プレゼントを贈るなら

-Hello, Again-2


佐祐理さんSS。
第1回で書き忘れた注意事項
1.このSSは舞シナリオを解いていない人を対象に書かれています。
2.佐祐理さんシナリオ1月27日の佐祐理の告白直後から派生したシナリオです。
  佐祐理さん、舞、祐一の思いは佐祐理シナリオで語られたものとして、以降も説明しません。
3.ただし、祐一の佐祐理さんへの口調は…わたし流に少し変えています。
以上3点をお含みおきの上、読み進み下さいますよう…

シリーズ:Hello, Again

では、どうぞ

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プレゼントを贈るなら  - Hello, Again - 2
 

1月28日 木曜日
 

見上げれば、抜けるような空。
オレは白い息を吐くと、いつものように、いつもの時間、いつもの場所で待っていた。
前を歩いていく同校の生徒たちの中に、いつもの二人の姿を…
「…おはようございます、祐一さん。」
「おはよう…あれ?」
オレは佐祐理さんに答えながら、もう一人の姿を捜した。
「…佐祐理さん、舞は?」
「あははーっ」
佐祐理さんは楽しそうに笑うと
「舞は佐祐理が今日は日直だって言っていたので、先に行ったみたいですー」
「そうですか…」
オレは佐祐理さんの勢いに、思わず頷いて…
…あれ?
「…え?」
「はいー?」
「…それ、おかしくないですか?」
「何がですか?」
「いや…」
佐祐理さんが日直だから、佐祐理さんが朝早くに学校へ行く…
これは普通だ。
でも、佐祐理さんが日直だから、舞が早く学校に行って、佐祐理さんは普通に登校する…
「…やっぱり、変でしょう。」
「だから、何がですか?」
「だって…日直なんですよね、佐祐理さん?」
「はい、そうです。」
「…早く行かなくていいんですか?」
「はいっ」
佐祐理さんはにこにこしながら
「もう一人の日直の方と、佐祐理で役割を決めたので…佐祐理は朝は早く行く必要がないんです。」
「…で、それを舞は知らないで…」
「いえ、佐祐理はもちろん、舞に言ってましたけど。」
「………?」
わけが分からず首を傾げたオレに、佐祐理さんはくすくす笑うと
「…舞は忘れっぽいですからねー」
「……そうですか?」
舞は忘れっぽいようなところはあるが、しかし、佐祐理さんに関ることを忘れることはないと思うのだが…
「…祐一さん。」
「…はい」
少し考えていたオレが顔を上げると、佐祐理さんがちょっと困ったような顔をしていた。
「…そろそろ学校へ行かないと…」
「あ、そうだったっ」
悠長に考えている暇は、そんなになるわけがない。
オレと佐祐理さんは、できるだけ早足で学校に向かった。
 

午後の授業はいつものように終り。
オレは例によって学食へ、そして踊り場に向かった。
そして、階段を一気に駆けあがると
「帰ったぞぅーっ」
「お風呂にしますかぁ、お食事ですかぁ?」
「そうだなあ…」
と、オレは例によって、舞の能面に…
「…あれ?」
そこにいつもの舞の姿はなく、舞の小さな弁当だけがそこに置かれていた。
「…舞は?」
「何か、まだ用事があるとかで…お弁当、先に食べていいって言ってました。」
「……そう。」
オレは舞のお弁当箱を見ながら、さすがに首を傾げないではいられなかった。
「…何か…オレ、避けられて…る?」
「まさかー」
佐祐理さんはオレを見上げると、音がするほど首を振った。
「舞が祐一さんを避けるなんて、そんなことないですよー」
「…でも、今朝も…」
「だったら、佐祐理も避けられてることになるじゃないですかー」
「……まあ、それはそうですけど…」
「そうですよ。だから、絶対そんなこと、ありませんっ」
佐祐理さんは大きく頷くと、
「だって、舞は祐一さんが好きなんですからー」
「………」
オレは思わず、まじまじと佐祐理さんの顔を見た。
佐祐理さんはうなずきながら、にこにこ笑ってオレを見上げていた。
いかにも、分かっている…それが当然のように、見守っている…そんな、佐祐理さんの顔…
佐祐理さんの…幸せ…
舞の…気持ち…

