ChangeきゃすてぃんぐKANON-1月8日


違和感コメディChangeのバリエーション。

注1:キャラは全体に壊れぎみです。各キャラに属性のある方は大いなる寛容の心でお読みくださるようお願いいたします。
注2:基本的に役名で進んでいますので、時折、本来が誰だったかを確認しないとよくわからなくなることがあると思いますが、それは作者の意図ですので、申し訳ありませんが頑張ってお読みください。(ほんとは本来の名前でやってもよかったんだけど…Changeの名前を冠してしまったのでしょうがないっす <をい)

現在まで判明しているキャスティング
・名雪役---香里
・秋子さん役---天野
・あゆ役---秋子さん

では、どうぞ。

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ChangeきゃすてぃんぐKANON-1月8日
 

1月 8日 金曜日
 

…朝。
結局、オレはよく眠れずに、朝を迎えていた。
まくら元を見上げる。
目覚まし時計…
…あったっけ、こんなの?確か、昨日の朝には何もなかったし…荷物の中にも入ってなかったし…チクタクチクタクって、今時、いう時計なんて…ないよな…
…て?
オレはふとんから跳ね起きた。
目覚ましが鳴るまで…あと1分。
オレはカーテンを開けると窓を開け、目覚まし時計を放り投げた。
目覚まし時計は放物線を描き、真っ白な雪景色の中、水瀬家の中庭に落ちていって…
バキッ
「…なんで捨てるのよ!」
…痛い。後頭部が…
オレは頭を抱えて、その場に座り込むと、振り返った。
「…痛いってばよ!」
「…あたしがせっかく、あなたのために用意してあげた目覚まし時計をあなたが捨てるからでしょうが。」
そこには名雪(香里)が立っていた。既にしっかり制服を着込み、手を腰にやってオレをにらんでいた。オレを殴るために持ってきたとおぼしきぬいぐるみのけろぴーが、オレの後ろに転がっていた。
オレはそのぬいぐるみを掴んで
「だって…」
…持ちあがらないんすけど。
これ…鉛入り?
「…お前…こんなので殴ったら、下手したらオレ、死んでたぞ!」
オレが噛みつくと、名雪はちょっと肩をすくめて
「大丈夫よ。」
「なんでだよっ!」
「だって…これ、ギャグですもの。」
…コメディ、なんですけど…
「だから、死んだりしないわよ、絶対。」
「…だからって、時限爆弾で起こそうとするなっ!」
「…酷いわっ!」
ふいに名雪が顔を手でおおうと、思いっきり首を振りながら
「あたしが時限爆弾を仕掛けたなんて…せっかく、祐一が起きられるように、目覚まし時計を置いておいたのに…爆弾だなんて…酷い、酷すぎる!」
「…えっと…」
…さすがに、時限爆弾は考え過ぎだったか。まさか、そこまでするわけは…
オレは名雪の肩に手をやると、にっこりと笑ってみせて、そして
「…ごめん、名雪。オレが…」
ドカ〜〜〜〜〜〜ン
…白い雪けむりとともに、爆発音が水瀬家を揺らした。
…窓から外を見ると、庭に直径1メートルの穴があいていた。結構、深い…
「…じゃ、起きたなら、支度して朝ご飯に行きなさいよ。」
何事もなかったように、名雪は部屋を出ていった。
オレは…
…命、いつまで保つんだろうか…

