『TRUE LIES』−5th
 

 詐欺師、です。
 ラストパート…
 『卒業』で、私が書けなかったあゆです。
 このシリーズは、迷惑でも(無理やり)LOTHさんに捧げます(ごめんなさい)
 それでは…どうぞ。
 

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     『TRUE LIES』‐5th
 
 
 

「…祐一君」

 あゆが、小さく声を漏らす。 
 俺の腕の中で。

「もう…行かなきゃ」

 すり抜けるように、その体が離れる。
 ぬくもりも。

「…お別れだね」

 そう言って、笑う。
 真っ赤になった目で。
 ぐしゃぐしゃの顔で。

「あはは。きっとボク、ひどい顔…」
「それはきっと…お互い様だ」
「…そうだね」

 そして、二人とも黙り込む。
 残されたわずかな時間、お互いの姿を、しっかりと焼きつけるように。

 そして、わずかに灯っていた残り火が…
 

「…それじゃあ、ボク、行くね」
「……ああ」

 どうしようもできないもどかしさ。
 何をする資格もない俺。
 …いや、資格とかも…
 そんなものも、きっとどうでもいい。
 大事なのはただ一つ。今のこの――
 

「…あ、そうだ」

 何かを思い出したように、あゆが手を叩く。

「お願い。もう一つ残ってたよね」
「……ああ」

 …あった。俺にも…
 できることが…

 それは、あゆからの贈り物だった。
 どうしようもない俺への、最後の。

「何でも…言ってくれ」
「ほんとに?」
「俺にできることなら、な」

 あゆが笑う。
 俺も笑う。
 でも、それは…

「じゃあ…ボクのお願いは…」
 

 あゆが、目を閉じる。
 永遠の一瞬。

 そして、少女は目を開いて――
 

「…名雪さんを、幸せにしてあげて下さい」

 あゆは笑っていた。
 俺の足元に落ちていた、小さな箱を指差して。

 ……あ…
 いつの間に…

 それは、名雪へのプレゼント。
 一ヶ月遅れの、バースデーケーキ。

「……俺は…」

 俺は何も言えずに、じっとあゆの顔を見つめていた。
 その願いなら、俺は叶えてやることができる。
 きっと、できる。
 でも…

 ……いいのか?

 言葉にできない思い。

 俺の見つめる先で、あゆの顔がみるみる歪んで――
 
 

「…祐一君!」

 ぶつかってくる小さな体。
 大きな思い。

「祐一君、祐一君…!」
 

「…ゴメンね。ボク、うそついちゃった…」

「…ああ」

「ほんとの、ボクの本当のお願いは…」

「……ああ…」
 

 あゆが、俺を見上げる。
 濡れた瞳。
 薄れてゆく瞳。
 

「…もう一度、ぎゅーって抱きしめて…」

「それだけで、いいから…」
 
 

「…おねがい…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 それが、あゆの最後の言葉だった。
 雪に溶けるように、あゆは消えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 それからのことは、よく憶えていない。
 気がつくと、自分のベッドに横になっていた。

 …あれ…?

「…あ、気がついた」

 すぐ近くから聞こえる少女の声。

 ……えっ…?

 あゆの笑顔が、かすかに見えた。
 でもそれも、すぐに名雪の心配そうな顔に変わる。

「…名雪…か?」

 間抜けな言葉。

「うん、私だよ。…どうしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっとな…」

 さっきまでの出来事が頭をよぎる。

 あれは…夢…だったのか…?

 眉をひそめる俺に、名雪はどこか照れたような声で言う。

「でも、どこまで行ってきたの?」
「…え?」
「誕生日プレゼント…ホントに買ってくれたんだね」

 その言葉に、俺は机の上を見る。
 そこにあったのは、汚れてあちこちがへこんだ、小さな箱…

「ありがとう。祐一」

 名雪が笑う。
 その影に…
 

 『祐一君っ』
 

 寂しそうに笑う少女の姿が…
 
 

「……祐一?」

 名雪の心配そうな声。

「…どうしたの?」

 …泣いている…
 俺は…泣いてるのか…

 俺は静かに体を起こした。
 涙を拭って、じっと名雪を見つめる。

「…祐一?」

「…名雪、聞いてほしい話があるんだ…」
 
 

「…とても…とても大事な話…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 雪が降っていた。
 闇の中で。
 誰にも知られずに。
 でも、それでも…

 『祐一君』

 思いは、静かに降り積もる…

 消えないかけらとなって、ずっと…
 

                                  <終>
 

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 あらためまして。詐欺師です。
 ぜんぜん予定通りいかなかった『TRUE LIES』、やっと完結しました。
 「泥くさい」あゆが書きたくて、ただそれだけで始めてしまった話。
 ちょっと前の、バカだった私のささやかな夢でした。

 冒頭にもあるように、このシリーズはLOTHさんに捧げます。

 …それでは、次は…「コンビニ」?(笑)

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ささやかなコメント by LOTH

同じく、わたしの掲示板での注目の作家、詐欺師さんに捧げていただいたものです。
なんか、注目している方に、それも二人に捧げていただけるなんて…本当は幸せ者かもしれません、わたしは。
この方とは…当時、まるで競作でもしているかのようにかぶりまくっていたのですが(苦笑)
特に、あゆはわたしも影響を受けてしまう美しいあゆを書いていました。
そして、そのうち『泥臭いあゆ』を書きたいと言っておられたのですが…わたしの『Dream/Real』とかぶりました(苦笑)
そこで、しょうがなくわたしに捧げる羽目になったと…そう理解しています。
なんて言うか…見事なかぶり方です。設定まで同じ、名雪シナリオだし…
でも、やっぱりこれは詐欺師さんのあゆで、わたしの『Dream/Real』と似てるけど違う話。
泣きながら消えていったあゆを…F,Fを書いていた最低の気持ちのわたしに、取り戻してくれました。
『Dream/Real』で消してしまって以来、久々にあゆを抱いて眠れる、そんな気がしました。
そして、F.F/FTでまたあゆを消せる…美しく。そんな気持ちにさせてくれました。

以来、やっぱりこの方とは書けばかぶる感じですが…
…頑張りましょう。それしか言えない(苦笑)
 


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