オレの気持ち

オレは舞の弁当をもう一度…

「…おい。」
「………」
いつの間にか、舞が座り込んで弁当を広げていた。
「…いつの間に。」
「あははーっ、佐祐理も気付きませんでしたー」
佐祐理さんも笑いながら、ちょっと驚いていた。
オレはとりあえず、いつもの場所に座ると
「舞、いったい…」
「……まだ、食べてなかった?」
オレの言葉など聞かず、いつもの無表情で聞く舞。
オレはさすがに
「…あのなあ、お前を待ってたんだろうが。」
「……いいと言っておいたのに。」
「…佐祐理さんが、お前抜きで食べるわけ、ないだろ?」
「………」
舞は佐祐理さんの顔を見た。
「…気にしないで、よかった。」
「あははーっ、じゃあ、こんどはそうしますー」
佐祐理さんはにこにこしながら、舞に頷いた。
でも、オレには分かっていた。また今度こんなことがあっても…佐祐理さんは絶対、オレと二人で先に食べたりはしないだろう。
例え、オレが先に食べようと言っても。
なぜなら、佐祐理さんにとって、舞だけが…
「…祐一さん、食べないんですか?」
「…え?」
気がつくと、佐祐理さんはいつもの4段積みの弁当を広げてオレを見ていた。
舞もオレの顔をぼんやりと見ているようだった。
いや、ぼんやりではないのかもしれないが、いつものようにその表情は読み取れない…
「さあ、食べるかー」
「はいー」
「………」
オレたちは一斉に弁当に箸をつけた…正確には、オレは買ってきたパンをかじったのだが。
そして、いつものように昼食会は始まった。
何事もなかったように、お弁当を食べて…
「あははーっ、舞、それはビニールですー」
「…味がない。」
「ていうか、そんなもん食べたら死ぬぞ…」
そして、いつものように弁当をからにして…
「ごちそうさまでしたー」
「…ごちそうさま。」
「ごちそうさまです、佐祐理さん。」
「いえいえー」
そして、チャイムが鳴る前に、撤収しようとオレたちは踊り場から階段を降り始めた時だった。
「…祐一。」
「……ん?」
オレのすぐ後ろを階段を降りていた舞が、オレを呼んだ。
「…何だ?」
「……今日の放課後は…わたし、用事があるから。」
「……?」
舞が何を言っているのか、一瞬、オレには分からなかった。
でも、すぐに気がついて
「…そうか。じゃあ…今日は放課後の練習はナシだな。」
「練習って…」
と、オレたちの後ろから弁当の包みを抱えておりてきた佐祐理さんが、不思議そうに
