望んだものは何ですか?

(Forget me, Forgive me / Original Side-1)


栞&あゆSS。ネタバレあり。

シリーズ:Forget me, Forgive me / Original Side

では、どうぞ

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アイスクリーム

たい焼き
雪だるま
天使の人形
お姉ちゃんと同じ高校
二人だけの学校
そして


あなた

キミ
 
そして
一緒に…
望んだものは何ですか? (Forget me, Forgive me / Original Side-1)
 

「やっぱり、今日は帰ります」

「…そうか」

「また明日です。祐一さん」

「またな」

「はい」

そして、赤い、紅い…
 

1月30日 土曜日
 

紅い空
紅い雲
公園も
噴水の水も
赤く染まっている。

公園のベンチ
わたしは一人座って
遠い落ちる夕日を
ぼんやり眺めている。

遠い
紅い
夕日はまるで
まるでわたしのよう。

もうすぐだね。
もうすぐ落ちてしまうから。
だけどあなたと違うのは
わたしはもう昇らない
二度とは昇らないこと。

わたしの中の疲れが
わたしの中の痺れが
昇ってくるのが分かる。
日に日に昇ってくるのが分かる。

大丈夫だろうか。
あと1日なのに。
わたしの夢の日々
もう一日だけなのに

祐一さんといる間
必死に頑張っているけれど
こうして別れた後には
もう立ってもいられない
そんな自分が分かるから。

わたしは夕日を眺めながら
わたしの中の死と共に
夕日を眺めながら
動く力を取り戻すため
夕日を見つめながら

ふと、視線を感じる。
誰かの視線を感じる。
でも、分かっている。
それが誰かということは。

この数日
いいえ、出会った時から
分かっている視線
分かっている思い。

だけど何も言わないから
わたしも何も言わない。
それにどうせもう一日
わたしに残された日々は
だから

「…栞ちゃん。」

わたしは振り返る。
分かっている顔を見るために。
そして、答える。

「…こんにちわ、あゆさん。」

わたしの挨拶に
答えないあゆさん。

当然かもしれない。
わたしはあなたの好きな人を
独り占めにしているから。

だけど、それももう…

「栞ちゃん。一つだけ、教えて。」

あゆさんの目。
真剣な目。
赤い夕日に照らされた
赤い瞳の真剣な顔

赤く染まった羽。
風にそよいではためいて
まるで羽ばたくように
消えてしまいそうに

何を考えているんだろう。
消えるのはわたしなのに。
もうすぐ消えるわたし。
残るのはあなた。

「なんですか、あゆさん。」

わたしは微笑む。
それしか
それだけしか
今のわたしの思いを
今のわたしの悔しさを
見せるすべなどないから。
健康なあなたに
見せるすべなんてないから。

「…栞ちゃん。」

あゆさんの瞳が
なぜか涙ぐんで
わたしを見つめる瞳が
涙に濡れて揺れながら

「今、キミは…幸せ?」

あゆさんの瞳に
わたしは黙ってうなずく。

わたしは幸せだから。
今、幸せだから。
今だけは幸せだから。
わたしの人生で
最初で最後の幸せ。

あゆさんは頷いて
そしてまたわたしを見て

「じゃあ、幸せでいる?」
「ずっと幸せでいる?」
「祐一くんをずっと」
「ずっと幸せにする?」

わたしはあゆさんの顔を見る。
黙って見るしかできない。
できるわけがない。

あゆさんの顔が
なぜか歪んで
なぜか消えそうに
歪んで
歪んで

「約束してよっ!」
「ボクに…」
「ボクに約束してっ!」
「そうじゃないと…」
「…そうじゃないと…ボク…」

わたしはあゆさんの顔を見て
黙って見ているだけ。
他に何ができる?

あゆさんの涙
赤く染まった涙が
頬を伝って落ちるのを
わたしは黙って見てるだけ。

だって、あなたの悲しみは
だって、あなたの悔しさは
今だけなんだもの。

明日でわたしの夢は
わたしの望みは終わりだから
後はあなたのものだから
わたしのものじゃないから。

わたしの命
わたしの夢の日々は
明日で終わり。

その後は、祐一さんを返すから。
あなたの元へ返すから。
それからの日々は
あなたのものなんだから。

泣きたいのは
泣いているのは
本当は
あなたじゃなくて

でも、言わない。
そんなことは言わない。
そんなことは言えない。
それだけが
その思いだけが
今のわたしを支えている
だから
それを無くしたら
わたしは
わたしは

わたしはあゆさんを見る。
そして、微笑む。

それくらいはいいでしょう?
わたしにない物を
わたしには持てない物を
わたしが望む物を
どんなにわたしが望んでも
わたしが手に入れられない物を
持っているあなたに

わたしの精いっぱいの
わたしの悲しさの
わたしの悔しさの
こもった微笑くらいは。

あゆさんはわたしを見ながら
その瞳の涙が
赤く、紅く染まった
涙が落ちて

「…ボクは…」

あゆさんの目が
わたしを見つめながら
けわしい瞳で
わたしを見つめながら

「…栞ちゃん…」

紅く染まった羽
風に揺れて
羽ばたくように
揺れる羽が

「…キミを…」

風が水を飛ばして
風が雪を飛ばして
わたしの目の端を
飛んでいくのが

「…許さないからっ!」

振り返る
駆け出す
あゆさんの背中
羽ばたく羽
羽ばたいて
羽ばたいて

わたしは座っていた。
座ってその背中を
その羽を
見ているだけだった。

なぜか消えそうな
なぜか悲しく見える
その羽を
その背中を

見ているしかなかった。

それしかできなかった。

それしかする気もなかった。

わたしは許されるはずもなく
わたしは許される気もなく
わたしは許す気もなく

わたしは許されないでしょう。
あなたは許さないでしょう。
だけどあなたにはできるから。
わたしを忘れることが。
消えたわたしのことを
あなたは忘れられるから。
消えたわたしのことを
消えないあなたは
消えない祐一さんに
忘れさせることができるから。

わたしはベンチに転がって
夕日をぼんやり見つめた。
もうほとんど落ちている
夕日をぼんやり見つめていた。

もう許しなんて要らない。
もう何も要らない。
あと一日。
それだけあればいいから。
それがどんなに罪でも
誰も許さなくても

わたしが望んでいるのは
今のわたしが望むのは

あと一日。
それだけを…

沈んだ夕日。
暗くなる空。
わたしは寝転んでいた。
寝転んでいた。

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…やめとこ。何か言うのは。全ては…もう言う気にならないよ。オレは酷い奴だ、それだけじゃん。言うべき事なんて。
「これがOriginal Sideですか?」
…だったの。書けたら、こう書くはずだった。書いてみたら…やっぱりこっちだって、結局はF,Fだよね…
「…何も言いません。」
…そうしてくれよ。
「次回F,F/OS第2回、『願ったことは何ですか?』予定は…」
…2日後。ただし、予定だよ。

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