オレが階下におりてみると、既に名雪はダイニングのテーブルについていた。
「…遅いわね。」
…なんか、このセリフにも慣れたよな…
「今日は12秒で着替えたぞ。」
「…あと2秒。根性が足りないわね。」
…そんなとこに根性使いたくないぞ…
「おはようございます。」
その時、キッチンから秋子さん(天野)が顔を出した。
「あ、おはようございます。」
「朝食、トーストと…ポタージュスープですが、いいでしょうか?」
「はい、もちろん。」
「では。」
秋子さんはキッチンに引っ込むと、皿を持って現れた。
「…どうぞ。」
「いただきます。」
オレはスープに口をつけた。
…うまい。これは…インスタントじゃないぞ。
「…秋子さん。これ、手作りですね?」
オレが秋子さんをみると、秋子さんはちょっと笑みを浮かべて
「はい。できたてがおいしいと思いますので。」
「…年寄りは朝が早いから、暇があるものね。」
名雪の言葉に、秋子さんは名雪を見た。
「…誰が年寄りなのでしょうか。」
「お母さん以外に誰がいるのよ。」
名雪はそこでちょっと言葉を切ると、にこりと微笑んで、
「あ、ごめんなさい。年よりだなんて。あたしが言い過ぎたわ。」
「…ええ。それは…」
「…おばさん、だったわね。」
がたっ
…秋子さんが手を突いているテーブルが揺れた。
「…名雪。あなた、レズっていう噂ですね。」
「…な…」
「それも…ロリコン系」
がたっ
名雪がテーブルを掴んで立ちあがった。
そして、二人はそのまま、お互いをじっとにらんで…
………
10分経過。
…この家、オレが来る前に…多分、流血の惨事が一度や二度ではなかったに違いない…
「…時間、いいのか。名雪。」
とりあえず、オレは凍っている名雪に声をかけた。
「…良くはないわよ。」
名雪はオレの方も見ずに答えて
「ただ…今日こそ、この決着をつけてからよっ!」
「…望むところですね。」
…二人の間で火花が散った。
「…あの…一緒にいかないと、学校、行けないんですけど…」
オレが再度言うと、名雪はやっとオレの方を向いた。
「…そんなの、歩いていけば行き着くわよ。」
「…そんな無茶な…」
「大丈夫。この作者の話なら、そうに決まってるんだから。」
(…それは以前の舞のお話です。第一、コメディではありません。)
「いや、でもな…」
「…うるさいわねっ!」
ふいに名雪がオレの右腕を取り
「…本当に…」
秋子さんがオレの左腕を取って
「…黙って」
「…いなさい!」
ドン!
…そのまま、オレはダブルで蹴られ、リビングを越えて廊下の壁に吹き飛んだ。
「…ぐは。」
目の前が真っ暗になる。
それでも、何とか目を開けると…
「…まったく…」
「…うるさいですね。」
二人は手をはたくと、顔を見合わせて微笑んでいた。
…お前ら、仲がいいのか悪いのか、どっちなんだよ…