「舞と祐一さん、何かしているんですか?」
「……えっと…」
…さすがに、魔物退治の特訓、とは言えないな。佐祐理さんは…知らないでいるに越したことはないことだから…
オレは佐祐理さんを見上げながら、ちょっと考えて
「…剣道同好会の練習です。」
…我ながら、いかにも嘘くさかった。さすがに佐祐理さんも、これには…
「ふぇ〜、そうだったんですかー」
…いや、佐祐理さんは素直に頷くと、舞を見ながら
「じゃあ、今度、佐祐理も一緒に練習、させてくださいね、舞。」
「………」
舞は佐祐理さんの顔を見上げた。
そして、おもむろに口を開けると
「…やめておいた方がいい。」
「いえ、佐祐理はこれでも、しばらく長刀を…」
「…足手まといになる。」
「…舞っ」
さすがに、オレは舞を睨んだ。
確かに、そうかもしれないが、しかし…言い方ってものが…
「…あははーっ、そうですねー、佐祐理は運動は全然ダメですからー」
でも、佐祐理さんはにっこり微笑むと、舞に頷いた。
オレでさえびっくりするほどの笑顔だった。
佐祐理さんは…今の言葉で何も思わなかったのだろうか?
いや、そんなはずはない。だけど…
「………」
舞は佐祐理さんの顔をじっと見つめていた。
と、ふいに振り返ると、黙ったまま階段を降りていった。
オレは立ち止まったまま、降りていく舞を見ていた。
黙ったまま、振り返りもせず降りていく舞の後ろ姿を…
「…舞、怒っちゃいましたかねー」
オレの背中の後ろから、そんな声が聞こえた。
のんびりしたような…それでいて、気遣っているような…
「…佐祐理さんは…」
オレは振り返ると、佐祐理さんを見上げた。
そのにこにこ笑っている顔を見あげた。
「…佐祐理さんは、怒らないんですか?」
「何をですか?」
「…さっきの、舞のセリフ…」
「…ああ、あれですか。」
佐祐理さんは、やっと気付いたという風に手をポンっと叩くと、またにっこり笑って
「だって、本当のことですから。佐祐理、運動は全然…」
「だからって…舞も、あんな言い方…」
「…舞は、あんな子ですからー」
佐祐理さんは笑いながら、小さく頷いた。
「佐祐理を心配して、言ってくれているんです。だから…」
「………」
確かに…そうかもしれない。
魔物との戦いのための特訓。真剣な…本当に、生死を賭けなきゃならない戦いのための…
そんなものに、佐祐理さんを巻き込むわけにはいかない。
それはそうだけど…だけど…

