結局、自分への、自分の文才への愛に勝てないんだ。自分が可愛いんだ。そうじゃなきゃ、愛すると言っておいてキャラを泣かせたり痛めつけたりできるはずがないだろ。自分の家族を、最後に幸せにするからって悲しい目に会わすバカがどこにいる?そうだろ?だから…

「…それで納得したんですか?」
…ほっといてくれ。次回は…祐一の登場だよ。
「舞さんを救うのですか?」
…どっちの?どっちの舞をだ?あはははは

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