「行ってくるわ。」
「はい。行ってらっしゃい。」
にこにこしながら秋子さん手を振って、名雪は玄関を飛び出した。
「…行ってきます。」
オレは痛む背中を押さえながら、名雪の後を追って玄関を飛び出す。
「…寒っ」
目の前に広がる銀世界。
夜の内に降ったらしくて、その雪は名雪の足跡しかついていなかった。
寒い。コートを着ていても直接体に突き刺さるような…
そんな今まで当たり前のように寒いといっていた冬とは全く違う、異質の寒さだった。
「これから毎日こんな極寒の中を歩くのか…」
転校初日から気分が滅入る。
「…何をバカなこと言ってるの。」
そんなオレの前に、名雪があきれた顔で立っていた。
手には何やら、赤い…ソリ?
「あなたは歩くんじゃないわよ。」
「…じゃあ、なんだよ。」
「ソリを引くの。」
「…は?」
オレは名雪の顔を見た。
…名雪の顔は、マジだった。
「…何でオレがソリを?」
「下僕の勤めよ。あたしを乗せて、引きなさい。」
「誰が下僕?」
「祐一。」
…オレはもう一度、名雪の顔を見た。
じっと見た。
「…冗談よ。」
「だったら、その鞭はなんだっ!」
「…あら。」
名雪はあわてて鞭を後ろ手にすると、
「さ、急がないと、遅れるわよ。」
「…ソリも置いてけよ。」
「ああ、そうね。」
名雪はいかにも惜しそうにソリを置いて
「じゃ、行くわよ。」
「…鞭も置けよ…」
「ぐずぐず言わないの。走らないと、遅れるわよ。」
言うと、名雪は走り出した。
「待てよ。オレ、学校の場所、知らないんだから。」
オレは後を追って駆けだす。
「…何で知らないのよ。」
名雪が走りながらオレを見る。
「…なんでって…昔は行かなかったし。」
「昔、行かなかったって、きっと覚えがあるはずよ。使えない男ね、祐一は。」
「…別に使えなくてもいいけど。使えたら、何かいいことあるのか?」
「…あたしの下僕になれるわよ。」
オレは走る名雪の顔を見た。
…どう見ても、冗談には見えないぞ…
「…あ、大変よ、祐一。」
ふいに、名雪が立ち止まった。
オレはぶつかりそうになり、
「…なんだよ、一体。」
「…猫ね。」
名雪の目線を見ると…猫が一匹、凍った川の上で、行き場を失って鳴いていた。
「ああ、氷の上を歩いてて、動けなくなったんだな。」
「…そうね。」
見ると、名雪の目が大きく見開いて、らんらんと輝いていた。
…そういえば、名雪って…猫が…
「…天誅!」
いきなり、名雪が道の石を拾うと、川に向かって投げ出した。
「…ま、待てよ!」
「うるさいわね!あたしはね、猫を見ると…虫酸が走るのよ!ちょうどいい機会よ。このままあの猫、川に沈めてぶっ殺す!あーっはっはっはっは…」
次々に石を投げこむ名雪。
道行く人々があっけにとられてそれを見ていた。
「…ばかやろう、行くぞ!」
オレは名雪を羽交い締めにすると、そのままずるずる引きずった。
「離しなさいよ!あの畜生、ぶっ殺してやるのよ〜〜〜〜〜」
顔を真っ赤にしながら、名雪が暴れている。それを羽交い締めにして引きずっていくオレ。
…はぅ。また警察が来そうだ…