何か…いつもと違う気がする。
朝の挙動…今の態度。
ただ、佐祐理さんを巻き込みたくない…それだけじゃない気がする。
でも、じゃあいったい…
まるで佐祐理さんを…
そして、オレを…
オレと、佐祐理さんを…

いや、そんなことは…ないよな。
そうじゃなくて…舞は、いったい…

「あ、でも、じゃあ祐一さんは放課後、お暇なんですねー」
「……え?」
佐祐理さんのは弾んだ声に、オレは佐祐理さんの顔をあわてて見直した。
「はあ…」
「じゃあ、帰り…」

キンコーン

ちょうどその時、チャイムが鳴った。
佐祐理さんは口をつぐむと、肩をすくめた。
そして、にっこり笑って階段をトントンっと降りると
「…じゃあ、後で迎えに行きますねー」
「……え?佐祐理さん?」
オレがあわてて聞こうとした時には、佐祐理さんは階段を降りて角を曲がっていくところだった。

…え?後でって…え?え?

オレはそのまま、階段で立ち尽くしていた。
 
 

キンコーン

6時間目の終わりのチャイムを、オレはじりじりしながら聞いていた。
5時間目の後の休み時間、昼の言葉の意味を聞こうと佐祐理さんの教室に行ったが…ちょうど他の教室へ移動したところで、佐祐理さんに会うことができなかったのだ。
ゆえに…佐祐理さんのことだから、迎えに行く、と言ったからには…
「…では、これで授業を終る。」
教師の声と同時に、オレは立ち上がった。
そして、鞄を手に取ると、教室の出口へ…
「祐一さん、そんなに急いでどちらへ行かれるんですか?」
後ろから駆けられた声に、オレは顔だけ振り返ると
「いや、ちょっと…って、佐祐理さん!?」
「はいー」
…既に遅し。
佐祐理さんはオレの後ろ、にこにこ笑っていた。
この人は…一度入った教室は例え学年が違えど、自分のクラス同然なのだろうか?
断りもなく、教室の最深部、俺の席の真ん前に…しかも、授業が終るか終らないに、既に立っているとは…
「出ましょうっ」
「え?」
オレは慌てて佐祐理さんを廊下に連れ出した。
まったく…この人は…
「佐祐理は教室の中でも良かったんですけど」
「オレが良くないですっ」
「そろそろ、祐一さんのお友達にも顔を覚えて頂いた頃だと思ってたんですけどね」
「覚えられなくていいですっ」
「そうですか?」
「そうですっ」
…これが全て本気だから恐れ入る。
この人は…恥ずかしいとか思わないのだろうか?下級生の…しかも、男のところに堂々とやってくる…
…思わないんだろう…な。
「…はあ」
「……?」
思わずついたため息に、佐祐理さんは首をかしげると、でも、すぐににっこり笑って
「じゃあ、一緒に見にいきましょう」
「…よし、いこう」
オレは答えたが、もちろん、何のことだかさっぱりわからない。
でも、佐祐理さんが楽しそうなので、とりあえず答えて置いて
「で、佐祐理さん…」
「それとも、祐一さんは、もう決めてあったりして」
「いや、決まっていないと思う。それで…」
「そうなんですか?じゃ、よかったです。佐祐理も決まってないんですよ…だから祐一さん、二人で一つの物にしませんか?」
「それはいいかもしれない。で…」
「でしょう?」
…一気にまくしたてられて、なかなか聞いてもらえない。
やっと言葉を切った佐祐理さんに、オレは
「で、なんの話ですか?」
「ふぇ?」
佐祐理さんは、本当に驚いたという顔をした。
「誕生日の話じゃないですか」
「え?佐祐理さんの?それは、おめでとう…」
「違います。舞のです」
「舞?それはめでたい」
「それで一緒にプレゼントを買いにいきませんか、って話をしてるんじゃないですか」
「…そうだったんですか?」
「そうですよー」
佐祐理さんは、大きく頷いた。
「別々に渡すより、そのほうがいいものをあげられると思いますし、舞も喜んでくれると思うんです」
「…そうですね。」
オレもやっと、意味が分かった頷きを返した。
まあ…舞がどのくらい喜ぶかは、オレには分からないが…
佐祐理さんが贈ったら、きっとなんでも喜ぶだろう。
オレのは、まあ、そのおすそ分けくらいだろうからな…
だったら、佐祐理さんと一緒の方が、舞も…そして、佐祐理さんも…
「…じゃあ…商店街でいいですかね?」
「はいっ。」
「じゃあ、行きましょう、佐祐理さん」
「はいっ」
オレの言葉に、佐祐理さんはにこにこしながら大きく頷いた。
オレたちは、廊下から昇降口へと歩きだした。
 
 

