ChangeきゃすてぃんぐKANON-1月7日


違和感コメディChangeのバリエーション。

注:キャスティング以外でも、キャラは全体に壊れぎみです。各キャラに属性のある方は大いなる寛容の心でお読みくださるようお願いいたします。

では、どうぞ

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ChangeきゃすてぃんぐKANON-1月7日
 

1月 7日 木曜日
 

バタンッ!
遠くから、勢いよくドアの閉まるような音が響く。
そのまま、あたりはまた静かになった。
「………」
まだまだ深い眠気に包まれながら、どこか夢の続きのようにぼんやりと布団にくるまる。
「……」
今日はまだ冬休みだから、もっと寝ていてもいいはずだ…。
無意識にそう結論を出して、その考えを早速実行する。
目を閉じて、このままもう一度眠りの中に…
バタン!
「いつまで寝てるつもりなの、居候の分際で!」
「……え?」
声に、あわてて飛び起きると、ドアのところに制服をピシッと着こんだ香里…じゃない、名雪(香里)が立っていた。
「えっと…オレ、まだ冬休みじゃ…」
「なに言ってるの。居候にそんなもの、あるはずないでしょう。早く起きて、手伝いでもしたらどうなの?」
「…えっと…」
「…何か文句でも?」
名雪がオレをじろっとにらんだ。
「……ありません。」
オレはもちろん、愛想笑いで答えた。
「…ならいいわ。早く起きて、降りてきなさいよ。」
名雪は言うと、ドアを閉めた。
トントントン
階段を降りる音がした。
オレはふとんに起き上がったまま、どうしようかと考えて…
…寒い。
布団をさらに目深にかぶり、体をもうひとまわり丸めて体温を逃さないようにする。
それでも部屋の中に満たされた空気は冷たくて、眠気と体温を同時に奪っていく。
オレはふとんをあわててかぶると、部屋の中を見回した。
ここは…
昨日の記憶が蘇る。
「…そうだ。」
俺はカーテンを開け放った。
カシャッ!
不意に、真っ白な光が網膜に飛び込んでくる。
穏やかな朝の日差しと、目を閉じても瞼を突き抜けてくる銀色の光。
「寒いわけだよな…」
思わずそんな言葉が口をついて出る。
四角い窓の外には、一面の雪景色が広がっていた。
庭木の上も、向かいの屋根もその向こうも、視界に飛び込んでくるもの全てが、白一色に覆われていた。
吐き出した言葉も白く染まって、もやのように視界を遮る。
住み慣れた街と両親、そして友人に別れを告げて、俺はひとりこの街にやってきた。
やってきたと言うよりは、帰ってきたと言った方が正解かもしれない。
7年前までは、俺は確かにこの白く染まった光景を見ていた。
雪。
そして、7年ぶりに再会した、従姉妹の少女。
…のはずなんだけど…全然、記憶と違う気が…
確か、オレの記憶では、名雪は三つ編みの可愛い少女で…あんな目つきの悪い…
「誰が目つきが悪いんですって?」
…オレは恐る恐る後ろを振り返った。
そこに名雪が立っていた。
ウエーブのかかった長い髪が…メデューサの髪のように…
「…祐一、知ってる?今の季節、水をかぶって外に立ってると、数十分で凍死できるのよ。実験して…みたいでしょう?」
名雪がにっこり微笑んだ。
「…とんでもありません。今、下に降りようと思ったところです!」
「…ふ〜ん。ならいいんだけど。」
名雪は微笑んだまま、ゆっくりとドアを閉じた。
…はぅ
何か…違うよな…

