『卒業』〜prologue
 

 こんにちわ。詐欺師です。
 ええまあ、誰が何と言おうとも(笑)
 えーっと、続き物で、あゆの話です。
 設定はひねくれております(^^;
 全五回を予定しておりますので、よろしければおつきあいください。
 
 
 

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 時が流れていた。
 季節だけが、その姿を変えていた。
 少しずつ溶けてなくなってゆく雪だけが、
 大地とともに顔を覗かせる小さな緑だけが、
 曖昧な月日の流れというものを、確かに感じさせてくれる。
 残酷なほどに。
 
 

     『卒業』〜prologue
 
 
 

   
 家の周りなどではまだちらほらと残っている雪も、商店街までくると
もうその姿を見ることはできない。
 七年前からずっと、白に包まれているのが当たり前だったこの街。
 今はまたどこか知らない街にいるような錯覚さえおぼえて、新鮮さと
ともに、どこか戸惑っている自分に気づく。
 変わりゆく季節とともに、歪み出す世界。
 自然とそれに従おうとする心がある。
 どうしても拒否する心がある。
 それは、「変わりたくない」という気持ち。
 「大人になりたくない」と願う子供のように…
 「子供の頃に戻りたい」と願う大人のように…
 「変わりたくない」という、純粋で、幼稚な願望。 
 それは、変わってしまうことを知っているから。
 平凡な日常の中で…
 気がつけば巡って行く季節の中で…
 人は、どうしても変わってしまうのを知っているから。
 だから、願う。
 だからこそ。
 「変わりたくない」と。
 「忘れたくない」と。
 彼女のぬくもりを。
 彼女の笑顔を。
 その優しさを。哀しみを。
 そして、彼女のことが本当に好きだったという、この思いを。
 「忘れたくない」
 そう、願う。
時を凍らせたい。
 心を凍らせたい。
 思いが、決してその形を変えないように。
 
 
 

「…さすがに、まだ人は少ないんだな…」
 俺は辺りを見回して、ポツリとつぶやく。
目の前にあるのは一つのベンチ。当然、座っている者などいない。
 雪解けとはいえ、まだまだ肌寒いこの時期。わざわざ外で人を待つような
物好きは少ないらしい。
「…ま、当然か」
 納得したように、どこかあきれたように、ため息とともに言葉をもらす。
「…当然だよな」
 もう一声。
「…………」
 そして、俺は黙り込む。
 誰もいないベンチを見つめて。
 
 

 あゆと最後に会ってから、すでに二ヶ月以上がたっていた。
 その間、あゆからは一度の連絡もない。
 商店街でも見ていない。
 俺からは、連絡する手立てすらない。
 そして、二ヶ月。
 …いまごろ、あいつはどうしてるんだろうか?
いまだにうぐうぐ言って、走り回ってるんだろうか?
 それとも…
 俺のことが…嫌いになったんだろうか…?
 

   『祐一君がボクのことを好きでいてくれるのなら、
    ボクはずっと祐一君のことを好きでいられるんだと思う…』
 

いつか聞いたあゆの言葉が、記憶の中で蘇える。
「なあ、あゆ…」
 誰もいないベンチに向かって…
「俺は、今でも…」
 あゆのいない世界に向かって…
「…今でも…」

 ……ふぅ……

 目を閉じて、大きく息を吐き出す。
 感傷すら強引に押し出すように。大きく。強く。
 そして、俺はそのまま背を向けて――

「今でも…なあに?」

……え?
 俺は静かに目を開けた。
「……まさか……」
 そこには、ずっと望んでいた光景があった。
 手を伸ばせば届くところに。
こぼれる息がかかってしまいそうなほど近くに。

「……祐一君」
 
 
 
 

 雪が溶けても、季節が巡っても、ずっと変わらない景色がある。
 それは、夕暮れの街並み。
 小さなベンチも…
 白い羽も…

 そして…
 
 

「……あゆ……」

 いま俺の前にある、儚げな笑顔すらも…
 すべてをオレンジに染め上げる、そんな景色が…
 
 

                            <つづく>
 

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 あらためまして。詐欺師です。
 舞台としては、1月27日に「学校」で「この場にとどまる」を選択した後の
バッドエンドの、そのさらに後(ややこしい…)です。
 祐一としては、あの場所が「学校」であることも、あゆが木から落ちたことも
知らないような状況です。
 それでは、えっと……続きます(^^;
 

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