「…いいから、離しなさい。もう、離しなさいってばっ!」
川からずいぶん離れたところで、オレは名雪の体を離した。
「…余計なことを…」
名雪はオレを冷たい目でにらむと、制服の乱れを直しながら
「あのまま殺させてくれれば、あたしの気が晴れたのに…」
…お前の気が晴れても、猫は浮かばれないだろうがっ。
「…時間、もうないからな。」
「大丈夫よ。」
名雪はすっかり制服を直して、正面を指差した。
「あれが学校だから。」
…結構、近くだった。
それは、想像していたよりも大きな建物だった。
校門まで、オレはゆっくり歩いていった。
「…これがオレの通う学校か…」
「…どうせ、すぐに退学になるでしょうけど。」
…なってたまるかっ!
オレは名雪に振り返った。
そうしている間にも、俺たちの横をたくさんの人が通り過ぎていく。
名雪や俺と同じ制服姿の生徒たち。
よく見てみると、女の子の制服は3種類あるようだった。
青いリボンと緑のリボン、そして名雪と同じ赤いリボン。
もしかすると、学年ごとに色が別れているのかもしれない。
となると、赤いリボンの生徒は俺や名雪と同じ2年の生徒ということになる。
「あははははーっ、名雪っ!おはようございまーす!」
ドン!
妙に明るい声と共に、オレの背中を叩く奴。
…背中、痛いんだってば…
「…オレが名雪に見えるのかっ!」
オレはそちらに振り向いた。
「あははははーっ、香里、間違えちゃいましたーっ」
名雪と同じ赤いリボン。
屈託なく笑うその女の子は…
「…佐祐理さん?」
「いいえっ。ここでは、香里ですーっ。初めましてー」
…そういうキャスティングかっ!
「何でこんな奴と間違えるのよ、香里。」
名雪が本気で怒った顔で
「香里、あんた、目、おかしいんじゃないの?」
「あははははーっ、香里はただのバカな女の子ですからーっ」
…ほんとに…バカ?
「…あんたもあいかわらずね。」
名雪がふっと微笑んで
「あいかわらずね。」
「あははははーっ、そんな、すぐには変わりませんよー」
「それはそうね。3日前にあったばかりだし。」
「面白い映画でしたねー、頭がこう、ぴゅーって飛んで、血がどばーっと…」
…何か、こんなとこで大声でやる会話じゃないような…
「…あの…」
オレはともかく、会話に割り込もうとした。
「あ、あなたはさっきの。」
香里(佐祐理さん)が気がついて、オレの方に振り返った。
「初めましてー、美坂香里ですー」
「オレは相沢祐一。香里って…呼んでもいいかな?」
「もちろんですよー。もしなんなら、かおりんって呼んでもいいですけどー」
…別に呼びたくねーって。
「…じゃ、香里って呼ぶよ。オレのことは、祐一でいいから。」
「はいっ!でも、相沢さんと呼ぶようにって。」
「…誰かに言われてるの?」
「いえ。シナリオで決まってますからー」
香里は言ってにっこり笑うと、名雪の方に向き直った。
「で、この人、誰ですかー?」
ずさっ
…確かに、名雪の足が一瞬、数センチ滑ったのが見えた。
「…電話で話したじゃない。あたしの下僕。」
「あー、そうでしたねーっ」
…下僕じゃねーって。
「いや、従兄弟なんだけど…」
オレがあわてて訂正すると、香里はオレに向き直って
「はい。そう聞いてますよー」
…じゃあ、さっきの『そうでしたねー』は何なんだよ…
「わたし、香里と同じクラスなの。」
名雪が香里を見ながら、ニコニコ笑って言った。
