はじまりには挨拶を

- Hello, Again - 1


佐祐理さんSS…でしょう、多分(苦笑)
佐祐理さんシナリオ必須。というか、解いた直後に読まないと、前後すら不明かも(核爆)

シリーズ:Hello, Again

では、どうぞ

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『出会ったんですよ、わたしが頑張れる目標と』
『佐祐理はまだ…まだまだこれからなんです』
『がんばってる最中なんです』
『だから…もう少し待ってくださいね』

なんていうか、俺はただただ申し訳なかった。
そこまで話させないと、納得できなかった自分が恥ずかしい。
それは舞も知らないことだったのだろう。
伝えてやらないとな。
佐祐理さんはおまえのおかげで幸せなんだってさ、と。

『だから、いつかは言います』
『それがいつになるかは…佐祐理はダメな女の子だからわからないですけど…』
『いつか、きっと…』
『おはよう、祐一くん』
『って』
『ああ、待ってるよ。別に急いでるわけじゃない』
『ゆっくりいこうぜ』
『はい、祐一さん』

佐祐理さんは笑った。
いつもの明るい笑いだった。
でも…

その裏にある思いを知ってしまったオレは…
 

何かが動くのを感じた。
それは何かは、分からなかったけれど…
 
 
 

    はじまりには挨拶を  - Hello, Again - 1
 

1月27日 水曜日
 

夜が来ていた。
いつものようにオレは家を後にした。
今夜も…月が辺りを明るいまでに照らしていた。
通い慣れた校舎への道…しかも、一日2往復…
我ながら、何をやっているのかと思う。
でも…なぜかほっとけないから。オレは、舞を。
それは…

『出会ったんですよ、わたしが頑張れる目標と』

…オレも…同じなのか?
佐祐理さんと…

いや、そうじゃない…
オレは…
そうじゃなくて、オレは…
…オレは…

…オレは何を考えているんだろう?
思わず苦笑しながら、オレはいつもの昇降口扉を開けた。

きぃ…

わずかなきしりと共に、開いた扉の向こう。
月明かりに淡く光るリノリウム…
それがオレと舞との、幻想のような世界。
でも…幻想ではなく、真剣に…戦いの場。
今日も…舞はいるのだろうか?
オレは靴を履き替えると、いつもの場所に向かった。

「………」

舞はそこに立っていた。
いつものように立っていた。
立って…何かを待っているように…

「…よう。」
「………」

舞は初めて気がついたようにオレの方を見た。
わずかに驚きの色すら見えた。

「……来たの?」
「…なんだよ、それは。」
「………」

舞は黙り込んだ。
わずかに顔を曇らせて、窓の方に目をやった。
「…今日は、来ないと思った。」
「…なんでだ?」
「………」
舞は口を閉じたまま、窓の外を見ていた。
窓の外に見える中庭は、月の光を浴びて淡く、白く輝いていた。
「…佐祐理と…話をしたから。」
「話なら、毎日してるだろ?」
「…違う。」
舞は振り返ると、オレの顔を見つめた。
「……佐祐理は、傷の…話をした?」
「……傷?」
一瞬、意味が分からず、オレは舞に…
「…ああ、聞いたよ。」
次の瞬間、オレは理解した。
オレは舞の顔を見ながら
「舞、お前は…」
言いかけて、思わず苦笑した。
舞と佐祐理さんが出会ってから…もう3年になるのだ。
オレ画境、教えてもらったことなど…もう、舞はとっくに知っている。
それが…当たり前のことだ。

当たり前のことだ。

…だよな…

オレは首を振ると、舞の顔を見直した。
舞はオレの顔を見つめていた。
さっきからずっと…変わらない表情で。

「…多分、初めてだから。」
「…え?」

舞は表情を変えないままでつぶやくように言った。
「…佐祐理が、自分のこと…人に…男に言ったのは。」
「…そうなのか?」
「………」
舞は頷くと、また窓の方を見た。
「……そう…か…」
オレもつぶやいて窓の外を見た。
窓の外、淡い月明かり…

…まあ、舞と一緒にいつも居るからな…
男と話をする機会も少なくなるよな。
それに…家柄もある…いかにもお嬢様だし。

オレは今日のゲームセンターでの一件を思い出して、思わず微笑んだ。
ゲームセンターが絶対似合わないお嬢様…
…まあ、舞も違う意味で似合いそうにないが…
いかにもそんな感じの佐祐理さんのことだ。
黙っていれば…なかなか野郎共も近寄って来られないに違いない。

「…それは光栄だな。」
オレはちょっとだけ、茶化していった。
そして、舞に向き直って
「まあ、お前と一緒だから、佐祐理さんも…」
「………」

…いつのまにか、舞はオレを見つめていた。
オレの顔を、その無表情な瞳で…
「…すまん。」
「………」
オレが頭を下げても、舞はオレを見ていた。
いつもの顔で…

…いや、何か…

「…祐一。」
「あ、ああ…」
「…帰っていい。」
「……え?」
オレは舞の顔を、思わずまじまじと見た。
「帰れって…」
「…今日は、来ないと思うから。」
舞は言うと、オレの後ろ、廊下の先に視線を移して
「…連日現れたことはないから」
「……そうなのか?」
「………」
舞は黙って廊下の先を見つめていた。
昨日、魔物の一匹を手負いにした方…
「……そういえば、そうだったな…」
オレも振り返って廊下の先を見つめた。