オレが急いで着替えて階段を降りると、ちょうど名雪が朝シャンを終えてリビングに戻るところだった。
「…やっと起きてきたわね。」
あきれたように言う名雪。
「…すいません。」
触らぬ神に祟りなし。オレは謝っておくことにした。
「男なら、着替えは10秒あればできるはずよ。」
…誰か見たんかい!
というツッコミなど入れれるはずもなく、オレは愛想笑いを浮かべて名雪の後をついていった。
「…お母さん、ご飯ちょうだい。」
名雪が言いながらリビングへ。
オレも続いてリビングに入った。
そういえば、昨日、来た時も秋子さんはいなかったし、夜も遅かったから、まだ秋子さんの顔を見ていない。
秋子さんは…オレの記憶とは…違わない…よなあ…
「にゃ〜ん」
キッチンの奥から声、正確には鳴き声がした。
…まさか。まさか、そういうキャスティングなのかっ!?
それは…それだけは勘弁してくれ…
…一瞬、目の前に赤い、赤い世界が広がった。
永遠の世界…
オレは…
「…どうかしたのでしょうか、祐一さん。」
…人の声がした。
オレはあわてて現実に戻った。
そして…
「…天野?」
「…いえ、ここでは秋子です。」
…そう来たかっ!
そこには小さな少女…じゃない、大人…なんだよな…が立っていた。
「一応、公式データでは、わたしは真琴と同じ身長なのですが。」
「…それはオレが認めない。」
…って、そんな話してる場合じゃない。
「秋子さん…ですか?」
「そうですよ。」
秋子(天野)さんが、無表情にうなずいた。
「…なんで秋子さんなのに、学校の制服着てるんですか?」
「…いつか、DNML化された時のための伏線だそうですが。」
…そんなの期待するなっ!
「さあ、では、ご飯にしましょうか。」
秋子さんがそんなことには構わずに無表情にオレに言った。
「…はい。」
オレはテーブルに座った。
隣に名雪。
正面に秋子さん。
…なんか、とてつもなく嫌な布陣だな…
「…なにか?」
「…なによ。」
二人がなぜかオレを見た。
…その冷たい目はやめて…
「…いえ、なんでもないっす。」
…こいつら、絶対親子だよ。うん。
「…ちなみに言っておきますが、さっきから、思ってることが声に出てますよ。」
秋子さんがぼそっと言う。
…はぅ…
オレはあわてて目の前のトーストをかじった。
秋子さんは、そんなオレを無表情に見ると、ふと名雪に目をやって
「名雪。あなた、こんな時間にゆっくり食べていると、部活に遅れるのではないですか?」
「…部活なんて知らないわ。あたしは帰宅部よ。」
名雪が秋子さんの顔を見た。
「…部長だったはずですが。」
「…そうだったかしら。」
「設定はちゃんと守ってください。」
「お母さんに言われたくないわ。どう見ても、あたしの方が年上じゃない。」
「………」
「………」
…………
…10分経過。
って、Change本編じゃないんだから、そういう会話はやめてほしいぞ…
「…えっと、名雪。部活のあと、時間ある?」
オレはこの重苦しい雰囲気を打破すべく、話を変えようとした。
「…だから、部活なんか行かないってば。」
「…そんなわがままは許されないのですよ。」
「…嫌なものは嫌だから。」
「…そうですか。」
秋子さんは立ち上がると、キッチンに入っていった。
そして…
「…じゃあ、とりあえず、これを食べてみてください。」
大きなビンを抱えて、秋子さんが現われた。
…そのビンは…ひょっとして…
「…そ、それは…まだ出てこないはずよっ!」
動揺する名雪。
「…あなたがシナリオを守らないからです。では、名雪…」
秋子さんがにっこり笑って、名雪のトーストに手を伸ばすと、
「…そ、そうだったわね。今日は部活に行かないと。あ、あたしは部長だから。ああ、間に合わないわね。」
わざとらしく名雪は立ち上がると、一目散にリビングを飛び出した。
「…おい、名雪!オレの…」
「…あたしに物を頼もうなんて、10年早いわよ!」
遠くのほうで、声と共に、玄関のドアが閉まる音がした。
「…残念ですね。」
秋子さんがぼそりとつぶやくと、今度はオレの方を見た。
…やばい。
オレはあわてて逃げようとしたが、既にオレの前にはそのジャムが塗られたトーストが置かれていた。
「…えっと、オレ…片づけが…」
「まだ荷物は届いていませんが。」
「えっと…もうお腹がいっぱいで…」
「まだ2枚目です。」
「えっと…」
「大丈夫です。食べられないものは入っていません。」
…食べられりゃ、いいってもんじゃないです…
「いや、オレはジャムはアレルギーで…」
「ならよかった。これは、アレルギーにいいのですから。」
…ほんとか?本当にそうなのか?
オレは目の前のトーストを見た。その上の、不思議にオレンジ色のジャムを…
「…そうですか。食べられないと言うのですね。」
秋子さんが、すっと立ち上がると
「…今の季節、家を追い出されてしまうと、夜には…凍死は免れません。」
「…はい?」
「ですが…祐一さんは、どうか強くあってくださいね。」
秋子さんは横を向くと、感情を堪えるように言った。
…お前ら二人、絶対、親子だよ…
「…食べさせていただきます!」
「…そうですか。」
いきなり、秋子さんは振り向くと、椅子に座ってオレを見た。
「では、どうぞ。」
…悪魔…
オレは目をつぶると、一気にトーストをかじった。
そして…