「にしても、なにが嬉しがるんだろう」
商店街の入り口で、オレは佐祐理さんに聞いてみた。
学校から商店街までは、何となく自分で考えていたのだが…普通の女の子とはかなり違う舞のこと、なかなかオレにはぴんとくるものが思い浮かばなかったのだ。
「何をあげても喜んでくれますよ」
でも、佐祐理さんはにっこり笑うと、オレを見て大きく頷いた。
…それは、佐祐理さんだっただ、そうだろうけれど…
「オレがやっても、なにをあげても素のまま、という気がする…」
「はい?」
「いや…」
オレは思わず苦笑しながら
「去年は何あげた?佐祐理さんは」
「去年はオルゴールです」
佐祐理さんは、思いっきり微笑んで
「小さなブタさんがたくさん飛んでいる、可愛いオルゴールですっ」
「…ブタが飛ぶ?」
「はいっ。天使のブタさんなんですよーっ」
「………」
オレは頭の中で、その姿を想像した…
…とても可愛らしいとは呼べない代物しか浮かばない。
実際は売り物であるのだから、それなりのものだと思うのだが…
「…で、舞は喜んだ?」
「はい。とっても」
「かといって、『キャーッ、ウレシーッ!』とかは、やっぱり…」
「もちろんです。でも、ありがとう、って言ってくれました」
「そりゃ礼ぐらいは言うと思うけど…」
不器用に頭を下げている姿は、確かに浮かぶけれど…
「それはあんまり、『とっても』じゃないと思うけど。」
オレの言葉に、でも佐祐理さんは大きく首を振ると
「それが舞の精一杯の誠意なんですよ」
「…そうなの?」
「はいっ」
佐祐理さんは、今度は音がするくらい首を縦に振って
「その証拠に、佐祐理の誕生日には、山ほどの花束を抱えて家まで持ってきてくれました。」
「へぇ…」
「本当に、山ほどなんですよ?」
佐祐理さんは大きく手を広げて見みせた。
大きく広げた手で、佐祐理さんは花束を抱えるようにすると
「だから前が見えなくて、途中、何度も電柱にぶつかってきたそうで…鼻が真っ赤でした。」
「…あいつ…バカか…」
「でもそれが誠意なんですよ。普通の人じゃ叶わないほどの誠意なんです」
「…確かに。それはわかるけどね…」
鼻を真っ赤にしながら玄関のドアのところに立っている舞の姿が思い浮かんだ。
確かに…そんな不器用な、でも…一生懸命なところ。
それは舞のいいところで…そんな舞のことを、佐祐理さんはよく分かっていて。
多分、佐祐理さんはにっこり笑って
『鼻が真っ赤ですよ、舞』
なんて言ったことだろう。
そして舞は、わざとそっぽを向くようにしながら、佐祐理さんに花束を差し出したことだろう…
花束からの…花の香り。二人を包んで…
「…何の花、だったんですか?」
「……え?」
オレの問いに、佐祐理さんはびっくりしたようにオレを見つめた。
そして、クスクスと笑うと
「…いろいろな花でした。バラもありましたし…かすみ草…あと、何か知らない、大きな花とか…」
「…なんか、適当に見繕ってもらったような感じですかね…」
というか、多分、花屋でそう頼んだのだろう。舞のことだから…花の名前も何も知らないだろうし。いろいろな花…佐祐理さんに贈る…

…バラは違う感じ。でも、白いバラなら…あとは…
うーん、オレも花のことは詳しくないしな。
季節もあるだろうし…

「そういえば、佐祐理さんの誕生日って…いつですか?」
「5月5日ですー」
「…子供の日か…」
…オレは思わず笑ってしまった。
5月5日…子供の日。何か、佐祐理さんにはぴったりのような…
「…おかしいですかねー」
見ると、佐祐理さんはちょっと苦笑しているようだった。
オレは慌てて笑うのをやめると
「あ、いや、そういう意味じゃ…」
「いえ、いいんですけど。でも、いつも休みだから、それはうれしいんですよ。」
「…そうですか…」
何か言い訳にもなってない言葉だったけれど、言い訳するのはこっちの方だったので、それ以上つっこむのはやめておいた。
それよりも…5月か…
まだまだ先だな…
まだ、先…
だから…
「…じゃあ、オレは…」
「…え?」
「…オレだったら、今度の佐祐理さんの誕生日には…」
「………?」
佐祐理さんがオレを…不思議そうに見ていた。
オレは…

