18才・卒業(心象風景画 Epilogue)


天野美汐SSです。真琴のネタバレになります。
「No Regret」後のエピローグ、その1。

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18才・卒業(心象風景画 Epilogue)

わたしは日常を生きていた。
少しずつ、一歩ずつ過ぎ行く日々を
わたしはかみしめて歩いていた。

わたしは真琴の他に、少しだけ友人を作った。
他愛もない話はあまりしないが、普通に話をできるほどの
わたしは学校と家の往復の他に、少しだけ寄り道をする事もあった。

わたしは東京の大学の国文学科に合格した。
わたしが街を出ると知って、真琴は泣いて悲しんだ。
休みに会えると慰めることで、ようやく仲直りができた。

それは最後の夜だった。
わたしは一日荷物を作り、ようやく終えて部屋を出た。
今日も父は遅いようで、母だけがリビングでくつろいでいた。
わたしが入って来たのを見て、母がわたしを呼んだ。

わたしが近寄ってみると、母はアルバムを開いていた。
古い表紙のそのアルバムは、わたしが見たことがないものだった。
『あなたが生まれる前のものよ』
母が言ってわたしに手渡した。
アルバムの中は、若い両親の写真でいっぱいだった。
その中に、しかしわたしは1枚の写真を見つけた。

それは黄ばんだ写真だった。
老婆が笑って立っていた。
そばに小さな生き物がこちらを見つめていた。
『これ…』
指差すわたしに、母が懐かしそうに言った。
『これはあなたのおばあさんよ。今、わたし達がいるここに家があって、おばあさんはここに住んでいたの。ほんとにあなたが生まれることを、楽しみに待っていた人だけど、あなたが生まれるちょっと前、そう、この写真をとってすぐ後に、亡くなってしまったの。』
『この…これは?』
わたしがそれを指差すと、母は目を細め
『これは…確か、おばあさんが、丘で拾ってきたとかいう狐ね。ずいぶん可愛がっていて、あなたに見せてやりたいと、よく言ってたものだけど、おばあさんが亡くなった後、捜してみたけどいなかったわね…それからすぐにここにマンションが立って、だから私たちはここに引っ越したのよ。』

母の説明もそこそこに、わたしはその写真を見つめていた。
優しく笑うおばあさん。
その横で遊ぶ狐…多分、妖狐
わたしはその顔に、面影を見た…気がした。

美宇
あなたはひょっとして
おばあさんの代わりに
わたしの姿を見に来てくれたの?
あなたが捜していた人は…
…わたしだったの?

わたしは小さく頭を振って、アルバムを閉じてテーブルに置いた。

もしもそうだとしたら、それはうれしいことだけど
だけど、そうじゃなくてもいい。
わたしが美宇を愛し
美宇がわたしを愛してくれた
わたしの幸せな時が
あの20日間があったのは
間違いのない事だから。
あれからどんなに時が経っても
わたしが死んでしまっても
あの幸福な日の思い出は消えることがないんだから。

わたしは部屋に戻って、荷物づくりの最後の仕上げに
肌身離さず持っていた美宇の写真を取り出すと
写真立ての中に納めて、それを最後の荷物のバッグに入れた。
わたし、天野美汐
明日、この街を出る。
時にこの街に、思い出に戻っても
わたしは未来に向かって歩いていく。
18才。卒業の時。

<END>
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美汐の強さ、優しさ、そして弱さが真琴シナリオの要でもありました。
美汐には前を向いていってほしいです。

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