バシッ!
「…いつまで寝てるのよ。まったく。」
いきなりの頬の痛み。
オレはあわてて目を開けた。
そこはリビングだった。
オレは…あの後、気を失って、そのまま眠っていたらしい。
「もうお昼、終ったわよ。」
オレの顔を叩いた手を痛そうに振りながら、名雪が言った。
「え?」
あわてて時計を見あげると、既に1時を過ぎていた。
「…オレの分は?」
「寝てる人に食べさせるご飯なんてないわね。」
…弱肉強食の世界らしかった…
「そういえば、宅急便が届いてたわ。」
「あ、やっと来たか。」
これで殺風景な部屋とはおさらばか…
「…邪魔だったから、外に放りだしといたけど。」
「…何でそんなことするんだよっ!」
「だから、邪魔だからって言ったでしょう?耳、ないの?」
名雪があきれたようにオレを見た。
「…そうじゃなくて…」
「早く取ってこないと、除雪車に持っていかれるかもね。」
「それを早く言えっ!」
オレはあわててリビングを出てようとしたが、ふと、一縷の望みをもって振り返った。
「…あの…名雪?」
「何よ。」
名雪が面倒そうに振り返った。
「…片づけの手伝いなんか、してくれない…よな?」
「…誰が?」
「名雪が。」
「どうして?」
「どうしてって…従姉妹だし。」
「…あたしに従兄弟なんていないわ。」
…そうくるかっ!
オレはもう一度だけ、望みを託して秋子さんを見た。
「…頑張ってください。」
秋子さんは大きくうなずいた。
…はぅ
オレは肩を落として、そのままリビングを出た。
外に出てみると、道までオレの荷物の段ボール箱が散らばっていた。
…ここまで手間かけて外に出すくらいなら、部屋に運んでくれよ、名雪…