オレは口を閉じた。
目を商店街にやった。

口にしているつもりはなかった言葉だった。
口にしても…多分…

「…じゃあ、舞には…プレゼントには、誠意が一番だってことかな?」
オレは言って、また佐祐理さんに向き直った。
「…ええ、そうです。」
佐祐理さんはオレの顔を見上げると、頷いた。
「うわべだけで喜んでいる人よりも、よっぽど嬉しいんです、舞は」
「じゃあ、俺たちが贈りたいものを贈るのが一番…かな?」
「そういうことです」
「じゃあ…何をあげたい?」
「そうですねぇ……祐一さんは?」
「……うーん…」
あげたいもの…舞がもっと女の子らしくなるもの…かな?
というか…女の子らしいものがいいかもしれない。普通、舞が持ちそうもないようなもの…
「ここは思いっきり女の子らしいものがいい…と思うけど?」
オレが言うと、佐祐理さんはうんうんと頷いて
「そうですね」
「じゃあ…ぬいぐるみなんてどうかな。それもこの商店街で一番デカい」
「いいですねー」
「…ホントに、そう思っていってます?」
「もちろんっ」
佐祐理さんは、大きく頷いた。
「きっと、舞、喜びますっ」
…佐祐理さんが言うんなら、間違いなしだ。
「じゃあ、手分けして探そう。商店街は広いから。佐祐理さんは、そっちを。オレはこっち側の店を回ることにして。30分後に集合ってことで」
「はい」
「じゃあ、解散っ」
オレたちは、それぞれの方向に物色に赴いた。
 
 

夜の校舎は、いつものように静けさに包まれていた。
オレと舞は、例によって廊下で背中合せに立って、魔物の気配を探っていた。
昨日は現われなかったが…今日は…
「…今日は現れるかな」
「…さぁ」
舞はいつものように身動き一つせず、一言で答えた。
「………」
「………」
それからまた、沈黙が流れる。
火災報知器だけが赤く光る廊下は、いつもながら妙に幻想的だった。
まるでこの場所が、現実ではないかのような…

かさっ

どこからか吹く風に、足下の新聞紙が揺れた。
途端にオレは先程の様子を思いだして、そんな幻想から引き戻される思いで苦笑してしまった。
その新聞紙は…焼きイモの包みだったのだ。今日の差し入れの。
オレが投げて渡すと、無表情に、でも熱そうに両手の間をぽんぽんと投げるようにその焼きイモを持っていた舞。
『焼きいもは好きか?』
とオレが聞くと、舞はイモの皮を剥きながら、一言。
『…相当に嫌いじゃない』
…昔から不思議なのだが、どうしてか女の子は一律に焼き芋が好きな傾向にある気がする。
舞もそれに当てはまる、ということは、立派に女の子の嗜好をしているということになるのだが…
まあ、買ってくる方からいえば、喜んでもらえるに越したことはない。差し入れも…プレゼントも…

『…じゃあ、舞には…プレゼントには、誠意が一番だってことかな?』
『…ええ、そうです。』

昼間の佐祐理さんの、にっこり笑った顔が浮かんだ。
確かに、誠意が一番…そうなのかもしれない。
でも…それはちょっとズレただけでも、勘違いしただけでも、ズレていってしまう…危うい糸だとオレは思う。
お互いに誠意を尽くしても…その方向が、気持ちがズレると、すれ違ってしまってしまうから。すれ違って…どうしようもなく、お互いの気持ちが…
例えば…男と女だと…片方は友達のつもりの誠意でも、もう片方が…そして、そこにもう一人の女…

「……祐一っ!」
「……え?」

声に振り返ると、舞が廊下の向こう、オレに振り返っていた。
妙なことを考えているうちに、戦いは始まっていたのだ。
舞は手にした剣を宙に向け、切っ先をねじ込むようにしていた。
そして、そのまま舞の足が滑って…
いや、滑っているのではなく、引っ張られているのだ。
何かが…魔物が舞を引きずって、廊下の向こうへと…
「…祐一っ!」
もう一度、舞は叫ぶと剣を離した。
そして、そのままオレの方へ…
「………」
一瞬、何事か分からなかった。
その一瞬が…
俺は馬鹿だった。
気づくのが遅すぎた。
頭を打ち抜かれていた。
その衝撃は脳天を貫通し、眼球を激しく振動させ、足元へと抜けた。
「ぐ…」
思わず、膝をついた。立っていることなどできなかった。
目が見えない。何か、熱いものが溢れ出ているのがわかった。
「祐一、しっかり…」
舞の手が、俺の手に触れた。温かい手だった。
「祐一、介抱は後でいくらでもする…」
舞はオレの手に触れたまま、冷静な、でも切迫した声で
「…今は、その手のものを貸して」
「これか…」
オレは握っていた木刀を手から放した。
ころん、と転がるはずだったそれは、舞によって受け止められたのだろう、音はしなかった。
代わりに、風が感じられた。
舞の、匂いを帯びた風だった。
石鹸のような匂い…
…花の香り…