「…ま、あんたは別なクラスになるよう、祈ってるわ。」
「…オレもだよ。」
「そんなこと、ないと思いますよー」
香里がにこにこしながら口を挟んで
「きっと、3人、同じクラスになりますよー」
「…何で分かるのよ。」
名雪が香里の顔を見た。
香里はにっこり微笑んだまま、
「だって、学園物はそういう安易なご都合主義でシナリオが進むに決まってますからねーっ」
…今、何人のSS作家がギクっとしたと思ってるんだ、香里…
「…そうかな。」
「そうに決まってますよー」
「…それは嫌ね…」
ほんとに嫌そうな名雪。そして、同時にチャイムの音が冬の校舎に鳴り響く。
「…予鈴ね」
「走った方がいいですねー。石橋とどっちが早いか勝負ですーっ」
8時半の担任との戦いは、どこの学校でも同じらしい。
「で、相沢さんはどうするんですか?」
「オレは、とりあえず職員室に行ってみるつもりだ」
「…辿り着けたらね。」
「…そうですねーっ。」
…この学校はダンジョンなのか?
詳細を聞く前に、二人は昇降口に消えた。
まず職員室に行って…。
「…職員室?」
すでに、周りに生徒の姿はなかった。
「…どこにあるんだろうな、職員室…」
ひとつ大きなため息をついて、俺も昇降口の中に入っていった。
職員室には…途中にダンジョンもなく、魔物とエンカウントすることもなく、飛翔の呪文にお世話にならずに、なんとか辿り着くことができた。
…なんか、物足りないような。
すぐの先生に、手短に用件だけ伝える。
それでなくても職員室という場所は必要以上に緊張するのに、知らない学校の職員室だとなおさらだ。
やがてひとりの先生が俺に近づいてくる。
そして、その恰幅のいい先生に案内されて、俺は2階にある教室に連れていかれた。
「あー、全員席に着けー」
教室のドアを開けて、まず一声。
バタバタと生徒が自分の席に戻っていく。
「今日は転校生を紹介する」
その言葉に、おおっ!と教室がざわめく。
「ちなみに、男だ」
すると、おおおっ!と余計に教室がざわめいた。
…なぜ?
「あ、静まれ、静まれ。…相沢祐一君だ」
クラス中の注目が集まっているのが分かった。
教室の中は、当然のように知らない顔ばかり…
転校なんてするもんじゃない…
…いや、絶対にするもんじゃない。こんなことなら…
オレは今、心からそう思う。それは…
…窓際の後ろの方の席に、見覚えのある顔がふたつ並んでいた。
「…相沢くんー」
嬉しそうに手を振っている…今朝会ったばかりの少女。
「……」
他人のふりで窓の外を見ている従姉妹の少女。
「あー、じゃあ、自己紹介して」
担任がせっついた。
「…相沢祐一です。よろしくお願いします」
オレは無難に挨拶をすませた。
「あー、君はそこのあいてる席に座って」
短いとか、簡単だとか言わずに担任が空いた席を指差した。
それは一番窓側の後ろの方の席で…
「…相沢くん、やっぱり同じクラスでしたね。」
「…悪魔が働いてるのね。」
「いいえーっ、ご都合主義ですよーっ」
…だから、何人のSS作家が傷つくと…
そこは名雪の隣で、香里の斜め前だった。
…逆じゃなくてよかった。逆だったら…後ろから名雪に何をされるか、分かったもんじゃない。
「…別に、何もしやしないわよ。ちょっと、背中を刺すくらいで。」
名雪がぼそっとつぶやいた。
…なぜ考えてることがわかるんだ…
「…相沢くん、口に出してますよーっ」
香里がにこにこして言った。
…はぅ…