オレは一人でなんとか段ボール箱を全て部屋に運んで、疲れ切ってリビングに行った。
「…終ったの?」
テレビを見ながら名雪が、オレの方を見もしないで聞いてきた。
「…なんとか。」
「…ふ〜ん。」
「…ご苦労様です。」
いつの間にか後ろに立っていた秋子さんが、手にしたティーカップをオレに渡した。
「あ、ありがとうございます。」
それは紅茶のようだった。かすかに、それ以外の甘い香りがした。
「…なんか、いい匂いがするお茶ですね。」
オレはソファーに座ると、お茶の匂いをかいで、
「なんというお茶なんですか?」
「…ただの紅茶です。ただ、ロシアンティーにしましたが。」
「ロシアンティーですか…」
オレは紅茶に口をつけようと…
…ロシアンティー?
紅茶に…ジャムじゃなかったっけ…
オレが手を止めて見ると、二人はオレをまじまじと見ていた。
…オレはティーカップを置いた。
…危なすぎ。
「そ、そういえば、この家も7年ぶりなんですよね。」
オレは話を変えるべく、天井を見ながら言った。
「…ちっ」
かすかに名雪の舌打ちが聞こえた。
「…そうですね。」
秋子さんは無表情なまま
「年賀状も毎年出していたのですが、祐一さんからは返事が来ませんでしたね。」
「そうでしたっけ?」
オレは毎年の年賀状を思い出してみた。名雪や秋子さんからの年賀状…
…覚えがなかった。
「…来てなかった気がしますが。」
「…あきれたわね。」
名雪が顔をしかめると、
「毎年、あたしも出したわよ。」
「…どんなやつ?」
「ちゃんと官製年賀はがきで。」
「…なんて書いて?」
「…めんどくさいから、絵入りのやつをそのままよ。」
…そういえば、宛て名だけしかない真っ白な年賀状、毎年1枚来てたな…
「…あれ、名雪だったのか?」
「そうよ。気付かなかったの?酷いわね…」
…気付くかっ!
「じゃ、じゃあ秋子さんは?」
「わたしですか?わたしは…」
秋子さんは首をちょっと傾げると、
「毎年、凝ったものを出していたのですが。」
「へえ…どんなやつですか?」
「文面に凝っていまして…」
「……どんな?」
「毎年、ちょっと趣向を変えて…『お前の家に爆弾を仕掛けた』とか…『この手紙は不幸の手紙です』とか…『おめでとうございます!あなたは当社の1万人アンケートに当選いたしました!』とか…」
…そういえば、そんな変なハガキ、毎年1枚来てたよな…
って、あんたら、いったい…
…オレは二人の顔を見た。
二人は、怪訝そうにオレを見返した。
…お前ら、確かに…はぅ
「…まあ、そんな無駄な話はやめにしましょう。そろそろ、夕食の準備をしますから。」
何もなかったように、秋子さんが立ち上がった。
「…頑張ってね。」
名雪がテレビから目も離さずに言う。
「夕食の準備、しますから。」
言いながら、秋子さんがテレビの前に立って、香里の視線の邪魔をする。
「…頑張ってね。」
名雪は無視してテレビを見ようとする。
「夕食の準備、しますから。」
「…頑張ってね。」
「………」
「………」
………
10分経過。
…て、そのネタ、止めい!
「…秋子さん、オレ…買い物だったら、行きますけど。」
オレはその場の雰囲気に耐えられずに言ってみた。
「…行っていただけますか?」
秋子さんがオレを見た。
「はい。なに買ってくればいいんでしょうか?」
「そうですね…ロールキャベツを作ろうと思うのですが。」
「ロールキャベツ…材料を買ってくればいいですか?」
「そうしていただけると。」
「はい。」
オレは立ち上がった。
「…行ってらっしゃい。」
名雪はまだテレビを見ながらオレに手を振った。
「…ちなみに…」
そんな名雪をちらっと見て、秋子さんはにっこり笑うと、
「お手伝いをしない人の食事は、ジャムづくしになるのですが。ジャムご飯に、ジャムの照り焼き、ジャムみそ汁、ジャム…」
「…行ってくるわ、お母さん。」
名雪があわてて立ち上がると、オレをどけて玄関に向かった。
「…行ってきます。」
オレもあわてて後を追うと、
「…行ってらっしゃい。」
秋子さんが笑顔のままでオレたちに手を振っていた。