『山ほどの花束を抱えて家まで持ってきてくれました。』
『本当に、山ほどなんですよ?』

佐祐理さん…オレだったら…オレなら佐祐理さんに…見せる誠意は…
オレだったら…
 
 

「祐一…」
気がつくと、舞がオレを見下ろしていた。
オレは廊下に転がって、気を失っていたようだった。
「………」
「…見せて」
オレが声を出せないでいると、舞の手が俺の頭をとって、自分の膝に載せた。
そして、オレの顔をじっと覗き込んだ。
「………」
舞はオレの目を指で片方ずつ大きく開けると、中を覗き込んだ。
「…どうだ?」
「大丈夫…」
言うと、舞は指を離して顔を上げた。
「そっか…」
オレはホッと息をついて、そのまま廊下に目をやった。
「奴らは…?」
「一体、仕留めた」
「あの木刀でか」
舞は顔を横に振ると
「…途中からは剣に代えた」
途中から…ということは、オレが倒れていたのは、短い時間ではなかったらしい。
一体、どのくらい…
「…祐一…もう、来ないで。」
「……え?」
舞の言葉に、オレは体を起こそうとした。
でも、まだ回復しきっていない体は、オレの意思に反してオレの頭を舞の膝から床に転がしただけだった。
「…なに言ってるんだよっ」
オレは廊下に転がったまま、舞を見上げた。
舞は少し目を見開くと、オレの方に手を…
「………」
でも、手はそのまま舞の膝に戻る。
そして、舞はゆっくりと立ち上がった。
「…祐一…邪魔」
「おい、舞っ」
「…今日も、足を引っ張って」
「それは…」
あんなときに考え事をしていたオレが悪い。
確かにそうだ。でも…
「でもな、舞…」
「……来ないで。もう」
舞はオレの顔も見ないでそう言った。
窓から射し込む月明かりに、舞の横顔が見えた。
いつもの能面のような、無表情な…
「……舞っ」
「………」
「おい…」
「………」
オレはかろうじて床に手をつくと、上半身を起こした。
立っている舞を、睨むように…
「………」
舞はくるりと振り返ると、廊下を歩いていった。
月明かりに淡く、白く輝く廊下を、静かに向こうへと…
「……舞っ」
オレの声は静かな廊下に響いた。
微かにガラスを揺らして、廊下に響いていた。
でも、舞は振り返らずに廊下を歩いていった。
舞の姿は、廊下の闇に消えていった。

オレはその場で手をついたまま、その姿を見送った。

<to be continued>

-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…うーん…シナリオ書き換えって…楽なようで大変。
「…一から書いた方が大変でしょう。」
…そうでもないのよ。何よりも、省かないと長くなるという問題が…
「…長編書きだからでは?」
…違うってば(涙)ううっ、誤解だよぉ…
「…理解しているだけです…といって、したくはないのですけれど。」
…ひどい(涙)でも、しょうがないんだよね、注にも書いたように…これってそういう話だから。
「そういうとは…?」
…まあ…ぼちぼち。一言だけ言うなら、これは…佐祐理シナリオ版『Dream/Real』だってことで…あははは。これ以上言うと筋までばれる…
「…ということは、これは…例のチャレンジャーな、『あるべき佐祐理シナリオ』だと…」
…そこまでは言わないけどね…キチンと佐祐理シナリオを、舞シナリオと統合する…でも、ただそれだけの話。目新しい設定も、もっと大きな救いもない…そんな程度の話だよ。あははは…

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