HRが終り、今日の予定は全て終った。
どうやら、もう放課後だった。
「普通の自己紹介だったですねー」
香里がちょっとがっかりと言った様子で近寄ってきた。
「…悪かったな。」
「そうね。面白くも何ともない、無駄な挨拶だったわね。」
名雪がうなずきながら言う。
オレはちょっとむっとした。
「じゃあ、何か?『はじめましてー、相沢祐一でーっす。ゆーぴょんと呼んでくださいねーっ』とでも言えばよかったとでも言うのかっ!」
「…はえー…どうして香里の今年の初めの自己紹介を知ってるんですか?」
香里がびっくりした顔でオレを見た。
…マジか?マジで…やったのか、こんなことを?
オレは香里の顔を見た。
…やるな、この人なら。
などとやっているうちに、ひとり、またひとりと鞄を持って教室を出ていった。
「…じゃ、解散だな。」
「そうね。あたしは…部活があるし。」
「香里も部活ですねー」
香里が真っ先に立ち上がった。
「香里、今日も部活?」
「いいえー。部室には寄りますけど、そのまますぐに帰りますー」
「あたしは…今日も部活なのよね」
「大変ですねー、部長さんは」
「…なんなら、変わる?」
名雪は香里の顔を見た。
香里は名雪に微笑んだ。
「…いいえっ、もうキャスティングは決まったことですからーっ」
「…はあ。」
…この二人、思ったより…合ってるかも。今後のために、いい発見をしたな。
…って、今後って何だ?
「じゃあ、香里は帰りますねーっ」
そんなことを考えているうちに、香里が教室を出て行きながら、
「名雪〜、相沢くん〜、また明日〜」
手を振って、出ていった。
「はあ。」
名雪もため息をつきながら、席を立った。
「じゃ、あたしも行くわ。」
「…ちょっと待ってくれよ。オレ…一人で帰るのか?」
「…甘えないでよね。」
名雪がオレを冷たい目で見た。
「来た道を帰るくらい、猿でも、犬でも、3才児でもできるわよ。あんた、それ以下なの?」
…3才児には無理だと思うが…
「…わかった。なんとか、帰る。」
「あたり前よ。じゃあね。」
「…いや、出口まで、一緒に行ってくれよ。」
「…使えないわね、ほんとに…」
名雪はぶつぶつ言いながら、教室を出ていった。
オレはあわてて後を追いながら
「…なあ、香里の部活って、何?」
「…知りたいの?」
名雪が立ち止まってオレを見た。
「…ああ。」
「…本当に?」
「…ああ。」
「…そう…」
名雪はふっと目線を外の空にやって
「…あたし、知らないわ。」
どたたっ
…思わず、吉○新喜劇をやってしまった。
「…友達じゃないのか?」
「…いい、祐一。世の中にはね…知らない方が幸せなことがあるものよ…」
…どうせ、めんどくさいから聞いてないだけだろうな。
「…あ、そうだ。」
と、名雪がオレの肩を掴んだ。
「…なんだよ。」
「祐一…あたしと同じ家に住んでるなんて、絶対に言わないでよ!」
「…は?」
「そんなこと知られたら…あたしの野望が…」
…野望って何だ?
「…オレも言う気はないけど…もう、遅いんじゃないか?」
「どうしてよ!」
名雪はオレの顔を見た。
「…香里、さっき、クラス中に『相沢くんと名雪、同じ家で住んでるんですってーっ』って、言いふらしてたけど」
「………」
いきなり、名雪は立ち止まった。
「…どうしたんだよ。」
「…あたしの野望がっ!」
「野望って、なんだよ…」
「もちろん、学園征服よ!支配よ!みんなわたしの物よ〜〜〜〜〜」
「………」
…オレは名雪を置いて階段を降りた。そこが出入り口だった。外の風が寒かった。
オレは靴を履き替えて、出入り口を出た。
「…わたしの野望………うわっ!」
ドドドドドドドド…
…足を踏みはずして転げ落ちる名雪を横目に、オレは雪の積もった外へと足を踏みだした。