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「…寒いわね。」
もう何度目か、名雪(香里)が言った。
「…オレよりは寒くないと思うけど。」
オレは死にそうになりながら、名雪に振り返った。
「あなたが寒くても、あたしには関係ないわ。」
…オレのコートまで取り上げて着て、オレの後ろで風から隠れてる奴のセリフか、それが…
「…何か文句あるの?」
名雪がオレをまじまじと見た。
「…何でもありません。」
…なんて、言えるわけないよな。はぅ…
オレはため息をついて、あたりを見回した。
あたりは一面の雪景色。
幼い日、おそらくは通ったことがあるであろう雪景色は、今ではほとんど知らない風景だった。
「…名雪。この辺りって昔と変わったか?」
「全然。だから、回想シーンでも同じ絵じゃないの。」
…いや、それはいろいろ都合があるんだと思うぞ…
「そういえば、あの頃は祐一、わたしをいつも背負って運んでくれたわね。」
「…へ?」
「商店街までお遣いっていうと、いつもやってくれたわよ。」
「…そうだっけ?」
オレは記憶の底を探ってみた。
…確か…いつも家を出て…じゃんけんをして…いつも負けて…
「…あれ、罰ゲームじゃなかったっけ?」
「そうよ。祐一がいつも負けたから。祐一、知ってた?あなた、いつもここぞ、っという時にはちょきを出すのよ。」
「…そうだったのか…」
そういえば、こいつと何かの取り合いになると、いつもオレ、じゃんけんで負けてたよな…お菓子の取り合い…夕食のおかずの奪い合い…お遣いの時のおんぶ…猛犬からボールを取りに行く時…川に落ちたこいつのおもちゃを取りに泳いだ時…疲れて帰った時のマッサージ…
…何か、涙出てきたぞ、オレ…
「…今度も、やりましょうか。」
「…嫌だ。」
オレは言下に断った。
「…そう…」
名雪はオレの顔をみて、氷の微笑を浮かべた。
「…ねえ、祐一。冬の川ってね…表面は凍ってるけど…下は水なのよ…落ちたら、足場がないから上がれないし…何分持つかしらね…」
「…やらせていただきます!」
「…それでいいのよ。」
名雪はにっこり、微笑んだ。
「じゃあ、いきましょう。」
「おう。」
オレは作戦を練った。
…昔のオレは、いつもちょきで負けていた。だから、今度も名雪はグーを出すに違いない。だからオレがパーを出せば…
…いや、さっき、ネタをばらした名雪のことだ。そこまで計算しているに違いない。とすると、オレがパーを出すとみてちょきを出すから…
…いやいや、名雪がそんな甘い奴とは思えない。その裏をかいて、オレがそこまで読んで、著着にたいしてオレがグーを出すと読んで、パーを出す。そうだ、そうに違いないっ!
…とすると、オレの手は…
「じゃんけん」
「ぽん」
オレ:ちょき
名雪:グー
………
「…馬鹿じゃないの、あなた。」
「…はぅ。」
…裏の裏は表…
「…さ、おぶりなさい。」
名雪はオレを見下ろすようにして言った。
オレは名雪をみながら…
…まあ、その…ひょっとしたら、役得もある…けど…商店街までは…まだ200メートル以上…
「…途中交代は?」
「あるわけないでしょ。」
…オレは名雪の顔を見た。そして…
「…じゃあな!」
オレは振り返ると、一目散に商店街へと駆け出した。
「…あ、卑怯者!逃げるなっ!」
名雪の声が聞こえたが、オレは振り向かずに駆けて行った。