魔物が頻繁に現れるようになったのは、俺が夜に訪れるようになってからだ。
以前にも舞は、俺がいることで魔物がよくざわめく、と言っていた。
魔物としても、第三者の介入で慌てているのだろう。
それまでは、夜の校舎で気の遠くなるような時間を、舞はひとり過ごしていたのだ。
たった一人で…

「………」
「………」
オレは思わず、舞を見つめた。
舞の横顔を…無表情な、寂しい…悲しい…
「……そういう目、嫌い。」
舞はオレの目に気付くと、そっぽを向いた。
「……ごめん。」
オレは頭を下げた。
多分、オレは…哀れむような目をしていたに違いない…
「……ごめん。」
「………」
もう一度頭を下げたオレを、舞は無表情に見ていた。
それから、目線を廊下の向こうにやると、ぴたりとその動きが…止まった。
いつもの…魔物を待つ体勢。
多分、長い間…気の遠くなるほどの夜を、舞はそんな格好で、じっと…
「………」
オレは黙ったまま、舞の後ろに回った。
そして、いつものように舞に背中合せに立った。
背中合せに、ほとんどか肩が触れそうなくらい近寄って。

…微かに、舞の匂いがした。
石鹸の匂い。
いつもながら…色気のない匂い。
舞らしいけど…

ふと、オレは佐祐理さんの匂いを思い出した。
何度か佐祐理さんの手を取って、ボタンなどの操作を教えている時に、ほのかにした匂い…
多分、シャンプー…いや、リンスか…
ともかく、そんな…甘い香り…佐祐理さんらしい…

「…お前も女の子なんだからさ、もうちょっと…」
オレは言いかけて…
「………」
「……いや、何でもない。」
オレは口をつぐんだ。
気配が…重かった。
魔物とは関係なく…重かった。
「………」
「……来ないと思うから。」
その気配を感じたのか、舞がまた、ぽつりと言った。
「…でも、それじゃあ…あの手負い、回復しちまうんじゃないのか?」
「…多分。」
「…それじゃあ、いつまでたっても終わらないだろ…」
「………」
舞は黙り込んだ。
背中の舞の気配が、ほんの少し…揺れた気がした。
…そう、だからこそ、舞は3年の間、この夜の校舎に…
「…早く終わらせようぜ。」
オレは言って、背中の舞に頭をぶつけてやった。
「…祐一、痛い」
「おまえ、背、高いよな」
「…よくわからない」
「自分の身長ぐらい、把握しておけ」
「…把握しても、別にいいことはない。」
「……そういえば、そうだけどな…」
オレは舞の言葉に思わず苦笑しながら
「…で、終わったら…どっかに遊びに行こう。思いっきり…な?」
「………」
「お前、どこか、行きたいとこあるか?」
「………」
舞はちょっとの間黙っていた。
それから
「…動物園、行きたい」
「動物園か…」
オレは思わず、舞が動物園にいる姿を想像した。
…似合っている気がした。
同年代の女の子といくには動物園という場所は物足りないかもしれないところだが…舞という少女には、ひどく似合いそうな、そんな気が…
「………」
舞の頷く気配を感じた。
そして舞は続けて
「…祐一と…佐祐理と、3人で。」
「…3人で…」

舞と…オレと…佐祐理さん。
いつもの踊り場のように、動物園の芝生のあるところで弁当をひろげて…
舞がぼーっと動物を見ている姿…
そんな舞のそばで、ころころ笑っている佐祐理さん…

「…親友だから。佐祐理…」
「…そうだな。」

背中の舞の言葉。
オレは頷いた。

舞は続けて

「祐一も…」
「………」

その言葉に、オレは…
黙ったままだった。

舞と佐祐理さん…

舞と、オレ…
 

オレと、佐祐理さん…
 

微かに、痛みがあった。
胸の奥で微かに、でも確かに痛みが。

でも何がいったい痛いのか…
オレの中の、何が…
 
 

オレと舞は黙ったまま、背中合せで立っていた。

その夜、魔物が現れることはなかった。

<to be continued>

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業務連絡
1.長い間ご愛顧いただいた方もおられるかもしれないわたしの稚拙な佐祐理さんSS
『Eine Kleine Naght Musik3』は、次回以降の話は全て無期限延期となりました。
わたしの愚かさにより、大変ご迷惑をお掛けしたことを深くお詫びするものです。

2.このSSに何か期待をなされる方には、今のうちにお謝りして起きます。
このSSは佐祐理さんのSSですが、決して大した話ではありません。
そのような期待をなさる方は、今すぐこのSSをお読みになるのをやめ、
どうか他の方のSS、例えばまーきーさんの『before after』などをお読み下さるようお願いいたします。

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…というわけで…また駄作決定のシリーズだよ。
「…同じようなセリフ、確かF,F/OSで書いてましたね…」
…そして、確かに駄作だっただろ?あははは。
「……で、この話は?」
…まあ、某あゆの合間に…5〜8回の話として、それも長編でもなく…終わろうじゃないか。じゃないと、Airが出るまでに終わらないしねえ…
「…業、ですね…」
…ていうか…バカなだけだと思うけどね…
「…自分で分かってるんなら…やめたらいいのに。」
…あははは…

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