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外はあいかわらず寒かった。
時計を見ると…まだ12時前。
どこか…行ってみるとするか。
オレはおぼろげな昔の記憶を頼りに、街を歩きだした。
はっきりとは思い出せないけど、今自分が立っているこの場所に幼い頃の自分も立っていたような、そんな感慨にとらわれる。
初めて目にする雪の白さと冷たさに、無邪気にはしゃいでいた。
そんな、思い出の奥底に存在する自分の姿を雪景色に重ねあわせる。
(…ここは、昨日来たところだな)
再会した次の日、名雪から逃げてきた…場所。
そして…オレの前科…
「えっと…きゃうっ、よね…」
聞きたくはない声。
オレはうんざりしながら、声のした方を見た。
そこには、誰かがわざとらしく道で横になっていた。
「…うぐぅ…冷たい…ですね。」
女座りをして、どうやら転んだつもりらしい。
ちなみに…もちろん、昨日の元凶だった。
「えっと…うぐぅ…痛いよぉ…ですね。」
「…もういいです、あゆ。」
「…そうですか?では…」
言って、あゆ(秋子さん)がさっさと立って、雪を払った。
一応、それでも紙袋は持っていた。
「…こんにちわ。」
「ええ。こんにちわ。」
あゆは礼儀正しくおじぎをした。
「…で、今日は何の用ですか。」
「…いえ…」
あゆはちらっと後ろを見た。
そこには、たい焼き屋の親父がいた。
「…また、食い逃げですか。オレ…今度は嫌ですよ。絶対。」
「いえ…あのたい焼き屋さん、実はわたしの顔見知りなんです。ですから…ツケ、きくんですよね。」
言って、あゆが手を振ると、親父はにっこり笑って、うれしそうに手を振った。
…じゃあ、何でオレは昨日、逮捕されたんだよ…
「でも…一応、段取りというものがありますから。」
頭を抱えたオレを見もせずに、あゆは言葉を続けて、
「ともかく…そちらの方に、行きましょう。」
「…段取りって?」
「いえ、こちらの話なんですが…ともかく、あちらへ。」
「…はあ。」
なんとなく、あゆには逆らえないオレは、そのままゆっくり歩くあゆの後を追って商店街を歩きだした。
あゆはしばらく歩いていくと、ふいに立ち止まった。
「…このあたりですね。」
「…はあ。」
かなりの距離を歩いたので、周りを見渡しても、商店街の雰囲気はまったく残っていなかった。
人影もなく、寂しい通り。
日が沈むまではまだ時間があるものの、それほど余裕がある時刻でもなかった。
「…ずいぶんへんぴな所に来ましたね…」
「…はい、まあ。」
そこは、まったく知らない場所だった。
見上げると、枝に積もった雪が陽光に透け、見慣れない不思議な光景を形作っていた。
「…とりあえず、たい焼きを食べて時間を潰しましょう。」
…時間を潰すって…なんだ?
疑問には思ったが、紙袋からたい焼きを差し出すあゆに、オレはともかく手を伸ばした。
「今日は粒あんなんですよ。」
「…そうですか。」
…昨日はオレは食べなかったんだって。
「はい、これで共犯ですから。」
いいながら、あゆはオレの手にたい焼きを置いた。
「…ツケに共犯なんてあるんですか?」
「…そういえば、そうですね。」
あゆはにっこり笑うと、たい焼きをかじった。
「うぐ、うぐ」
…これはこれで…可愛いかもしれない…
「…もう一つ、食べますか?」
ぼーっとあゆの顔を見ていたオレに、いつの間にかあゆが、またたい焼きを差し出していた。
「…あ、いや…」
「…食べますか?」
「…えっと…」
「…食べますか?」
「………いただきます。」
…それは4回繰り返された。
結局…オレがたい焼きを5つ、あゆが1個食べた。
…げっぷ
「…えっと…」
紙袋の中を全部食べ終って、袋を丁寧に畳むと、あゆがオレに向き直った。
「…名前、祐一君…ですね?」
「…はあ。」
…そういえば、昨日の騒動の中でこっちの名前を言うのを忘れた…のに、何で知ってるんだ?
「えっと…7年前に、ここに住んでいたことがありますね?」
「はあ。」
「やっぱり…」
あゆはうつむいて、声を落とした。
肩が小刻みに震えていた。
「…どうしたんですか?あゆ」
「本当は、昨日会った時から…そうじゃないかって思ってたんだ…です…」
あゆの小さな体が、微かに震えているのが分かった。
「名前…一緒ですし…それに、変な男の子、ですし…」
…変なのは絶対、あゆのほうだと思うぞ…
「昔の、わたしが知っている頃の、本当にそのまんまでしたし…」
「…帰ってきて…くれたんですね」
「わたしとの約束、守ってくれたんですね…」
…すいません。全部、棒読みなんですけど…
不意に、記憶の片隅をかすめた風景…
雪。
泣いている女の子。
たい焼き。
夕焼け。
そして…。
「あゆ…。そうだ…」
オレは思い出した。
7年前にこの街で出会って、そして一緒に遊んだ女の子がいた…