「…ふう、何とかまいたか。」
オレは商店街の角で、ようやく足を止めた。
後ろからの名雪の声も、もう聞こえない。
息を静めながら、オレはあたりを見回した。
所々に雪の残る商店街の通りを、買い物帰りの人が思い思いの方向へ歩いていく。
陽がゆっくりと傾いて、落ちる影が石畳に伸びる。
7年前にも、この景色を俺は見ていたんだろうか。
記憶の奥底にある、雪の思い出。
目を閉じてゆっくりと記憶を掘り起こす。
白い雪。
街並み。
後ろに置いてきた従姉妹の少女。
そして…
「…はあ。ここで、行くのですね。」
…後ろのほうで、何やら深呼吸している気配。
「…えっと…セリフは…」
…何か、聞いたことがあるような…声。
「…どいて、どいて…下さい。」
オレは声に従って、とりあえず横にどいてみた。
すたすたすた
「…あ、どうもありがとうございます。」
人影が、オレを追い抜いて、2、3歩。
「…あら。そうじゃないのよね。」
やんわりと言って、振り返った、その人は、紙袋を片手に抱えて、にこにこ微笑んでいる…
「…秋子さん?」
「あら、違いますよ。ここでは、あゆです。」
…そういうキャスティングなのか?ホントに…
「…あゆ、ですか?」
「はい。」
言って、あゆ(秋子さん)はにっこり微笑んだ。
「…ダッフルコートは?鞄は?羽はどうしたんですか?」
「…大きさが合わなかったので…」
…合うわけないって。相手は…小学生だし。
「…本当に、このままやるんですか?」
「というか、ここではそうなのですからしょうがないですね。」
「…そうなんですか…」
…とすると…
「…あゆ、逃げてるんですか?」
「はい。そういうことになりますね。」
あゆはおっとりとした口調のまま、オレの質問に答えた。
「…そうは見えませんが。」
「そうですね…」
あゆはちょっと首をかしげると
「…でも、このたい焼きを買って、お金、置いてきませんでしたから…」
「…どうしてそんなことを?」
「…シナリオですから。」
秋子さんはにっこり微笑むと、ちょっと顔を曇らせて
「でも、食い逃げはいけませんね。」
…あなたがしたんですけど…
「…じゃあ、逃げずにお金を払えばいいでしょう。」
オレが言うと、あゆはにっこり微笑んだまま
「あら。財布を忘れてきたものですから…でも、大丈夫です。」
「…何が、ですか?」
「だって…」
あゆはとっておきの笑みを浮かべると
「…ちゃんと警察にも通報しておきましたから。」
「…は?」
オレはあたりを見回した。
…いつの間にか、オレ達は警官に囲まれていた。
「…あゆ…」
「…まあ。さすがに日本の警察は素早いですね。」
おっとりと言うあゆ。
…オレは知らんぞ…関りたくない…
見ていると、その中から一人の警官が近寄ってきた。
そして
「…ちょっと、署まで来てもらおうか。」
言いながら…
オレの手を掴んだ。
「…オ、オレ?」
…なぜ?
呆然と顔を見るオレに、警官が手錠を掛けながら
「食い逃げ犯がいるという通報があったんだ。身なりのあまりよくない、高校生くらいの男性…お前にぴったりじゃないか。」
「へ?」
オレはあゆに振り向いた。
あゆはにっこり笑うと、警官に言った。
「はい。その人です。このたい焼きの紙袋がその証拠です。証拠隠しにわたしにくれたらしいですわ…そうですよね、たい焼きやのおじさん?」
いつの間にかやじうまの中にいたおっさんが、あゆの笑い顔と、その声の目に見えない迫力に押されてうなずいた。
「…よし、連行しろ。」
「え?」
オレはやっと事態を把握した。
「…ちょ、ちょっと待ってください!」
「…いいから。話は署で聞く。」
「あ、えっと…お金、そう、お金、払いますよ。だったら、いいでしょう?」
「…お金を払う?持っているのか?」
「持ってます!だから…」
オレは手錠の掛かってない左手で、ポケットの財布を探り…
「…まったく、油断も隙もないわね。」
…いつの間にか隣に立っていた名雪が、オレの財布を持っていた。
「これは今日の買い物の代金よ。それを持ってって使おうなんて…あなた、泥棒ね。」
「…へ?」
「そうか。食い逃げだけじゃなく、窃盗もしていたのか。」
警官は大きくうなずくと、オレの左手にも手錠を掛けた。
「では、連行します…皆様のご協力に感謝します。」
「…はい。」
「…いえいえ、市民の勤めですもの。」
にこにこ笑う…名雪とあゆ。
オレは…
「…そのたい焼きについては、通報していただいたお礼として、あなたにさしあげましょう。それでいいな、たい焼き屋。」
「はい。もちろん。」
…そうして、にこにこしながらたい焼きをほおばるあゆと
財布を持って意気揚々と買い物にいくな雪を残して
オレは…
「…オレは無実だ〜〜〜〜〜〜」
「…話は署で聞いてやる。さ、早く来い。」
「…なぜだ〜〜〜〜〜」
…オレの声は、虚しく商店街に響いた。

オレが警察署を出られたのは、秋子さん(天野)が保証人になってくれたからだった…
…みんなが夕食を食べ終えてから。
前科一犯…夕食抜き。
オレは一体…これからどうなるんだ?
しくしくしく

<to be continued>
-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…とりあえず、1月7日終了。なんか…Change本編と違って思うようにキャラを壊せて面白いよね。
「Changeは違和感だけを求めて、壊れは極力抑えていますからね。」
…さ、このキャスティング、どんなもんでしょ。
「読者の判定、ですね。読む人がいたら、ですけど。」
…はぅ…最近、書いたほのぼの2本にコメント合わせても3つ…昔に戻ったみたいだな(苦笑)
「もともと、そうでした。そんなものです。」
…別に拗ねてないよ。もう…いいんだ。さ、今度はChange本編だっ!これと交互に書いたら、みんな、混乱するだろうな(笑)
「あなたは…混乱しないのですね。」
…もうみんな、オレのキャラみたいもんだから。はっはっはっ。

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