その少女の名前が、確か…。
「…あゆ」
「はい。久しぶりですね」
…いや、あなたはあゆと違うって。
どんな女の子だったか、どうやって知りあったのかは覚えてないけど…
…絶対違う。それだけは言える。
「お帰りなさい、祐一君。」
あゆは両手を広げ、オレの方に駆けて来た。
オレは…
…役得だっ!あの豊満な肉体に、オレは…しっかり抱きついて…へっへっへ…
思わず、涎が出そうになって…
「…というわけにはいきませんね。」
…いきなり、あゆはオレの手を取ると、オレを思いっきり振り回した!
ベシッ
…クリティカルヒット!
祐一は1万ポイントのダメージを受けた。
祐一は死んだ。
『おお、死んでしまうとはなんたることだ…』
…じゃないって。
オレは横にあった木に叩きつけられ、そのまま地面に滑り落ちた。
…痛い…すんげえ痛い…
「…これで、感動的な再会のシーンはクリア、と。はあ、大変ですね…」
あゆのつぶやきが聞こえた。
…はぅ…どこが感動的なんだよ…
オレは文句を言ってやろうと、何とか木に手をついて立ち上がった。
「…あのですね…」
どさっ…。
と、大きな荷物が落ちるような音が木々の隙間から響く。
どさっ…どさっ…!
さらにはっきりとした音。
どさっ!
最後の音は、すごくでかかった…
…オレの上に落ちたから。
クリティカルヒット!
祐一は1万ポイントのダメージを受けた。
祐一は死んだ…
…二度やっても面白くないものは面白くないよな…
気がつくと、オレは雪に埋まっていた。
「…大丈夫、ですか?」
あゆがちょっと心配そうにオレを見ていた。
「…大丈夫じゃないっす…」
オレは上に落ちた雪を掻き分け、何とか立ち上がった。
「………」
…そこに誰かが立っていた。
大きな紙袋を抱えたまま、無表情にオレを見ていた。
どさっ
また雪の音。
前の少女は、上も見ずにスッと立っている位置を変えた。
…どさっ
雪はもともと少女が立っていた位置に落ちて、小さな山を作った。
「…これ位、避けれないの。」
無表情な目がオレを、まるで軽蔑したように見た。
…余計なお世話だっ!
オレはムカッとして、少女に聞いた。
「…お前…舞?」
「…ここでは違う。栞。」
…そう来たの?そうなの?そういうキャスティングなの?
…はあ…
そういえば、一応、ストールは羽織っていた。でも、制服だった。
「…服、違わないか?」
「…着れなかった。」
…まあ、そうだわな。メインキャラで一番小さな胸の服が、一番大きな胸の少女に着れるはずも…
『そんなこという人、嫌いです。』
…はっ!今のは一体…?
「…バカ?」
栞(舞)は無表情なまま、立ち去ろうとした。
あゆがあわてて
「えっと…栞さん?…じゃないわ…この時点ではまだ名前は知らないことになってるはずですね…えっと…ま、待ってくださいね。」
「……?」
栞はあゆに振り返った。
「…なに?」
「えっと…一応、シナリオ通りにその紙袋、落としてもらえないかしら。」
「…もったいない。」
「…でも、それだと…」
「………」
栞は紙袋をしっかり抱え、まったく手放す様子もない。
「…困りましたね…」
「…嫌。」
立ち尽くす二人。
…なんだか知らないが、こいつの手から紙袋を落とせばいいんだろ?
オレは栞に近づくと、紙袋に手を伸ばした。
「……!」
栞はすっと体を引くと、オレをきっとにらんだ。そして…
ズサッ
いきなり、オレの頭に痛みが走る。
「ぐはっ…」
オレは頭を抱えてうずくまる。
「…栞さん、それは…」
あゆの声。
「…峰打ちだから。」
…見上げると、栞がどこから出したのか、剣を持って立っていた。
…って、お前、それ、お約束の両刃だぞ…
「…これで、今日はおしまいにできる。」
栞が小さくうなずくのが
「……了承。」
あゆが大きくうなずくのが
かろうじて、オレに見えたけれど…
…オレはそのまま、気を失った。

…どうでもいいけど、オレ、まともに食べてるのって2日続けて朝だけだぞ…

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…はあ。何か、膨らんで膨らんですんげー大変。オレが1本として書いたSSでは、『恋はいつだって唐突だ』に次いで2番目の長さになってしまった…
「…でも、まだ2日めです。」
…ヴェーテルさんの偉大さが分かるよ…はあ。やっぱ、無理なこと、やめようか…でも、引っ越しの荷作りをしながら、ここまで書いたんだし…今週末は引っ越しでアクセスできない可能性が…
「どのみち、書くのでしょう?」
…1月12日まで…どのくらい書く事になるんだろ。なんか…恐い気さえするね。
「まあ、どうせまたコメントもつきませんしね。」
…はぅ…

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